第15話 アデライド学園、龍虎対峙
魔法科3年A組で起きた出来事はあっという間に学内に広まり、それにより弥生と麗華の後ろに控えているのが“四大災厄”のジアッラという事も知れ渡る事になった。
また、二人の存在は「あの“猟奇姫”の関係者の臨時指導員がいる」とPTAの間にも広まっていた。彼らが自分の子供たちに与えた指示は「絶対に関わるな、最低限でも敵対するな」と「良好な関係を築く様に努めよ」に二分される。
前者の反応はメカラーラの領主と同じ、触らぬ神に祟りなし、虎の尾を踏むな、の考え方である。一般的な反応である。
後者の反応はさらに二種類に分けられる。
レハラントの王女と同じ、コネを作って<不老不死>能力や絶大な影響力の恩恵に与ろうと謀る者とシャーロットと同じ、憧憬と畏敬の思いから舞い上った者である。
そのシャーロットが弥生と麗華を学園長室に呼び出していた。
「学内の膿出しは一段落着いています。二人をわたしへの攻撃材料に使おうなどと考えていた者はもういませんし、レルシェンは二人を免責しています。
更にバックに“四大災厄”がいるとなれば下手にちょっかいを出す命知らずもいないでしょう。この際ですからいっその事、二人の出自を明らかにされては?」
「レルシェンの件はともかくとして、魔王討伐を放り出してまでレハラントに叛旗を翻した事を世間がどう受け止めるか…だと思います。いずれは隠し通すことが出来ない日が来るとは思いますが、今はまだ伏せておいた方が良策だと考えます。」
提案を受けた弥生が答えた。
確かにレハラントは問題が多く、他国とは鎖国も同然で敵対状態。弥生は魔王討伐団からの脱走後に、国外にはその狂信的なミレシア族絶対至高主義からくる他国との非協調性、事実湾曲・捏造を嫌悪する者が多いという事は実感できた。
しかし、である。メカラーラ領主が言っていた様に魔王討伐は人類共通の目標である。それを途中で放棄した事に嫌悪感や不信感を抱く者だっているはずである。
「堅実な判断だが、そう心配する事もあるまい。
アデライド、レルシェン、シフレアの三国がおまえ達を亡命者として正式に受け入れる用意があるという。そうなれば別にレハラントの召喚転移者と明かしたところでおかしな目で見られる事も少なくなるだろう。
それでもまだガタガタ抜かす奴は踏み潰せ。手本を見せたし、あれでおまえも踏ん切りが着いたんじゃないか?」
学園長室に茶菓子をつまみ食いしに来ていたジアッラが言った。
「あたしはジアッラさん達がケツ持ちだからってのが気に入らないな~。文句あるなら言いやがれってね~。片っ端から勝負してやんよ~って感じ~。」
「キャハハ! いいぞ、レイカ。その意気だ。
ヤヨイ、おまえもこれくらい思い切り良くいっちゃえ。」
「あはは…。じゃあ、まあ、自分から積極的には明かさないけど、バレたらバレたでその時は『それがどうした、文句あるか』って事でいきます。」
「ま、それでいいか…。だ、そうだ、シャーロット。」
「了解しました。」
名前で呼んで貰えた! シャーロットはもう死んでもいいと思った。
「それはさて置き、亡命受け入れの方はどうする? やっておいた方がレハラントの籍のままよりも身バレした時の対処が楽だぞ。現状、一番無難なのはアデライドだが。」
「そうですね…今所有している魔法士免許の交付元がアデライドですからそうします。」
アデライド王国学園高等部女子学生寮の小洒落た一室でティータイムを嗜むのは見るからに高貴そうなミレシア族の淑女。
彼女の名はエレノア・ジョアンナ・ランズベルク。
彼女の父親は彼女に『淑女たれ』とこの学校に押し込んだ。しかし彼女が求める理想の女性像は“守られるだけの淑女”っでは無く、“守れる女傑”であった。
「リーダー、“GTR”の連中が何かコソコソとやっている様です。」
彼女の元に一人の女生徒がやってきて報告した。パラビュサス族なので声を聞くまで我々には男女の判別が不能だが。
「更なる詳細の調査を。それとすぐに“エンジェル・ガーディアンズ”幹部に召集を掛けてください。」
「はい。」
エレノアは“エンジェル・ガーディアンズ”と呼ばれる学科学年を越えた女生徒グループのリーダーである。
「ショウ、馬鹿女どもがこちらの動きを察知したみたいだぜ。」
「フン、あいつらにどうこう言われる筋合いは無え。」
仲間の報告を受けたのはどう割り引いて見ても不良学生以外の何者にも見えない、柄の悪そうなベラドルーナ族の男子学生だ。
彼の名はショウ・マッソーニー。
故郷では格闘術を学び敵無しの強さを誇った。そしてそれは井の中の蛙では無く、本当に強い事をこの学園で証明してみせた。座学の成績は優秀とは言い難いが、それでもこの名門アデライド王国学園で人並みの成績を取った。他の学校ならトップを狙えるくらいだ。だが、ここは家柄がモノを言う閉鎖社会だったのだ。
いくら頑張っても正当な評価をされない。それが彼の心を荒ませ、不良化させた。
「俺ら“GTR”は俺らのやり方でいくぜ。」
ショウは“GTR親衛隊”と呼ばれる学科学年を越えた男子生徒グループのリーダーである。
アデライド王国学園高等部学舎前で今、二つの勢力が対峙した。エレノア率いる“エンジェル・ガーディアンズ”vsショウ率いる“GTR親衛隊”である。
両陣営は互いに視線で火花を散らし、一帯には緊張が走る。
「フフッ、何でもあなた達だけでサプライズパーティーとプレゼントを用意しているそうね。抜け駆けはよろしくなくってよ? 落ちこぼれさん。」
「こんな所で大声出して言うんじゃ無えよ、サプライズがパーになるじゃねえか、馬鹿お嬢様が。それに抜け駆け禁止なんてルール、おまえらの内輪だけのモンだろうが。俺らはそんな協定を結んだ覚えは無えぜ?」
エレノアとショウが牽制し合う。
説明しよう!
エレノアがリーダーの“エンジェル・ガーディアンズ”とは麗華に理想の女性像を見出して『お姉さま』と慕い、そして時として弥生や自分との百合を妄想して鼻血を流したり、薄い本の制作も辞さない残念な女生徒グループなのである!
一方、ショウがヘッドの“GTR親衛隊”とは麗華に漢の中の漢を見出して『姐さん』と慕い、見習うべき鍛錬の目標としたり、そして時としてその美貌(麗華は不良ヅラではあるが、十分美人側に針が振れる容姿である)とエロ衣装に鼻の下を伸ばす男子生徒グループである! “GTR”が何の略かは触れない!
「だいたい姐さんの任期切れまで一カ月を切ったんだ。おまえらは姐さんを引き留めようって気は無えのかよ?」
「全く、これだから脳筋は…。私どもの知る情報ではレイカお姉さまはヤヨイ先生と共に目的がある旅の途中、お二人の師匠格であられる、かの大魔法士ジアッラ様の御紹介で当校に臨時で足を止めておられるだけ。
私どもに出来るのは気持ち良く旅の続きをしていただき、目的の達成と旅の御無事を祈る事。そんな事も理解出来ないのですか。やれやれですわ。」
「だ、だから、ここの居心地が良けりゃ目的を達成したらまた戻って今度は正規教員になってくれるかも知れねえだろーが。」
「仮にそういう事があるとしても、居心地が良いと感じさせる演出がサプライズパーティーとプレゼントとは笑止。」
「んだとぉ?」
「お~、な~に~? 送別会をやってくれんの~? ありがとねぇ、それで気持ち良く旅を再開出来るわ~♪」
本人登場である。
「お姉さま!」 「姐さん!」
校舎前でこれだけの人数が揉めているとなれば当然目に付く。話を聞きつけた麗華と弥生も現場に駆けつけたが、とりあえず実力行使には至っていなかったので両者の言い分を聞いていた。そこで割って入って聞き取りをするよりも、直接の言い合いを隠れて聞いた方が綺麗事抜きの本音を知る事が出来ると判断したからだ。
そして麗華はショウたちの計画している自分を引き留める事を目的としたパーティーを“送別会”にすり替えた。これによって、ショウたちの『パーティーをしたい』という行動とエレノアの『気持ち良く旅の続きをして欲しい』という気持ちの両方を立てた訳である。
「おまえ達、何をしている!」
フロスト教諭が物凄い剣幕でやって来たが、麗華はフロストを宥めて止めた。
「まあまあ、フロスト先生、あの子たち何か自主イベントをやりたいみたいなんですけど~、ちょっと議論が白熱しちゃっただけですよ♪ もう落ち着いたから大丈夫ですよ~。」
「ん、フム、そうか。議論をするのはいい事だが、あまり熱くならない様に気を付けろよ。」
「つけろよ~♪」
弥生は図書館で考え込む。
確かにこのアデライド王国学園図書館は信じ難い蔵書量だ。ここでの臨時雇用期間が残り一カ月を切るまでの間、その中から自分の知りたい知識が書かれているであろう書物を読み漁ったが、なかなか有益な知識は得られなかった。
良く考えてみれば、この世界の作為的な法則に興味と疑問を抱いたのが、自分が初めてな訳が無い。書物を漁ると、過去にも同じ様な事を考えた者も居た。しかし誰もが最終的に「そういうものだ、それが神の作った“自然の法則”なのだ」で終わっている。
そう、“神”の存在、そこが肝なのである。
この世界では人類の発祥が“始祖世代”として明確であり、“神”に該当する上位の存在が居る事が数多の異世界転生者たちによって明らかにされている。この世界線のルールを設定した者がいるのだ。
特に異世界からの勇者召喚と魔王出現の関係性。周期に寸分の誤差が無いなど、あまりに作為的過ぎる。
「わたしが知りたいのはその理由、意味…つまり神の真意なんだけど、そこまで追求出来た人はいないのね。」
何故? わたしなんかより頭の良い人もいただろうに…。
弥生は元の世界に似た事例は無いか、と考える。
ダーウィンの進化論…ダーウィン自身が進化過程の一パターンに過ぎないという考えだったのに、弟子たちが学会の派閥争いの為に“唯一無二の進化パターン”に仕立て上げ、生物進化の研究を長年停滞させた…でも、それとはちょっと違うかな。
恐竜の爬虫類分類やライオン百獣王…人間の勝手な先入観による誤った認識…これも違う…いや、近付いている気がする。
地動説…宗教の考え方と違うという理由で否定。宗教? 神? …かなり近付いた気がする!
現実が神の教えとは異なる? いいえ、それとは違う気がするわね。魔王出現は神託によって世界に通達される。そして勇者召喚は神器によって行われる。
う~ん…同じ疑問を持った先人たちが「そういうものだ」で片付けてしまった理由は、むしろそれが神の教えだから…と判断したからかも知れない。
先人たちは信仰心が強過ぎた?
目線を変えてみよう。
神の立ち位置に対する認識が甘かった? その在り方に身勝手な思い込みをしていた?
見えて来た…後は確信を持てる後押しが欲しい。となれば、それが出来るのは“この世界線の仕組み”を既に知っているジアッラさんたち“四大災厄”しかいないわよね。
ジアッラさんは答えこそ教えてくれないけど答え合わせはしてくれる。間違ってもペナルティがある訳じゃないから、次に会った時に現段階での推測をぶつけてみようかしら?
ショウは実家から弥生と麗華には関与しない様に注意を受けていた。
ウチの親は全く分かって無えな。確かに姐さんのバックボーンは強えが、姐さんは全くそれに頼る気はナッシングなんだぜ? 「自分でやらなきゃ気が済まない」ってよ、身分階級なんざ全く歯牙に掛けねえ…痺れるぜ!
その姐さんとももうすぐお別れなんだ。どうやら引き留めるのは無理な様だが、何か心に残る思い出って奴を残してあげなきゃ寂し過ぎるだろうが。
くそっ、俺に長旅に役立つ技能があれば学校辞めて付いていくってのによ! こんな事なら田舎に居た頃に獲物の解体くらい勉強しておけば良かった。
いや、待てよ…良く考えろ。“猟奇姫”を始めとする“四大災厄”は世界最強と言われながら、世話役だけでは無くボディガード的な配下も持っている。一般的に言われているのは、偶に絡んでくる馬鹿が雑魚だった場合、相手にするのは面倒だから露払いみたいな事をさせるという。だったら、俺も姐さんの露払い役でワンチャン無えか?
一方、エレノアは両親から弥生と麗華の二人と強い関係を持つ様に言い聞かされていた。
ふん、お父様とお母様のあの時の顏と態度…“猟奇姫”の持つ力の恩恵に与りたいという企てが見え見えです。
レイカお姉さまは世界最強の一角を担う、私にとっては雲上人である“猟奇姫”から認められた御方という事。そんな御方たちを下衆な目論見に利用するなんてとんでもない!
そうだわ! 私には自立を目指して密かに学んだ採集と鑑定の知識と技術がある。お二方はそういう方面には疎いというお話ですから、もしかしたらサポート役で旅に同行させていただけるかも!




