調味料
「て、天使様一体何を…」
俺の手元が光りを発している。召喚魔法の内容が確定され今まさに目の前に現れようとしていた。目の前で籠を作っていたユニも、夕食を作っていたユニの母親も手を止め俺の手元を見つめていた。実は俺もちょっと驚いている。こんなに目立つ魔法だとは思わなかったしね。
「今帰っ…な! なんだなんだっ」
「わ! 父さんいきなり止まるなよ~」
そして扉が開いてさらに増える人。多分ユニの家族だ。仕事が終わって帰ってきたんだろう。
光が収まると俺の手の中には円柱状のものが握られていた。んー…特に体に違和感は感じないから魔力とかもそれほど減っていないのかな? 魔力量とかどうやって知ればいいのかわからんからはっきりとしないのが少し不安だがまあ今はいいや。
「天使さ…」
「海」
「カイ様、すごく光りましたけど今のは天使様の力ですか?」
「…ああそうだ。初めて使ってみたから心配だったけど問題ないみたいだな」
油断するとすぐユニは俺のことを天使様と呼ぶな。注意してもその直後また言ってるし…しつこいほど言えばそのうちなおるだろうか?
俺はおもむろに手に持つ円柱状のもの…まあこれはあれだ一般家庭でもよく使われている調味料。その蓋部分の一部を開き手のひらに向けて上下に動かしぱらぱらと零れ落ちる粉を眺める。
「えーとユニのお母さん?」
「な…なんだい?」
「これ調味料なんで味見してもらえますか?」
「…いや、そんな得体のしれないもの味見してくれと言われてもね~」
「僕がします!」
ひょいっと俺の手のひらにある粉をユニは何も気にせず指でつまみ口の中に入れた。
「ユニ! お前は何やってんだいっ すぐ吐き出しな!!」
「ん…しょっぱいです。後ちょっとピリピリしますね」
「ほーどれどれ」
「あっ あんたまで! というかいつ帰ったの?」
「ん? あーついさっきだよ。だから何が起きてたのか見てたし、問題ないない。それよりも彼は誰だい?」
いや、あんたはさっき入ってきた時驚いていただろう…俺ちゃんと見てたぜ? 若干呆れた視線を送りつつ眺めていると俺が誰なのかをユニの母に聞いていた。
「あ、俺は…」
「天使様です! 羽をなくされてしまい空へと帰ることが出来なくなったので、今晩は私達の家で羽をやすめるのですっ」
「…なるほど。ユニが迷惑をかけたみたいだね。名前を聞いても?」
「海です」
「カイ君ね。君は魔法が使えるんだ」
お? この召喚魔法をちゃんと魔法だとわかってもらえるとは思わなかったよ。若干俺も疑っていたくらいだしね。それにしても相変わらずなんだなユニの扱い。
「あれが魔法なのかい」
「私も初めて見たけど、召喚魔法ってやつじゃないかな。それでこれはコショウで合っているのかな?」
「はい、泊めてもらうのでお礼にと思って。それとこれはコショウだけじゃなくて塩も一緒になっている塩コショウという調味料です」
よかったちゃんとこの世界にもある調味料だったみたいだ。というか塩とコショウくらいはないと困るもんな。
「流石天使様太っ腹です!」
「すっげー兄ちゃん魔法使えるのかっ」
「いたんだルイ兄ちゃん」
「いたよ! 父さんと一緒に帰ってきたんだからいるに決まってるだろうがっ」
そういえばもう一人家の中に入ってきた人がいたっけ。兄ちゃん…ユニの兄か。おっと折角役立ちそうな物だしたんだ使ってもらわないとな。
「それでこれ良かったら使ってください」
俺が差し出した塩コショウを恐る恐る手を伸ばしユニの母が受け取った。
「いいのかい? こんな高い物…」
「高いんですか? へー」
「母さんっ 天使様はまだまだ知らないことが多いのです! 物の価値すら教えて差し上げないと大変なことになるのですよっ」
「だから海だって」
「あ、カイ様コショウというのは平民には気軽に使うことが出来ないくらい高価なものなのです。やたらと表に出しますと、奪われてしまうかもしれないのですよ? それと母さんは天使様がくださるというのですからお礼を言ってくださいね?」
「全くこの子は…カイさん悪いね。これはありがたく使わせていただくよ」
ユニの天使様呼びは本当になおらないが何とか受け取って貰えてよかった。手持ちが何もない俺には召喚魔法で出すものくらいしかあげられるものがなかったしな。
「はいはいっ 外から帰った2人は荷物を片付ける! ユニは大人しく籠作っていなさい。カイさんは適当にくつろいでて、もうちょっとで食事用意出来るから。それとこれ、早速使わせてもらうわね」
ニコニコとしながらユニの母は途中になっていた料理を再開するために俺たちに背を向けた。
「…ふぅ」
ちらりと手元にあるもう一つのもの…魔法書に視線を向けた。いや~ 本当に魔法使えるんだな。内心不安しかなかったが、こうやってちゃんと目的のものが取り出せると本当に異世界にきたんだと実感してしまう。実は夢って落ちはないよね? 俺は自分の頬…じゃなくて籠を作っているユニの頬をつねった。
「いひゃいですっ」
うん、他人の頬をつねってもわからんわ。俺は魔法書を保管庫にしまうと涙目になっているユニの頭をなでた。