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第01話「犯罪検挙報償費の一般納付に係る法律」の成立

第01話「犯罪検挙報償費の一般納付に係る法律」の成立


 世界一の犯罪阻止率を誇る日本。しかし、犯罪阻止にかかるコスト(=税金)は年々増加しつつあった。そう。四六時中交通取締りをしても原資がひねり出せないレベルだ。

 これに追い打ちをかけるように「犯罪捜査-検挙」にかかるコスト削減を財政改革を錦の旗印に掲げる会計監査院から求められ、全国の警察組織は途方に暮れた。

 犯罪捜査には「表に出せないカネ」が必要なのは世間の荒波に揉まれた人間であれば誰もが知っていることだ。無論公式に認められていないし、推奨されているわけはない。

 まぁ、本来の目的(=犯罪捜査)で「表に出せないカネ」を使っていたのであれば、会計監査院もそこまで目くじらは立てなかったのだろうが、これを飲み食い接待に使ってしまったところがあったのが致命的だった。身から出た錆だ。

 警察幹部は慌てた。「このままでは究極の3K公務員、自衛隊隊並(自衛隊は特別公務員)になってしまう。なんとかしなければ」と。

 警察長官と各都道府県知事(警察は一応、都道府県知事が統括するのだ。断っておくが一応である)の肝いりで、左前になった企業が大抵行う「改善提案」を警察組織内で大々的に実施するも、妙案がでる訳がない。

 業務改善は業績が好調な時期に行って初めて効果が出るのだ。

 それでも犯罪捜査の原資をひねり出すため、交通取締りの厳格化や24時間営業という強みを活かし、公共料金払い込みや官公庁に限った荷物の取り扱いなどのサービスにも乗り出したのだが、所詮は武家の商法。交通取締りは「厳しすぎる」。荷物取扱サービスは、民間の同業者から激しく非難されるだけであった。おまけにこれらの業務に人員を割かれたため、基本、人海戦術である犯罪捜査にブレーキがかかり犯罪抑止率は徐々に低下していく。

 ぶっちゃけ悪循環。詰んだ状態だったのだが、ここで転機となる事件が起きる。

 毒舌セレブ、Tクリニックの医院長、T氏が複数の暴漢に襲われ重傷を負うという事件が発生したのだ。(重傷を負いながらも「他の医者に任せられるかぁ!」と自分の病院で手当てをしたのは流石と言えば流石だが)

 日頃から物議を醸す発言で知られていたにもかかわらず、警視庁の捜査は遅遅として進まなかった(T院長をよく思わない所謂左翼民、メディアの妨害によるとT氏は自身のブログで述べていたが、果たしてそうだろうか?まぁ、極左と極右の仲が良いのは皆が知るところであるが)

 T氏の回復で事件はうやむやになると思われたが、どっこい、そうは問屋がおろさない!

 彼は、


「犯人の有力な情報を提供した者には即金で1億円を払う。ただし期限は10日以内!」


 と動画サイトやSNSに投稿。犯人に高額の懸賞金をかけたのだ。これは警察庁が設けた捜査特別報奨金制度上限の10倍であったため、大きな話題となった。

 当然、T医院長は警察から懸賞の取り下げを求められたのだが、



「役に立たない捜査をダラダラ続けているだけで1億円くらいは人件費で軽く吹っ飛ぶ。こっちから情報は提供してやるから、アンタらは交通整理でもやっとけ!」



 と痛烈に批判。強硬姿勢を崩さなかった。


 現金の威力は凄まじい。


 医院長の動画サイトのチャンネルとSNSに懸賞のエントリが掲載され、マスメディアで大々的に懸賞が発表されてから5日後。襲撃犯の情報とその詳細な背後関係が報告され、襲撃犯とその依頼者が無事逮捕。報提供者に1億円が支払われた(報奨金授与式が情報提供者の顔にモザイクをかけてインターネットで大々的に報道された)

 提供された情報の中には暴力行為を請け負う団体の情報が含まれており、これらの情報もT医院長から警察に提供され、これに基づき大規模な摘発劇が発生。いわゆる「職業殺し屋」が大量にが検挙される快挙となった。

 高額懸賞金が捜査に絶大な効果を示すことを知った立法府(=政治家)の動きは速かった。警察OBの国会議員が議員立法という形で、


「犯罪検挙報償費の一般納付に係る法律」


 いわゆる「賞金首法」を国会に奏上したのだ。これに対し、一部から反対の声があがったのだが、


 「安全に金をかける」

 「安全を金で(それも他人の)買う」


 という法律の趣旨が意外にも国民の賛同を得る。

 法律成立に反対する議員や評論家は、外患誘致を目論んでいるのではないかと揶揄され、事実、外観誘致とまでではないが、そのような発言を行う連中は大なり小なりグレーな部分があったため、ネットなどで激しく叩かれる。

 世論の後押しを受け、「犯罪検挙報償費の一般納付に係る法律」は無事成立。犯罪者逮捕、検挙にかかる賞金を個人や団体が自由にかけられるようになった。

 これにあわせて捜査特別報奨金制度も改正され、支払金額の上限が事実上撤廃される。

 増大すると予想される懸賞金の財源を確保するため、検察庁及び法務省は捜査特別報奨金基金(俗称:懸賞金基金)を設立。自らの天下り先を確保しつつ、民間からの寄付を募る。これらを税制上の優遇策適用、すなわち「寄付」にと見なし、税制上の優遇を与えてしかるべきであると財務省が見解を示したため、更に拍車がかかった。

 面白いことに、基金への寄付は、何かしら後ろめたい事を行っている企業、団体からのが多かった。これも「安全を金で買う」ということなのだろう。

 法施行により、家族、友人、恋人など、犯罪に巻き込まれた被害者の周囲の人々がクラウドファンドを立ち上げ、未解決事件や、逃走中の犯人に対する情報提供に懸賞金を募ったり、暴力を生業とする集団(「ヤ」のつく自由業の皆様)が公然と「オジキの仇」の情報を広く募集するするなど、警察には犯人検挙に関する有力な情報を、マスコミにはワイドショーのネタ、そして一般市民に「正義執行への参加意識」を賞金首法は提供することとなる。

 これにIT企業、通販外車が目を付け、自社通販サイトのリンクから基金への犯罪者への懸賞金をワンクリックでポイントから支払えるようシステムを整備、規約を改正したことから、ニュースやワイドショーが犯罪の報道を行う際に懸賞金サイトへのリンクの二次元コードが画面に表示されることになった。このため、


「こいつ腹立つよな。ポチろう」


 とワンクリックで、少額ではあるが憤りを感じる、あるいは共感を感じる者からの「善意」が、本人の直接的な費用負担なしに懸賞金という目に見える形で犯罪者の首にかけられることになった。

 当然、ワンクリック当たりの額は少ない。が、それが数千、数万ともなると話が違う。仮に5千万人が毎日10円程度を犯罪者に対する懸賞金に充てた場合、年間1800億円を超える費用が犯罪者の首にかけられるのだ。

 この金額は警視庁の年間予算6500億円には及ばないものの、神奈川県警の年間予算2000億円に迫る金額になる。

 軽犯罪者であっても、いや、身近な「ムカつく」軽犯罪者ほどその首にかかる賞金が増えるという傾向になった。



「安全のための出費はやぶさかではない」

「安全を金で買う」



 日本人の安全に対する意識が変化した瞬間である。


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