表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

第10話 誰だって巻き添えは嫌だという話

 それは一限の授業が終わった時に起きた。正門前校庭に昨日、レイカにシメられた男子生徒が四人の男女を伴って現れた。


「昨日、坊ちゃんにちょっかい掛けたレイカとかいうって奴! ちょっと出て来い!」


「な~に~? あれ~。昨日シメてやった小僧じゃ~ん。」


 弥生と麗華は丁度二限目に生物学実験実習の指導監督補佐の要請を受けて、教室移動中に廊下の窓からそれを目撃した。

 すると前方から男女数名の生徒が大慌てで二人の方へと駆け寄って来る。


「レイカお姉さま! 大変です、ジェイクが部下を連れて昨日の仕返しに来ました!」


「あれはジェイクの実家のボールウッド家で雇われている警護ですよ。姐さん、早く逃げた方がいいです。」


 ん~…わたしはそれよりも君たちの麗華ちゃんの呼び方の方が気になるなぁ、と弥生は苦笑いを浮かべる。


「ふ~ん、そんじゃ~ちょっくら行って来るね~。」


 麗華はそう言うと飄々と階段を降りて正門から校庭へと出た。


「搦め手を使わないで正面から堂々とお礼参りとは大したモンだわ~。褒めてつかわそ~♪」


「ああ? おまえごときに七面倒な事は必要無い! 貴族に手を出した奴などブチのめせばいいだけだからな! やれ!」


 その瞬間、麗華は相手が魔法を放つのを警戒して、回避行動からの<光熱線>反撃を想定した。果たして、その予想通り、相手は魔法を…魔法を…。


「@¶※+…。」


 嘘だろ? 喧嘩の号令が出てから、のんびりと術式詠唱かよ? しかもトロさで定評の温度操作の燃焼系だと? あたしが無詠唱で魔法ブッ放すって、その小僧から聞いて無いのか? それとも何かの罠か?

 ま、どっちにしろ、もう遅いけどな!


「メガトンパーンチッ!!」


 この世界の質量単位では無いという事はさて置き、麗華の右ストレートが詠唱していた女の顔面を直撃。女が後方に崩れ落ちると、横にいた男の金的を左足で蹴り上げる。これが完璧にクリーンヒット! 男は四つん這いの姿勢になると、蒼白の顔面から滝の様に脂汗を滴らせて動かなくなった。

 その時、残り二人が術式詠唱を終えて<火球弾>を同時に発動させた。<火球弾>は弾速が遅いため距離が五セルベ(一〇メートル)もあれば、並みの運動神経の持ち主なら容易く躱せる。そのせいで「使えない子」扱いされている魔法だが、麗華は避けようともせずに脇の花壇にあった立入禁止の木製の看板を手にすると前面に翳す。


「は! アホ女! そんな物で防げ…え?」


 防げた。


「そりゃっ! レイカ先生の個人授業だ!」


 麗華は一人に回転延髄蹴りを喰らわすと、その回転のままもう一人の顔面に左裏拳を打ち込み、昏倒させた。


「“燃焼系を同一ポイントに撃ち込む時は、時間差を付けなければ威力が相殺されてショボショボになります”。以上だ、分かったかな? 少年。」


 麗華は自分に向かって来る火球を躱す代わりに観察して、速度と角度から同一時間に同一地点に着弾するポイントを読み取ったのだ。麗華のこのセンスの良さは、ジアッラも“悠久亭”で特訓を始めるまで気付かなかった。


「…は、はい…。」


「じゃ~あ~、君はこれから学園長先生のところに行ってお説教タイムだよ~。

 ヤヨイっち~、<念動>でそこまで引っ張ってお♪」


「ちょっ…!」


 いきなり<念動>とか言わない…で…? と、いきなり念動系ギフト持ちをバラされて一瞬焦った弥生だが、ここで考え直す。


 <念動>は基本術式が解明されていて、少数ではあるが高位魔法士の中にはスキルとして会得している者もいるというわ。つまりそれは少しくらい<念動>を披露したところで必ずしもギフトだとは思われない、という事。

 そして“悠久亭”特訓中に教わったジアッラさんの信条の一つ、“無用なトラブルを回避する最善手は力を出し惜しみせず、相手が誰だろうがやる時は徹底的にやって「あいつを怒らせてはいけない」と思わせる事”…。

 よし、わたしも出し惜しみは止そう!


 弥生は<念動>で麗華をフワフワと浮かせて三階の廊下まで戻した。


「え!? あれって<念動>か?」 「嘘! 初めて見たわ!」 「すげー! マジかよ…。」


 生徒はおろか、教職員たちも目を丸くする。結構気分がいいものだな、と弥生は思わずドヤ顔になってしまった。

 一方、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、その様子を見ているのが“反学園長派”である。


「あの小娘は昨日<光熱線>を無詠唱無発動命令で放ったというぞ。その上、魔法士四人を肉弾戦のみで秒殺だと?」 「しかも、もう一人は<念動>使いときた。」 「これだけの力を持つ新人を隠し持っていた大物卒業生とは何者だ?」


「だが堪え性は無い様だ。」


 エムジケがニヤリと笑った。





 その日、弥生は一日の業務を終えて学園図書館へと足を運んだ。まずはこの世界の歴史、それも出来るだけ始祖世代について詳しく書かれた本、そして明日の予定に組まれている実習に関する予習をしておきたい。

 その時、弥生の目に『“四大災厄”とアデライド王国学園』という本が目に留まった。開いてみると、“四大災厄”の面々の学園在籍時代を当時の職員や在校生の証言を元に綴った記録本であった。彼らは一体どんな学生時代を送っていたのか、何となく興味が湧く。


 ピクロさんは侯爵家の血筋で、初等部、準高等部、高等部と在学中を通じてずっと生徒会長の座に就いていたのか…あ~、何となく分かる。今はアンデッドになっちゃったから見た目は怖いけど、“悠久亭”ではみんなの纏め役っぽい立ち位置に感じたし、真面目で教え方が上手かったもんね。

 ドラコさんは在学中は比較的地味だったけど、ジアッラさんとユディさんの暴走を止められる貴重な存在…?

 …。

 ジアッラさんとユディさんは入学前からつるんでいるコンビで有名だった…二人とも入学直後から暴れに暴れた大問題児…ジアッラさんの在学中の渾名はその傍若無人、冷酷無比、残虐非道ぶりから“暴虐女帝”…ユディさんの在学中の渾名は老若()()問わず性的に食いまくり、奴隷扱いで従えていた事から“色欲女王”…四人が在学中の変死・事故死・行方不明者の数は突出している…。


 そっ閉じ。





 弥生は図書館を出て職員宿舎へとやって来るが、正面玄関の扉に鍵が掛けられている。ここは学生寮では無いので門限は無いはずだ。防犯目的で夜間は通用口から出入りするのだろうか? 弥生はそんな話は聞いていないが、念の為にと裏口へ回る。しかし、そちらも鍵が掛けられていて開かない。

 再び正面玄関へとやって来て声を上げる。


「すいませーん。管理人さん、補助指導員のヤヨイです。玄関の鍵が掛けられているんですけど?」


 返事は無い。

 玄関から少し離れると、明かりの点いている二階の窓からこちらを窺っている人影が見えたがすぐに消えた。


 あ、わかった。これイヤガラセだわ。ふぅん…。


 弥生は麗華の部屋のある面に向かうと、まだ明かりが点いているのを確認して窓に小石をぶつけた。


「誰だ~? またお礼参りか~?」


「レイカちゃん! わたし、わたし! 正面玄関の鍵が掛かってて入れないの!」


「<念動>か<ゴーレム>でブッ壊しちゃえばいいじゃん?」


「後で弁償とか言われたら困るでしょー?」


「…あ、そっか。ちょっと待っててね~、今開けに行く~。」


 麗華ちゃんならきっと<光熱球>あたりを撃ち込んで、ヴェルディの『怒りの日』がBGMで聴こえてきそうなド派手な入場をしていただろうな…。自分で良かった。


 やがて麗華がアスカ・オゼリと共に正面玄関へやって来て鍵を開けた。


「ごめんなさい。わたしもここに住んでるのに全然気が付かなくて…。」


 アスカが謝ったが弥生は気にしていなかった。


「いいんですよ、普通は気が付きませんよ。」


「よし! 管理人をぶん殴るか!」


「レイカちゃん?」


「犯人は管理人さんじゃ無いと思いますよ。職員の派閥争いとは無関係な、もう耳の遠いお爺ちゃんとお婆ちゃんですから。

 でもわたしの方から今後は誰かに鍵を勝手に掛けられない様に、気を付ける旨を伝えておきますね。」


「ありがとうございます。お願いします。」


「“反学園長派”のターゲットは学園長よ。あなた達を怒らせて問題を起こさせて、その責任を学園長に問い詰めようという算段でしょうね。わたし達もこのままで済ますつもりは無いから、もうちょっとだけ辛抱してください。」


「わかりました。」


 と、弥生はガルルと唸っている麗華を宥めて部屋へ帰った。

 そして、翌日から弥生と麗華に対するイジメはエスカレートする。


「おい! 補助! 俺が用意する様に指示した資料はこれじゃ無いぞ!」


「え? でも確かに…。」


 その教諭は下卑な笑みを浮かべる。


 あー…こいつ、反学園長派か…。


 急に実習内容を変える、異なるスケジュールを指示する、存在しない備品の準備を指示する、自分も説明できるのか怪しい高度な論理の解説を要求し、出来なければ罵倒の嵐…。

 弥生は麗華を鎮めるだけで精一杯だった。


 えぇ~? ジアッラさんの信条を実践するには、やっぱり宿舎の玄関をゴーレムで破壊するくらいの派手なデモンストレーションが必要なのかなぁ?


 そもそもイジメというのは集団において異端や弱者の排除によって群れの調和の維持や弱体化を防ぐ為に自然発生する物で、野生動物の世界にも存在する物だ。それは理由が派閥争いでも同じ事。弥生は元の世界でそれを受けて、よく知っている。だから弥生にとってジアッラの信条は真理なのだ。

 まあ、ジアッラの場合はその力もさる事ながら、性格が恐れられる面が大きいのだが。





「学園長、全て出揃いました。これで十分いけます。」


 目の下に隈を作ったシャーロットの元に、同じ様な寝不足の顏をしたオルゼロとシージェルが報告を上げたのは、弥生と麗華が着任してから五日後の早朝だった。


「やったな…。奴の生徒への不埒な行為については、今となってはもう証拠が上げられない。だが、これなら…!

 よし、緊急職員総会だ! 奴を締め上げてやるぞ!」


「はい!」


 その日、一限目は全学年全学級自習となり、弥生たち補助指導員の仕事は教室を抜け出すやんちゃな生徒を取り締まる巡回となった。





 緊急職員総会の会議場となった大講堂ではエムジケが硬直していた。


「これは酷い。これらの試験成績の生徒が何故この評価点になったのか、根拠のある説明が欲しいですな。」


「この評価点は不整合が目に余る。不正な成績操作があったのでは、と疑義が掛けられても文句は言えんでしょう。」


「案件に挙げられている生徒は、いずれも随分と裕福な貴族や豪商の子弟の様ですが?」


「こんな状態が十年近く続いていたんですか…いやはや何とも。これでは手塩に掛けて育て上げ、高等部に送り出した我が準高等部の生徒たちが浮かばれませんな。」


「それは我が初等部にも言える事です。納得のいく説明をお聞かせ願いたいですな、イナー高等部教務部長先生。」


「この生徒など成績記録原簿では試験成績は筆記、実技ともに毎回落第寸前と記録されているではありませんか。それが卒業総合評価票ではBマイナス評価? どういう事ですかね? どれだけ恩情で色を付けてやってもDマイナスが限界でしょう。」


「イナー先生、経理部の記録に無い校外での収入が随分とおありの様ですね?」


 経理部長! 貴様、蜥蜴の尻尾切りをするつもりか!? とエムジケは経理部長のクーベル・プッフ・ベーンを睨み付ける。


「常々不思議に思っていたのですが、先生のお宅には、とても教員の収入では手の届かない調度品が溢れております。あれはどの様な経緯で入手された物なんでしょうなあ?」


 ハリス! 散々おこぼれに与っておきながら貴様もか!


「何も反論が無いのならば、わたしの推測が真実であると認める事になりますよ?」


 シャーロットが追い込む。


「い、いえ…それは、いや…偶々…と言うか、わたしの目で見てそれなりに評価した結果と申しましょうか…。」


「『偶々』? 何が偶々なんです?」 「それにここまで酷い成績原簿と卒業評価の不整合は非常識極まる!」 「その個人的な収入の出所についても御説明いただきたい!」 「先生が入試管理委員を務められた年の入試も洗い直しが必要かも知れませんな。」


 ぐっ…! 貴様らだって分かっていただろうが! 何を今さら!


 全員薄々勘付きながらも見て見ぬフリをしてきた身の上だ。だが、こうして大っぴらに槍玉に上がった以上は叩く。火の粉が自分に飛んでこないうちに切り捨ててしまう。


「即時評決を動議いたします! エムジケ・イナー教諭の責任解雇処分を要求いたします! なお、私シャーロット・アリューズは監督不行き届きの責を取り、三カ月間の1/4減給といたします!

 異議ある者は挙手を、無き者は沈黙を。」


 挙手した者は一人もいなかった。


「では全一致を以って、エムジケ・イナー教諭を解雇処分といたします。なお、発令までは一カ月の猶予を設け、後任者については発令前に執行部で選任いたします。

 以上、解散。」


 シャーロットは無表情を装っているが、内心ではしてやったりである。


 やってくれおったなあぁぁぁぁ! この女狐ぇぇぇぇぇぇぇ! それに経理部長、ハリス、貴様らもだ!


 エムジケはギリギリとシャーロットを睨み付けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ