第30話:怪盗
新キャラ登場!
カウンター裏の死角でマースは落ち込んでいた。
「絶対バレてる……オレガノは感がいいから……タイムは鈍すぎるけど」
「大丈夫だろ。これ以上客席をうろつかなければ。幸いにもピークも過ぎたし提供するものはない」
カウンター裏の死角で落ち込むマースにダミ子は気休め程度のフォローをかけた。
午後十時半。
現在は忙しさのピークが過ぎ忙しくない。
全テーブルに酒や料理が行き渡り、客らはそれをつまみ談笑に盛り上がっていた。
一通りの注文を終え、厨房から客席へ運ぶ品もない。
ようするに暇だった。
「こりゃこの連中朝まで飲んだくれるだろうな」
「相当できあがってますね」
ガハハハハッ!!
響き渡る豪快な笑い声。
木の床にアルコールの雫が飛び散っている。
酩酊状態の客たちはビールを煽りかなりできあがっていた。
テーブル上には何本ものボトルがところ狭しと並べられ、料理の減りも遅い。宴竹縄には程遠い。
あ~本当にやることないな。
現に厨房のスタッフたちは休憩に入っていた。
ダミ子たちの休憩時間まであと二時間。
長い。ちょー長い。
「売上でも数えるか」
売上実績を調べるのは店が閉店した後の朝方だが、やることがないので適当に働いてるふりをする。真面目なふりしてるのが一番。
「ってことでレジ行ってきます」
「いってらです」
マースを残し一人レジへ向かった。
「え、」
そこにいたのはドロボウだった。
レジの前。
ダイヤルに針金を差しこみネジネジ回している人物の姿があった。
しかもその人物、『私はドロボウです』といわんばかりに脇にはドロボウのアイデンティティの唐草模様の風呂敷が置いてある。
明らかに怪しいヤツがそこにいた。
「ど、泥棒!?」
「あ、やばば」
一瞬振り返りやばばと言うも、ドロボウ(?)は再びダミ子に背を向け針金を回し続ける。こいつ、強い。
「あの、ドロボウだよね。それレジじゃん。お金盗もうとしてるよね」
「うるさいナ。今金盗んでんだから静かにしててヨ」
「ドロボウって公言した!」
こんな堂々と盗む泥棒初めて見た。 泥棒事態見たの初めてだけど。
それよりもドロボウの外見だ。
どう見ても小さな少女にしか見えなかった。
服装も容姿も小綺麗で(風呂敷さえ除けば)ドロボウの外見ではない。
チャイナドレスに蓮の花飾りをつけ切り揃えられた前髪から覗くは大きくも切れ長な瞳。
あどけない顔立ちだが、胸元が開けられたデザインの服から覗く丘は大きい。
ダミ子よりも豊か。
子供……じゃない?
いや、それよりも。
「あのねお嬢ちゃん? お金は盗んじゃいけないものなの。お店の人困っちゃうから。ついでに私たちも困るから。今なら私の疲れによる幻覚にしといてあげるから針金しまいな」
「ア、開いた」
カチャン。
説得の声と同時に目の前の金庫から小気味良い音が響いた。
「ダッシュ」
ぴゅーーん!
ドロボウ少女は物凄い早さで金を取り出し風呂敷に詰めようとするも紙幣がレジに引っ掛かり手子摺る。
少女はレジごと抱え店を出ていった。
「え」
その場に取り残されるダミ子。
「ええええええぇぇッ!?」
ドアの向こうには煙巻く勢いで逃走するドロボウ少女の姿が。
「これって盗まれた!? 強盗!? 店の金全部持ってかれた!?」
自分の給料が消えた瞬間だった。
クビならまだしもドロボウを黙認した罰を受ける可能性が頭を過ぎる。
「待てーーッッ!!」
ダミ子はドロボウ少女を追いかけ妖精の舞台を飛び出した。
「くそッ。暗くてまともに追いかけられない……ッ」
ダミ子は夜のアンゼリカの街を駆け抜ける。
暗い夜道に街頭の灯りと建物から漏れる光では心もとない。
豆粒サイズの距離から追っていたドロボウ少女の姿も見失ってしまった。
「こうなったら、姿を現した時に捕まえるしか……」
しかし相手はドロボウだ。
逃走中に簡単に姿を現すとは思えない。
少女を見つける手がかりはないか。
例えば、こう、秘密の隠れ家、アジト的な……ん?
「これは……」
道行く路地裏の一角に立て掛けてあるものにダミ子は目を止めた。
しばらくするとダミ子が待機していた路地裏にドロボウ少女がやって来た。
「な、なぜここにいる!?」
「ん、あれ」
立て掛けられた木の看板に指差す。
看板には《秘密の隠れ家~アジト~》と大きく書かれていた。
隠れ家が隠れ家の意味を成してない。
「あんな大きくアジトって書かれてりゃバレるよ」
「今までバレなかったノニ~!」
奇跡だよ。
「あんたわかりやすいよすごく。さ、観念してレジ返して。今ならまだ間に合うよ」
少女の前に立ち風呂敷を受け取ろうとする。
「わ、我を捕まえて良いモノ気取りカ?」
「はい?」
少女は風呂敷を抱き締め、滲み寄るダミ子に後退りしながら睨み付ける。
「悪人、悪モノ懲らしめて英雄気取りなんダロ」
「悪モノ? 良いモノ? 何言ってんのさ」
「この街の奴ら皆ソウ。《正義》が一番、それが誇り。そればっかネ!」
「おい何言って……」
「といってぴゅーん!」
少女は逃げ出した。
「ああー! また逃げられた!?」
一時間後。
少し歩いた先に《アジト2》の看板を見つけ路地裏で待ち伏せしてると律儀に少女が帰還してきた。
「いる!?」
「だからアジトってなんで書くんだよ……」
ダミ子は未だアジトを知られ狼狽える少女に聞く。
「……なあ。さっき言ってた『英雄気取り』ってなに」
「そんなこと気になるアルか。あんなのオマエ欺く為の出任せネ」
「のわりには感情籠った言い方だったから。本心かと思ったの。それにさ、君、昼間会っただろ。英雄伝説聞いてる時「くだらない」って吐き捨ててた声とよく似てる」
「う」
ダミ子の言葉にぴくりと肩を震わせる少女。
「だから何。オマエには関係ないダロ」
「まーね。でも、なんか思うことがあるなら話を聞くよってこと」
「むう」
ダミ子の言葉に面食らったのか少女はきょとん、と間抜けで呆けた顔をした。
「お節介って言われナイ?」
「面倒なことは避けるタイプだったんだ。でも、旅を続けるうちに変わったのかも」
「へぇーオマエ旅人なのカ」
「ダミ子ね。訳あって今はポテ子だけど。仕事でさ。世界救う使命抱えてんの」
「使命ねェ。ご立派ご立派」
ご立派と誉めるトーンには暗さを感じた。
「……我の親父も、使命ある仕事だったらよかったノニ」
少女はぽつりと呟いた。
「我、【ジャスミン】。じゃあお節介なダミ子お姉さんに甘えて聞いて貰っちゃおうかナ~」
「やっぱ年下なのか」
ジャスミンの胸を見て言う。
「? どう見ても私の方がピッチピチね」
「発育がよろしいようで」
「教育はよろしくなかったケドな」
自嘲気味にジャスミンは笑った。
「我の家は所謂成金でナ、資産に対して教育と素養が追いついてなかった。“魔の百年戦争”って今日、聞いただロ?」
「ああ。英雄伝説の舞台となった戦争だろ。勇者トグルマと聖女ローズマリーが終わらせた」
「我の家が成り上がったのは、その魔の百年戦争が発端なんダ」
ジャスミンは夜空を見つめ話し始めた。
お疲れ様です。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
アンゼリカ編まだまだ続きます~。




