わたしの素敵なお祖母ちゃん
「はい、では次は菅多さんに作文を読んでもらいましょう」
菅多さんが立ち上がった。
「わたしの素敵なお祖母ちゃん。
四年一組 菅多亜微梨。
私のお祖母ちゃんは美魔女と言われています」
菅多さんのお祖母様、志穂美さんはたいへん綺麗な方だ。
小学生のお孫さんがいるのだから、相応の年齢のはずだが本当にお若い。
三十代の私から見ても『お姉さん』と呼びたいくらいだ。
「お祖母ちゃんは、とてもお洒落です。
商店街の柏木ミシン店のおばちゃんと一緒に、カッコいいリメイク服を作って着こなしています」
地方都市の商店街はご多分に漏れず、シャッター通りになりかけていた。
ところが、今ではすっかり活気づいている。
きっかけは柏木ミシン店。
洋裁の腕が確かなミシン店の主、柏木さん。
少々暇を持て余していた彼女に、友人の志穂美さんが古着のリメイクのアイデアを出したのだ。
志穂美さんのデザインはなかなかで、柏木さんもノリノリでたくさん作り過ぎてしまった。
試しにインスタで紹介してみたところ中高年に大人気。
せっかくだからと、寂れかけた商店街でファッションショーを開いてみたら、市外、県外からたくさんの人が来たのだ。
定期的にショーを開くことで、商店街はすっかり息を吹き返した。
この街で商売をしている人は、大げさに言えば志穂美さんを救世主と崇めている。
「お祖母ちゃんは、すごくモテます。
毎日のウォーキングには、一緒に歩くイケオジやイケジジがいっぱいです」
ご主人を亡くされている志穂美さんは、確かにモテる。
お孫さんがいらっしゃるとは思えない容姿で、颯爽と歩く姿は同性の私でも憧れてしまう。
少しでもお近づきになろうと、一緒に歩くおじさんやお爺さんはどんどん健康になり、痩せてお腹も引っ込んで、街中にはイケオジやイケジジが増えた。
その中には、なんとうちの校長や警察署長までいるらしい。
「お祖母ちゃんは、人から相談されることが多いです。
老若男女、いろんな人が家に来ますが、得意分野は嫁姑問題です。
下を向いて相談に来たお嫁さんが、一か月後にはお姑さんと笑顔でお礼に来ます。
お祖母ちゃんの部屋にはお菓子の箱がいっぱいで、時々おやつに分けてくれます」
これは私にも関係のあることだった。
嫁姑の確執はPTAにも直結する。
志穂美さんのアドバイスで家庭内の雰囲気が良くなり、その結果、子供たちの環境が良くなる。温和な家庭で育った子は、学校でも落ち着いて過ごせる。
そして、何かと取り沙汰されることの多いPTA。
家族内の協力体制がとれているお陰で、大きな問題が起きても、いろいろな世代の人たちで助け合うことが出来るようになってきた。
多くの人の相談にのっている志穂美さんは、PTA内でも一目置かれる存在だ。
「そんなお祖母ちゃんにも、苦手なものがあります。
食べ物に好き嫌いは無いし、嫌いな人もいないと言うお祖母ちゃんですが、この二つの言葉を言うと笑顔が一瞬消えます」
あまりに志穂美さんが素晴らしすぎて、褒めるところしかないのはわかるが、そればかりでは単調になる。
作文指導として、何か短所があれば書いてみたら、と助言したのは私だ。
「その言葉とは、ウサギと干支です。
ウサギは可愛いし、干支はおめでたい感じがします。
どうして、この言葉が苦手なのか訊いてみようとしたら、お母さんに絶対ダメって言われました。
そこは謎ですが、私は素敵なお祖母ちゃんが大好きです。
おしまい」
パラパラと拍手が起こった後、生徒たちから無邪気な声が上がる。
「ウサギ?」
「干支?」
「なんで苦手なんだろ?」
私は顔から血の気が引いた。
今日が、授業参観の練習でよかった。
「……はい、菅多さんありがとうございました。
皆、人にはいろんなことがあるの。
特に、長い人生……いえ、大人はいろんな経験をしているからね。
そういう人たちは尊敬するべきで、絶対に苦手な言葉を言っちゃダメ。
苦手な理由を訊くのは、もっとダメ!」
「よく分からないので、家に帰ってお母さんに訊いてみます」
一人の男子生徒が、そう言った。
それを止めることは無理だろう。
彼の母親が、察してくれるのを祈るしかない。
とりあえず、私が出来ることは一つだけだ。
「菅多さん、たいへん素晴らしい作文だったけど、最後のところは削ろうか?」
わかりにくかった方もいらしたようなので、補足します。
正月のニュースで「今年はうさぎ年。うさぎ年生まれで最も多いのは○○歳になる○○年生まれの○○人……」というのを見て、思いついたものです。若く素敵なお祖母ちゃんも、ちょっぴり年齢を気にしていたというお話でした。




