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血塗られた家系

 




「……ごめん、心配掛けちゃったね」



 朝方、自身を迎えに来た家族の面々に対して、警察署で聴取を受けていた佐取高介はそんな謝罪の言葉を口にした。

 それは彼にとっては紛れもない本心からの謝罪であったが、佐取高介が悪いわけでは無いことを知っている迎えの家族達は複雑そうな顔を浮かべてしまっていた。



「別に。何か悪いことをやっているとかは考えていなかったし、何かの間違いだって最初から分かっていたからさ。父さんが謝る必要は無いだろ」

「いやそれでも、桐佳や遊里さんが大切な時期にこんなことになったのも、優助に弁護士を手配してもらったのもある……もしも状況が良くないのなら無理に弁護する必要は……」

「桐佳達はギリギリ受験が終わってたから影響は無い。俺にしたって、前にわがままを言って一人暮らしさせてもらってた分、父さんには金銭的な迷惑掛けたんだ。これくらいのことは負担にもならないよ」



 この場に父親を迎えに来ているのは二人。

 入れていたパートを急遽休みにした由美と元々重要な予定の無かった優介が、学校がある娘三人組の代わりに父親の迎えに来ているのだ。


 どこか暗い表情を浮かべている父親の姿に、優助が共に迎えに来ていたもう一人の女性に視線を投げれば、その彼女も優助に同意するように頷いてみせる。



「私と遊里は高介さんに散々助けられましたから……迎えに来ただけの私が謝られてしまうと逆に私達の立場がありませんよ。それよりも、これまで助けられた私の主観でしかありませんが、高介さんのような方が人を傷付けるような事件に関わっているとは思えません。何かできるわけではないですけど、高介さんの疑いが晴れるためにできることは何でもお手伝いします……いいえ、お手伝いさせてください」

「……まあ、面倒ごとに巻き込まれる可能性もあるから関係ない二人はウチから離れた方が良いって俺は言ったんだが、由美さんも終始こんな調子なんだよ。結局、俺達は誰も、お父さんが何か悪いことをやったなんて微塵も疑ってない。これまで散々見てきたお父さんの帰りを俺達家族は待っているんだ。父さんが俺達に何を隠していたとしてもな」


「……そうだよね。ごめんね」



 それでも暗い顔をして謝罪を口にする高介に、苦笑を溢しながら優介と由美が警察署から彼を連れて帰っていく。


 犯罪を疑われている家族の無実を信じて、支えるようにして帰って行く彼らを見届けながら、佐取高介を無事に家族の迎えに引き渡した警察官は、安堵したように深いため息を吐いた。



「どうにか無事に聴取を終えられたか……」



 自分に対して感謝するように頭を下げながら去って行く三人を見送り、神楽坂上矢は凝り固まった肩をほぐすために軽く筋を伸ばした。


 一夜明け、家族に連れられて無事に帰っていく父親。

 お願いされていた、警察での強硬的な捜査防止と捜査情報の流出防止を自分が無事に果たせたことに安堵しながら、神楽坂は未だに『佐取高介』に疑いの目を向けている他の警察官を牽制するように見遣った。



(……話を聞いて、科学的では無いにしろ整合性の取れている内容に犯人としての疑いが薄いとは思っても、提出された証拠とやらの存在に思考が囚われている奴が何人かいるな。本来ならここから地道に他の証拠を探すんだろうが、今回の事件の場合二十年も前の未解決事件だ。佐取が気にしていた強硬な捜査をしようとする連中が出てくる可能性は確かにある。もし佐取高介という男性を本気で陥れようとする人物がいるのならより一層――――)


「――――お疲れ様でした神楽坂先輩☆」



 コツッと、神楽坂の頬に温かいアルミ缶が押し当てられる。

 もう何度目か分からない、自分の意表を突くようなことをするこの人物が誰なのかを直ぐに理解した神楽坂は軽く眉間を揉みながら、その人物へ振り返った。



「飛禅、お前も朝まで残っていたのか。大変だったな」

「あはっ☆ そんなテンション下がるようなこと言わないでくださいよ☆ 世紀の未解決事件なんですから、犯人の疑いがある人に対して万全の警戒をするのは当然じゃ無いですかぁ…………はぁ……」

「ため息が漏れてるぞ。まあ、お疲れ様。取りあえず、さっきの人は異能どうこうを知っているようには見えなかったな」



 あっという間に自分よりも上の階級へ駆け抜けて行ってしまった後輩、飛禅飛鳥が押しつけるように渡してきた缶コーヒーを受け取りながら神楽坂は笑う。

 異能犯罪の被害があらゆる場所で話題となっている今、異能犯罪の疑いがあるものに対して対応できる人材を配置するのは当然である。

 犯人の確保と被害を未然に防ぐことを考えると、なによりの方策。


 とはいえ、その組織の方策の為に疲労困憊になっている後輩の姿を見ると、神楽坂は頑張れと言うよりも休めと言いたくなってしまう人物なのだ。



「飛禅、ひとまず一息入れたらどうだ? 一杯くらいなら俺も付き合えると思うが」

「あー、申し出はありがたいんですけど、それより私は気になることがあってですねぇ……こうして私一人で神楽坂先輩の元に来てる訳なんですが……」



 疲れたような半目をしながら、神楽坂の隣に立った飛鳥がこっそり質問する。



「あれ、ガチであの子のお父さんなんですか?」

「……そうだな。昨日連絡を受けたし、前に迎えに来たときに俺は直接会ってもいるからあの人がお父さんで間違いない」

「ですよねー☆ 顔もちょっと似てますし名字とかモロですもんねー☆ あはは」



 事態の深刻さを悩むようにしてそう返した神楽坂とは異なり、自分の考えが正しかったことを理解した飛鳥はニコニコ笑いながら自分の携帯電話を確認していた。


 そして、自分の携帯電話を確認し終えた飛鳥の額に青筋が浮かんだ。



「あ、今日になって私に連絡してきてる。えへへ、私には今日で、神楽坂先輩には昨日なんですねー? あははー…………はー? 神楽坂先輩に比べて私への連絡遅すぎない? ちょ、この差っていったいぜんたいどういうことなんですかね? 前々から思っていましたけど信頼度とかそういうのの差があったりします? もしかして初対面時の私の態度がまだまだ尾を引いていたりとか? そろそろ本格的に神楽坂先輩とのこの格差をどうにかして埋めたいんですけど? いい加減私の方が後回しにされるのどうにかしたいんですけどぉ⁉ あ、ちょっと本当に腹が立ってきた。あいつ今どこにいるのかしら……!」

「飛禅、落ち着け」

「あでっ⁉」



 飛鳥は自身の不満をこれでもかとばかりに表情で露わにして神楽坂を睨むが、当の神楽坂はどこ吹く風。

 飛鳥の眉間を軽く小突いた神楽坂はくしゃりと自分の髪を乱雑に掻き上げながら、冤罪を塗られているだろう家族の背中を見遣り表情を険しくする。



「たまたまだよ。いくら大人びていようとも、子供が自分の親が殺人事件の犯人に仕立て上げられようとしている状況で平静でいられる筈がないだろう。そんな気配りまで求めるな」

「……神楽坂先輩ってあの子のこと、本当に一貫して子供扱いするんですよね」

「高校一年生は子供に違いないだろ? 確かに佐取は成熟した価値観を持っていると思うが、色々と詰めとか見通しとかが甘い子供らしいところも飛禅だってよく見てる筈だ」

「私が言いたいのはそういうことじゃ無いんですけどね。まあ、いいです。なんとなく、私より先に神楽坂先輩を頼った理由が分かっちゃいましたから」



 肩をすくめた飛鳥が溜息を吐く。

 この無駄に年寄り染みた大人の余裕というか、相手の状況を思いやれる寛大さと善良さがあのポンコツの懐きポイントなのだろうと再確認して、飛鳥は少しずつでも真似していこうと心に決める。



「ま、取りあえずお父さんに掛けられた嫌疑の関係は私と神楽坂先輩がどうにかできるレベルの範疇ですし状況は悪くないんですから、あの子がテンパって大暴れしなきゃ良いんですけどね」

「そ、それは、大丈夫だろう…………多分」

「あの子の異能があれば大概の異能持ちが相手でも対処できるでしょうし、何なら私とか神楽坂先輩が下手に関わるよりも上手くやるんでしょう。現にやって欲しいことはメールしてくれている訳ですから、何か助けを求められたときだけ助けにいくのと、何かしらの情報が得られれば伝えておくくらい考えておきますか」

「情報か。とはいえ、俺達が何かを言う前に知っていることも多いし、何か別の優秀な情報源があるようだから、俺達の情報が重要になり得るということもない気はするが。俺の方でも何かあったら、飛禅とあの子に連絡する」

「はい、よろしくお願いしますね☆ くれぐれも……良いですか? く・れ・ぐ・れ・も、私をハブるみたいなことはしないで下さいね☆」

「分かってるから、そんな怖い顔するな。ちゃんと職場では猫を被れ……」



 そんな言いたい放題言い終えた飛鳥が「それじゃあ」と、さっさと背を向けて帰ろうとしたものの、ふとあることを思い出したように振り返った。



「そういえば、あの子のお父さんが言っていたアレ。【まっかな怪物】の話を聞いて、神楽坂先輩はどう思いました? 私一つ懸念事項というか、違和感を覚えた点があって……」

「……何が気になったんだ?」



 不穏を感じるような飛鳥の言葉に神楽坂は表情を硬くして先を促せば、飛鳥は少しだけ躊躇うような口調ながら自分の考えを口にする。



「異能を全然知らない人の証言だからか色々不明瞭な部分もあったんですけど、彼が隠し事を一切して無くて、証言全て真実と仮定して考えたとき。【まっかな怪物】という名称を付けられたソレが様々な姿をしていたというのが気になったんです」

「様々な姿をしていたというのが気になるのか? だが、異能で物体や体躯を変化させる程度は今更違和感を覚えるような物じゃ無いと思うが……」

「単一個体が変化していたというなら全然問題じゃ無いんです。でも、あの人の口ぶりは様々な姿をしていた【まっかな怪物】というもので、別個体として認識していたような口ぶりでした。そんな別個体で様々な姿の襲ってくる存在を正体不明の怪物達ではなく纏めて【まっかな怪物】と呼称しますかね。それほどまでにまっかなという名称は、それぞれの姿形に的を射ていたものだったんでしょうか。……だから、もしもですよ。その存在に色んな姿を取っていた怪物が一体でなく複数体であったなら、意図的にそんな特徴を持った様々な姿の怪物を作っていた存在がどこかに居る可能性がある訳ですよね。その存在が、人を襲う怪物を作り出す異能と、【まっかな】という特徴を持った怪物をあえて作り出していたと、そうやって考えた時、ですね」



 そんな様々な仮定を踏まえて、飛鳥は腕を組みながら顔をしかめた。



「その外見をどこまで意図的に作り、どこまで中身を整えられる自由性を持っているのか。怪物の、異能体と呼ぶべきそれの作成能力がどれほどのものなのかが、少しだけ気になりまして」





 -1-





 昔、私がまだまだ幼く小さかった頃。


 お母さんが病に倒れ、衰弱し、命を落とした後、焦燥とするお父さんと喪失感に震える私達兄妹の前に現れた人達がいた。


 彼らを見て酷く怯えたような表情をしたお父さんが私達兄妹を守るようにしてその人達と会話していたのを、よく覚えている。

 後から聞いた話だが、それは今までお父さん達の話の中にも出てこなかった、会ったことも無かったお母さんの親族達だった。


 曰く。

『自分達は母親の親族である』

『母親は出来損ないであったが子供達はそうでないのがいるように思える』

『自分達が優秀な子供を引き取って、相応しい教養を施そう』

 そんな身勝手極まりない主張をして、動揺しながらも拒否するお父さんに対して、散々な言葉を浴びせた。


 何度も何度も。

 彼らはお父さんのことなど何一つ配慮しないまま、私達に攻撃を続けたのだ。

 毎日のように家にやってきては、最愛のお母さんを亡くしたことを未だに受け入れきれずにいたお父さんに対して金品や与えられる教養の違いを比較として持ち出し、お前が勝手に駆け落ちしたのだろうとなじって。

 ボロボロの精神状態になりながらも、それでも私達の引き渡しを拒否していたお父さんが、何かしらの圧力によって働いていた職場を辞めることとなって。

 お母さんの墓の前に現れて、遺灰すらも自分達の所有物だと主張するのを前にして、悔しさを滲ませる兄と怯える妹と、お父さんの心が死に近付いていくのを目の当たりにして。



 だから私はその時初めて、物心つく前から備わっていた自分の才能を悪意を持って使用した。



 黙らせて。痛めつけて。弄り回した。

 恐怖し、狂乱し、自傷し、親族同士で争う彼らを“精神干渉”の力で徹底的に攻撃した。

 家族達の目に見えないところで、精神を変質させる力で、私は家に押しかけていた親族のみならずどこか遠い場所にあったお母さんの実家も、逃げ帰った一人を起点とすることで壊滅させた。


 お父さんを追い詰め、私達兄妹を引き裂こうとする根本を全て、私は根絶やしにしたのだ。


 きっとお父さんも、お母さんも、私のそれを褒めてくれないのは分かっていた。

 優しさの欠片も無い、非人道的で悪辣な手段を用いた私は、きっと誰にも許されないことを分かっていた。

 多くの人の精神を完膚なきまでに破壊して、自分の邪魔にならないよう調整した私の悪性は、到底優しい人達に許容されるようなものでは無いと分かっていた。


 でも、それでも良かった。

 私にとって一番大切なのは家族だ。

 私のことを大切に思ってくれる彼らが、本当に幸せになって欲しいと思っている。

 だからその時から、家族の誰かが別の人間に陥れられるのも、傷付けられるのも、悪意に晒されるのも絶対に許さないと心に決めた。

 どんな手段を用いても、どんな風に異能を使おうとも、私は絶対に家族を守ってみせるのだと決意した。


 これまでそうして生きてきた私だからこそ、分からないのだ。



(…………なんで私、この人のこと助けてるんだろ)



 変質していた体の様子が落ち着き、荒かった呼吸がすっかり元通りになっている男性が自分の状態が落ち着いたことに驚愕しているのを見て、私はふとそんなことを思う。


 こんな傍迷惑なへっぽこ探偵。

 異能を使って攻撃しなかっただけで、保身やお金に目がくらみ、お父さんを陥れる役割の一端を担ったことを私は未だに許していないし、悪意が無かったからといっただけで納得するつもりも一切ない。

 だって、私が異能を持っていなかったり、警察に神楽坂さんや飛鳥さんのような連絡を取れる人が居なければ、下手したらお父さんはそのまま罪を被せられて家族は離散することとなっていたのかもしれない。


 悪意が無かったから、事情があったからといって許せるようなものではないし、他に優先して倒すべき敵がいて都合が悪いから、放置していただけなのがこの人達なのだ。


 窮地に追い込まれた状況になっていたとはいえ、自分の異能の一端を見せてまでそんな人を助けるなんて判断は、これまでも私の行動基準から考えて逸脱しているし、最善とは思えない。



「……ま、こんな場所でひとりぼっちになるのは怖いから」



 それでも、自分のこの選択を間違いとは言い切れなかった私は、思わずそんな言い訳染みた独り言を漏らしてしまう。


 無意識に出た自己弁護するような独り言だっただけに、無性に恥ずかしくなってしまった私が気を取り直すためにベシベシ自分の顔を叩いていると、涙混じりの話し声が聞こえてくる。



「叔父さんっ……良かった……本当に良かった……」

「涼っ。そんなにしがみつかないでくれっ、まだ周りに同じような奴らがいる可能性だってあるんだからっ。それに、前々から言っていることだけど、もう少し自分の、慎みを持つような行動をするようにだな……」

「叔父さんが無理するからっ、僕を一人にしようとするから悪いんだっ……! 勝手に危ないことをして、勝手に僕のことを助けようとするからっ……」



 窮地を脱したへっぽこ探偵達が、仲良く引っ付き合ったままお互いの無事を確かめている。


 子供と親。

 そんな関係性にも見える二人のやりとりを目の当たりにさせられて、文句をいくつか付けてやろうと思っていた私の怒りは少しだけ削がれてしまう。



「……あの、貴方達の仲が良いのはいいんですけど、今はちょっと早めにこの場所から脱出したいなぁって状況でして。私もう貴方達を置いていっても良いですかね?」

「い、いやっ、待ってくれ山田ちゃんっ……! 君に置いて行かれたら俺達はっ……」

「叔父さんっ、さっきまで体調悪かったんだからそんな急に動かないでっ。まだ体調が良くない可能性だってあるんだからっ……!」

「ま、待ってくれっ、直ぐに涼を落ち着かせるから……!」


「……まあ、確認もしたかったこともありますし。もう少しだけ待ちますから、その子のことをさっさと落ち着かせて下さいね」



 これ以上構っていても収拾なんて付かないだろうと、床でゴロゴロと醜い争いをしている二人を放置する。


 私は“精神干渉”の力で叩き潰した獣頭の追跡者残骸に近付く。

 頭に被っていた獣頭と、身に付けていた着物と、まっかな液体が飛び散っている悲惨な状況に顔が歪むのを自覚しつつ、私はこの追跡者に対してとある危機感を抱いていた。



(……コイツら、異能の出力を感じ取れなかったし、思考も読み取れなかった)



 容易く倒せた。

 結果だけを見ればそうかもしれないが、楽観視できないだけの事情が今の私にはあった。


 それが、この獣頭の追跡者からは全く異能の出力も、思考も感知できなかったという事実。


 追跡を受けていた際に何度も試した読心は機能しなかったし、私の異能探知能力に待ち伏せしていたはずのもう一体の存在は引っかからなかったのだ。

 だからその事実に危機感を抱き、私は床に転がっている凶器の鉈に付着した血液とは別の、それらに付着したまっかな液体の正体がなんなのかを考えながら、観察する。



(私の異能の探知に何一つ引っかからない厄介な相手……存在から私の異能の穴を潜るような相手だったのか、それとも単純に知性を持たない個体であり異能出力の感知を防ぐ術を持っているのかが分からなかったけど、私の対応手段が有効だった以上後者が濃厚。このへっぽこ探偵達を囮にして大体の性能を観察することができたのは助かった)



 私の異能の対象となる知性体の範囲。

 そのギリギリを踏み越えている可能性がある相手だっただけに攻勢の手を迷わせていたが、無事に通用して正直助かった。



(マキナを作り上げた時と同様の『精神確立→精神干渉』による攻撃。これが通じると分かったのは大きい。液体人間みたいな“読心”の貫通を防ぐような感じじゃ無かった以上、単純に知性を持たない個体だったと考えられる。そうなると、一定の命令を組み込まれただけの機械のような異能装置。それがコイツら、獣頭の正体だったと仮定できる。それに、こうして観察してみると予想していた通り……)


「……形が潰れた今は、このまっかな液体からは異能の出力が僅かながら感じ取れる。つまり、明確な意思と悪意を持って、さっきのへっぽこ探偵の変異を引き起こそうとした人物がどこかにいる」



 床に広がった液体が、先ほどへっぽこ探偵に掛けられたものと同様であり、人体に対して何かしらの影響を及ぼし得る力を持ったものだったのだと確信した。


 へっぽこ探偵に掛けられた例の液体は、人体に変異を引き起こす異能の力を持ったもの。

 今回、体に変異を与えていた原因である異能を外部から探知し、侵食を受けていたへっぽこ探偵に“精神保護”を、原因である異能に対し針のようにした“精神破砕”で機能を破壊することに成功し一命を取り留めさせた。


 無事に人体の変異への対処ができ、一人の命を救い出した。

 天才美少女燐香ちゃんは異能によるあらゆる攻撃に対して適切な対処を行える超絶偉才の完璧ちゃん、なんて言えれば良いのだが、今回のこれは結果的に上手くいっただけに過ぎない。


 そもそも私の異能は精神に干渉するだけの力である。

 単純な異能出力を使用して、相殺ないし効果を破壊するという荒技で誤魔化しているが、人体の変異に対する治療なんてものは全くこれっぽっちも専門分野では無い。

 むしろ精神ではなく肉体的な傷病なんて、私ではどうしようも無いもの筆頭なのだ。


 それがどうにかなったのは、現象に変化しきる前の異能の起点を特定できたという理由があったから。

 あとほんの数分遅ければ、或いは私が目の前におらず、異能の起点に手が届かなければ、肉体の変異を止める術を持たなかったへっぽこ探偵は何か別の物に変わり果てていたのだろうと思う。



(この液体に触れるのは依然として危険。実際に触って状態を確かめてみたかったけどそれもしない方がよさそう。私だけだと対処が難しい異能がここに来て出てくるなんて……いや、それよりも今気にするべきなのは……)



 なんで私の探知能力にこの出力が引っかからなかったのか。

 その疑問こそが、今の私にとって最も警戒するべき点である。


 過去対峙した異能の出力を完全に遮断する外皮を作り出していた存在を思い出しながら、目の前の床に溢れた液体からしっかりと感じ取れる異能の出力に困惑する。

 知性が無い異能装置であるなら、私のように外部に出力を微塵も漏らさない完璧な異能操作ができるなんてあり得るような話では無い。

 だが逆に、そんな存在の残骸を解析して異能の出力を遮断できるような性能を目の前の残骸が所持していないことも確認できている。


 異能操作でもない、出力の遮断ができる性能でも無い。

 もしも活動時は異能の出力を遮断できるような性能を発揮するのであれば、それは一体どういう異能であるのか、他の可能性としては何があるのだろうかと考えながら、私は視線と共に思考を周囲に広く巡らせていく。


 可能性を模索して、状況から推理して。


 集めた情報、関わっている人、或いはお父さんの話を思考の一部として。


 そうやって色々と考えていた私は本当に唐突に、随分昔の言葉を思い出した。



『――――いいかい。基本的に異能の出力は骨髄、或いは心臓で作られ、血液によって運ばれ、脳によって異能の現象へと変換される。異能を持つ奴から異能の出力が感じ取れるのは、運ばれる過程の微量の出力や現象に変換した時の無駄な出力がどうしても体から溢れちまうからなのさ。自分の爪の伸びる速さだって調整できない私達人間は、体内で循環する出力や思考から現象へ変換する出力の漏洩を完璧に制御することはできやしない。だから、どれだけ制御を完璧にしようとほんの微量の出力は漏れる。異能を持つ人間は完全に異能の力を隠すことができないってのが私の持論さ。……ひひ、随分不満そうじゃ無いか? まあ、それでも誰にも出力を気取られたくないなんて無茶を口にするのなら、自分の体の心臓や脳での異能変換機能の全てを完全に制御できるようになるか、この世の異能持ち全ての感知能力を上回る程の制御や裏技を身に付けるしか方法は無いんじゃないかねぇ。少なくとも今の私の価値観ではそう思っているよクソガキ』


「うげぇ、この前直接会ったからやけにはっきり思い出しちゃった……」



 昔言われた嫌みを思い出して、思わずゲッソリと肩を落とす。

 私なりに色々と異能というものの在り方を考え学習してきたが、あの短い二週間という期間であまりに先人として優秀だった人物から知識として教えられたものも多かった。

 ……まあ、とは言っても、その教わった知識を私は実際に正しいのか色々試行錯誤した際に間違っていると確信したものもいくつかあったのだから、完璧な師であったとは思っていない。


 短気で、嫌みったらしく、寂しがり屋で世話焼きな人だったと思っている。


 ただ、今回の思い出したその言葉は私が直面しているこの状況に対して、参考となる要素が存在していることに気がついた。



「……もしかして、だけど」


「――――す、すまない山田ちゃん。なんとか涼が落ち着いた。これからのことを話せればと思うんだが……」

「ご、ごめんなさい山田さんっ。動揺していてですね……ぼ、僕達って君のこと山田さんって呼んでいて良いんですよね……?」

「涼……? 一体何を言って…………いや、待て。俺は、俺達は山田ちゃんという人物を、知らないはず……なのか? まて、まてまて、なんで今まで気がつかなかった? 今まで会ったことも無かったはずの君のことを俺はどうしてっ……⁉ 君は、一体……」


「…………えっと、取りあえず、脱出場所を変えましょう」



 思考を遮るアホへっぽこ探偵達に、やっぱりこの人達は敵陣営で、わざと私の邪魔をしてきているんじゃないかなんて、自分の異能によって調べ上げていることを棚に上げてそんなことを思ったのだった。





 -2-





「……やっぱりそうですよね」



 想像していたとおりの惨状に私はそう呟いて、手にしていたペンライトを地面に置いてから、そっと両手を合わせた。

 そんな私の後を追ってきていたへっぽこ探偵達も、私と同様に目の前の光景を確認すると息を呑み、言葉を失っている。



「三人の死体……さきほど聞こえた悲鳴はこの人達のものだったんですね」



 私達は、玄関口から脱出を遮るように獣頭の怪物が現れたことを踏まえ、こちらの動向が監視されているのかを確かめるために、脱出場所を急遽変更した。


 玄関からの脱出では無く、破壊された窓からの脱出へ。


 私がまだ敵の大本を補足できていない状況で、私達の行動が常に把握されているのかを危惧した結果見付けたのが、この地面に転がる三人の死体だった。

 そこはちょうど、私とへっぽこ探偵達が最初に獣頭の怪物と接触した際に悲鳴が聞こえた場所。


 異様な姿となっている彼らの死体に、へっぽこ探偵がぽつりと呟いた。



「さっきの悲鳴の人達……? 確かに場所としてはちょうどその場所かもしれないけど……この人達は……」

「なんというか、ミイラみたい……だよね?」



 ささやくようにして呟かれた単語に、私は内心同意する。


 ミイラ。

 痩せ細り、干からびたような人の姿。

 数百年、数千年単位の時を経たような見た目をした三人に、へっぽこ探偵達は私のつい先ほど襲われた者達では無いかという言葉を否定する。


 確かに、この三人のミイラのような姿だけを見れば、彼らがつい先ほど襲われた人達とは思えないが、私は彼らに見覚えがあった。



「……彼らの服装や持っている物が、私がこの山を上るときに見た人達のものに酷似しています。彼らが最初から作り物でなかったのなら、つい先ほど悲鳴を上げた犠牲者の方々と考えられるかと」



 彼らは私がこの山に登ろうとした際、どこからか立ち入ってやろうと考えていた若者達。

 着ている服、付けている装飾、持っている鞄など私が見たままであるし、それはほぼ間違いないだろう私は考えていた。


 つまり、何かしらの非科学的な要素によって、彼らはミイラのような姿に変貌している。


 だがまあ、どうせ異能のいの字も知らない彼らが私一人の証言など信じる筈も無いだろう。

 異能を知らない者からすれば、非科学的な力による現象と考えるよりも私の証言を嘘だと考える方が普通の筈だ。


 だから、それ以上何も言及をするつもりがなく彼らを一瞥さえするつもりも無かった私だったのだが、後ろでこそこそ様子を見ていたへっぽこ探偵達は変なことを言い始める。



「なるほど……けれど、そうなると、つい先ほど殺されたこの人達がミイラ化しているのは……いや、そうか。二十年前の事件の際、血液を抜かれたような死者がいたというあの話とこの状況が酷似しているのなら。二十年前の事件を引き起こした犯人と、この人達を襲った犯人は同じ手段を用いている可能性がある訳か…………今世間を騒がせている超能力とやらを結びつけるとするなら、その点か……?」

「それは……人をミイラにする超能力を犯人が持っているってことなの叔父さん?」

「……直接超能力と呼ばれる現象を見たことが無い俺はその特殊な力がどういったものなのか掴み切れていない、けれど……」



 私は驚き思わず振り返る。

 三人の遺体を確認しながらも、至って真剣に、普通ならあり得ないような推理をへっぽこ探偵は続けていた。



「ミイラに似た状態……先ほど俺に掛けられた液体……限られたそれらの点も共通すると考えるなら、【血液】に関する力がこの場の超能力には関わっているんじゃ無いかと思っている。あくまで何も超能力について知らない素人の意見だとは思う……」

「……へえ」



 へっぽこ探偵から出た推理が自分の考えに近かったことで声が漏れる。

 この人はなんだかんだ探偵業というものを営んでいるのだから、当然頭が切れる。


 私が知らない情報も、この人は知っている可能性がある。

 私が思いつかない可能性も、この人は気がつく可能性がある。



「血液を操る異能と仮定しましょう」



 そう理解した私は、考えを続けているへっぽこ探偵に向けて質問した。



「先ほどの追跡者が血液を元に作られた何らかであったなら、あれほどの体積となるには一体何人分の血液が必要になるでしょうか? それはどこから調達したと考えますか?」

「そ……そんなことをいきなり言われてもなぁ……何か要素があれば別だが、今の情報だけでは、少なくとも超能力に知見がある山田ちゃんには分かっても俺には……」

「私達は既に複数の要素を直接目の当たりにしている筈です。追い掛けてくる怪物、襲われた被害者のミイラ化、貴方を変異された赤黒い腐臭のする液体。そして貴方がこれまで調べ上げたこの場所の歴史は、貴方の推理の骨組みになると思いませんか?」

「…………」



 私からの問いかけに対し気圧されたように口を噤んだへっぽこ探偵。

 何も答えられなくなっているへっぽこ探偵の状態を見て、慌てて丸眼鏡の少年が割り込んでくる。



「や、山田さん、叔父さんはそんな超能力の事件を推理できるような凄い探偵じゃなくて、本当に趣味で、探偵をやってるようななんでもない人だから……」

「なんでもない人、それが一体何だって言うんですか? この状況に陥った貴方達が助かるのに、この人が凄いかどうかなんて何が関係するのですか? 凄くても、凄くなくても、必死に情報を整理して対策を考えることを止める理由にはならないんです」

「う……」

「別に分からないと思考を放棄するならそれで構いません」



 少しでも私が正解にたどり着く補助となる推理をしてくれればと、そんな下心での問いかけだったのだが、表情を険しくしたへっぽこ探偵は悩むようにしてゆっくりと口を開く。



「……いや、涼。山田ちゃんの言うとおりだ。曲がりなりにも探偵を名乗っているのなら俺は少しでも頭を使って打開策を見い出すべきだろう」



 そう言って、へっぽこ探偵は私の隣に歩み寄ってしゃがみ込むと、ミイラ化している三人の死体の様子をじっと観察する。

 すっかり日が暮れてしまった宵闇の中、素人目にも分かるほど大きな刃物による傷が三人に付いていることを確かめて、へっぽこ探偵は目をつぶる。



「彼らが本当につい先ほどまで生きていたのなら……前提として彼らの体を干からびたような状態にする術を犯人は持っていることになる」


「俺に掛けられた液体が腐ったような匂いを発していた。まるで、長年放置されたような腐敗臭。それはつい最近のものではない、随分と古い血液のようなものだったと感じた。そしてその古い血液を利用できる技術の存在は、人を干からびさせる技術とは理論上共存できる」


「血液は凝固性を持つもので、本来は固まるものと考えるならば、当然そんな古い血液なんて保管できないはずだが、それを為さないようにする技術を長年所持していたのだと予想できる。だからこそ、人を変異させる血液を扱うという、非科学的な力を犯人が持っている可能性は高いと思える」



 その上で、と。

 自分の推理の補強を口にした探偵はようやく、私の質問への解答を始めた。



「俺達を追い掛けてきたあの存在、超能力の力によって変動はあると思うが体積を考えるとそれなり以上に必要な血液は多くなるだろう。心当たりとしては……この山は昔、罪人を裁く処刑場として利用されていた。神埜の当主が、罪人を死後に神の元に導くためだと処刑場としての役割を快く受け入れていたと伝えられているが、その真意が別のところにあるとすれば――――この山に長年染みこませた罪人達の血液が、血液を操るという超能力によりあの怪物へ利用されているのかもしれない。神埜という家系が代々血液を操る超能力を引き継いできたというのなら納得がいく」

「…………なるほど」



 提示された想像以上の解答に、私は何一つ反論しないで頷いた。

 この地の情報も、これまで襲ってきた相手の分析も、被害者の状態も、全てを考慮した上で相手が持つ武器を考察して見せた目の前の探偵の解答は、複数の部分で私を納得させてくる。


 それくらい、探偵の推理には合理性があるように思えたのだ。


 だが探偵の推理が正しいとなると問題は、私がこれまで信じてきた異能の常識。

 異能と呼ばれる力は一個人が特異に目覚める才能であり、一族や血脈で継承されていくようなものではないという点だ。



(家系に引き継がれる異能の才能なんて無い。ましてや同種の異能を先祖代々引き継いでいるだなんてものは存在しない。これまでの私が知る限り、調べた限り、御師匠様の考え的には、その筈なんだけど……)



 勿論自分の常識が絶対不可侵で覆らないものだとは考えていない。

 だが、長年積み上げてきた自分の考えは容易に覆せるようなものでは無い。

 自分の中の常識を覆せるのは、いつだって外からの力が必要なのだ。



「凄い……叔父さんが本当に探偵みたいな推理をしてる……」

「涼……俺は一応探偵業を営んでいるから頭脳労働タイプではあるんだよ。……いやそうだ、山田ちゃん少し待ってくれ。俺は探偵業としてのコネクションを使ってこの場所に潜入する前に色々と情報を集めてあるんだ。きっと何か役に立ちそうなものもどこかに……!」



 そんなことを言って探偵が自分の懐を漁り始めたのを眺めながら、私はこの人の推理を聞いた自分の判断は正しかったのだと確信する。



(まあ、間違いなく私一人だったら出るか分からない推理だったから、この人の推理が聞けて良かった。ただ、この人が今言った推理が全部正しいことが確定したわけでも無いからそのことを考えた上で、この人達と協力して事件の真相と、異能の出力を感知できない理由と、読心が通らない理由を見つけ出すことができればかなり有利に――――)


「おっと……」



 慌てた探偵の懐から、私の足下にメモ帳が落ちた。

 落とした簡素なメモ帳には、情報を集める職業らしく様々な書き込みや付箋が貼り付けられており、挟み込まれていたいくつかの写真も飛び出している。


 少し古さを感じさせる二枚の写真。

 その写真の、どこか見覚えのある人達の姿に私は思わず息を呑んでしまった。



「……お父さんと……お母さん……?」



 今のお兄ちゃんよりももう少し上くらいに見える二人の姿。

 大学生くらいで今と変わらず優しそうな顔のお父さんと、笑顔なんて微塵も無い着物姿のお母さん。


 なぜ探偵であるこの人が私の両親の写真を持っているのか。

 一瞬だけ頭に浮かんだそんな疑問は、続けて頭を過った一つの情報に掻き消される。


【針山旅館殺人事件があった日、佐取高介は女性一名と共に警察署に助けを求めて駆け込んだ】


 女性一名。

 名前も出ていなかったその人物がいったい誰だったのか。

 そんな簡単なことを理解して、私は呆然とその写真をメモ帳ごと拾い上げた。


 メモ帳を拾い上げた私に対して探偵が何かを言ってきているのをぼんやりと知覚しながら、私はお父さんがこれまで針山旅館殺人事件について頑なに口を開かなかった理由をなんとなく理解する。



『御母様、緊急の報告ダ』



 呆然と写真を見詰めていた私に対して、唐突にマキナから報告が入る。

 私の反応も待たずに矢継ぎ早に続けられた報告は、ぼんやりとしていた私に思考に直接届く。



『明日この場所に、この針山旅館が近日再開することに対して、記者関係者や警察関係者、地域密着を謳う政治家が視察と挨拶に訪れル。どうやら未解決事件と異能犯罪に対して屈しないという姿勢を見せつけるためのもののようダ。多くの人が集まる中、この場所でこれ以上証拠集めに留まるのは推奨できなイ。現状御母様の父親に向けられた嫌疑も一応は落ち着いている以上、家に戻って守りを固め、事件の真相解明についてはマキナに任せロ』

「お父さんの今の状況は?」



 マキナの提案を遮り、重要なことを先に聞いた。

 お父さんがどのように過去の事件に関わったのか判明して、あの母方の親族達の行為のきっかけに理解が及んだのなら、なんとなく次に起こることは予想できた。


 だから、私はまだ姿も表さない悪意を持った相手にとって状況が整ってしまっているのかを確認するのだ。



『ム、ム? 何事も無いゾ。現在は聴取を終え家に戻っていル。情報面での攻撃も無く、警察からの監視体制も特になイ。一時的にではあるが御母様の父親は自由な状態ダ』

「そう……つまり今は、お父さんのアリバイは作られない状況ってこと……」



 突然持ち上がったお父さんへの疑惑。


 怪物が暴れられるよう作られた旅館に、依頼人をわざわざこの場所へ誘い出しての口封じ。


 聴取されているお父さんの情報をインターネット上にあげることもせず、異能による攻撃も行わず、警察の疑いの目を一時的に緩めさせている状況。


 そして、私がこの場所に来て実際に遭遇した、血液に関連性があると思われる怪物の存在。


 そこに明日、旅館の再開に合わせて多くの記者や警察官僚、政治家達が集められる。


 きっとテレビに中継される可能性すらあるのだろう。


 そう考えたとき、わざわざ捜査線上にお父さんを浮上させた理由も、過去の事件への捜査態勢を活発化させた理由も、たった一つの目的に集約されるのだ。



「……分かった……分かったわ。この犯人の目的が……」



 お父さんに掛けられようとしていたのは、過去の未解決事件の罪じゃない。

 これまでの姿の見えない相手の行動は、お父さんをこれから引き起こされるだろう事件の犯人として仕立て上げるための下準備に過ぎなかった。



(そして、そのための手段は多分すでに私の前に――――)



 一人呟きだした私に対して驚いたような顔を向ける、直接暗躍相手と遭遇している筈の探偵と丸眼鏡の少年を確認して、私は自分の異能の力を起動させた。






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― 新着の感想 ―
更新待ちきれなくて、こっちに来てしまった… 本当に面白いです!作者さまのペースで更新をお願いします… 燐香ちゃんのお父さんとお母さんはやっぱりここで出会ったのかな? もし血筋由来の異能を燐香ちゃんが…
いやこれは……下手すると燐香ちゃんが一族の悲願みたいな出自なのか……?
また読み終わっちゃった・・。続き楽しみ待ってます!頑張ってください。
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