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第04話 「悪の組織」登場

第04話 「悪の組織」登場



 古くから「日本の暗部」「歴史ある悪の組織」として知る人ぞ知るこの組織は表向き法令を遵守しているまっとうな法人である。悪の組織のくせに納税もきっちり済ませているため、行政指導、監査などで隷属させるのは難しい。下手を打って敵に回られては本末転倒だ。正直、これ以上敵は増やしたくない。「敵の敵は味方」何とかして味方に引き込む必要がある。


 草波検事は患者を装い「松戸会」の本部がある「大クリニック」を訪れ、松戸会首魁である松戸院長に直に対峙する方法を採った。正義の味方と悪の首魁との対決(?)である。



「松戸会に「賞金稼ぎ監査業務」をやれとおっしゃる?」



 松戸歳延松戸会理事長は、突然訪れた司法関係者を面白そうに眺めた。

 「官憲のガサ入れ」ではなく、「その上」が直接乗り込んでくるのは異例だが、理事長には気負いは全くない。その証拠に「仕事着ですみませんね」と医者の正装である白衣を羽織ったままだ。

 理事長の反応に何らかの手応えを感じたのだろう。草波検事は「松戸会」に押しつける厄介事の説明を始めた。


「ええ、そうです。正確には「犯罪検挙報償費の受領者に関する監査権限を持つ刑法報奨金対象業務就労取得者を有する団体の指定に係る附則第4条の3項」に該当する特別監査業務になります」


「法律名が長すぎますな…。額面どおりの監査業務であれば監査法人や弁護士事務所、司法書士事務所に委託するのが普通ですが、我々に委託する本来の理由があるようですね。松戸会は確かに司法書士法人や会計事務所の法人格も所有しておりますが主業は医療です」


「存じております。それも踏まえて理事長にお願いに上がりました。該当附則は監査の手段について意図的に触れていません。つまり、ありとあらゆる手段を用いて監査を行うことができるように作られています。そして監査権限は警察よりも強くなっています。要するに相手は限定されますが「好きなように」やれます。いや、やっていただきたい」


「検察庁の上席検事が詐病を使ってまでして訪ねてきた用件が暴力装置への加担ですか。いやはや、世も末ですな。そもそも暴力装置であれば、過去に極めて短期間運用された警視庁の特殊部隊。あれを復活させればよろしいのではないですか?半世紀近く昔の話で、私はまだ駆け出しの医者(悪人)でしたが、よく覚えています。「命知らずの7人」。彼らに叩き潰された犯罪組織は決して少なくはなかった。。そういえば貴方も「草波」姓ですな?」



 松戸理事長はおおよそ半世紀前の出来事を披露し、検察への協力を婉曲に断ろうとしたのだが、草波はここで踏ん張った。松戸会に袖にされると、今まで地味に計画していた「正義の執行」が水泡に帰してしまう。それは正義の敗北であり、正義が日本から消滅することになるからだ。それと、理事長の提案した特殊部隊の復活も一応は視野に入れたのだが、いかんせん、警視庁配下の組織であるため越境操作が難しいのと、復活した場合、世間の風当たりが半端でないと予想された。自分たちの敵になるので「自称正義の味方」も全力で阻止してくるだろう。つまり、特殊部隊復活は全く現実的でない。



「あれ(特殊部隊)」が永続するというのは司法の無力さを露見させるようなものです。今回のこれも短期間の運用になるでしょう。附則の不備に気づく人間が少ないとは思えません。そう遠くはない時期に附則は無力化されます。そのような法整備をあえて行った有志の連中も大なり小なり何らかの責任を問われるでしょう。宮仕えではありますが、我々もそれなりの覚悟で臨んでいるのです。附則が無効化されるそのその前に…」


「やることだけはやる。やりたいことだけはやってみせる。そういう訳ですな。なるほど」


「率直に申し上げますと、我々の悪巧みに乗って「合法的に」将来の敵を叩き潰していただけないでしょうか?貴方たちにとっても絶好の機会だと思いますが?」


「警察が「悪巧み」とはあまりよろしくありませんな。で、我々のメリットは?先ほども申しましたが松戸会は法人です。そもそも悪の組織というのは営利団体です。利益がないので非合法な事業に手を伸ばす。その事業に旨みがあったのでそちらが本業になった。従って儲からない事業に手を出す必要はないと考えております」


「役人がやれる事なので大したものではありません。役人の利益供与は制度上の優遇措置を気にならない程度の規模で地味に行うしかありません。可能な措置は、


・関連する施設への消防設備点検情報の事前通知もしくは意図的な回数減らし

・税務監査レベルの緩和

・松戸会の病床増床申請の早期許可、医師会役員への松戸会所属医師の推薦と、「適度に逸脱した医療行為」の黙認。

・松戸会関係施設前の道路整備および「本業務に係る」車両の緊急車両認定

・スポーツドクター指定病院への推薦

・海外の敵対組織要員の入国の厳格化

・国有林の無償貸し出し

・松戸会関連特許の保護


 こんなところです。これで勘弁いただけませんか?」



「なるほど。関係省庁の揃い踏みということは、警察だけの独断ではないということですな。全部税金と言うのが笑えるところですが。ああ、常務理事。どうかな?」



 判断を放り投げられた常務理事、松戸の息子は苦笑する。親父はやるつもりだ。無論反対する理由はどこにもない。望むところである。が、判断を放り投げられた意趣返しは身内といえどもある程度は行うべきだろう。



「既にその気になられているのでしょう?それに、これだけの省庁の根回しが終わっているのですから断るとおおごとですよ?税務署とか、消防署とか、保健所とかが日替わりで押し寄せてきます」

「それは困る。医療業務に差し障りが出るし、客(患者)が寄りつかなくなる。「敵の敵は味方」。よろしい。呑みましょう。松戸会への「支援」は各省庁で目立たないように時期をずらして実施してください。税務署やら法務省の事情を知らない連中に目を付けられては本末転倒です。追加で公安と陸幕二部、内調に各国の諜報員と産業スパイの牽制を依頼願います。やるからには我々は全力を尽くしますからね。まあ、半端な悪人どもに「正統なる悪の組織」の実力の一端を存分に味わって貰いましょう」



 かくして悪の組織「松戸会」は現代の必殺ではない仕置き人として活動を始めることとなった。

 帰庁した草波を待ち構えていた各省庁の有志は草波からの交渉成功の話を聞くと安堵のあまり泣き崩れた。その様子を見て草波はまだ日本は終わらない。終わらせない。終わらせたくない。と思った。恐らく、彼の縁者も過去そう考えて特殊部隊を創設、運用したのだろう。

 あとは、「正義の味方」を「悪の組織」がいかに叩き潰すか…。松戸理事長の自信満々の顔を思い浮かべた草波は、やがて「正義の味方面」をしている連中が真っ青になる様を脳裏に描き、思わず声が出る。


「楽しみだ。まるで遠足の前日のようだ」

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