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出荷

「…ま」

「天…!」


 遠くで聞いた事がある声が聞こえている気がした。だけど目蓋が重くてなかなか開かないし、このままずっと眠って…


「天使様起きてください。もう暗くなりますよ!」


 流石にこの言葉に俺は目を開けた。いくら何でも外で寝るわけにはいかないからね。なんだか重たい体をゆっくりと起こし声の主ユニを視界におさめる。


「うわ~ もうそんなに時間たってるのか」

「はい、今晩もぜひうちに来てくださいねっ」


 あーそれはありがたい。これで明日港町に連れて行ってもらって、お金を稼げるようにしたらのんびりとこの世界を回ってみようか。


「ところで天使様これは天使様の力で出されたものですか?」

「…ん?」


 ユニがこれといって指を示す方に首を向けると何やら見知ったものが…そう、俺のバイト先であるドンナーがある。ただ少し違って表にあるガラスケースの中にあるはずのサンプルが並んでいない。それ以外は全くそのままのものだ。


「あ!」


 俺はしでかしたことに気がついた。たしか自分の限界を知っておきたくて一番大きなものを召喚しようと思ったんだ。質量とか価値とか何が一番魔法を使うのに負担がかかるのかわからなかったので、一番わかりやすく大きい物を選んだんだけど…まあそのせいでどうやら気絶していたっぽい。結果を見ないまま倒れてたってことになる。つまり…


「ユニ…この周りの人たちは?」

「村の人ですね~」


 いきなり見たこともない建物があるもんだからそりゃ人も集まってくるって。そしてそこにユニの天使様呼び…気のせいじゃなければさっきから俺にグサグサと痛いほど視線が突き刺さっている状態。いや別にこの魔法を知られたらいけないとかあるわけじゃないと思うんだけど、なんていうかいきなり大勢の人に見られているとどう対処したものかとわからなくて…


「ユ、ユニ帰ろうか」

「あ、はいっ でもこれはどうするんですか?」


 どうするもこうするも…店とソファーに触れて保管庫に入るように思うだけ。召喚した物だからこんな大きな物だろうと関係なくしまえてしまうからな。


「「「おおおおおおおおおお~~~~~」」」


 突然そこにあったものが姿を消したもんだから周りが騒がしくなった。でも俺は知らない! ユニの家に行って夕食食べて寝る! さっきまで寝てたけど関係なく寝るね!! ユニの腕を引っ張り歩き出す俺たちの後ろの方をちらりと見ると数人拝んでいるような人がいた。多分見間違いだろう…うん。っていうかユニも横で拝むのをやめろ!






 あー昨日はひどい目にあった。あのあとユニの家で食事を貰い、体も拭かせてもらってから隅の方でソファーを出して就寝。そして今日は早朝から港町へ出荷に向かうユニの父にくっついていく。


「父さんこれはこっちでいい?」

「ああ、崩れないように積んでくれれば問題ない」


 今はユニが編んだ籠に野菜が詰められて荷馬車へと積み込みをしているところだ。


「木箱じゃないんだな」

「木箱でもいいんだが、こう…適度な隙間があるほうが風の通りもいいし、形が変わる入れ物の方が野菜がつぶれないだろう?」


 言われてみればそうかも。


 荷物の積み込みが終わり荷馬車を引くための動物が取り付けられた。えーとこれは馬? 馬であっているのかな?? 俺も馬に詳しいわけじゃないからよくわからんのだけど、形だけ見たら馬っぽいんだが…


「天使様どうかされましたか?」

「えーと…この生き物は?」

「馬ですね」

「馬」

「はい!」


 白地に水色の水玉模様。長いたてがみは白く長く目元まで隠している。4本の脚はぶっとくて荷物を運ぶのに適しているかもしれないが…


「馬車を運ぶのは馬ですよ」

「あれ? ユニも行くのか??」


 話をしながらユニが馬車に乗り込んだ。てっきりユニの父と俺の2人だけで向かうのかと思っていたんだよね。


「え? もちろんですよ! 私は天使様の守り人ですからっ それに集会の参加もありますし」

「カイ君も馬車に乗ってくれ。そろそろ出るよ」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 そして馬車は動き出した。馬車を運ぶのは馬。うん、見た目は気にしないようにした方がよさそうだ。


 馬車に揺られゆっくりと流れていく景色を眺めている。思ったよりも馬車は早いのかたまに歩いている人を追い越していく。そういえば異世界の馬車での移動というとよくあるのが盗賊や魔物に襲われたりする展開。頭にそんな光景が思い浮かぶ。


「なあユニ魔物とかって襲ってこないのか?」

「魔物ですか? 街道ではほぼ会いませんね~ よく知らないのですが魔物が来ないようにされている? らしいです。あ、ほらあそこに角ウサギがいますけど全くこっちを見ないくらいです」


 指で示された方向、街道から外れた草むらに角が生えたウサギがいた。角は生えているが体の毛の色は白い。まともな毛色にどこかほっとする俺。


「ですがウサギの肉はおいしいので…じゅるり」

「ユニ、危ないからダメだよ。今狩っても食べる機会もないだろう?」

「はーい」


 ウサギ肉はうまいのか。となるとユニの家で出されたあの硬い肉はなんの肉だったのか気になってくるところ…余程のゲテモノでなければ出されたものは文句なく食べるが、気になってしまっては聞かずにはいられないのが人というもので。


「ユニ、そういえば俺がユニの家で食べさせて貰った肉は何の肉だったんだ?」

「あーあれは猪です。猪は1匹でたくさん肉が取れるんで安いんですけど、食べきれなくて塩漬けしますから硬くなってさらにおいしくないんですよね~」


 なるほど。ユニたちもおいしいと思って食べていたわけではなかったのか。

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