第03話 動き出す「正義の味方」
第03話 動き出す「正義の味方」
巨大になった「正義のようなもの」に気が付いた、多少なりとも正義を信じている、正義に関わっていると自負していた者達は戦慄する。自らの信念の拠り所とする「正義」がとんでもないものに変質していたからだ。
これに恐怖した彼らの行動は2つに分かれた。
迎合、対決である。
政治家達の多くは迎合を選択する。彼らはこれらの「正義」が一過性ものだと判断したかだ。民衆の心は移ろいやすい。彼らにとってこれらの振興の「正義」の寿命は彼らの政治家生命が終わるまでの時間よりも短いのではと考えた。
放置していればいずれ偽りの正義は滅びる。迎合のフリだけして積極的に関わらなければいい。例え今更積極的に迎合したとしても「正義の利益分配」は終わっているし、得られる利益は少ない。彼らの副業への影響さえなければ良い。そんな考え方であったのだ。
反対に一部の官僚と大半の公務員は対決を選択する。
税金泥棒と罵られてはいるものの、彼らはまがりなりにも「正義の使徒」「正義を信じる」者達であり、決して短くはない年月、現職に従事しなければならなかったからだ。
従って現在の「正義のようなもの」を信念的にも、業務的にも受け入れられるはずがない。対決するのは必然であった。が、いかんせん彼らの力は弱い。
高級官僚、政治家、大企業のトップのような社会的特権を持たない彼らの抵抗は、辞令一枚、一回の行政指導であえなく潰される。
しかし、それだからこそ彼らは緻密で狡猾だ。彼らは露見しないように「正義のような何か」の勢力を挫く方法を模索した。
警察、軍隊(自衛隊)に依るか?いや、既に彼らの上層部は汚染されている。下々までは汚染が広がってないから、シンパは増やせるだろうが、組織化は難しい。そこで彼らは考えた。「目には目を歯には歯を」である。
「毒をもって毒を制する」
「正義の人(の一人)」らしい、検察庁の草波検事は「悪の組織」に目を付ける。
なるほど、同業者(=正義の味方気取りの悪人)に同業者(悪人)を充てるのは効率的だ。
ただ「正義の味方気取りの悪人に鉄槌を!」なんて普通に頼んでも無理だ。
彼らは(表向き)真っ当に(法に触れないように、もしくは法律違反が露見しないように)生きているからだ。いわゆる「地下に潜って活動している」のだ。
派手な活動を行わないのは、本業(この場合悪の組織としての活動)が左前になっているためのこともある。
何せ普通の企業の寿命ですら、平均でわずか23年だ。その中で生き残っている「悪の組織」を意のままに動かすにはそれなりの対価、報酬が必要だろう。に弱小な「悪の組織」では返り討ちに遭う可能性が高い。ここは大手、老舗に真っ当な報酬で働いて貰うしかない。「至誠悪に通ず」奴らも伊達に悪の組織の暖簾を上げているわけではない。
しかし、公務員に「仕事」とか「仕置」を依頼する財源は存在しない。そういうことになっている。公務員の一挙手一投足は(表向き)内部監査と、会計監査員厳格な監査、オンブズマンを名乗る利権団体に厳密に監視されている。(重ねて言うが、そういうことになっている)
肥大した「正義の味方のようなの」を叩き潰そうとするのであれば、対組織の抗争と同等のものになる。この上のレベルは国家間紛争しかない。
昔のように簪や楽器の弦やピックで一人や二人に「月に代わっておしおき」したところで片付く問題ではないのだ。
ここで、草波検事は実に公務員らしい方法で悪の組織を味方に引き込もうとした。その結果が財務省による「犯罪検挙報償費の一般納付に係る法律」への附則だった。
「正義の人」草波検事は、「悪徳検事」「検察庁の歩く汚点」「クソ波」と呼ばれる程の不良公務員なのだが、政治家や高級官僚にかなりの「貸し」をつくっているらしく、彼を検察庁から追放、それが無理ならせめて僻地に飛ばそうと日夜努力する検察庁人事部をあざ笑うかのように本庁に居座っている。
面倒事がある都度、マスコミの会見に駆り出され、そこで絶妙のタイミングで舌禍を引き起こして国民の望む「傲岸不遜」「責任逃れ」「典型的な官僚」を演じ、追求を別次元に反らす、別の意味での高い危機管理能力が政治家や高級官僚から嫌われ、また信頼されているためだ。
そんな「クソ波」検事だが、意外にも「正義は我にあり」と自負してる模様で、クソ呼ばわりされるものの、「正義の味方のような何か」な連中には容赦がない。
実際「正義の味方をした何か」からも「草波には気をつけろ」と警戒されているらしい。
自分達の職域、職能だけで「正義の味方をした何か」を御することができないと考えた始めた各省庁の官僚達は、一縷の望みをかけて日頃から嫌っていた「クソ波」を頼る。
日頃の勤務態度からは予想できない程の速さで草波は法務省官僚、財務省官僚、総務省、文部科学省、国土交通省、内閣府、防衛省と、綺麗どころの省庁に少なからず存在する「正義の人(使徒)」を巻き込み、表向き各省庁への利益供与を匂わせた悪巧み(正義の人が悪巧みとは…)を実行した。それが、賞金首法に附則された
「犯罪検挙報償費の受領者に関する監査権限を持つ刑法報奨金対象業務就労取得者を有する団体の指定に係る附則」
であった。
「償金稼ぎ団体に監査を行う団体の新設」
字面だけを見ると単なる徴税請負業務の外注(=新たな天下り先の創設)だが、附則の詳細には「税金」に関するとは一言も述べられていなかった。法務省官僚が知恵を振り絞って起草し、わざわざ財務省から提出させたウルトラC(死語)の法律である。
つまり、賞金稼ぎ限定ではあるが、法的に(必殺ではないものの)「仕置人」「仕事人」が認められたのである。
ここからの「正義の公務員」と「金に汚い普通の公務員達」の動きは更に速かった。誤解されがちだが、方向さえ決まっていれば公務員の仕事は極めて速い。仕事が遅いと言われるのは途中で茶々を入れる人間が多すぎるからなのだ。
字面上では外郭団体の創設を意味する附則のため、各省庁の高級官僚と関連する政治家はパイの取り分を少しでも多く確保すべく、常々税金の無駄と批判される余剰人的リソースすらぶっ込んで一気に省庁間連携(という名前の利益配分)を完了した。
財務省は零細賞金稼ぎ事務所をNPO化し、税務署の下働き(賞金稼ぎ専門)として不正会計に目を光らせる体制を作り、厚生労働省は(表向き)賞金稼ぎの怪我などによる補償を充実させるためということで医療法人に刑法報奨金対象業務就労者の雇用と監査業務への参加を「お願い」する。
防衛省は「今後発生する可能性が(ほとんどないにも関わらず)高い」と考えられる凶悪案件の戦術的支援を行うため、自衛隊員を出向させるための外郭団体を新規に設立する(人件費節約と、有事の際の要員確保と、あわよくば実戦経験までも視野に入れていた)
結果、雨後の竹の子のようにNPOやら業務従事の医療法人やら外郭団体が誕生したのだが、草波の狙いはそこではなかった。
彼は最初から一組織を「仕置人」として活用することを考えていた。乱立しているNPOなんぞ、ただのカムフラージュ(と天下り先)でしかない。
彼が厳選した「悪の組織」は神奈川県に本拠を置く医療法人「松戸会」であった。