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スリーピング・サーガ~世界が眠りに堕ちる前に~  作者: 秋月流弥
第6章:材料③スカピー火山のドラゴンの逆鱗
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第33話:スカピー火山

新章開始です!懐かしきあいつらと再会!?

 雪の降る道を馬車に揺られていた。


「……」


 アンゼリカ地方からスカピー火山前まで五万ゴールド。


「……はぁ」


「ダミ子さん」

「わかってるよ。目先の目標に集中しなくちゃ、だな」

「はい……眠れましたか?」

「大丈夫。今のうちに仮眠をとるさ」


「……はい」


先日のことを引きずっている場合ではない。


遠ざかるアンゼリカの街を見る。

あまりにも突然の別れだった。

それでも世界には危機が迫っていて、そうとわかっても割り切るにはショックな出来事だった。


身近で感じる別れの方が堪える。世界的危機より自分は。


「……わかってる。気に病んでる場合じゃないよな」


自分に言い聞かせるようにダミ子は呟く。


 無事に馬車の資金を手に入れることができたダミ子とマースの二人は馬車に揺られていた。


ジャスミンとのこともあり、しばらく不眠が続いていたダミ子だが、気を奮い立たせ、傷心の気持ちを切り替えらせた。



◆◆◆



 座りすぎて腰の心配をし始めた頃、北の大地に聳え立つスカピー火山の頭が見えてきた。

 二人はコートを着ていた。

 マースはシンプルな群青のコートを、モコモコの綿がついたダッフルコートがダミ子が着る。前もってアンゼリカの街で買ったものだった。


 火山近辺は空が灰色がかっていて、既に殴るように雪が降っていて超寒い。幸い雪が積もってないおかげでコックリ谷の運行は可能だった。

 砂利を踏みガタガタ揺れる馬車の中でも日頃の疲れからか腰の痛みからか、ダミ子は朦朧と船を漕いでいた。



「大変だ! ワイバーンが出たぞ!!」


 馬車の運転手の叫び声で意識を取り戻した。

 窓部分の厚い布カーテンを開けると、空にワイバーンが三頭飛んでいた。

 巨大な翼をはためかせ、鋭い足爪を立て攻撃的な眼光でこちらを狙っている。

 コックリ谷の道は細い。普通に走ってても脇からそれれば崖っぷちに真っ逆さま。なのに眼前にはワイバーン。



「任せてください!」


 隣に座る助手が頼もしい声をあげる。

 マースは席から立ち上がると馬車の窓から上半身を出し、上空のワイバーンに向けて魔法を放つ。


「【紫雷サンダーボルト!!】」


 紫色の光を纏う雷電は爆音と共に槍のような鋭さで飛来するワイバーンを突き抜ける。腹部を抉られたワイバーンは力なくそのまま谷底へ落ちていく。

 一頭、二頭、マースは上空のワイバーンをどんどん倒していった。


「いや~助かるよ。兄ちゃんのおかげで今回は安心して運行できる!」

 運転手は感謝を告げた。


「おかげで順調に来れた。そおら見えてきたぞ!」


 コックリ谷を越えると、いよいよ目的地のスカピー火山のお出ましだ。


 白い雪とは裏腹に火山は煮え滾るような赤い色をしていて分厚い煙がもくもく天へ向かって伸びている。


「スカピー火山には気をつけな。ろくでなしのドラゴンがいるで。度胸試しに訪れる連中もいるがもれなくボコボコにされてる」


「その逆鱗を貰いにいきます」

「正気の沙汰じゃねェ!」




 スカピー火山のふもとへ到着。

 さすが火山。雪が降ってるの先程までの寒さが嘘のように全然寒くない。

 というより熱帯夜のように暑い。

 暑さからコートを脱ぐ。


「暑い……」


 暑すぎる。

 ここだけ真夏の炎天下の茹だるような暑さだ。

 運転手によるとスカピードラゴンが棲むドラゴンの巣は火山の頂上てっぺんにあるらしい。何故土地の主ってのは天辺に棲みたがるんだ。

「降りてきてくれないかな」

「降りてくるわけないでしょ」

「だってー要は頂上まで山登りってことでしょ。登山だよ。こんな大きな山をだよ?」

「気持ちはわかりますけど、登るしかないじゃないですか……ってダミ子さん何鞄あさってるんですか?」


 どっこいしょとショルダーバッグを地面に下ろしファスナーを開けると中身をほじくりだす。


「登山のゴールは頂上じゃない。降りて帰ってくることがゴールだ」

底まで手を伸ばすとやっとブツに手が届いた。

「じゃじゃじゃーん」

「なんですかその容器……マヨネーズ? パワフルなイラストが書かれてますけど」


 手にしたのは力士のような逞しいお嬢さんのイラストが描かれたプラスチックの容器。


「私の開発した超高カロリー栄養食【ハイカロさん】だ。少しの量で即エネルギーを得られ腹もちも永久的。遭難した時に使えるお助けアイテムだ! これを食べて疲れと体力消耗を補おう」


「ダミ子さん登山ノリノリじゃないですか……ってさっそく齧ってる!?」


「がんばる前にもごふぉおび(ご褒美)はふぃつひょう(必要)だろ」


 もぐもぐごっくん。

 登山開始。


 一合目で休憩。


「おえぇぇぇ……」

「早っ!」


 登山開始後まもなくダミ子はマースの背に乗りぐったりしていた。


「もー~! だから登る前に食べるなって言ったのに!」

「登山をナメていた……山道ってだけでこんなにも負担が……カロリーが胃から競り上がってくる……うぷっ!」

「初っぱなから【ハイカロさん】の食べ過ぎでしょう!? 登る前にしても五号目の休憩くらいモリモリ食べてたじゃないですか!」

「人をバカ犬みたいに言うな……しかしチョコ一粒2000カロリーは設定が多すぎた。胃がはち切れそうだうっぷ!」

「転がしましょうか。大玉転がしみたいに頂上まで」

「勘弁」


 情けない上司に対しだんだん辛辣になってくる助手であった。


 しょうもない上司を背負い助手は五号目、六号目と山を登り続け(たまにマースの口にハイカロさんを投入し)頂上へ到着。


「着きました。はあ疲れたあ」


「早っ!?」


 登山開始四時間で上司一人を背負ったまま休憩なしで助手は頂上へ到着した。

「バケモノか君は!?」

「褒め言葉として受け取っておきます」

 笑顔でさっぱり汗を拭うこの男にダミ子は恐怖を感じた。



 頂上を進んでいくと、金色の道が敷かれていた。

 いや、道に見えていた金色は金貨だった。

 他にも宝石や装飾された剣や盾、アクセサリーなどの財宝がわんさか転がっている。


「すごい数の財宝……」

「盗品だろうか」


 盗品なんだろうな。

 運転手の話によると相当乱暴者のドラゴンらしいし。


「しかし、すげぇレベル上がったな私らの旅。盗賊退治から始まり漫画家アシスタント、バイトの次がドラゴンの棲む火山って」


「ダミ子さん、あれ、」


 つんつん、と隣のマースが白衣の袖を引っ張った。


「あれ、ドラゴンじゃないですか」



 ゴゴゴゴゴ……金色の道の先。



 煮え滾るマグマの海の波が両脇で揺れ、中央にある陸地に翡翠色の大きな何かがいる。


 たぶん、絶対ドラゴン。


 近づく旅に翡翠の頭角が大きくなっていき、ゴゴゴゴゴと気迫を効果音にしたような地響きが迫ってくる。

 緊張と畏れで口内の唾液が溜まりそれを嚥下する。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……



 ドラゴンの全貌が見える距離にまで迫ると、


「「へ?」」


 ダミ子とマースは拍子抜けな声をあげた。


 大きく上へ伸ばされた太く大きな頑丈な前足。もう片方の前足は何故か頭を抱えていた。

 地面に食い込むほど鋭い爪を持つ後ろ足は何故か片足を宙に浮かべ、もう片足でバランスを取っている。

 なんか、シェー、みたいな。


 ドラゴンは変なポーズをとっていた。


「だから無理なんじゃって!」


 急にドラゴンに話しかけられたと思いびくっとするもドラゴンの視線はこちらを見てなかった。

 ドラゴンはもっと地面の方の目先を見ている。


 目先の相手と、誰かと話してる?



「先客がいるのか?」


「運転手さんの言ってた度胸試しの挑戦者ですかね」


 ドラゴンの口調からなにやら相手とモメてるようだった。



「だから~今のワシの状態では無理なんじゃって! できないんだってば!」


「……なんか思ってたドラゴンとイメージが違うな」


「そうですね。怖くないに越したことはないけれど……ていうかなんであんなポーズなんでしょう?」



 緊張もとけたところでズカズカと前へ進んでいくと、二人の人間のシルエット。


 口論の相手は完全に最近見知った顔だった。


「だから何故誇り高きネムーニャ人の我々が下々の民衆の村に使いを頼まれなければならない!」


「逆鱗は外すのコツがいるんじゃ! 普通の人間じゃ取り外せないの。逆鱗の持ち主であるワシにしか外せない。でもワシこんな姿だから外せんの。呪いを解いて貰わなきゃ逆鱗は外せん」


「だからって我々に呪いを解かせるお使いをしろだと!? 貴様我々を愚弄する気か!」


「もー話にならん小僧じゃな~!」



 ワーワーギャーギャー。


「だいたいなんだその呪いは!? ふざけたポーズしおって! 我々をおちょくっているのか!?」


「【ヨガの呪い】じゃ! ふもとの村に棲む呪い師にかけられた。動く度にヨガのポーズをとらされる。もう三年ヨガをやってる。助けてくれー!」


 口論をする人物の隣に立つもう一人は対照的にのんびりと手鏡を見ながら御髪を整えていた。


「めんどくさいねー兄さん。もう頭ごともってっちゃう?」


「殺される……! ヨガのポーズのまま死んでしまう……!」


 杖を構える二人にドラゴンはユニークなポーズで脅えていた。



「……その辺にしといてやれタイム、オレガノも」


 マースは目の前に立つ人物、もとい元同僚の名前を呼んだ。


「な!? マース!? グゥスカの薬剤師も!?」


「やーお久しぶり(アンゼリカで会ったばかり)」


「ロングタイムノンシ~(貴方たち街にいたわよね)」

「ノンシ~(やっぱバレてたか)」



「ぬああッ!? まーた追い付かれたああぁ~っ!」


 タイムは膝から崩れ落ちた。


「マース捕獲~ふがふが」

「オレガノくっつくな! 暑い! 暑いから」


 両認識の久々の遭遇。


 またまたタイムとオレガノと再会を果たしたのだった。



物語後半戦です。後半だけど脱力系で進んでいきます。

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