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第14話 さよならデデーゲル先生

 こんにちは! 上原弥生です。

 わたし達がアデライド王国学園に採用されてから、契約期間の半分を過ぎました。仕事にも大分慣れてきて、今では実習時の簡単な指導を任される事もあります。生徒さん達も馴染んできてくれました。特に麗華ちゃんは一部の特殊な集団からとでも慕われている様です。


 これまで何があったかというと、結局クーデル経理部長は横領の動かぬ証拠を摘発押収されて懲戒解雇となりました。

 憲兵隊には被害届を出さなかったので公訴には至らず、クーデル先生は職を追われ、一人寂しく故郷に向かったのですが、その途中で狙い撃ちしたかの様に突然発生した竜巻に巻き込まれて亡くなったそうです。人生何があるか分かりませんね!

 グランデン人事部長はクーデル経理部長が懲戒解雇された後、郊外で遺体になって発見されました。魔獣に襲われ、完全に食べられて白骨化しており、遺留品で身元が判明したんですが、怖いですね!

 その後も、裏で何か悪い事をしていた人達は学園長先生一派から注意勧告や摘発を受けて、学園長先生が言うところの膿出しはようやく一段落したところです。


「ジアッラさん、やけに手助けしますね、やっぱり母校の事は心配ですか?」


「母校だからと言うより、ここは魔法士にとって、国際魔法士連盟本部も併設されている特別な存在だからな。連盟本部に登録した魔法術式の権利でオマンマ食っている身としては、悪質な害虫のせいで評判が落ちるくらいなら手を貸すさ。

 それに“悠久亭”で使えそうなスタッフの青田買いもしたい。イスレロたちの様に<不老不死>を与えるかどうかは別として医療の才を持っている奴は特に欲しい。

 ま、それもおまえ達の面倒を見るついでに過ぎないんだが、いい機会だろう。」


 “悠久亭”の特訓中に感じたけど、ジアッラさん達って食事と医療のスタッフに拘って健康管理に気を付けているわよね。<不老不死>なのに必要なのかしら?


 弥生はジアッラたちの<不老不死>が正確には<不老無限寿命>であり、完全な“不死”では無い事をまだ知らない。

 アンデッド化しているピクロは飢餓と窒息知らずだが、身体が損傷すれば死ぬ。ドラコは<素粒子操作>ギフトで身体損傷にはある程度まで再生して対処可能だが、飢餓、窒息、重度の身体損傷では死ぬ。ジアッラとユディは飢餓、窒息、身体損傷のいずれでも死ぬ。


「それよりおまえだ。」


「わ、わたし、どうかしましたか?」


「ヌルい。先輩や同僚相手に遠慮するのは仕方が無いが、おまえの実力なら、ガキどもくらいはもっとレイカみたいに制圧できるだろうが。」


「せ、『制圧』って…戦争じゃないんですから。」


 弥生は苦笑いする。


「ああん? わたしが学生の時は、実力も無いクセにふんぞり返っているいけ好かない塵カスや邪魔臭い虫ケラどもはジャンジャンぶっ潰してやったもんだ。

 そういう奴らの無様に命乞いする姿や絶望した顔ってエクスタシーだぞ。フヒヒヒ!」


「よく分かりませんよ。」


「一回やってみろって! 特にイヤガラセなんぞしてくる様な相手には万倍返しが基本だ。」


「ところでどこまで一緒に来るんですか? もう次の授業の教室なんですけど。」


「次の授業、客員講師が来るだろ?」


「はい。ユッカ・スフォルツァという方ですが、お知り合いですか?」


「わたしだ。」


 ?


「それ、わたしの最初の人生の時の名前。」





 高等部魔法科3年A組、特に高貴な家柄や裕福な家庭の子が集まっているクラスだ。

 これはエムジケが残した負の遺産の学級である。成績不正操作対象になり得る生徒は一つ所に纏めた方がやり易く、且つ目立ち難い。優秀な中に混ざった劣等生に手心を加えれば目立つ。だが全部が劣等生なら纏めて上げ底にしてしまえばいい、という訳だ。


「本日、客員講師に招かれたユッカ・スフォルツァだ。」


 嘘だ。招かれた訳では無い。“学園において家柄は関係無い”、その創設時の志の復権に一肌脱いでやろうとジアッラから学園長に提案した事である。


「さて、諸君の中に記憶保持転生者はいるかね?」


 一人が手を挙げた。国境を越えて、様々な分野で優秀な人材が集まるアデライド王国学園には大抵どのクラスにも一人は前世の記憶を持つ異世界転生者がいる。


「ギフトは何だ? そして何故そのギフトを選択した?」


「俺は<鉱物鑑定>。前世の記憶を持ったままなら魔法は出来ると思って、飯の種に繋がりそうな能力を選んだんだよ。まあ、生まれに恵まれたから必要無かったけどね。」


 クラスメイトたちから笑いが起きた。


「いい着眼点だったな。ところでわたしはこの時間だけの臨時とはいえ講師だ。口の利き方には気を付けろ。」


「じゃあ先生の出身はどこだって言うんですか? 俺の実家はポーデリック商会なんですがね。」


「わたしはこの国のラムベル地区…諸君等が“ドブ”と称する極貧窟の生まれで孤児院育ちだが?」


「プッ! マジか。」 「はあ、冗談だろ。」 「勘弁してくれよ。」


 生徒たちが嘲笑と不満の声を上げる。


 ジアッラさんがこの国のスラム出身で孤児だった事は多数の書物に記録されている。“四大災厄”は魔法や歴史の授業で避けては通れない。授業中に居眠りしていたって日常生活でも自然に知り得る存在であり、ましてやこの学校の卒業生。

 でもまさか目の前に本人が居るとは、わたし以外のここに居る全員、思ってもいないだろうな。


「この学校には外の身分・家柄を学内に持ち込むべからず、という教えが創立時の信条としてあるだろう。諸君も教わっているはずだが?」


「んなモン建前だっつーの。」


「申し訳無いが、その子の言う通りですな。いくら学園長の指示があってもスラム出身と明言する者を教壇に立てる訳には参りません。あなたは御自分の出自を学園長に打ち明けておいでかな?」


 本来、この時間の授業を受け持つはずで立ち会っていたデデーゲルという教諭が憤然とした面持ちで口を出してきた。


「ふっ…もしや無着衣文化者では無く、服を購入するお金が無いとか?」


 デデーゲルがこの発言をした時、ジアッラの静かで凍てつく様な目が冷酷に「こいつ処刑決定」と語った。


「フフン、わたしがかつてここに入学した時もこんな感じだったよ。在学中に払拭したつもりだったが、卒業して目を離すとこの有様だ。

 ヤヨイ、こういう連中にはどう対処するか手本を見せてやろう。」


 ジアッラは弥生にそう言うと、生徒たちの方へ向き直った。


「選民思想が悪いとは言わん。無条件で見境の無い権利と自由のばら撒きは愚民による社会劣化と混沌化への入り口だからな。一理ある考え方だ。だが、選ばれる者が世襲しただけの無能でも結果は同じになる。

 つまりだ、おまえらがわたしの上に立ちたいのなら家柄や血筋や親の財力では無く、己の力で勝ってみろ。」


 ジアッラがそう言うや否や、反抗的態度をとった生徒が突然立ち上がり、腹を押さえて滝の様な汗を流し始めた。


 ブババババッ! 「うわ-っ!」 「きゃあー!」


 凄まじい放屁音と共に、周囲の生徒が悲鳴を上げて跳び退いた。その生徒は腹の中の汚物が欠片も残らず出たのではないかという失禁と大脱糞をしていた。更にその生徒は情けない顔で号泣し始める。


「お、おい! 何が?」


 デデーゲルは何が起こっているのか理解出来ずに慌てふためいている。


「フヒヒヒ! さまあみさらせ! わたしの魔法だぞ? おまえら魔法科の特待生なら、わたしを止めて見せろ。」


 うわあ…ジアッラさんの手加減無し<強制排便>だ…。容赦無いなぁ。


「ひっ! ◎※¶×☆…。」 「このっ! ¢@▲§#…。」


 生徒たちは各々自分の身を守る為に防御魔法を展開したり、ジアッラに向けて攻性魔法を発動しようとする。


「おい、君! あの子に何をしたか分からんが、いい加減にしたまえ! おまえ達も落ち着け!」


「『分からん』だと? <強制排便>は医療魔法として公認されているだろうが。それでも魔法科教師か、この便所虫め。」


「きょ、<強制排便>は便秘治療や手術前の清掃用だろう! あんなとんでもない効果があるか!」


 その時、生徒たちはパニックに陥っていた。


「あ? 何で?」 「魔法が出ねえ!」 「どうなってんだ、畜生!」


「フヒッ! わたしの半径一五〇セルベ(三〇〇メートル)以内の魔素“所有権”はわたしにある。大家の権限でおまえらの術式発動を禁止した。魔法が使えなければ肉弾戦しか無いなぁ、ん? 自信のある奴は纏めて掛かって来い。」


「何を訳の分からない事を!」


 デデーゲルがジアッラに掴み掛かろうとしたが、その瞬間、彼の動きが止まった。顔は呆けて目は虚ろ、鼻水と涎を垂らして、下半身は失禁と脱糞だ。

 弥生は魔王討伐団時代に同じ状態になった者を見ている。討伐団に医師として同行していた(異世界には弥生が元いた世界線のゲームや漫画みたいな僧侶の治癒魔法など無い。医療は医師や薬師の仕事である)ペイス氏だ。彼はジアッラが許可していない余計な発言をしようとしてこうなった。

 ジアッラの精密<対象物転送>による“脳ミソ飛ばし”だ。

 デデーゲルの足元には彼の脳の前頭葉が落ちており、ジアッラはそれをグシャっと踏み潰した。


「ヤヨイ、ひとつお勉強だ。わたし達“四大災厄”メンバーは全員“特別な”転生者としてギフトを二つ授かった。

 そのうち一つは全員共通の特権ギフト、この<魔素所有者権限>だ。ただし四人の権限に優劣は無いから、わたし達がお互いに喧嘩した場合は無意味だがな。フヒッ。

 もう一つのギフトは有名だから言うまでも無いだろうが、わたしは<時空操作>、旦那様が<素粒子操作>、ユディが<動物操作>、ピクロが<自然現象操作>だ。」


 生徒たちが騒然となる。


「よ、“四大災厄”?」 「デデーゲル先生のそれって“脳喪失症”?」


「さあ、ガキども。このユッカ・スフォルツァことジアッラ・テレーザ・シャマル様の特別授業だぞ!」


「うわーっ!」 「きゃあーっ!」


 生徒たちは悲鳴を上げるが、不思議と弥生は“脳喪失症”になったデデーゲルを冷静に見ていられた。魔王討伐団時代にこんな光景は見慣れてしまった? 負の感情による開き直りで切り替わった思考と共に感性も変わった? おそらく主な理由は後者だ。

 もし、彼が目の前で凄惨な死を晒しても冷静に見ていられただろう。

 弥生は元の世界では強い理性と計算高さで抑えられていただけで、元々ジアッラ寄りの感性はあったのだ。コンプライアンスの優先順位が下がれば赤の他人の死など気にも留まらない。


「なるほど…ジアッラさん、わたしは魔法を使えるんですか?」


「おまえは禁じていない。」


「わかりました、わたしもやってみます。こうすればいいんですね。」


 弥生がそう言うと、最初にジアッラに反抗的な態度をとったせいでお漏らしをして生き恥を晒している生徒が<念動>で吹き飛ばされ壁に激突した。それ程の衝撃では無い様に見えたが、その生徒は口と鼻から流血して痙攣している。


「ヤヨイ、何をしたんだ? そんなに激しくぶつかっていないのに、やけにダメージがありそうだな。」


「はい。彼ではなくて、彼の“内臓”を吹っ飛ばしてみたんですけど、“容器”ごと飛んでしまいました。外に飛び出すかと思ったんですけど…上手くいきませんね。でも中身は潰れていると思いますよ。」


「ほうほう、<念動>で“脳飛ばし”みたいな事をするとこうなるのか…。なかなか面白いな! ヤヨイ、やはり旅が終わったらわたし達のところへ来い。」


「うふふ、考えておきます。」


「た、助け…!」 「ひいぃ!」 「だ、誰かっ!」


 生徒たちは出口へ殺到するがジアッラが<魔法鍵>を掛けているので出られない。


「おまえ達、魔法が使えない状況下ではまるで役立たずか? 近接戦闘で力尽くで捻じ伏せるも良し、戦闘以外でも何かこう、わたしの役に立てると取引を持ち掛けるも良し、ただし取引は己のスキルでのみだ。親の威光は受け付けないぞ。」


「きゃあー!」 「ドアが開かない!」 「助けてくれぇ!」


「う~ん…よし、じゃあ肉弾戦による挑戦者には、こちらも肉弾戦のみで対応してやる。どうだ?」


「うおおーっ!」


 おそらく何かスポーツをしている生徒だろう。体格のいい一人がジアッラに向かってきた。


「キャハハ! いいぞ!」


 ジアッラはそう言うとその生徒のタックルを無駄な動き一つ無い流麗で、しかも人間技とは思えない素早さを以って紙一重で躱すと、擦れ違い様に生徒の腕に一角打ちをブチ込んだ。


「うぎゃああああ! 痛ってえぇぇぇっ!」


 あー…ジアッラさんは魔法がとんでもなく凄いからそっちに注目されがちだけど、格闘術とナイフ術も半端じゃないんだよね。

 だから似た者同士で麗華ちゃんと妙にウマが合うのかしら?


「ほうれ、他には? フヒッ。」


「きゃーっ!」 「うわーっ!」


 他の生徒は相変わらず出口付近で大パニックだ。


「ちっ! 仕方の無いガキどもだ。」


 ジアッラがそう言うと、周囲の空気にはっきりとした緊張感が走った。ビリビリとした振動、と言った方がいいかも知れない。少なくとも弥生にはそう感じ取れた。

 そしてその途端、生徒たちが一斉に倒れた。


「あの…まさか全員の脳ミソを飛ばしたんですか?」


「まさか。殺気を飛ばして威圧しただけだ。

 こいつらがどんな才能を持ち合わせているのか分からんからな、もしかしたら使える奴がいるかも知れない。さすがに一匹や二匹のバカの為に、まだ若い素材を全頭処分は勿体無いだろう?

 要はもう逆らおうなどという気力を失わせればいいのだ。」


 確かにこれはもうそんな気は起きないだろうな。


「あ、見ろ。キャハハ! 酷いモンだな。」


 デデーゲルが勃起した陰部を突き立ててカクカクと腰を振っている。


「思考能力は喪失しても本能は残ってますもんね。」


「失神している女子生徒に種付けを始めないうちに処分しておくか。」


 ジアッラがそう言うと、かつてデデーゲルだった生物は床に出来た闇の霧の中に沈んでいった。


「<亜空間収納>に入れたんですか?」


「収納と言うよりも放り込んだと言うべきかな。どのベクトルに行ったか分からないから、わたしでももう引っ張り出せない亜空間漂流状態だ。そのうち<亜空間潜伏>中に奇跡的に死体になったあいつと遭遇するかもな、ウヒヒ。」


 <亜空間潜伏>…これが出来るのがジアッラさんの空間能力だ。一体どんな空間なのか、と以前に訊いたら、「宇宙空間みたいだぞ、宇宙には行った事無いけど」といういい加減な返事を貰った。


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