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見解の相違

 




 先日の、警視総監毒殺未遂事件は結局、一切表沙汰になることなく終わりを迎えた。


 というのも、あの場、あの時の事は、私が指摘して剣崎さんの態度がおかしかっただけの疑惑のままで、それ以上の進展を迎えることは無かったのだ。

 その理由は色々とあるが、最大の要素は『被害者である衿嘉さんがそれを望まなかった』から。


 毒殺の唯一と言っていい証拠であるあのグラスの中身を、被害者である衿嘉さんが捨ててしまった事で証拠が無くなり、そもそもあの騒ぎに気が付いた人自体ほとんどいなかった。

 毒殺の可能性を指摘した私も声を張り上げていた訳ではなかったし、元々声量が大きくない私の声なんて盛り上がっていた会場では聞き取る方が難しかっただろう。

 別に私としても、この件を大事にするかどうかは袖子さん達に任せようと思っていたから、この結果にどうこう言うつもりなんてなかった。


 つまり、犯行が未遂で終わったあの場で起こったのは、他者には見えもしない、剣崎さんと衿嘉さんの関係に大なり小なり亀裂が入ったという事実だけだった訳だ。


 剣崎さんを脅していたスライム人間を処理した今、再び衿嘉さんを剣崎さんが狙う理由もないし、彼らがそう解決するなら私にとってはそれでも良い。


 ……まあ、結果的に見れば、特に何も事件は無かった形で終わったのだから、私がしたのは友人のお父さんの昇任祝いの空気を悪くしただけになる訳で……。

 招待して貰った身としては、あれからちょっと袖子さんとは接し辛い。


 それだけが少し、後味が悪く残っていた。



「……取り敢えず、私の方はそんな感じなんです。まあ、元々、割に合わない事をするって分かってたわけですから、友達との不和は別に良いんですけども……」

「……その割に暗い表情な気がするが……と言うか、本当に山峰警視総監を毒殺なんてあったのか? ああいや、佐取の話を疑う訳じゃないが、いったいどうやって事前にその情報を……」

「あ、その、なんて言うか、この件は特別なコネがあってですね。毎回使える様なものではないので気にしないでもらえると助かります」



 そんな事を言って私は、神楽坂さんの追及をそれとなく避ける。

 後ろ暗い事じゃないけれど、この情報源には少々特殊な事情が存在した。


 そもそも私が使ったのは、異能による未来予知。

 『警視庁警視総監の毒殺』の未来を予知するという、反則技を行った。


 と言うのも、話はお兄ちゃんが襲撃された日まで遡る。

 異能を探るお兄ちゃんと神楽坂さんへの襲撃を行い、失敗したあのスライム人間が、異能が世間で常識化され始めている現状をただ静観するとは思えなかった。


 きっと何かしらの大掛かりな事件を起こしてくる。

 けれど、異能を弾く外皮を持つ液体人間の居場所を探し出す手段を、私は持っていない。

 何かしらの事件を起こすことは分っているが、いくつも考えられる選択肢の内から正確に行動を予測して事前に事件を防止できるようにするのはどう考えたって不可能。

 誰かが犠牲になるのを許容して相手が尻尾を出すまで待つ、という待ちの手もあったが、それは何だか色々と癪だ。


 だからこそ私は、私の何かしらの力に勘付いており、私に対して恩返しをしたいと思っていたある人への接触を図った。



 いじめに遭っていた男子学生の母親、そして、未来予知系統の常識外れの異能を有する人物、遠見江良さんへの接触を。



 現在、遠見江良さんの異能、『救命察知』は正しく機能していない。

 未来予知系の本人以外には感知しえない現象な上、異能持ちとして開花したとも言えない状態の人であることもあって、私の分析さえ全く足りていない彼女の持つ異能の力。

 どんな影響が及ぼされるか分からないから出来るだけ接触を控えていたのだが、国内にいるだろう私の異能で探知が出来ない奴が出てきた以上、事情が変わった。

 発動も、対象も、何一つとして思うように扱えない彼女に代わり、私が彼女の異能の方向性を定めることによって、未来で発生する大事件をいくつか予知してもらった。


 初めて明確に様々な未来を予知しただろう江良さんは、これから起こる予定の事件の数々を血の気を失った表情で私に伝えた。

 その中の、最初の事件がこの『警視庁警視総監毒殺事件』。

 つまり、袖子さんのお父さんが殺されるという予知。


 予知を聞いてしまって、一応友人の危機を知った私が動かない訳にはいかなかった。

 わざわざ苦手な人の集まりに足を運んで、さらには可能な限り目立つことを避けていた私がそれを曲げてまで毒殺を防止した理由はこれだった。



「……私も、この情報源を使ってあのスライム人間の本体をさくっと調べられたらいいなとは思ったんですけど、やっぱりそうもいかなかったんです」

「異能を弾く性質を持った存在であり、それでいて他の異能持ちのように、超常的な力を振るえる。正直、佐取達を襲ったあの存在は現代社会において最悪の相手と言ってもいいかもしれないな……」



 私の正面に座る神楽坂さんはそう呟いて、疲れたように目元を揉んだ。

 私の言いたくない雰囲気を感じ取った上で、それ以上追及することなく話を終えた神楽坂さんに私は内心感謝する。


 流石に、異能の開花も出来切っていない江良さんの存在を神楽坂さんに伝えるのは憚られた。


 神楽坂さんを信頼していない訳ではないが、今後、他人の記憶を抜き出すような異能持ちと対峙する可能性が無いわけではない。

 少なくとも、私ですら良く見なければ分からない程度の異能出力しか持たない江良さんが日常生活で他の異能持ちに捕捉されることは無いと考えられる。

 となると、貴重な異能持ちでありながら、武力に対する抵抗手段を持たない江良さんの情報管理には最大の注意を払う必要がある。


 悪意を持つ者に目が付きやすい、危険域にいる神楽坂さんには、これは少々渡せない情報だった。



「すいません……」

「いや、良い。まともな抵抗手段を俺自身が持っていないことは理解してる。佐取は佐取の思うようにしてくれれば良い。とは言えあの液体人間に対する明確な対処方法を模索する必要があるのは変わらないな」



 分かっていたことだが、神楽坂さんはやっぱり人が出来ている。

 彼の境遇を考えると少しでも手段があるならそれに縋りたいと思うものだろうし、協力者から一方的に隠し事をされるのは気持ちの良いものでは無い筈なのにそれを微塵も表に出さない。

 こんな人だからこそ、私も安心して出せる情報、出せない情報を神楽坂さんの前で隠さないで済んでいる。


 ぱくりと、出されたスイーツに口を付ける。

 普通のファミレスのなんでもない一品だが、中々どうして、悪くない味をしていると思う。


 今度私も、少し凝ったスイーツ作りでもしてみようか、なんてそんなことを考えていたら、正面に座る神楽坂さんが何か言いたげな目で私を見ていた。



「……ちなみに前から疑問だったんだが、異能持ちは基本的に大食いだったりするのか? 異能を使う際にカロリーを使うから、人より多く食べるとか……」

「えっ? えっと、いや、どうなんですかね。私は別にそんなことないと思うんですけど…………え? もしかして私、凄い食べてます?」

「いや、佐取はそんなことないと思うが、前に飛禅に奢った時は、凄まじい量を食っていてな。そんなものなのかと思っただけで……」

「あー、いや、確かに異能もものによってはカロリー消費とかありそうですけど、飛鳥さんはきっと元から大食いですよ。あの人の食への執着凄いですもん」

「普段、署内だと小さなお弁当で済ませていたんだがな。あいつ曰く、これもお洒落らしいが……俺にはよくわからん」

「それは私も分からないです。うーん、大人の女性のエチケットとかいう奴なんですかね?」



 そんな風に好き勝手言い合う私と神楽坂さんを見たら、この場にいない飛鳥さんは怒り出しそうだな、なんて、ふと思った。





 ‐1‐





 これまで色んな異能の関わる事件を解決してきた事になっている(異能の関わらない事件はもちろん沢山解決している)神楽坂さんだが、相も変わらず警察内での扱いは悪いままであるらしい。

 その証拠に、対異能犯罪の為の部署らしい、警視庁公安部特務対策第一課……長いので今後は異能対策課と呼称するが、これに今まで超常的な力の存在を提言してきた神楽坂さんを組み込まないという暴挙に出ている。


 確かに、厳格な上下関係を重視するだろう警察社会で神楽坂さんという存在は中々扱いに困るだろうし、その判断は私には及びもつかない考えから為されたものの可能性も否定はできない。

 だが、結果的に神楽坂さんが警視庁の本部を拠点としている異能対策課に所属しなかったのは、こうして私と神楽坂さんが顔を合わせて情報交換を行えるというメリットに繋がった。


 ……神楽坂さんの心情を慮って口にはしないが、現状は正直、私にとってありがたかったりする。

 本部のそんな部署に配属されてしまうと、今の飛鳥さんのように碌にコンタクトも取れなくなってしまう。

 良い面もあるのだろうが、それは少し困る。



「それでえっと、今日は私に聞きたいことがあるって話だったんですけど、それって今話した祝賀会の事じゃないですよね?」

「……ああ、悪いな時間を取ってもらって。もちろん祝賀会の事も気になっていたからこうして詳細を聞けて良かった。俺らのボスを救ってくれてありがとう。きっと誰にも称賛されていないんだろう? 俺からこうして言葉にする事しか出来ないが、感謝させてくれ」

「あー……いやそれは別に私が秘密にして欲しいって言ってる訳ですから。そもそも私、見ての通り調子に乗りやすいので、誰かに手放しに称賛されるのはほどほどじゃないと……だからこうして定期的に何か奢ってもらえるだけで大満足なんです」



 何処にでもあるファミレスの一角で、私は二人きりで神楽坂さんと会っていた。

 実に数カ月ぶりとなる二人きりでの話し合いだが、今後の予定と方針を話し合うつもりだったので飛鳥さんもと考えたのだが、いかんせん、あの人は忙しすぎた。


 私の解答に、欲が無いんだな、と困ったように苦笑する神楽坂さん。

 そんなことは無いのに変な評価をされ、むず痒くなった私は早速本題に入る。



「それで、何なんですか? 今更私に聞きたい事って、しかもこうして直接話すとなるとそれなりに長くなる可能性があるものですよね?」

「……ああ」

「む? なんで言いよどむんですか? 今更聞きにくい事でもあるんですか? どうせこうして顔合わせした以上私に隠し事なんて出来ないんですから、ほら、早くゲロっちゃって下さい。ほらほら」

「ぐっ、急に煽るような態度になるのは何なんだ……? まあいい……単刀直入に言うぞ。恐らくこれからあの異能を弾く人型の怪物との戦いが多くなるだろう。攻撃するし攻撃される。異能が効かない、佐取にとって相性の悪い相手というのは分かっているが、それを踏まえて佐取に聞きたい。どれくらい戦える? 佐取の異能にどれだけ頼れるのか、その判断基準が知りたい」



「前にあまり過信しないでくれと言っていたからな……」と深刻そうな顔で呟いた神楽坂さんに、私は思わず口を噤んで考え込んでしまった。


 異能を弾く人型の怪物、液体人間の分身体との戦いになった時に私がどれくらいの戦闘を行えるのか、どうやら神楽坂さんはそんなことを純粋に心配しているようなのだ。


 確かに、アイツは私の異能の基軸となる“読心”が効かない相手で、相性は相当悪い。

 だがそれでも、私はこの前の襲撃と祝賀会の関係を含めて既に分身体を5体倒しているのだ。

 単純な戦闘力はともかく、結果的な話だけを聞けば私の方があの分身体よりも強いと思われるのは当然な気がする。


 それを踏まえた上で、神楽坂さんのこの聞き方は何だろう。

 流石に守るべき子供という態度ではないが、頼りになる相棒、という感じでもない。

 もしかして、いや、まさかとは思うが……神楽坂さんって、私の事弱いと思ってるのだろうか?



「精神干渉……人の認識を誤認させる事に秀でており、その力で相手の攻撃を躱した上で相手の精神に手を加え幻覚による攻撃を行う。君の戦闘方法を簡単にまとめるとこんな感じだろう? 正直、同種だろう“白き神”という奴はともかく、これまで勝利してきた“千手”や“液体人間”を相手にその戦法が安定して通じるようには思えない。もし、これまでが綱渡りの上での勝利だと言うのなら……もし、一つ間違えれば佐取が命を落としていたと言うのなら……あまり危険なことはさせたくない」

「んっと……えっと……」

「期待していないと言えば嘘になるが、こんなところで虚勢は張らないで欲しい。正直に、自分の限界を教えて欲しいんだ」



 どうやら、限定下では強いが基本性能は弱い、そんな風に思われているようだった。


 まあ、外から見ると私の異能は何が起こっているか分かり辛い上にまったく派手さも無いので、異能の出力を感じ取れない神楽坂さんからすると少々危うく見えるのだろう。

 だから、神楽坂さんにとって信頼できる味方の中で、安定して強い、最強の異能持ちは私では無く飛鳥さんのようなのだ。


 ……いやうん、まあ、そりゃあ、異能を酷使するたびに自分の出力に耐え切れず鼻血を出す奴なんか強いと思われる筈も無かった。

 自分の異能の出力管理すら出来ない奴が強い訳が無い、当然の感想だ。

 私だって別に自分の異能を直接的な戦闘でも強い異能だなんて思ってないけど……なんだか、こうしてはっきりと突き付けられるとそれはそれでちょっと悲しかった。



「……私の異能はですね。前にも説明したんですが、人を誤認させる事が出来るのでやり方によってはおそらく誰にだって勝てます、はい。でもおっしゃる通り、最強無敵な異能では無いので、探知できない液体人間なんかは視界に入れるまでは攻撃対象に出来ないという欠点もあったりしますし、神楽坂さんが言う所の幻覚による攻撃にまで持っていくのには時間が掛かりますし、見ての通り本体である私は雑魚です、はい」

「…………なんだかやさぐれてないか? ど、どうしたんだ?」

「やさぐれてなんかないです。自分の駄目さが表面化した気がしてちょっと落ち込んでるだけです。どうせ私なんて自分の異能出力も調整できない調子に乗りやすい糞雑魚ですよ」

「!!??」



 オロオロと慌て始めた神楽坂さんの姿を見て、私のこんな子供っぽい感情で色々追い込まれているだろうこの人を変に振り回すべきじゃないと気持ちを切り替えることにした。

 小さく咳払いをして話を切り出す。



「こほん……話を戻しますが、そうですね。神楽坂さんが求めているだろう解答をするとしたら、あのスライム人間には奇襲さえされなければ勝つことは難しくありません。そして私は“読心が出来ない人間”を見付けることで、あの液体人間を探し出すことが出来ますが、アイツは私を異能持ちだとは探知できません。つまり、顔や名前が割られない限り、ほとんどの状況で私からの奇襲が可能だと言うことです」



 急に真面目に話し出した私に目を丸くした神楽坂さんが、すぐに真剣な顔になって私の話に聞き入った。



「同時に、神楽坂さんは飛鳥さんを味方の異能持ちとしては最高戦力として考えているようですが、これも少々考えなければならない点があります。まず、飛鳥さんとあの液体人間の力関係は飛鳥さんが優位だというのは同意しますが、飛鳥さんの、完全に顔や名前が公になっている今の状況は、格好の的、と言っても過言ではないかもしれません。異能の出力を弾く外皮を持つ液体人間を飛鳥さんは見るだけでは識別できず、要救護者に扮した液体人間を懐に入れてしまう可能性だってあるということです」

「……飛禅は、危険な状態なのか? アイツの異能で対処は……」

「可能とは言い切れません。最近飛鳥さんは狙撃を警戒して、自身の範囲内に一定の速度以上の物体が飛来した場合、即座に停止させられるよう常時異能の行使をしてるようですが……あれは少々疲れるでしょうし、あの液体人間の異能を弾く外皮自体に停止を掛けられるのかは疑問です。世界的にも注目されている飛鳥さんに何の計画も無く攻撃を仕掛けるということは無いと思いますが、その予想も何処まで当たるか」

「どうすれば最善だろうか。佐取が四六時中飛禅と一緒に居る訳にもいかないとなると……」



 深刻そうに悩む神楽坂さん。

 何かフォローを入れて神楽坂さんに安心要素を作ってあげたいが、現状はそれほど楽観的になれるものではない。

 そもそも現状、あの液体人間だけを警戒するのでは足りないのだ。

 『UNN』と言う人工異能を作り出す技術を確立させつつある組織に、世界の均衡が異能によって崩壊しないようにという目標を抱えながらも、国際的な利益の為には何をするか分からない『ICPO』と言う国際組織。

 そこに日本に潜む、液体人間関係の異能持ちに、異能が明るみになりその力を手に入れようとする既存組織、さらにはその他の異能を有する集団だってまだまだある。

 あらゆる方面が危険ばかり、正直人のいないジャングルにでも住む方が安全だろうと言うのが私の感想だ。


 とは言え、そんなたらればの現実逃避ばかりしていても意味はない。

 何も、どれも何の解決策も無い訳では無いのだ。

 まず初めに解決するべきはスライム人間の件かな、と私は考えを整える。


 そして、「良い方法があります」と言い、渾身のドヤ顔で人差し指を立てた。

 私の態度に、これは失敗するな、とでも言うような顔をした神楽坂さんがちょっと嫌そうに続きを聞いてくる。


 ……随分失礼な態度である。



「……どんな方法だ?」

「むふふ、やられる前にやれ作戦です。とっとと原因を見付けて排除しちゃうのが一番ですよ!」

「それは……確かに理想的な案だが、それが現実的でないから守りを固める策を考えてるんじゃないのか?」

「ふっふっふっ。神楽坂さん、さては分かっていませんね? 以前の襲撃、今回の祝賀会、どちらも警察内部の情報に詳しくないと計画すら出来ないものです。タイムリーに警察情報を得ることが出来る立場に、本体か分身体かは分かりませんが、まだあのスライム人間がいるっ……! 警察署内部にスライム人間がいるのが確定したわけです!!」

「…………そ、そうだな」

「ふへへ、そうなるとやることは簡単です。まずは警察内部にいるであろう液体人間を見付けるために警察署内を虱潰しで探してみるんです。要するに、私が警察署内部を探索すればそれで終わりって訳ですね! 推理、予測、計算。全部必要ありません、力押しのごり押しであの液体人間が支配出来ている範囲を狭めていくんです!!」



 散らばった分身体を潰していけば、いずれ本体が何かしらのアクションを起こさざる得なくなる。

 それも、数に限りがありそうな分身体の話ならそれはより顕著だ。

 自爆する状況を作ってしまえば相手は勝手に馬脚を露す、そのことを私は学んで知っているのだ。


 正直な話、マキナを使えば警察署内の捜索は簡単だと思うが、マキナばかり頼っていては今は潜在化している敵に『インターネットそのものに意思があり、監視され、攻撃される可能性がある』と気が付かれるかもしれない。

 気が付かれた程度で止められる程、私のマキナは生易しいものでは無いが、切り札は隠してこそ真価を発揮するもの。

 それに、倒すべき悪性に勘付かれるならまだ良いが、事件を解決して見せるという善意の人間に勘付かれ、打倒しようと思われるのは正直避けたい。


 平和を願う者同士は、争うべきではないと思うからだ。



「クックックッ……なんて完璧な作戦、流石天才少女燐香ちゃん……! それでそれで、そのための手引きを神楽坂さんにやって欲しいんですよ。どうせ私を起点とした誤認識はあのスライム人間には通用しないでしょうし、スライム人間に遭遇した時、いきなり変な少女が侵入してるっていう状況よりも、警察官の身内が警察署内に用事があるっていう形で動いている方が、奇襲が成功しやすいと思いますから」

「……それは、構わないんだが……」



 私の完璧な計画を聞いた筈の神楽坂さんが、酷く言いにくそうな顔で口ごもる。

 何か欠点でもあったかと、首を傾げた私に神楽坂さんがそっと教えてくれる。



「その……新設部署の助言の関係と、未把握の異能持ちの確認のために、ICPOの異能担当の者達がもう間もなく警察署本部に来るらしいんだが、その中を虱潰しするってことで良いのか? 佐取は……その、ICPOに異能をバレるようなことはしたくないんだろう?」

「…………え?」

「以前来たような、ICPOの異能担当捜査官がしばらく日本に滞在するらしいんだが……確か報道でも少しやってた気がするんだが、見てなかったのか?」

「……見て……無かったです」

「……そうか」



 取り敢えず、飲み物に手を付ける。

 予想以上に苦かったそれに、備え付けの砂糖を何杯か入れてからもう一度口を付ける。

 それから私は何か言いたげな神楽坂さんへと顔を上げて、提案した。



「作戦は練り直しですね!」

「……ああ、そうだな」



 優し気な神楽坂さんの眼差しが私を突き刺す。

 常に追求しないことだけが他人に対する優しさではない。

 そこらへんを神楽坂さんはもっと理解するべきだと私は思う。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] >異能を弾く性質を持った存在であり、それでいて他の異能持ちのように、超常的な力を振るえる。正直、佐取達を襲ったあの存在は現代社会において最悪の相手と言ってもいいかもしれないな… [一言…
[一言] 流石は天才美少女燐香ちゃんです
[一言] ポンコツぅ!かわいい(確信
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