転生、そして、、、
風が気持ちいい、日差しが暖かい、小鳥の囀りが聞こえてくる。そして頭には何か柔らかいものが、、、
なんて心地の良い空間なのだろうか、個人的にはこのまま微睡に呑まれてしまいところだが、あまり怠惰な人間にはなりたくない。そう思いながらゆっくりと目をあける。
「おはようございます叶」
目が合った、とするとこの頭に当たる柔らかいものは?
あれ?この展開、身に覚えが、、、
女神だった。美しいとかそういう意味の女神ではなく(いやめちゃくちゃ綺麗だけどね!)先程別れを告げた女神様だった。
「あ、おはようございます。」
「はい、おはようございます。」
女神スマイルニコッ!朝から眩しいな!
そんなことは置いておいて、本題だ本題!
「あの、マリアさん?俺さっきいい感じの別れというか、旅立ちを終えたばかりですが?」
「!」
声にならない声?を出して眩しい女神スマイルがビシッと固まる。
一拍
「すみませんでしたぁ!」
謝りながら抱きついてきた、なんなの?今日は謝罪記念日的なやつですか?この短時間でいろんなことで謝られてる気がする。
ってか溺れる、女神様の母性的なものに、精神的に物理的に!
ギブギブとマリアさんの肩をとんとんとたたいてみたらやっと気づいてくれたようだ。
「あ!すみません、苦しかったですね、、、」
マリアの激しい抱擁から解き放たれ、ふぅと息をつく。あぁ天国、、、いや違うからね、地獄だったからね、決して女神様のモチモチを堪能していたわけじゃないからね、違うったら違う!
「それで?今度は何をやらかしたんですか?」
俺はゆっくりと体を起こしながら問う
「やらかした前提なのが少し解せませんですが、確かにやらかしてしまいました、、、」
「実は転生するにあたってどこかの夫婦のもとに赤ちゃんとして転生する方法と、両親なしである程度成長した状態で転生する方法があったのですが、叶に聞くのを忘れてしまって、、、」
うん、まぁ聞き忘れられた内容自体はそれほど自分的に問題ではないから構わないのだが、、、おい女神よ、なぜそこで言葉を詰まらせるのだね?
俺から今日何度目か分からないジト目がとぶ。
「いやぁ、あのですね、、、そのぉ、、どっちつかずといいますか、中間の状態といいますかね、そんなかんじで転生させちゃったみたいで、、、」
「つまり、、どういうことですか?」
「つまりその、、、赤ちゃんの状態で両親がいない環境に転生させてしまったみたいで。」
「それってまずいのでは?」
「そうなのです、まずいのです、まずかったのです。」
なんか女神様が天を仰いでしまった。
周囲を見渡すがここはマリアと出会った場所ではなく、質素な木の小屋のような中にいるらしい。質素と言っても見る限り十分な家具とインテリアのようなものがある。すぐ近くにある窓から外を覗いてみると、どうやら今いるこの小屋は森の中の少し開けた場所に建っているらしいく、窓からは鬱蒼とした木々がならんでいる。
周囲の状態も確認できたところでもう一度マリアに視線を戻す。まだ天を仰いでいた。
この女神様はいつまで俺を膝の上で抱いているのだろうか、俺はそれなりに重いと思うが。
(ん?)
そこで異変に気づく
(マリアは女性の中では身長が高い部類に位置すると思うが、それでも俺の方が身長は高いはずだ。)
マリアと会話した時に若干俺が視線を下げてマリアと話したのを覚えている。
(となると、マリアの膝の上に乗っている俺の眼前にマリアのたわわに実った果実があるのはおかしいんじゃ?それこそマリアが大きくなるか俺が小さくならなきゃ辻褄が、、、)
自然と自分の体に視線がいく。
「、、、小せぇ」
見たところ4、5歳ぐらいだろうか。
まぁ考えればそうかマリアは俺を赤ちゃんの状態で転生させたって言ってたし。
鏡を見たわけではないから実際はどのくらいの年齢なのかはわからない。
詳しいことはマリアに聞こうと思いマリアの方を見る。
「そうですよね、私なんて小さな女ですよね。駄目な女神ですよね。駄目な女神で駄女神なんて、ハハッ」
天を仰ぐのはやめていたが、女神様は卑屈になっていた。
「いや、そういう今で小さいって言った訳じゃないんだけど。」
とりあえず卑屈になっている女神様の誤解を解くためそう言葉にする。
マリアは結構自己肯定感が低かったりするのだろうか。
「え?そういう意味じゃなきゃどういう意味なんですか?」
「俺の体が小さくなってるっていう意味ですよ。」
「あぁそういう意味なんですか、心の底から安心しました。叶から駄目な女神だと呆れられてしまったのかと思いました。」
(駄目な女神だとまでは思ってないけど、それなりに呆れてる部分もあるぞ。)
まぁそんなことが言えるはずもなく、、、
そんな小さな呆れの後、俺はマリアから現状をある程度説明してもらっていた。
曰く、今の年齢は5歳であるということ。そして転生後から今までマリアが面倒を見てくれていたこと。
何故このタイミングで記憶が戻ったのか、転生したすぐ後に記憶を引き継ぐことはできないのかと聞いたところ、どうやら5歳を前にして記憶を引き継いでしまうと、小さな脳が処理しきれずに脳が溶けてしまうとか、、、(脳が溶けるって怖すぎだろ、、鼻から垂れたりしてくるのかな?)
「とういことで、私は叶のお母さんというわけです。」
「どういうわけだよ!?」
「どうもこうもありませんよ。私、叶を育てた。私、貴方のお母さん。」
「えぇ、だってさっきマリア友達って言ってくれたのに、、、しくしく」
「あぁ!ごめんなさい!ちょっとからかっただけなんです!私は叶のお友達です!だから泣かないでください!」
俺のあからさまな泣き真似にも気づかずにあわあわと慌てるマリア、フッちょろい
「マリア、どっかに鏡とかないか?」
「え?なんでず?」
「ちょっ、話しを聞いてもらうのはあとにするとして、その涙と鼻水なんとかしようよ!」
マリアの顔面は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。鼻水に関してはもう垂れる寸前。俺がまだ膝に座ってるのだそのまま垂らされては困る!
「ほらチーンってしなさい!」
俺が近くに置いてあったティッシュ(この世界にもティッシュとかあるんだな)で鼻水をかませる。
(いや、どっちがお母さんなんだよ、、、)
「ありがとうございます。それでなんですか?」
「自分の姿を見たいから鏡とかあったら貸してほしいなって。」
急に5歳になりましたとか言われても自分的にはまだ高校生だ、感覚を掴むためにも確認することは大事だ。
「鏡ですね。ぽんっ」
「うおっ!ビックリしたぁ!」
マリアの掛け声に合わせて目の前に三面鏡がでてくる。別に三面鏡じゃなくてもいいのに、、、
「すいません、急に出してしまったからびっくりしてしまいましたね。反省です。」
てへっと自分の頭をコツンとやっているが反省している様子はあまり見られない。そんなマリアに対して少し嘆息しながら用意してもらった三面鏡をみる。
「ふむふむ。うん、誰?」
「叶ですよ。」
マリアに問いかけるがそんな返事しか帰ってこない。なのでもう一度鏡をみる。
「ふむふむ。うん、誰?」
「叶ですよ。」
デジャブかな?
鏡に写っていたのは、誰っ?て言いたくなるほど元の姿とはかけ離れた別人だった。
顔は元と比べるとしっかりと整っている。眉は凛々しく、薄紫の目はとても澄んでいる。
髪の基本色は銀だが毛先に向かって空色のグラデーションがかかっている、、、ふむ、どこか感じる既視感。
どこかの女神様を彷彿とさせる、、、そう思いながら件の女神様の方へ視線を、、
「グラデーション素敵ですよ!」
「もしかしてマリアが?」
「そうなのです!私が叶の姿を考えたんですよ!本来ならスロットのようにてきとーに決めていますが、今回ばかりは私のお友達の叶ですからね!しっかり私が考えました!」
「おい!なんか今神様業務の闇を彷彿とさせるようなブラックワードが飛び出してきたぞ!」
「だって面倒じゃないですかー。いちいち知らないような赤の他人のために頑張るのー。」
おいおいそれでいいのか女神様。そこらへんの人間より人間らしいのではないか、この女神様。
閑話休題
「状況は大体分かったけど俺はこれからどうすればいいんだ?」
「もちろん!私が貴女を養います!なので叶はのんびりゴロゴロと異世界スローライフを満喫してください!」
「養うって、俺はゴロゴロとスローライフをしたいと願ったこともあるけれど、進んでヒモになりたいわけじゃないぞ。」
内面はともかく、こんな母性の塊にお世話される日々なんて、いつ女神様のバブみでオギャるか分かったもんじゃない。スローライフどころかストップライフになってしまう。
「だいたい叶はまだ5歳なんですから私に養ってもらう以外今を生きる方法はないでしょう?」
「うぐっ、確かに、、、」
そう言われればそうだ。俺はまだ5歳という大人なしではほとんどなにもできない子供だ。
「ということでしばらくは私に養われていてください。」
「、、、はい。」
ということで元高校生、友達もとい女神様に養われることになりました。