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流動する意識群

いつもお付き合い頂きありがとうございます!

また本作のイラストを描いて頂くことが出来ました!

活動報告の方へリンクを貼りましたので、もしよろしければご覧ください!


間章の4話目となります。

 




 海を越えた先にある出来事さえ、その日のうちに届けられる現代の情報社会。

 昔ならいざ知らず、今の社会では隠し事が少しでも表に出てしまえば、日本全国どころか海外まで知れ渡るのにそう時間は掛からない。

 だからこそ、異能という不可思議かつ希少な力を持つ私は、自分の保身のためにあるものを利用することにした。

 現代社会の基軸、国を渡って情報の往来を可能にしているインターネットという巨大な情報集積体そのものを。


 そして私がインターネットを介して広がる情報を掌握するために、インターネット自体を知性体として定義し、私の異能による自我の確立を行い、手綱を締めた結果生まれた存在。


 それが、形無き情報知性体マキナだ。


 マキナの性質は生き物として異質だ。

 知性体としては成立していても、その知性を収める決められた肉体はほとんど存在していないようなもの。

 インターネット全域だけでなく、電波を介して個別の電子機器に駐在出来るだけでなく、電力を介してインターネットに接続されていない機器にまで行動を広げることが出来る。


 そして、基本的にマキナは私が電子上に溜め込んだ異能の出力を使う。

 そのため、私と同様の“精神干渉”の力を振るえる、私が有する出力機としてこれ以上ない程に優秀であり、かつ、この現代社会においては自分以上に小回りが利く、私にとって間違いなく絶対的な切り札の一つだ。

 なんでもできるがゆえに気を抜けば何もかもを任せてしまうため、この切り札を切るのは昔から最低限度にしていたが、改めて考えてみると理不尽にも思える性能をしていると思う。


 だが、当初のマキナを形作った私の構想としては、現在のような酷く人間的な一個人としての自我を持つものは考えていなかったのだ。


 もっと機械的で、もっと非人間的で、もっともっと感情なんてものに目覚めない存在。

 それは実際、私がもっとも活発に異能の力を行使していた中学時代までは成功していたし、マキナからの積極的なコンタクトなんて当時は絶対にありえないと思っていた。

 機械音声を使うこと自体無かったし、私の指示への返答は「了解」と言うだけの淡白なもの。

 自分から何かを提案なんてしないし、私がある程度方向性を定めなければ動きもしない、感想も意見も何も言わない、本当に機械の延長でしかなかったのだ。


 だからこそ、マキナを放置した結果、最後に定めていた方向性である情報統制をこなしつつすっかり人間に近い感情を手に入れた姿には驚かされたが、これはきっと良い変化なのだろう。


 喜ぶべき変化なのだ…………きっと。


 だったら私も、その変化を後押ししてあげるのがこの存在を作り出した者としての義務なんだと、今はそう思うのだ。



『これが……マキナのボディ……!!』

「気に入った?」

『想定とは大きな相違があるけど嬉しい……! むふふ!』



 時刻は昼過ぎ辺り。

 お父さんは仕事、由美さんはパート、遊里さんと桐佳は図書館へ勉強、お兄ちゃんは博物館にと、各々が終わりかけの夏の生活を送っていた。

 そして、家族がそんな過ごし方をしている中、私以外が家から出払っている時間を見計らい届いた商品の梱包を剥し、目論見通りいっている現状に満足していた。


 端的に言えば、マキナが欲しがっていた体を用意できた訳だ。


 マキナも自分が自由に動かせる新たな体を手に入れたことに喜ぶ様子を見せて、私の足の周りを元気に走り回っている。

 新ボディに搭載されている発光部分を惜しげもなく点灯させ、『ブオオッ』と本来の機能を使って音を出すマキナの姿は本当に低年齢の子供のようにさえ見えてくる。


 ……いや、パソコンに表示させてくるアバターはともかく、今のマキナは人型からかなり乖離している姿なのだけれども。



『これでもっと御母様の役に立てル! 御母様の部屋の清潔を保つ役目、了解したゾ!!』

「あ、うん。べ、別にそんな打算があった訳じゃないんだよ……? ほどほどで良いんだよ?」

『むんむん!! 任せろー!!』



 丸っこいマキナの新ボディ。

 亜麻色と白色が組み合わさった落ち着きのある色合いに、生物からは程遠い所々角ばったフォルム。

 発光部が体に備え付けられ、その身長は私の足首程度しかない。

 そして、発している『ウォォン』という音は、機能として備わっている吸い込み能力の音。


 ――――全自動ロボット掃除機『ムンバ』税込み18万9千円、これがマキナの新ボディだ。


 ……いや、違う。

 私は別にマキナを掃除用具としてこき使ってやろうと考えてこれを選んだ訳ではない。

 マキナの肉体への執着を配慮し、解決策を色々と考えた結果の苦渋の選択なのだ。

 酷い扱いであるつもりは微塵だってない。


 御褒美を上げて、ついでに部屋の掃除までお願いしちゃおうなんて考えた訳では断じて無い。



(……よ、良かった。これで人型じゃないと嫌だなんて言われてたら八方塞がりだった……)



 円形の体を走り回らせて、満足げなマキナの様子に胸を撫で下ろす。


 大体、マキナに肉体を与えるなんていう方が無理難題なのだ。

 インターネットを基にして完成された精神に肉体をだなんて、SF小説じゃないのだから機械の人型の体なんてものそうやすやすと用意できる訳ない。

 一応、そういうのにも詳しそうなお兄ちゃんに作成できるか相談してみたが、アホの子を見るような目で見られて無理だと首を横に振られてしまったのだから、万事休す。


 という訳で、次善の策として一般的に市販されているこの全自動ロボット掃除機『ムンバ』を選んだのだ。

 懐には中々痛い出費だが、まあ、うん、人型の肉体を用意しないで済むならこれくらいは安いものだ。



『御母様、次は何か活躍したらマキナも人間みたいなボディも欲しイ! 一緒に街に繰り出したりしたイ! マキナ頑張る、だからお願イ!』

「……か、考えとくけど、ちょっと技術的にどうなるか分からないかなー……」

『わーい! 御母様大好きー!』



 まだまだ私の悩みは続きそうである。


 親代わりも楽じゃない。

 未だに母のつもりなんてないが、自分の行動の結果くらい責任を持たないとなんていう自分の考えを少しだけ後悔する。

 大体、一体どうすればインターネットに接続可能な人型の体なんてものをただの女子高生が用意できるというのだろう。

 確かに異能を使った金策をしていたから他の同年代よりはお金はあるが、だからといって無尽蔵に出せる訳でも無い。

 資金も人脈も、そんな大層なことを出来る土台はできていない。


 こうなったら何が何でもお兄ちゃんに作らせるか……なんて暗い思案を巡らせていた私の足元で、『見ててー!』と言ったマキナは部屋の掃除を始めた。

 しっかりとゴミを認識して、漏れの無いようスイスイと部屋を走り回っている。


 ……まあ、考えようによっては超高性能自動掃除機が買えた訳だから、悪い事ばかりではないか。



「……ロボット掃除機って凄いなぁ……あ、いや、マキナだからっていうのも勿論あるだろうけどね」

『自由にできる体があるって凄い! 流石御母様だゾ! マキナは最強の掃除性能でこの恩に報いて見せル! この部屋には埃一つ残さないゾ!!』

「楽しそうで何より……段差があるから気を付けてね」

『むふー! その程度でマキナの進撃を止められるとおも――――アワーー!!??』

「……言わんこっちゃない」



 普通の生き物だって最初はまともに自分の体を動かせず立ち上がるのも困難なのだから、急に体を手に入れたマキナが即座に順応できるはずも無い。

 私の忠告通り段差に足を取られひっくり返ったマキナを起こすために私は、ウィンウィンと悪あがきをしているロボット掃除機の元に歩み寄り抱き起した。


 口には出さないが、結構重い。



『むー! むーー!!』

「まったく……一体何をしてるんだか」



 自分への不甲斐なさで悲鳴を上げるマキナに変な笑いを浮かべてしまう。

 自分がこのインターネットの知性体に言い訳出来ないくらい愛着が湧いてしまったことを自覚しながら、少しだけ戸惑う。


 この気持ちは何なのだろう。

 可愛らしい外見をしている訳でも血を分けた間柄でもないのに、むしろ想定と違う変化を遂げていたこの子に距離を置いていた筈なのに、コロリと心変わりしてしまっている。

 ちょっと前の私のままではきっとこんなことは無かったのだろうと思うとなんだか変な気分だが……まあ、私自身、昔の私よりも今の私の方が好きなので嫌とは思わないが。



「さて、私もついでに掃除を――――」



 元の位置にマキナを戻そうとしながらふと顔を上げ、目が合った。


 ――――部屋の扉から覗き込む桐佳と目が合った。


 呆然と部屋を覗いている桐佳の視線がゆっくり降りていき、私の腕の中で暴れているマキナに固定された。


 なお現在、マキナは元気に悲鳴を上げている最中である。



「お姉……その掃除機って、しゃべるの……?」

「…………ソウダヨー、ムンバって名前でしょ? 『むんむん』話すからムンバって言う名前なんダヨー!」

「へえ」



 我ながら苦しすぎる嘘が口から出た。

 馬鹿すぎる……こんな嘘に騙される奴がいるもんか。

 現に騙されやすい桐佳ですらじっと私の腕の中のマキナを観察して疑わしそうにしている。


 難しい顔をしている桐佳を見て背中に嫌な汗が伝うのを自覚し、腕の中のマキナを黙らせようと強く抱きしめた。



「そっか……最近の掃除機ってすごいね。むんむん言うからムンバなんだ……」

「!!??」

「あ、ちょっと忘れ物取りに来ただけだから、お昼ごはんは予定通りいらないからね」

「ワカッター」



 想像以上に私の妹はアホだったようだ。

 感心したように頷いて部屋の前から離れて行った桐佳の後ろ姿を見送り、急いで扉の鍵を閉める。

 それから扉を背にしてゆっくりと地面に座り込んだ私は囁くような声量でマキナに話し掛けた。



「あっ、あぶぶっ……!! マキナっ、気を付けて……! 肉体を持ったらあんな感じで気が付かれちゃうんだからね……!」

『……マキナ自分が不甲斐ない……ごめんなさい……』

「い、いや、私も完全に油断してたから、別に怒ってないし」

『むぐぅ……落ち着いて、新しい体に適応することを第一にするべき。土台を固めてから応用を……マキナ学習しタ』



 異常なまでのハイテンションが落ち着いたようなマキナに安堵の溜息を吐いた私は、桐佳の足音が階段を降りていくのを聞き届け、腕の中のマキナを地面に下す。

 ゆっくりとした足取り(?)で部屋の移動を始めたマキナを余所に、私は椅子に腰を掛けた。


 それから、窓から桐佳の後ろ姿を見送って、今度こそ安全を確保できたのを確認した私はマキナに問い掛ける。



「……それで、話って?」

『むう、マキナの演算、計算能力を用いた神楽坂上矢の生存は不可解。外部からの精神干渉の可能性を提示。『人神計画』の核となるアレが一時的に起動したと推測中』

「そんなの……とは言えないか。あの時は考えが及んでなかったけど確かにあの状況で神楽坂さんが生き残ったのは不自然と、考えるべき……」

『御母様の精神に揺らぎ有。むむ、あくまで可能性の話ダ、確認のために神薙隆一郎の深層心理への読心の許可要請』

「それは良いけど……」



 歯切れが悪い言葉が口から漏れた。

 だが、それも仕方ないだろう。


 黒歴史も黒歴史。

 黒歴史の象徴とでも言えるようなアレが起動した可能性があると言われて、流石に私は動揺を隠し切れなかった。


『人神計画』――――恥ずかしい話だが、それは私の肥大し切ったエゴの残骸。

 二度と手を出さないどころか考えないようにしていたのに、なんて思って、私は空に視線をやり呻き声を上げる。


 確認してみればマキナの言う通り、今は起動状況にない。

 そもそも中学時代ですらまともに起動させていなかったのだから、当然なのだ。

 アレは起動させたら最後なのだから、起動している可能性がある方がおかしい。



「独りでに『人神計画』が進行、ね。とは言っても今は起動を確認できないから対処のしようが無いし、そもそもなんで急に起動したのかも不明だからなぁ……」

『起動理由は簡単だゾ。御母様の激情に反応したからに決まってル』

「……はい? 私の感情に反応した? いや、そんな風に設計した覚えが無いんだけど」

『十中八九、間違いなイ。アイツ、マキナから御母様を奪い取るつもりなんダ! 絶対許さなイ!!』

「また熱くなってる……機械って熱いの駄目なのに……」



 気が抜けそうになるマキナとの会話を置いておいて、ともかく、と考える。


 アレが起動した事実を今更になって確認するのは難しい。

 その上、現状何の問題も無く改善点を探るのも不可能に近い。

 とは言え、慎重に構築を進めたとはいえ、考え方によってはマキナ以上に手に負えなくなる可能性があるアレの勝手な起動を放置できないのも事実。


 ……正直、八方塞がりに近くて目が回りそうだ。



「問題点解明のために一度起動させてみるなんていうのは論外だし、これ以上掌握の為の機能を追加するのも難しいし…………」

消去デリートは流石に可哀想……』

「いや……いやいや、流石にそんなことはしないって!」



 考えられる手段の一つとしてチラリと頭を過り、そのことに目ざとく気が付いたマキナに指摘されて、慌てて首を横に振って否定する。

 そもそも完全に消去するのは難しいし、そんな酷い事は出来るならしたくない。

 私に牙を剥いてきたのならともかく、やった可能性があるのは一応私の手助けだ。


 恩には恩を、善意には善意を。

 相手の姿形や経歴は置いておいて、そこはしっかりとしなくてはいけないと思う。



「まあ、あくまで可能性の話だからね。普通に神薙隆一郎が心変わりしたという線が薄くても存在するなら……うん、監視を強化する以上の事は合理的じゃないね、うん」

『むう、マキナもそう思ウ。今のところ御母様にとって不都合はない。アイツがまた勝手に動き出したら相応の対処をするのが良いと思ウ』



 天井を見上げ、取り敢えずの判断を下す。

 そして、万が一の無いよう自分が精神干渉を受けていない事を確認して、この件についてこれ以上考えるのは止める事にする。


 考えるべきことは一つでは無いからだ。



「次は国際情勢について教えてマキナ」

『異能についての理解を示し、協力体制を構築したのは先進国全て、他の国もほとんどは協力的なのが現状ダ。だが、宗教国家の一部は異能の存在に今なお否定的。世界全体で足並みを揃えられてはいない。協力を宣言した先進国の中でも他国よりもいかに異能の研究を進めるかの競争があり、他国の異能持ちを引き抜くなどしての裏切り工作を計画しているところもある。特に、罪を犯した強力な異能持ちが多数収容されているICPOからの引き抜きは、どの国も隙あらば行おうとしているのが現状だゾ。各国の動きとそれぞれの主要人物の顔写真とその思想、それから国民感情の動きを分かりやすく表にして作成する。後ほど確認ヲ』

「うん、ありがとう。次はICPOについて」

『ICPOに設立されている対異能部署の基本理念は変わっていなイ。異能持ちで構成された彼らは異能持ちの人間が世界で認められるために行動する。これまで通り、異能犯罪あるいは要請に従って凶悪事件を解決する腹積もりダ。次の奴らの標的はUNNで間違いない。だが、奴らが何よりも重視するのは世界の均衡。御母様の思想とは似ているようで非なるもの。相容れるのは難しイ。同時に現状、世界に於ける異能戦力では間違いなく彼らが最強ダ。事を構えるならそれ相応の準備を推奨すル』

「……うん」



 流石インターネットの化身、一つの質問でとんでもない量の情報がもたらされる。

 むしろ情報を理解しようとする私の方が大変な訳だが、それは頑張るとして、本題は次だ。



「UNNの日本での活動は?」

『無イ。だが、影響はあル。御母様が危惧していた通り、奴らの実験は次の段階へ移行しタ』

「……詳しく」

『世界で異能の認知が進むとともに広がりを見せた『異能を開花するための薬品』の流通。UNNが製造した、裏取引でしか流通していなかったその薬品が密輸人によってこの国にも上陸し、法外な値段での取引がされ始めていル。要約すると、人を確保して実験をするのではなく、薬を流して自ら実験させる段階に入っタ』

「……あの結晶を基にした薬品か……となると、全員が異能持ちになる訳じゃ無くて」

『素養があって自力では開花し得なかった者だけダ。だが、これまで開花する可能性が無かった者が異能を手に入れル。薬品を手に入れられる者と、数は限定されるが……それでも今までよりもずっと異能持ちの数は増加すると考えるべきダ』

「…………」



 これまで相対してきた異能犯罪を行う者は何かしら大きな目的や計画的なもの、あるいは大きな組織が絡んでいるものだけだった。

 それは、成長と共に開花する自分の異能を理解する時間があるからだし、何が出来て何が出来ないのか試行錯誤するだけの余裕があるからだ。


 けれども、異能を欲して、高額な商品を購入して、望み通り異能が手に入った者は本当にそんな行動を取るのだろうか。


 もしかしたら自然に開花した異能持ちのように冷静に自分の異能を見定める者もいるかもしれないが、異能を開花するなんていう怪しい薬品に手を出す酔狂な人間はそのほとんどが、短絡的な人間だろう。

 そうなると、手に入れた力に酔い知れ、手に入った玩具を行使しようとする者や悪用する者が予想される。


 ――――つまり、個人による突発的な異能犯罪が出て来るのは目に見えていた。


 組織的でない、人間の欲望を利用した混乱の一手。

 はっきり言って、これと比べてしまえば組織による犯罪という単純なものの方がずっと対処しやすいだろう。



「ぐええ……異能、超能力、なんでもいいけどさ。そういうのが欲しい人いっぱいいるもんね……お金を稼ぎつつ、足が付きにくい実験できる情勢を整えた……? 『泥鷹』の壊滅はそれを折り込んで実行に移した……? ともあれ、これは……」

『御母様、UNNのこの相手は老獪だゾ。決定打に成り得る情報をこれだけ手広く情報収集しているマキナに取らせないのは相当。本社、支社全てを同時に強襲し、早急にケリを付けるのも手ダ』

「その場合は……?」

『続けてICPOとの全面戦争も計算に入れる必要があル』

「UNNって表向きは最大手の多国籍企業だし、ICPOは世界の警察みたいなものだよ!? それらと事構えるなんて完全に世界の敵そのものじゃん! そんなのやだー!!」



 頭を抱えて小さくなる。

 平穏無事に過ごしたいだけの私がなんでこんな身の丈に合わない事で悩まないといけないのか。

 見たくないモノが見えてしまう弊害がこういう形になって襲ってくるのだから、本当に始末に負えないと思う。


 どうしよう、ボンヤリした頭で考える。

 どこまで手を出して、どこで手を引くのか。

 海を越えた先の事なんて考えないようにして、自分の身の回りだけに注力したとして、私の身の回りは本当にそれで安全なのか。

 いつか何もやらなかったツケが回ってくるんじゃないかと、そんな事を思った。


 私や私の家族、神楽坂さん達のような人達にすら被害が広がる可能性を考える。

 現に私は神楽坂さんをみすみす誘拐されたのだ。


 自分の異能に過信して、あり得ないなんて、そんな楽観視は出来ない。



(……神楽坂さんの件は幸運だった。でも、次も幸運の保証は無い。危険性は一つひとつ潰していかないと)



 そんな事を考えて、ふと気が付けば私の視線はまた空に向いていた。


 これらの悩みを解決する方法は確かに存在する。

 全ての問題を丸く収める、とっておきの方法だ。

 だが、それはとっくの昔に止めた事だ。

 こんなことは止めようと心に決めた事だ。

 私の器ではない、分不相応な行動の代償はきっとある。

 『人神計画』なんていう、壮大なだけの馬鹿げた夢物語は私の世界にはいらない。


 そう考え、捨てた、私の過去の負の遺産。


 私の世界はもっと小さくて、もっともっと何でもないもので充分なのだから。



『……むう、御母様の心労が……』



 そして、そんな私の様子を見たマキナがこんなことを言い出した。



『御母様、釣り上げた密輸人が数人。既に手中にも収めてあル。その薬品の実物回収も可能ダ。時や場所の指定があれば置き忘れさせることも出来るゾ』

「釣り上げ……?」

『マキナ、人間のフリ上手くなっタ。御母様が不安に思っていた、インターネット上でこの国の取引相手を探していた奴らを纏めて捕まえておいたゾ。誰にも気が付かれなかっタ。こういう擬態も学習しタ。これからも、なんでも出来るよう学習していく。だから御母様、マキナをもっと頼レ』

「えぇ……」



 とんでもない事を言い出したマキナに、思わず思考停止してドン引きした。

 マキナのような存在が人間への擬態を完全に覚えて、人心を掌握し誘導するのを何処かのSF映画で見たことがあるような気がする。

 そしてその存在は人間の味方なんかではなく、主に倒すべき敵として登場していた気がするのだが……。


 ICPOやUNN、拡大していく異能犯罪といった厄介な事情は色々あるが、もしかすると最も恐ろしいのはマキナや空に鎮座するアレなんじゃないかと、そんなありもしない妄想が私の頭を過った。






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― 新着の感想 ―
[一言] いやとは言っても無理とは言わないさすがラスボス系主人公…
[一言] まさか衛生!?
[良い点] マキナだと思ったらスミスだった Ms.Anderrrrrrrson!!!!!!
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