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第11話 消えゆく男のバラード

「いってらっしゃい、あなた。」 「父上、いってらっしゃいませ。」 「いってらっしゃい、パパ。」 


「うむ、いってくる。」


 妻とまだ八歳と六歳の息子、娘に見送られてアデライド王国学園魔法科教諭ハリス・プロクターは勤務先へと向かう。


 昨日の会議は動議された時点でエムジケの失脚は決定的、あそこまで資料を揃えられたら擁護のしようも無い。庇いだてでもしたら完全に道連れコースだったな。


 ハリスは歩く速度を緩めて考える。


 問題は次期教務部長の座…今まで奴を持ち上げてきた努力がパーだ。いや、それどころか今のままでは圧倒的に不利だ。

 あの生意気女の学園長は着任時はまだ若かった。当初は長期政権になるか大ヘマをやらかして短期政権で終わるかのどちらかになるだろうと読んで、賭けを避けて堅実なルートとしてエムジケに忖度してきたのが仇になった。今さら手を変えたところで、今まで奴を神輿に担いできた事実は変えようが無い。

 どうする?

 教務部長の人選と任命は執行部が握っている。ほぼ学園長派だ。今から連中に気に入られるには…いや、待てよ? 連中に気に入られなくても一発逆転できる天の一声があればいいではないか!


「そうだ! あわよくばあの二人を取り込めないか? 発想の転換だ!」


 所詮は小娘、犯して手籠めにしてしまえばいいではないか。

 暴力女の方は論外だな。あれはそんな事をしようものなら、何の迷いも無く竿を嚙み千切って玉を握り潰すに違いない。

 やるならヤヨイの方だな。身体のボリュームはイマイチだが、見た目は十分可愛い。性格も大人しい様だし、若い愛人にするには丁度いい。

 ヤヨイの背後にいる『大物卒業生』が何者かは分からんが、相当の大物だという事だけは窺い知れる。そのヤヨイに俺を教務部長に推挙する進言を学園長にする様に仕向ければいいではないか!


「ククク…、それじゃあピチピチの若い女体を堪能させてもらおうか。」





「ヤヨイ君、このリストにある宝珠を第二魔法実験室まで運んでくれたまえ。」


「あ、はい。」


 四限目前にハリスは弥生に授業で使用する用具の手配を頼んだ。


「あたしも行く~♪」


「レイカ君にも頼みたい事があるのだ。倉庫から魔素封入実験用の鉱石を運んでくれ。内容はこのメモに書いてある。」


 ハリスはすかさず麗華に別の要件を言い渡す。


 よし、分断成功。


 ハリスはほくそ笑むと、準備室へと向かう弥生の後をつけ、準備室に入ったのを確認すると続けて自分もドアを開けた。


「プロクター先生? 何か言い忘れがありましたか?」


「いやいや、よく考えたら数があるからね。一人で運ぶのは大変だろうと思って手伝いに来たのだ。」


 そう言いつつ、ハリスは後ろ手で準備室の鍵を掛ける。


「大丈夫ですよ。台車がありますから。」


「そうだったな、要らぬ心配だったか。しかし教材用宝珠の扱いは一般の宝珠よりも大切に、ほら、それじゃ駄目だ。こう持たなくては…」


 ハリスは教材用宝珠を台車に移す弥生の背後から覆い被さり両手を掴むと、そもまま体重を乗せて押し倒した。


「何するんですか!? 離してください!」


「何、すぐに気持ち良くしてやる。任せたまえ。」


「止めてください! 止めて!」


 ハリスが自分の身体を掴んでいる以上、<念動>で弾き飛ばせない。自分も持っていかれてしまうからだ。

 ハリスは右手で弥生を押さえつけつつ、左手で乳房を揉み、そのまま弥生の股間に移動させて服をずらすと、秘部をまさぐり始める。


「嫌っ! 止めてぇっ!」


 弥生の目から涙が溢れ出す。そしてハリスが弥生を押さえつけながらパンツを脱がし、自分の股間のいきり立ったイチモツを弥生の大事な部分に当てがった、その時だった。


「何してるんですかぁ?」


 背後からの突然の女性の声にハリスが振り返ると、そこには黒髪の天使がいた。いや、余りにも可憐な幼女。しかも、全裸の出で立ち。

 無着衣文化の幼女…ネイブラス族の生徒? いや、それにしては胸が貧相だ。ミレシア族の初等部か準高等部の生徒か? 一体いつからそこにいた?


「すいません、高等部の兄を探しに来ていたんですけど迷っちゃってぇ♪」


「そ、そうか!」


 やはり初等部か準高等部のようだ。

 しかしいずれにせよ、これ程の美少女は今までの人生で出会った、生徒も含めた女性の中で最上級クラス!

 しかも無着衣文化だと? けしからん! そもそも無着衣文化の連中は普段、異性にそれだけ煽情的な恰好をしておきながら、人一倍貞操観念が強いときている。ふざけるな。ここは一つ、分からせてやらねばなるまいて。

 グフフ…おまけにこれだけ可憐な幼女、一生に一度出会えるか疑わしいレベルじゃないか。ヤヨイともども美味しくいただくとしよう♥


「せ、先生たちは今ね、交尾をするところだったんだよ。勿論合意の上だよ?」


 この世界では互いに合意の関係であれば街中だろうが職場だろうが、人目を憚る事無く、いつでもどこでも自由な性行為が許容される倫理観だ。子供でも身体を重ねる行為がどういう内容なのかを知っている。

 ハリスは幼女に歩み寄る為に弥生を押さえていた手を離した。


 まずい! ここで<念動>を使われたら!


 だが、弥生は気が抜けた様にポカンとした表情をしている。パニック状態で頭が回っていないのか? と判断したハリスは急いで幼女の手を掴んだ。


 よし、これで<念動>で俺を吹っ飛ばそうとしたら、この子も巻き添えになる。


 その瞬間、ハリスと幼女の姿が消えた。

 いや、違う。その一瞬で幼女は弥生の横に立っていた。だが、ハリスの姿が無い。


「危機一髪だったな!」


「ジアッ…ラ…さん…?」


「うむ、どうも昨日からここが面白い事になっていると言って、ユディが眷属との<感覚共有>を使ってリアルタイムで監視していてな! ピンチになったと聞いたから助太刀に来たぞ!」


 ユディは<感覚共有>を使って眷属化した動物と視覚や聴覚を共有出来るのだが、自身が疎かになるし、体力面や魔力面では無く精神面で疲れるので滅多に行わない。共有する動物が多くなる程、頭がおかしくなりそうになると言う。それを学内にいる昆虫たちに使っていたのだ。


「ユディからわたしへの連絡のタイムロス分だけギリギリになったが間に合ったな。それにしてもおまえは頭の回転はいいのに男が相手だとさっぱりだな。」


「ぶええええ! ずびばぜ~ん、ありがとうございまずぅ!」


 弥生が顔をクシャクシャにして泣き出した。


「ぐずっ! それで…プロクター先生は?」


「フヒッ、終身刑に処した! 実行したわたしでさえ、二度と会う事も連れ戻す事も出来ない。キヒヒッ!」


 ああ、この悪魔の様な笑いが堪らなく頼もしいと感じる弥生であった。





「先生は御結婚されていないんですかぁ?」


 手を繋いだ途端に幼女から発せられた質問をハリスは「そら来た」と忌々しく感る。無着衣文化者は見た目こそほとんど全裸で出歩くクセに、そういうところは非常に厳格な貞操観念を持っているのだ。


「ああ、君は無着衣文化だからそういう点には厳しいんだね。先生は結婚しているけど無着衣文化じゃ無いからね。高貴な家や裕福な家では妾を持つ事は特に問題視されていないだろう?」


 構うものか。無理矢理でも犯っちまって事後で合意だった事にすればいい。ヒイヒイ鳴かせて逆らえなくしてやる。


「へ~。先生ってそうなんですかぁ? でもわたしってもう結婚してるんですよ、ほら。」


 と、幼女は首輪を指す。


「ん? それはチョーカーだろう?」


 確かに一部の種族では婚姻の証しとして妻に首輪を付ける文化があったが、それはもう数百年も前に一般的には廃れて、今ではごく一部の者が個人的希望でしか行わない趣味嗜好的な婚儀だ。ハリスが幼女の首輪を単なるファッションとしか思わなかったのも無理はない。


「も~。じゃあこれでどうです?」


 幼女は股間を開いて秘部のピアスを見せつける。それは紛れも無く無着衣文化者の女性における婚姻の証しである(夫側はブレスレットを付ける)。


「え? 本当に? じゃあ君はネイブラス族の成人か!」


「そうですよぉ。そして今日はおまえの様なウジ虫に素敵なプレゼントがあります!」


 今…とんでもなく罵られた様な…。


「じゃじゃーん♪ 今、この瞬間の世界中の光と空気をあなたが独占できます!」


 何を言っているんだ? この女は…。


 そしてハリスは幼女の表情を見て凍り付く。さっきまでの天使の様な微笑みは何処へやら、邪悪以外の何も感じない狂気の笑みを幼女は浮かべている。

 そして幼女はさっきから動かない弥生の元へと歩み寄ると、ピタリと止まって動かなくなった。


「お、おい、どうした?」


 そこでハリスは重大な事を思い出す。

 黒髪で、(成人のくせに)貧乳幼女体型で、無着衣文化者のネイブラス族。絶世の美少女ながら、その微笑みは猟奇的。

 時空の支配者、“猟奇姫”!


 まさか! 本物? じゃあ学園長の言う『大物卒業生』とは“猟奇姫”の事か!


「あ、あなたは“猟奇姫”か?」


 問い掛けるが返事は無い。幼女は止まったままピクリとも動かない。


「お、おい、ヤヨイ君…。」


 弥生はこの幼女の手を掴んだ時から全く動いていない気がする。いや、それよりも弥生の涙だ!


 何 故 流 れ 落 ち な い ?


「まさか…いや、時間操作が出来る“猟奇姫”なら有り得る…ここは時間が停止した世界か?

 フフッ! ハーッハッハッハ! 何とも間抜けな大魔法士様だ! つまり俺のやりたい放題という事では無いか!」


 ハリスは自分をこの時間停止世界に連れ込んだ“猟奇姫”に近付く。


「まずはロリ人妻の大物卒業生、貴様から犯してやる!」


 と、ハリスは“猟奇姫”を押し倒そうとする…が…ピクリとも動かない。


「くそっ! どうなってる?」


 今度は“猟奇姫”の秘部に指を置き、その秘裂を開こうとするが、まるでモールドされただけの様に全く動かせない。そしてまるで弾力の無い石のような肌の感触。

 それでは、と弥生に手を移すが、こちらも全く同じ。


「そうだ、魔法の効果範囲はこの部屋だけかも知れん。外に出れば…。」


 ドアがビクともしない。


 <絶対時間停止>。


 “猟奇姫”のこのユニーク魔法は本来であれば自己魔法であり、他者に掛ける事は出来ない。ただ例外として術者の身体に直接、一部でも触れていると認識された物体を巻き込む事が出来る。ハリスは“猟奇姫”に触れていた事で、この運命が決まった。

 時間が切り取られた、この写真の様な世界では物を動かす事は出来ない。燃焼も、凍結も、切断も、変形も、一切の状態変化は起こせない。

 ちなみに彼女が無着衣文化を踏襲しているのは、この魔法の発動に備えて…とは本人の弁だが、実際は単に生来の露出性癖を堪能したいだけなのは内緒だ。

 さて、“猟奇姫”の言葉通り、目に入る光と呼吸する空気だけが時間の動いているハリスに許されている自由である。


「ちくしょう、ちくしょう! エムジケの奴は女生徒を孕ませて捨てたっていうのに、のうのうと教務部長を務めていたじゃないか! それなのに何で俺はこんな目に会わなきゃいけないんだ?

 いや、待て。時間が止まっているなら俺の時間も永遠だろう? そのうち“猟奇姫”も戻って来るだろう。その時に謝り倒して許しを乞うんだ。それしか無い…。」


 ハリスは勘違いしている。彼の時間は動いているのだ。当然ながら加齢して寿命を迎えるし、その前に絶望的な飢餓が彼を襲うだろう。

 そしてもう一つ。流れる時間の中に戻った“猟奇姫”は、過去に遡ってこの置き去りにした、切り取った時間に戻って来る事は出来ない。時間軸の移動は神でさえ上位世界線、我々が言うところの天上界からでなければ行えない。いかな彼女でも下界(人間界)にいる限り、その能力は無いのだ。

 この日、一人の男がこの世界から忽然と消失したのであった。





「ジアッラさん、学園長先生がジアッラさんのサインが欲しいと言ってました。」


「ぬお! マジか! よしよし、あいつはなかなか見所のある後輩だな! 旦那様の分も合わせて持って来てやろう! フフン!」


「うふふ、何なら“四大災厄”全員分はどうですか? きっと飛び上がって喜びますよ。」


「え~? わたしと旦那様でいいだろう?」


「皆さん、ここの卒業生じゃありませんか。“暴虐女帝”様。」


「懐かしいな、その呼び名! ふむ、何だかまた学生をやりたくなってきたぞ!」


「ジアッラさんが今さら勉強する事なんて無いでしょう?」


「まだまだある。今のわたしにとって最大の目標は時間操作魔法の術式解明だからな。ギフトで与えられた魔法は術式を知らなくても発動できるが、使えるのに分からないというのは研究者として納得できない。

 わたし達“四大災厄”は全員、自分が持つギフト魔法の術式解明に取り組んでいるが、七百年以上掛かっても、わたしが空間系を僅かに解明出来ただけだ。」


「それだけでも凄い事じゃないですか。」


「いや、もっと効率のいい術式を…あ、ちょっとトイレな。」


 そう言うとジアッラは一旦闇の霧の中に消えて、スッキリした顔で戻って来た。


「いやー、昨夜の旦那様との“ピー”は“ピー”がメインでな、“ピー”だとか“ピー”だとかしていたんだが、旦那様は“ピー”が特大だろう? “ピー”してたら“ピー”が開きっ放しになっちゃって、今朝方ようやく形だけは閉まる様になったが、まだ緩くてなー。」


「そんな事を報告してくれなくてもいいです。…あの…ところで亜空間で終わらせてきたんですか?」


「わたしは旦那様の妻だぞ。でも今は処理してくれる旦那様が一緒にいないから亜空間に潜ったのだ。」


 ですよねー。今ではマイナーな古の風習として本で読んだし、“悠久亭”では目撃したけど、本当に外でもそうなんだ、凄い。


 本件について深く追求するとハードコアな18禁になるので詳細は省略する。

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