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第02話 賞金稼ぎの発生

第02話 賞金稼ぎの発生


「賞金首法」が広く世の中に広まり「悪人退治」がカネになることが認知されると、報奨金を生活の糧とする「賞金稼ぎ」が発生するのは自然の出来事だ。

 当初は定年退職後の警察官や主婦、いわゆる引きこもりニートなどがネットからの情報収集や犯罪者の情報を提供する程度で、その成果は警察の思惑に沿った程度であったのだが、そのうちに元警官、自衛官、喧嘩自慢の元ワル、格闘家、カタギになったヤクザなどが指名手配の凶悪犯を「実力で確保」するなど予想を上回る「戦果」を上げはじめた。

 これに目を付けたのは総合商社や芸能プロダクション、人材派遣会社、リース・ファイナンシャル会社で、彼らは組織化が進んでいない新業種のマネージメント業に乗り出す。

 複数の賞金稼ぎでネットワーク、チームを構築し、必要な情報や装備、人材、機材の提供(リース、レンタルなど)や財務管理などを行い、賞金稼ぎからマネージメント料を取るようになったのだ。

 マネージメント料は出来高制が多かったため、各社は利益確保のため、自社から精鋭をつぎ込む。当然、賞金稼ぎの質が向上した。

 法律遵守の建前上、警察では表だって実施できない金銭による情報収集は財務上の裏技「交際費」で処理、専属、嘱託では費用がかかりすぎる専門家による分析をその道の専門家や、専門の賞金稼ぎに「外注」するなどして本業よりも捜査コストを削減、警察などよりも有益な情報が提供されることで「賞金稼ぎ」の利益は半端でない額になっていった。


 賞金首法でコスト削減に成功した警察組織は、余剰となった人的リソースを犯罪防止と住民サービス振り分ける。


「地域に愛されるおまわりさん」


 を目指したのだ。(荒事専門の警察官は民間出向という形で「賞金稼ぎ会社」で大活躍をしている。刑事ドラマのワンシーンをそのまんま実現できるのでやりがいはあるらしい)

 濃厚な地域サービスの実施により、上昇しつつあった日本の犯罪率は劇的に低くなる。犯罪の多さに「修羅の国」と揶揄されていた九州のとある都市などは「北極、南極の次に犯罪に遭わない場所」と言われるまでに治安が回復した。

 賞金稼ぎの活躍に気をよくした検察庁と政府は、更なる凶悪犯罪に対応するべく賞金稼ぎ甲種に特1~3類のカテゴリを新たに設け、特別司法警察職員(具体的に言えば厚生労働省麻薬取締官、自衛隊警務官など)に準じる権限を与えた。

 これで、更に賞金稼ぎの人気が高まる。


 優秀な賞金稼ぎを雇用、あるいは専属契約している賞金稼ぎマネージメントグループはは世間の認知度も高い。

 これらの下で情報収集や装備品の配送など、いわゆる後方業務に従事する人間も高いスキルが求められる。また、給与とは別に成果に応じた報奨金が支給されるため、大口案件を抱えた企業の人気は更に高くなった。


 某新聞社の就職活動サイトでも文系、体育系の別なく上位には賞金稼ぎマネージメント企業(民間)や、財団(官公庁の出先機関)が名を連ねているのだ。

 彼らは世間からの好感度を上げるため、オリジナルドラマ、アニメの制作や、アイドル広報起用を始めだした。そう、メディアミックスだ。

 特にドラマ、アニメーションは、もともとの下地があった上に実在する(した)犯罪などから題材を取っているため、無理矢理感が少なく高い評価を受ける。また、オリジナル(の賞金稼ぎ)の装備を子供向けにアレンジした賞品も飛ぶように売れた。

 これに拍車をかけたのが、美男美女の賞金稼ぎによるPR活動。いわゆる「ディーバ」だ。

 これに名目上の監督省庁である検察庁、警視庁と各県警が悪乗りし、現役警官からディーバを選出した(犯罪対応はゆるキャラでは都合が悪いらしい)

 有名なのは警視庁のディーバ、初代「遠山さくら(源氏名)」で、捜査4課(=自由業専門部署)の現役警官であった彼女は、見た目と業務の行動とのギャップが凄まじく、それがウケて大人気となり巡査から一気に警部補にまで上り詰めた。いわば違った意味でのシンデレラストーリーの具現者となった。

 これに追従する人間は必ず存在する。従来、芸能界とかネット上のみであった「アイドル」のプラットフォームが新たに加わったのだ。この波に乗らない手はない!

 かくして警視庁を筆頭として、厚生労働省、防衛省、文部科学省などの政府機関、安全な都市づくりを標榜する自治体、賞金稼ぎマネージメント会社を巻き込んでディーバのビッグバンが発生する。ただし、警視庁も含め、各社のディーバは「現役で、なおかつ実力がある」ことが必須となっていた。

 そう、年に1度、全国の官民ディーバによる「総合訓練」と呼ばれるイベントで、実戦での実力を測られるからだ。

 各地、各界の予選を勝ち上がってきたディーバが陸上自衛隊富士演習場と、渋谷区神南の特設セット下で激突。この熱狂ぶりは、富士総合火力演習、甲子園、日本シリーズさえ超えたと言われている。


 乗りも乗ったり、乗せられたりである。


 賞金稼ぎマネージメント会社は、会社間のバッティングと賞金稼ぎ同士の競合を避けるため入札を行い大口賞金案件に対する優先度を決めてるようになった。いわゆる賞金首オークションだ。

 カルテル、談合を心配する声もあったのだが、入札を必要とする大口案件は社会的にインパクトのある(=自社のネームバリューを高める)ことが多く、採算度外視の金額で入札が行われるkとが多く、凶悪犯などは「1円」で落札されることもあったため、不正に利益を得ているという一部の非難は的外れなものになった。

 恐らく、江戸時代を舞台にした例の殺し屋家業のイメージがあるのだろう。低額落札シンジケート、公団は国民から高い支持を受け、出資会社の事業の業績が向上した。大企業の広告宣伝費に比べれば賞金首1人程度なんぞ安いモノなのだ。

 異常に低い策札額について、不当廉売ではとの懸念があったが、公正取引委員会の


「落札全ての適用について言及はできないが、一連の落札額による落札団体の金銭的損失(自腹)は、ある種の社会奉仕、利益還元に相当すると認めざるを得ない」


 という玉虫色の見解で解決した。解決というか問題の先送りなのだが、国民の意思は、


「外道には金を払う価値すらない」


 ということで一致を見たのだ。この傾向は更にヒートアップした。1円入札で複数社が抽選などという事態もしばしば発生していたのだが、過熱ぶりはこれで収まらなかった。 ある「暴運転に絡むひき逃げ死亡事故」に対する入札で、自動車会社、損害保険会社を基軸とする賞金稼ぎ会社の大企業連合シンジケートが「マイナス100万円」で落札したのだ。(100万円は被害者遺族への見舞金として贈られた)

 これにより、


 「「悪人」は、賞金稼ぎ会社が自腹で片付けてくれる」

 「究極の正義は無償、いやむしろカネを払ってくれる」


 という認識が定着し、小者ほど高額の懸賞金がかけられることになった。


 しかし、賞金稼ぎが正義というわけではない。前述のように賞金稼ぎは「企業活動」になってしまった。つまり、儲けにならない事はやらないのだ。

 また、「正義」の行使。特に武力、暴力発揮が法的に許される者達には常に暗黒面の誘惑がつきまとう。なんたらの騎士が暗黒なんたらにジョブチェンジするような事例は架空の出来事ではない。

 これらの連中は表向き正義の味方であるため、大衆と、それを煽るマスコミ、更には彼らをバックアップする広告代理店、企業などに「手厚く」保護される。

 悪事に手を染めていようが、彼らをメシの種にする周辺の連中が寄ってたかって犯罪や不祥事を「なかったこと」にしてしまうのだ。

 既に警察に彼らを裁く力はなかった。何せ、捜査一係の刑事ですら「出向」と言う形で「正義の味方」をやっている。下手に動いて後ろからズドンでは割に合わないのだ。


 それに気がついた者達が何もしなかった訳ではない。彼らは「業界内組織」での改革、「行政指導」と可能な手を打とうとしたのだが、結局、組織除名、左遷などの報復に逢う。

 某赤系の国会議員がこの問題を国会で取り上げ、ある「正義の味方」を「悪の手先」となじったところ、他の「正義の味方」に物理的な天誅を加えられたこともあった。

 加えてこの暴挙は非難すらされず、大半の国民に歓喜をもって迎えられたのだ。


 そう、正義は死んだ。今あるのは「正義の顔をした何か」だ。


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