こぼれ落ちるもの
目に写る景色は綺麗な色をたたえて、毎日食べる食事は頬が落ちるほど美味しい。
隣人と交わす挨拶は1日の活力をくれて、星の出る夜空に安心して目をつむる。
誰に聞いても理想的だと言われる一日。
それが、ずっと続いていく。
それなのに
昨日の景色は朧げで、昨日のご飯は無味乾燥。
昨日会った隣人の顔はのっぺらぼうで、昨日の夜空には闇だけが広がっている。
誰がなんと言おうと理想的とは思えない昨日。
それが、ずっと積み重なっている。
ああ
昨日はいい日だった
そう思える君は
それがどれだけ幸福なことか
どれだけ貴重なことか
分かっていない
分かろうともしていない君は
それが毎日続くと信じて
ある日
たくさん持っていたはずの手が
空っぽだと気づくだろう
気づいて初めて
忘れることを恐れ
それでも忘れることを自覚し
悲しみと恐怖の中で毎日を生きる人々の
本当の哀しみを知るだろう
でもその頃には
きっともう
手遅れなんだ