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鳴山のこと

 わたしの実家は山間部の田舎町にあるの。今はご時世的に帰省は難しいんだけど、電車を乗り継いで乗り継いで、それでまたバスを乗り継いで行くような田舎町にね。

 お婆ちゃんとお母さん、あとペットの犬、二人と一匹で暮らしてて、ご近所付き合いも田舎だけあって親密だから、わたしはこうやって安心して一人暮らしさせて貰ってるわけなんだけど。

 仕送りもね、家族は心配いらないからって言うんだけど、やっぱり今まで育ててくれた恩返しというか、言ってなかったっけ?わたしの父さんって呑んだくれのクズ親父でさ、散々わたしたち家族に暴力を奮って、結局失踪しちゃったんだけど、その分お婆ちゃんとお母さんがわたしをここまで育ててくれて。


 だから、わたしが送りたいから送ってるって感じかな、まぁ仕送りのお返しで野菜とか米とか送ってくれるから、これはこれでどうなんだろうって思っちゃうんだけど。


 え?どうして田舎の話をしてるのかって? 今朝のニュース見たよね、ほら、開発のために掘り出した山から凄い数の人骨が出てきたっていうやつ。


あの山の近くにあるの、わたしの実家。周りの人は鳴山(なりやま)って呼んでた。鳴山(なりやま)にはよく遊びに行ってたのよね、秋には栗拾いとか、それ以外でも探検ごっこ、とか言ったりしてさ。

 それでね、ふと思い出したの。わたし、あの山で迷子になったことがあって、しかも普段遊んでいるような場所よりも奥で道に迷っちゃったもんだから、あ、帰れないな、きっとここで死んじゃうんだって、ワンワン泣いてたの。

 でもね、山の奥の方からお母さんが探しに来てくれて、大事にはならなかったの。もうすっごく怒られて、でもそれ以上に嬉しくて、手を繋いで帰ったの。


 帰って出迎えてくれたのはお婆ちゃんだけで、父親の姿は何処にもなくて。まぁ、何処かの家で管巻いて呑み明かしてるのかなって思ってたから、心配とかはしてなかったんだけど。


 その日を境に、二度と父親がわたしたちの前に姿を現すことはなかった。


 大人になった今だから分かる……ううん、きっとあの日、わたしは気づいてた。お母さんがわたしを二重の意味で助けてくれた。きっと、世間は許してくれないけれど。


 それにね、沢山の人骨ってことはさ、あの山って、そういう場所だったんだと思う。



 だって、鳴山(なりやま)って鳴山(なきやま)とも読めるでしょ?なきやま、亡山、あとは無山とか。

 みんな、知ってたんだって。だって、居なくなった人が多すぎるんだもの。ご近所に住んでた偏屈なお爺さんも、吠えて煩い犬も、落ちこぼれのあの子も、出来の悪い妹も、みんなみんな。


 よかったね、掘り返されて。



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