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第6話 ジアッラ先生の魔法教室

 ダンジョン調査以降、弥生と麗華は比較的簡単な清掃作業の依頼をこなしながら過ごした。その間、弥生は図書館を発見して冒険者の仕事の合間にまめに通う。

 その結果


『“四大災厄”はいずれも前世の記憶を保持した異世界転生者である。』


『“四大災厄”は“不死王”ピクロラングリシャーキンディロー・ブリグデリエル三世、“世界を覗く瞳”ユーディット・ドーラ、“消し去る者”ドラコ・シャマル、“猟奇姫”ジアッラ・テレーザ・シャマルの四名から成る。』


『“四大災厄”の内、歴史書に最初に名前が記録されたのは“猟奇姫”ジアッラ・テレーザで、それは七〇〇年以上前になる。』


『五百年前に出現した魔王が人類の召喚勇者たちに完全勝利して世界に覇権を持ったが、後に“四大災厄”に戦いを挑み“消し去る者”の前に瞬殺された。』


『“消し去る者”と“猟奇姫”は“猟奇姫”の猛烈アプローチで約二〇〇年前に婚姻した。』


『時間を操る能力を持つのは“四大災厄”を含めても、世界で“猟奇姫”ただ一人である。』


『異世界転生者は現在でも年に数例発見される。』


『異世界転生者は異世界転移者とは異なり、魂の状態で“神”と遭遇する。』


 というような事が分かった。

 弥生が着目したのは最後だ。


『異世界転生者は異世界転移者とは異なり、魂の状態で“神”と遭遇する。』


 それが“神”かどうかはともかく、該当する様な存在であるのは間違いないわ。おそらくジアッラさんはその時に“この世界の仕組み”を何らかの方法で知ったんじゃないかしら。


 と、宿に戻った弥生が考えていた時だった。


「わたし参上だぞ!」


 ドアの前に闇の霧があり、ジアッラが仁王立ちしていた。


「うあ~い、ジアッラさん、いらっしゃ~い」


「おう、よしよし。」


 麗華がまたジアッラに飛びつくとジアッラは麗華の髪をワシャワシャする。その様子を見て弥生は「あ、こういうの昔テレビの動物番組で見た事ある」と連想した。


「あの…ジアッラさん、来ていただけるのは嬉しいんですけどノックくらいお願いしますよ…。」


「ぬ? オナニーでもしていたか? 別に恥ずかしがる事では無いぞ! フヒッ。」


「しませんよ! そんな事…。」


「しない訳あるか。なあレイカ。」


「あたしはするよ~♪」


「わたしなど独身時代は旦那様をオカズに日に二桁はやっていたぞ♪」


 正直言うと弥生もするんだが、いや、それはさすがに多いだろ! と心の中で突っ込む。


「それはそうとだな、おまえ達、ギフトに頼りっぱなしでスキルで覚える魔法の方がさっぱりだろう?」


 ギフトとは転移者であれば転移時に、転生者であれば生まれた時に付与される特典みたいな強力な能力である。天から贈られた能力という意味だ。

 対してスキルとは学習や訓練で後天的に身に付けていく技術や魔法の能力の事を言う。


「今後、旅を続ける上でそれではいかん! だから特別にわたしが教えてやろう!」


「それは有難いんですけど、お手数でしょう? わたし達もこのままではいけないと思って初歩的な術式の勉強を始めたんですよ。」


 弥生は机の上の『脳筋でもわかる魔法のイロハ』という冊子を翳した。それはダンジョン調査依頼の際、“世界を覗く瞳”ユーディット・ドーラが帰り際に二人に手渡してくれた手書き小冊子だった。


「なっ!? ぬぬぬ…そ、そんな本よりもだな、このジアッラ様から直々に教わった方がいいに決まっているだろう?」


 ああ、要するに自分が教えたい、と…。“四大災厄”はつるんでいるとはいえ、みんな同業者だからライバル心でもあるのかしら? でもジアッラさんって、何て言うか、こう、どことなくポンコツ臭がするというか…。


「それにほら! おまえ達、騎獣の扱いも覚えた方がこの先何かと便利だぞ?」


「あ、確かにそれは言えますね。」


「よし! よし! では宿を引き払ってわたしの本宅へ来い。特訓だ!」


「え、ちょ、そんな急に?」


「わ~い!」


 ジアッラは弥生の手を掴むとドアを開けて階段を降りる。麗華も弥生の分も荷物を担いで一緒に出る。そして宿のカウンターで受付の男に言い放った。


「チェックアウトだ。この二人は今日から“四大災厄”の元で修行だと飼い主に伝えておけ。」


 受付の男は驚いた表情で三人を見送った。


「あいつはここの領主から派遣された憲兵だよ。」


「え?」


 もしかしてわたし達がレハラントの人間だから警戒されて…。


「と言っても害意は無い。むしろおまえ達が事故や事件に巻き込まれない様にする為のボディガードだな。フヒヒッ! あの領主、おまえ達に相当ビビってるぞ。」


 え? 何で? わたし達、何かやらかした? と弥生は疑問に思ったが、すぐに自分の手を引いているのが恐怖の代名詞“猟奇姫”だと思い出した。


 なるほどね…。


 宿から出ると蔵を付けた飛翼獣と二十歳程の金髪美女がいた。女性は帯剣する為のベルトとブーツ以外、身に付けていない全裸。ジアッラと同じ無着衣文化者だ。


「ネフティ、帰るぞ。」


「はい、奥方様。」


「よし、おまえ達、アレに乗れ。」


「あ、わたしは念動の<飛行>で付いていけると思いますから先導してもらえれば…レイカもロープで身体を結べば大丈夫です。」


「おお、そういえばそうだったな。便利な能力だな♪ じゃあ荷物だけでも載せろ。ネフティ、本宅まで案内してやれ。わたしは<亜空間移動>で帰る。」


 ジアッラさん、そっちの方が便利な能力じゃないですか?





 上空から見るとL字型のコンクリート製の建物。弥生たちの元の世界でいえば廃校か廃病院の様な佇まいである。何で未開領域の奥深くにこんな建物が? と思うが、ここがジアッラの言う本宅、“四大災厄”の根城だ。


「おお、着いたか!」


 先に到着していたジアッラが出迎えた。その横には身長1セルベはあるキシリアン族(弥生たちの感覚から見ても精悍なイケメン)の男がいて、ジアッラが抱き付いている。


「よく来たね、君たちの事は嫁の奴からよく聞かされているよ。我儘に付き合わされて大変じゃないか?」


 嫁? もしかしてこの人がジアッラさんの御主人の“消し去る者”ドラコ・シャマル?


 “消し去る者”の能力は素粒子操作である。あらゆる物を分解して消滅させる。その分解能は霊体をも消し去るのだ。また逆に元素があれば何でも創作生成できる(生体も素体として作れるが生命の再現は不可能)。それに核融合も核分裂もお手の物だ。


「あん、あなた様♥ わたしは我儘なんて言ってません。」


 間違いない! しかもジアッラさん、何ですか、その甘え声は! わたしが今まで見て来たジアッラさんと違う! そして何という体格差!


「そうかぁ?」


 ドラコがジアッラを抱きかかえて持ち上げた


「そうですよぉ♥」


 レロン、レロン♥


 うあー! ベロチュー始めたぁー! 砂糖吐きそう。


「じゃあ二人を案内しますから、また後で。いっぱいわたしを使ってくださいね、あなた様♥

 よし、おまえ達、わたしに付いて来い! 建物を案内してやる!」


 何という豹変ぶり…。


 弥生と麗華はジアッラに連れられて建物に入った。


「騎獣の扱いは誰にやってもらおうかな。」


「ジアッラさんじゃないんですか?」


「わたしは騎獣を使えん! だって空間魔法があるもん!」


 ジアッラがドヤ顔で胸を張った。


 やっぱりポンコツだったー!


「ぐぎぎ…。」 「あがぁっ!」 「うごぉぉ…。」


 三人は不気味な呻き声や叫び声の漏れてくるドアの前に差し掛かった。


「あの、この部屋は…?」


「生体実験室だ! 18禁だから、おまえ達は立ち入り禁止な!」


「あ、はい。」


 入りたくありません。


 暫く歩くとジアッラが立ち止まった。


「この部屋も立ち入り禁止だ。」


「何の部屋~?」


「フフン、書庫だ。この中にはわたし達が培った知識が詰まっている。街の図書館にある本とは訳が違うぞ? 何の脚色も無い歴史もな。ヤヨイ、おまえが知りたがっている“世界の仕組み”もだ。」


 !


「だから立ち入り禁止だ。カンニングなんてつまらないだろう?」


「そうですね…でも、ジアッラさんも神様に教えて貰ったんじゃないんですか?」


 弥生は勇気を振り絞ってちょっと意地悪を言ってみた。だって、自分は教えて貰って、わたしには自力で調べろってズルい。


「まあ、結果的にはそうだな。だが奴らときたら、最初は上手い事言って誤魔化そうとしたんだぞ?」


「そうなんですか?」


「ああ。でも断片的にしか寄越さない情報を繋ぎ合わせて、核心を突っ込んでやったら白状しやがったのだ。そしてそれをやったのが我が愛しの旦那様なのだ♥ すごいだろ? フフーン♪」


 この人、旦那さんにデレデレのデレだ。


「“不老不死”の秘法もこの中にあるんですか?」


「それは無い。それはわたし達の頭の中にだけあるのだ。」


「それってもしかして神様から貰ったギフトって事ですか?」


「馬鹿を言うな。“不老不死”はわたし達がそれぞれの人生、それぞれの方法で、気が遠くなる程の長い年月をかけて発見した、研究者として目指し、挑戦し続けた到達点の一つだ。

 その苦労の成果を容易く持ち出せる様な媒体に記録する訳にはいかない。それだけだ。」


「あ、すいませんでした…。何も知らずに失礼な事を…。」


「フヒッ、そう思われても仕方が無いからな。気にするな。」


 『気が遠くなる程の長い年月をかけた研究の末に発見』? どういう事だろう? 不老不死の方法を見つける以前からそういう状態にあった? いや、さっぱり分からない。でも不老不死はギフトでは無いという事だけは確かな様だ。


 建物の案内を一通り終えて弥生と麗華はジアッラの私室に通された。


「よし! では早速だが魔法を教えてやろう! と言いたいところだが…。」


 そうですね、ジアッラさん。何かギャラリーがいますよ?


 一人は先程会ったジアッラの夫である“消し去る者”ドラコである。もう一人は“世界を覗く瞳”ユディ。


「ドーラさん、先日は大変お世話になりました。」


「うふふ、いいのよ。」


 そしてもう一人、一体? …ミイラがいる…。


「あのう、もしかして“不死王”ピクロラングリシャーキンディロー・ブリグデリエル三世様でしょうか?」


「…。」


 ? あれ?


「うおー! まさかフルネームで呼んで貰えるとは!」


「フフン、当たり前だ。このわたしが見込んだ人材だぞ? 頭の出来が違うのだ。ピクロ…、ピクロ…、ピクロ…。

 …。

 “不死王”よ!」


 あ、覚えて無いんだ。


「で? 何で全員ここにいるのだ?」


 ジアッラが何か不満気に三人に尋ねた。


「いや、何かな、お主がどんな講義をするのか、あのクレイジーな弟子を見ていると不安でな。」


 ピクロが答えた。


「フン! あいつは元々頭のネジがブッ飛んでいたのだ。わたしのせいでは無い!

 まあ、いい。構わず始めるぞ。おまえ達にはわたしが開発したオリジナル魔法を特別に教えてやろう!」


「ぶっほ!」


 何故か三人が吹いた。


「まずは<強制排便>! これは凄い効果的だぞ!」


 !?


「それを覚えたら<超悪臭>! ムカつく奴に最高のイヤガラセだ!」


「駄目だ、駄目だ!」


 ジアッラがドラコの脇に荷物抱えされて退場していった。


「なんでー!? やーだー! わたしが教えるんだぁぁぁぁ。。。。」


 …。


「あー…コホン。先生が急用でいなくなったので吾輩たちが変わって教えよう。」


「…あ、はい。よろしくお願いします。」


「ユディ、お主はこの二人を見ていただろう。どんな魔法を教えたらいいかな?」


「そうねぇ、ヤヨイちゃんはゴーレムの強化と近接用で使える魔法、電撃系の<感電>がいいかしらね。それと適性がある様なら念動系と組み合わせると相性がいい探知系。

 レイカちゃんはとにかく光学系の精度向上だけど、最初に覚えるべき<光熱線>を飛ばしていきなり<光熱球>から教わっちゃったから、あんなノーコンなのね。レハラントでの先生がとにかく威力重視であまり良くなかったわ。」


「そ~なの~?」


「ええ、<光熱線>の方が魔法の照射方向をイメージし易いのよ。その感覚が身に付けば<光熱球>のノーコンも直ると思うわよ?」


「やった~!」


「<感電>ってどんな魔法なんですか?」


「そのまんまよ♪ 触れたもの…と言うか、体表近くに張る目に見えない帯電膜に触れたものを感電させるの。ビリっとくる程度から感電死するまで、練度次第だけど。」


「電撃系っていうから雷みたいなのが出るって思っちゃいました。」


「ふむ、<放電>は<火球弾>と同じであまり実戦向きでは無いのだよ。」


「そ~なの~? なんか凄い派手そうだけど~。」


「わっはっは! 確かに派手は派手だぞ? こう、ビリビリバリバリっとな。でも雷など何処に落ちると思う?」


「金属?」


「それは電導率が高いからというイメージで出来た誤った認識だよ。金属は関係無い。放電の着雷点を決めるのは距離が近い事、先端が鋭角である事、そして周囲より少しでも突出している事の三点。

 さて戦闘で放電を放ったら何処へ飛んで行くかな? 自分の一番近くにいるのは誰かね?」


「あ! 味方…。」


「そう、だから<放電>を使うときは目標に放電を誘導するマーカー魔法をあらかじめ撃ち込まなければならない。

 他の攻性魔法でもマーカー撃ち込みは命中率を上げるのに有効だが、マーカー無しでも照射方向をしっかり定めれば狙い通りに飛ぶ。しかし、<放電>は照射方向を定めてもマーカーが無ければ先程言った条件の方向へ勝手に進路を変えてしまう。

 つまり、どうしても手順が一つ増えざるを得ない、即応性に欠けるのだ。」


「なるほど・・・。その点、<感電>は単純明快ですね…。」


「そういう事♪ でもいきなりじゃなくて、まずは基本的な術式文字から覚えなくちゃね。それを覚えれば、術式が無償公開されている基礎魔法も独学で覚えられるわ。」


「わかりました! よろしくお願いします!」


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