商会
子供の情報は子供から聞くのが一番だ。ユニ父と別れてから俺はすぐにユニの友達のセイラの家へと訪れた。ここで俺に手紙を渡してきた子供たちのことを聞いてみる。するとあっさりとわかった。服装の特徴とかだけでわかるレベルだった。あの子たちはどうやらスラムの子供達だったらしい。というかスラムがあったんだねこの町。心配をかけるといけないのでもちろんユニのことは話していない。
スラムの子達もちょっと食べ物を渡すだけで情報をくれた。俺に手紙を渡すように言ってきた人物はこの町では割と有名なひとらしく、こんな子供達でも知っていたくらいだった。
この情報を手にユニ父との待ち合わせ場所である広場へ。ここで情報交換をしてから次の行動を決めるつもりだ。相手がわかればこっちのもの…どんな嫌がらせをしてやろうかと俺は思考を巡らせた。
「おまたせ! ちょっと手間取ってしまったよ」
「それはいいですけど、わかりましたか?」
ユニ父の手に入れた情報…これは俺が手に入れた情報と一致した。ということは確実になったということ。場所だけを貸した人ではないのだから思いっきりやっていいだろう。
「あ、だけどどうも借りているのは息子の方みたいだよ」
「ん…? 商会主じゃなくて息子??」
そう、俺に手紙を渡すように行ってきたのはこの町でわりと有名な商会…トーアル商会というところ。ユニ父の情報ではその息子が倉庫を借りているそうだ。言われてみれば子供たちはトーアルの人としか言っていなかったな。これはちょっと確認をした方がいいかもしれないな。
「その商会の場所わかりますか?」
「もちろんだ。むしろ知らない方が珍しいくらいだね」
へ~そこまで有名なところなのか。
「だって、ほら目の前にあるし」
…広場にでかでかとある建物。それが目的の商会だったらしい…いや、俺たちはこんな敵かもしれない人がいる店の前で話し込んでいたってことかよ。どうせならもっと早く言って欲しかった!
「よし、乗り込もう」
「えっ いや、流石にそれは危険だろう!?」
「は? 商会なんだろう??」
「ああ確かにそこは商会だが…」
「だから商会に客が入るのはなにかまずいのか?」
「…まずくないね」
「だろ?」
そう、俺たちはただの客として何も知りませんって顔をして店に入るだけ。もちろん目的もあるがそれは中に入ればわかることだ。
商会の扉を開け中へと入った。雑多にものが並べられている店ではなく、見本だけが置かれていて現物は表に置かれていないそんな店。まあこうしておけば盗まれることはないわな。食品などはリストが置かれているだけで何も置かれていないくらい。全部注文が入ったら奥から出してくるんだろう。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」
「ねえここの一番偉い人ってどこにいるの?」
「「は?」」
いきなり言った俺の言葉に店員だけじゃなくユニ父も驚いた。
「なんか俺変なこといったかな? この町にきたばかりで有名な人だって聞いたんだけど、まだ顔も見たことがないからさ、一度見ておきたいと思っただけなんだけど?」
「な、なるほどそういったことでしたか。トーアル様は今あちらで対応をしている方ですね」
「へ~ 他の人と変わらず客の対応をするんだね」
「もちろんです。お客様がいてこそ私達の仕事が成り立つのです…といつもおっしゃっております方なので」
ふーん…商人としてはいたって真面目な人ってことか。気のせいじゃなければどことなく見たことがある顔な気がするな。俺たちがトーアルって人を少し離れたところから眺めていると、本人が対応していた客とのやり取りが終わり、偶然にもこっちへと視線を向けた。
「いらっしゃいませ、どうかなさいましたか?」
さらにこっちへとやって来て俺たちに声をかける。俺たちを対応していた人がさっきの話の流れをトーアルに説明した。その間も俺は視線を外さずじっとトーアルを眺めた。
「一応この商会をまとめているけどね、一人の商人ということには変わらないんだよ」
「味噌串カツ」
「…ん?」
「ライスボール」
「名前からして何かの食べ物のようだけど…」
「パンケーキ」
「ふむ…どれもうちの店では扱っていないものみたいだね」
トーアルはにこやかに俺に話しかけてきたが、俺はじっと彼の顔を眺めながらさっき自分が露店で並べていたものの名前を口にした。
「知らないみたいだね。トーアルさんは、だけど…」
ちらりと後ろを見るとさっきまで俺たちの対応をしていた男がゆっくりと距離を開けている。
「こっちの人は何か知ってそう。もう一つ言いましょうか?」
「しっ 知らない! というか確か3つだけだったはず…あっ」
ニコニコとしながら男の方を見るとトーアルさんの前のせいだからか、案外あっさりと自分は関係者ですと口にした。
「バース?」
「ちなみに俺が言おうとしたのは、トーアルさんの息子、だよ」
「「え!?」」
この言葉には予想もしてなかったのかトーアルだけじゃなく、バースと呼ばれた男も驚いて声をあげた。