屈辱の一言、そして…
レッドガルドのペンテヘイムにある鉄騎士団直営ティーンアカデミーの女性学徒『アイナ』は同期かつ自分と同じブリジット族の女性『アーニャ』を遊び友達に持つ。アイナとアーニャは鉄騎士団直営レスティーンスクールからの友人で、二人ともブリジット族女性だけあって褐色肌が特徴だ。アカデミーではアイナはニュートラル科、アーニャは『産業科』にそれぞれ入校した。アーニャの選んだ産業科は資源学や経済学等に重点を置き、卒業後に職人等の生産系職業に就職する者が多い。また、アイナがニュートラル科を選んだのは、他のブリジット族女性と違って自分のやりたい事がわからないが故だ。彼女の言葉を借りれば、
『うち、まだやりたいの見つからないんだよ~!』
なところか。容姿面において、アイナは銀髪ツインテールで、アーニャは後頭部に大きなシニヨンを巻いている。
齢17にてアカデミー五年生の年のある休日、アイナはアーニャと鉄騎士団直属部隊白き女傑の公開訓練を観た後、街に繰り出して色んな食べ物を食べていた。その日に食べた物はガトーショコラ、フロストミルク、チーズサンド、ポップキャンディ、アップルパイ、プチケーキ、メロンだった。そんなアイナとは対照的に連れのアーニャはナットウメパン一個どまりだった。日が暮れてアカデミーの学徒用宿舎に戻る前の事だった。
「なあ、アイナ。あんたさっきまで色々喰ってたろ。」
「ぎくっ…!」
「こんな生活ばっかしてっと太るぞ。…てかもう太ってんじゃん…。」
「なっ…!(アーニャ…、いくらダチでもあんまりじゃん…。)」
アーニャに体重の事を指摘されたアイナは動揺どころか屈辱を覚えた。
あの一言からアーニャと一切口を利かずにアカデミーの学徒用宿舎に戻ったアイナは宿直室にいる中年の寮母の元を訪ねた。
「あの…、おばちゃん…、うち…、結構太ってんでしょうか…?」
アイナは寮母に自分が太っているかどうかを尋ねた。
「そうね…、太ってるかどうか気になるなら、鉄騎士団直営のAU会館のトレーニングルームを利用したらどう?あそこは多くのAU達が利用してるからいい刺激になると思うよ。」
寮母はアイナにAU会館のトレーニング室を利用するよう勧めた。
「うん、ありがとう。うち、明日行ってきますね。」
「待って、明日アカデミーなのはわかってるよね。そこに行くのはアカデミーでの講義が終わってからになさい。」
「あっ、確か明日講義だった。じゃあ、お休みなさい。」
アイナは宿直室を後にし、自室に戻って就寝した。
翌日、ティーンアカデミーでの学務を終えたアイナはAU会館の受付に向かった。受付にはブリジット族の女性の姿をしたカムクリ『アマゾノイド』が立っていた。
「あの…、うち…、鉄騎士団直営ティーンアカデミー・ニュートラル科五年のアイナと言います。ここのトレーニングルームを利用したいんですが…。」
アイナは受付のアマゾノイドに尋ねた。
「あなたと同い年の方が今利用していらっしゃいます。確か、あなたと同じアカデミーの『エイミー』というニュートラルの女性です。」
「ありがとうございます。(うちと同期の人も利用してんだな…。)」
アイナは受付にお礼をして、女性用更衣室に向かった。
更衣室に向かうと、アイナと同じ17歳の容姿端麗の女性がアイナに声をかけた。
「こんにちは、確かあなたはアカデミーの…。」
「ど…、どこかで会いましたっけ…?って…まさかあんたは…、エイミー!?」
「ええ…、わたしは鉄騎士団直営アカデミー士官科五年のエイミーよ。あなたは?」
「うちは…、同じアカデミーのニュートラル科の五年のアイナっていうブリジット族の女さ。今日からここのトレーニングルームを利用するから宜しく頼むよ。」
「アイナっていうのね。こちらこそ宜しくね。」
この二人の出逢いが自分、そしてブルドラシルの今後を大きく変える事をアイナは未だ知らずにいた。