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常緑【第一稿】  作者: みけねこ
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第1話 五月の木漏れ日の中で

 話はおおよそ2年前に遡る。

 あおが学位を取得して修士課程に入ったばかりの頃だ。大学の食堂は南側が全面ガラス張りでその窓際まどぎわの一番奥に()()()はいた。見た目からすぐに彼はきれいな人だと思った。細身でもしっかりとした佇まいで丁寧ていねい挨拶あいさつをする彼女を見ると、どこかよそよそしさを感じる。しかしそれは彼が持つ劣等感にさいなまれているからであった。あまり目的も持たずに大学院へ来てしまった彼は彼女を見た感じで身の丈に合わないような思いを抱いた。

「あおさん、刈安さんに会って話せって言われましたけど、何を話すんですかね」

 みどりはその言葉の語尾ごびをしっかりと止めて話す、それが彼女の人柄を表す特徴的ところだった。そして気のない時はあからさまに語尾がのびるのだ。そこが分かりやすくて面白い。

 話は刈安が企画した文芸誌の企画の話だ。しかしあおも実際まだこれから長いのだと考えると大して話し合うこともなくとりあえずの一年間の運びを話し合った。

「みどりさんは三年生だから発表会があってその時期まで忙しいだろ?」

 あおが突然切り出したので彼女は瞬きを数回繰り返しながら、どんな話をすのだろうかと少し尋ねるような口ぶりで話しだした。

「発表会はないんですけど、審査会があって、それまでは忙しいです」

「そうか――。で、いつになるのかな?」

「一月半ばです」

「じゃあそこから実動に入ろう。納期は三月なんだし」

「そうですね――」

 彼女も要領を得たようだったので、あおも少し安心して張っていた肩を落として、姿勢を崩した。

 文芸誌の企画など大学の成績とは全く関係ない蛇足のようなものだ。文学部で真面目に文章を書いているならそれなりに力が入るだろうが、それにしてもどこかの出版社の公募に出したほうが有意義の様な気もする。ただこれは大学にいる学部生にとっては記念品のようなものでもある。

 これと言ってなにか話すことがあるわけでもなく、あおもみどりも企画の中身の内容が固まるまで準備期間ということにして、お互いその日は別れた。


 彼女とあって、企画の大まかなスケジュールを決めた話を刈安に報告すると、わかったとだけメールが来た。

 数日後、刈安からは図書館に集まるように言われた。みどりもその日図書館に来ていた。

 高い金を払って入学しただけのことはある。空調のよく効く学内の図書館は、居心地が良かった。学部生のころ、よく図書館に引きこもって文献を読みあさった記憶が蘇る。高い本棚と購読のスペースが心地よかった。しかし彼にとってこの贅沢な感じはその身の丈と合わぬ気がして、時折ここに今いるということが怖くなることもあった。

「とりあえず、これ」

 あおは刈安にもらったメンバーの連絡先をメーリングリストに登録して、招待メールを発信した。それから全体に制作の意図を送ってもらえるように願い出た。

「あお、返事が来たら、俺と藍鼠あいねずくんに転送して――」

 あおはその返信を刈安に言われたとおり二人ヘ転送し、刈安は持ち込まれる文章と制作意図をひたすら照らし合わせて読み説く作業をした。

 学芸員志望の刈安は文書とその文章のイメージする写真や画像を持ち寄り、コレは駄目だめだとか、こうしたらどうだとかそんなのを毎週一回、ゼミ内会議の上で話しているのだという。持ち込まれた制作物と文章、そして持ち込んだその人がその意見を聞きながら改編に改編を重ねて、持ち込まれた文章は段々と充実していく。無論むろん刈安の独善という訳ではない。作家もだいたいはじめは意気高揚いきこうようとした顔で自分の文章の解説に入る。そのまま刈安を説き伏せられたらそれでいい。しかし学部生時代、久しぶりの秀才と言われていた刈安にとって、惰性だせいでやってきた学部連中の意見などへでもないのかもしれないが……。

 持ち込まれる制作品について刈安は同時に持ち寄られたイメージ画像をあおとみどり渡し、その大きさと掲載けいさい形態けいたいだけを伝える。それから後のことは任せたという。そのあとのことはあおとみどりもで機械的(システマチック)に作業をすすめた。

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