なりたかった未来へ
!注意!
この話は2/2になります!
一つ前に更新した話がありますのでそちらからご覧ください!!
“百貌”は動きの無い燐香を視界の端に捉えながら、それを守るようにして立つ一人の男の姿を観察する。
その男に異能は無い。
体から漏れだす異能持ち特有の出力は無いし、これまで仕掛けた攻撃に対して異能によって防御や抵抗しようとする素振りも無かったし、何よりも読心で視る思考にも存在しない。
武器も持っていないし、なにか有効な切り札を持っている訳でもないし、この状況を覆す打開策も持ち合わせていない。
だから本当に、この場で唯一異能という才能を持ち得ないただの人でしかない相手であり、正真正銘自分に危険性の無い人物。
(……戯言で私の注意を引いて御母様の回復時間を稼ぐ、そんなところね)
大口を叩いておいて、出来る事はせいぜい時間稼ぎかと、“百貌”は内心嘲笑する。
そして“百貌”はその考えに付き合うつもりはない。
警戒が必要な人物が動かないのであれば、自分の想像外であったエクス・デウスの行動についての確認するのが先であり優先事項である。
制御はもとより、起動すらまともに出来ている自信のない絶対的な存在の調整すらしないのはあまりにも危険だと、先程の想定外の行動で再確認した。
だから分身体に男の相手を任そうという結論に落ち着いたのだが、それを指示する前にこれまで身を隠していた残りの分身体達が吠え始めたことで目を丸くした。
「相モ変ワラズ馬鹿ナ奴ダ! 異能ヲ持タナイオ前ゴトキガァ? 私ニスラ勝チノ目ガ無イオ前ゴトキガ、一体何ガ出来ル!?」
「……冷静さを欠くようなら私がやるけど?」
「所詮異能モ持ッテイナイゴミ屑ダ! コイツハ始末シテイインダロ!? 私ニヤラセロ!」
「はぁ、もう勝手にしなさい。私としてもエクス・デウスの確認がしたかったところだからね。いったい何に反応して動いたのか。単純に私を守ったなら話は簡単だけど……」
「スグニ終ワル!」
そしてそんな風に、まるで警戒するべき相手として見られていない扱い。
燐香とは違う、軽視とも言える警戒の無さを受け、神楽坂は改めて異能の有無が作るどうしようもない格差を実感して、自分の考えが正しかったのだと確信する。
「ああ、そうだろうな。異能を持つ人間と持たない人間。同時に相手する場合、どうしても持たない人間への警戒は疎かになる」
時間稼ぎだと判断して。
時間稼ぎが出来ないようにと考えて。
無警戒に一直線に目の前に迫って来た分身体に対して、神楽坂は小さく息を吐き出しつつ上着を脱ぐと、それを片手に持ち構えを取る。
液体である体を硬質化して、鉄材をも貫く槍のように変化させている腕を見詰めた。
高速でありながら自身の眉間を貫くように正確に飛来している硬質化した腕が、さらに変化の余地を残すよう、突き刺す腕の先端以外が柔らかな液体のままでいる事を確認した。
全てが自分の調べたとおりだと、神楽坂は判断した。
「————そしてお前が、必ず俺を始末しようと飛び出す事も分かっていた」
軽く身を屈めるようにして槍の様な腕を回避する。
そしてそのまま胴体目掛け走り抜けると同時に、上着を巻き付けた手で分身体の伸びた腕の液体部分を切断した。
伸ばした事で結合が緩んだ液体の腕程度、手刀ですら切断するのに大した力は必要ではない。
それくらい分身体の知能でも理解していたが、それを実際に実行する狂人などこれまで遭遇した事無かった。
それも以前、強酸によって物体を溶かし尽す光景を見ている筈の神楽坂が、何の迷いなく自らの手刀で同じ液体を切り落とそうとするなど、想像すらしていなかったのだ。
「オ前……!?」
「硬質化と同時ではどうしたって、一瞬で人を溶かし尽くすような強酸化は不可能だ。そして、切り離された先端部分は多少動かす事はできても即座に攻撃に移れるようなものじゃない」
「何ガサイコパスダッ……! オ前ノ方ガイカレテルダロウッ!?」
神楽坂が腕を槍とし伸ばしていた分身体の目の前まで肉薄する。
お互いの手が簡単に届く間合い。
分身体にとって相手が異能持ちであれば出力を弾く外皮の生成を選択する状況だが、接近してきた神楽坂は異能も持たないただの人間。
外皮の生成よりも肉体の強酸化が有効だと瞬時に判断した分身体が、体を生物を溶かし尽くす状態に変化させ迎撃の体勢に入るが、神楽坂はさらに深く身を落とした。
「馬鹿メ! オ前ガイクラ攻撃ヲ凌ゴウガ、私ニ対スル有効打ガ一ツモ無イオ前ガ何ヲッ」
足元。
強酸化していれば接している床が溶ける筈の場所。
その溶けていない床の上に立つ足を素早く足払いした神楽坂は、グラリとバランスを崩した分身体目掛け、上着を巻き付けた手で掌底を撃ち込んだ。
破裂音、あるいは破壊音。
分身体が腹部へ叩き付けられた衝撃に体をくの字にして吹き飛ばされた。
角度、重さ、威力、全てが計算され尽くした神楽坂の掌底により分身体は狙い澄ました場所へと吹き飛ばされ、屋上からその体を落下させられる。
五十階以上ある高層ビルの屋上から分身体の一体が落下させられた。
異能も持たない只の人間に分身体の一体が無力化された。
その事実に、この場にいる異能持ち達全員が驚愕する。
「……え? 嘘でしょ?」
空に浮かぶ球体の確認をしていた“百貌”がその状況に気が付き思わず言葉を漏らす。
何の攻撃手段も持たないと思っていた相手による思考外の手段はこの場に一瞬の空白を産み、続けて他の分身体達に屈辱の怒りを産んだ。
「神楽坂ッ、オ前ゴトキガッ!」
激昂する。
格下で、邪魔な相手で、常に腹立たしく思っていた相手に痛打を受けた事実に激昂する。
だから傲りを捨て、軽視を捨て、この存在を直ぐにでも始末するという目的だけを持って、残り全ての分身体達が一斉に襲い掛かった。
「神楽坂さん!!」
「……」
分身体の厄介さを知る燐香が思わず声を上げるが、神楽坂は焦りを見せないまま、溶けてほとんど使い物にならなくなった上着に視線を落とし小さく嘆息する。
「案の定、これだと間に合わせにもならないか」
酸から一時的にでも身を守ろうと腕に巻いていた上着はもう使い物にならない。
分かっていたそんな感想を呟いて、神楽坂は周囲から一斉に襲い来る分身体達を見遣った。
“液状変性”。
それは自身の体を液体へと変化させる異能。
液体の性質は使用者が思うがまま多種多様、そしてその異能が作り出す分身体は知性を持たせるとすると二十体が限界。
自分の体の一部を切り離す事で一定の知性を持たせ、命令による活動に幅を作らせられる。
そんな、異能の事。
良く知ってる。
良く知っているのだ。
恩人である先輩や、恋人であった女性を追い詰めた犯人が持っていたその異能の事は、事件後だって調べて、調べて……自分はいったいどう対処すれば良かったのかをずっと考えた。
どう対処していれば、自分は大切な人達を失うことが無かったのだろうと日常の隙間時間の度に考え続けた。
捕まって、牢屋で特段脱走しようとするそぶりも見せない憎しみの相手。
私刑などしないと決めて、彼らを法に則る形で処罰すると決めた相手。
だから使う機会なんて訪れないだろうそんな想定が無駄なんてことは、自分自身よく分かっていた。
それでも、過去に自分から色んなものを奪ったその異能に、また同じように奪われる事だけはしたくなかったから、神楽坂上矢はずっとそんなことを考え続けていた。
どうしようもなく無駄な行為。
無意味で、無価値で、徒労に近いもの。
ただそのおかげで、神楽坂は目の前にいるコイツの事が手に取るように分かる。
「三体、これで全部か」
静から動。
ゼロから百。
襲い掛かって来る分身体達を前にして微動だにしなかった神楽坂が、瞬間的に加速する。
取り囲むように襲い掛かって来た分身体達の攻撃をギリギリで躱し、躱し切れなかったものをほんの数センチ程度の軽傷で収め、それぞれの攻撃をそれぞれの攻撃に合わせて受け流した。
分身体同士の攻撃がぶつかる。
硬質化した刃と刃が火花を散らし、強酸の液体と液体が混ざり弾けた。
飛沫でしかないそれらですら触れた個所は痛々しい神楽坂の傷となる。
だが神楽坂は全身を焼くそれらを一切気にもせず、痛みなどまるでないかのように、全身を硬質化している分身体を蹴り上げ液体化しているもう一体にぶつける。
そして重なり合った二体の頭にボロボロになった上着を投げつけると、一瞬動きの止まった二体の分身体に下から持ち上げるような回し蹴りを叩き込む。
完璧な運動連鎖。
膝や腰、重心や関節、筋肉。
積み重ねられた経験と訓練が正しく機能し、完成された一つの技となる。
全てが理想的な動作をしたことで、異常なまでの威力となったその蹴りは、重なっていた分身体二体を纏めて上空へと跳ね上げ、屋上からアスファルトの地面へと落下させていく。
それはつまり、この短期間でさらに二体の分身体が無力化された事に他ならない。
「オ、前……」
「あと、一体だ」
愕然と、それこそ燐香と“百貌”が全く同じ表情でそのあり得ない光景を見る。
異能を持たない人間が異能の中でもトップクラスの凶悪さを持つ分身体を追い詰めているあり得ない光景を、驚愕の面持ちで見詰めている。
情況が良かった。
高層ビルの屋上という状況があったからこそ、神楽坂は分身体を遠くへ弾き飛ばすだけで無力化できているのだからそれはそうだろう。
情報を持っていた。
事前に液体人間の異能詳細をよく知っていたから、その危険性を考慮し対応する事が出来たという理由も間違いなく存在する。
因縁があった。
ずっと執念深く相手を調べ、常にどう動くべきだったのかを考え続けたからこそ、実際の戦闘となった今、ここまで一方的に追い詰められているという理由も欠かす事はできないものだ。
だが、そんな複数の理由があったにせよ、異能持ちが異能を持たない人間に一方的に圧倒される今の状況は到底あり得るようなものではない。
彼女達の価値観は間違いなくそうだった。
それが完全に覆る光景。
「……驚いたわね。こんなことが、本当にあるなんて」
「コ、コイツッ、“百貌”ッ! コイツニ“精神干渉”シロ!」
「あはは、貴女がそんなに狼狽するのは珍しいわね。まあでも、そうね。その人は流石に野放しに出来ない」
だからこそ“百貌”が動いた。
神楽坂という人物の危険性を理解した“百貌”が、エクス・デウスに向けていた注意をそちらに向ける。
「確かに異能を持たずとも渡り合える可能性は見せて貰えた。でもね、それは異能を持つ人間自身じゃない。貴方は私の異能をどう対処するのかしらね?」
「それはさせない! マキナ、合わせて!」
出力を感知した燐香が未だに体に掛かる負荷を押し退け、阻害に動く。
目に見えない強大な力による精神干渉を、あらかじめ神楽坂の精神を変化できないよう固定化する事で妨害する。
燐香とマキナによる妨害により“百貌”の企てた神楽坂への“精神干渉”は成し得なかった。
だが当然、複数の異能の対象となった神楽坂は自身の精神が圧迫され、言いも知れない苦しさで片膝を突いてしまう。
「……動かないと思ったら私の邪魔の為に準備していたのね御母様」
「イイヤ、充分ダ!!」
そして、その神楽坂のふらつきを狡猾な和泉雅の分身体が逃す筈も無い。
巨大な鉄球のように膨らませた腕で膝を突く神楽坂を横薙ぎに殴り飛ばし、下半身から蜘蛛のように複数の足を作り出してさらに追い打ちを掛ける。
「ぐっ……!」
「神楽坂さん!!」
屋上の端まで転がった神楽坂に分身体が襲い掛かるが、その瞬間負荷を受けたまま駆け付けた燐香が間に割り込み、強酸による攻撃を手に纏わした異能の刃で弾き飛ばす。
「ドケ、クソガキッ!!」
「轢き潰すっ……」
もはや一切の余裕なんて無いお互いの攻撃的な言葉。
そして、神楽坂を守る体勢に入っている燐香を追い詰める絶好の機会を逃すまいとする分身体の猛攻が始まった。
千変万化の液体人間。
液体化した体をあらゆる形へと変化させ、細部で硬質化や先鋭化を織り交ぜる攻撃。
そんな嵐のような攻撃に対し燐香は、マキナを“百貌”とエクス・デウスへの牽制に回しつつも、“精神破砕”と軽い“精神干渉”、そして読心の無い純粋な先読みだけで捌いていく。
(精神干渉による思考制限っ、その上でコイツの思考回路は何度も相手して分かっているからその先読みっ……! ギリギリで、何とか、マキナ無しでもやり合えてる、けど、さっきから異能を使いすぎてるっ……分かっているけど、どうしても完全上位互換の異能とやり合うのは……!!)
ズキリと針を刺したような頭の痛み。
鼻下を伝う液体の感触。
運動による疲労とは別の、激しい心臓の鼓動。
限界が近いのはどう見ても明らかであり、燐香自身ですら自分の身に危機感を覚える状態。
それでも次々襲い来る分身体の攻撃は少しも止まることは無く、自身の疲労を理解しながらも必死に異能と先読みを駆使して凌ぐしかない。
(コイツの神楽坂さんへの執着は異常っ……! 私がやらないとっ、せめてコイツだけは始末して神楽坂さんの命が奪われる状態は避けないとっ……! アイツがっ、“百貌”がどう考えているか分からないけど、楽観視は出来ないから)
自分が諦めれば、目の前の過去の自分により神楽坂が命を落とす。
あまりに攻撃的な分身体の行動を見て、そんな悪い想像が燐香の脳裏に過った。
コイツらの達成しようとする目的がエクス・デウスの起動だけで素直に終わるならまだ諦める選択もあったかもしれないが、そんな悪い想像が燐香にその選択を許さなくなる。
「コノ、ガキッ……! クソ……クソッ……!!」
手数を増やして、攻撃の角度や手段を変えてみても、どこまでも対応してくる燐香に好機が潰された事を理解した分身体が怒りをあらわにしながらも、一度大きく距離を取った。
その時間。
分身体が距離を取った事で稼げたその時間を使い、大きく深呼吸をしながら燐香は思考を巡らせる。
消耗した自分、ボロボロに傷付いた神楽坂、制限のあるマキナと、それらで打倒しなければならない敵戦力。
そうしたものへと思考を巡らせて、状況を勘案して、過程を想像して、そして最後に燐香の頭に浮かんだ結論は残酷だった。
(神楽坂さんが単身で分身体の数を削いでくれたけど……この状況を終息させるには、何も犠牲無く終わらせるのは難しい)
自分の異能を完全に上回る敵。
策も弄せないし、小手先の技術は通用しないし、何よりも今更自分にそんな余裕なんて無い。
今のままでは勝算なんて見付ける事が難しくて、敗北を認めても不思議ではない絶望的な状況。
達成不可能な無理難題を目の前に突き出されているような感覚に陥って、思考も何もかも投げ出したくなる。
————ただ、ここから目の前の全てに無理やりでも勝つ手段を取るのなら。
燐香は手に回した異能出力の刃をさらに限界まで異能破壊に特化させる。
極限まで研ぎ澄まし、無駄を徹底的に省いた高速旋回の異能の刃。
そんな異常な力を手に纏わしてどこか空気の変わった燐香の様子に、読心を仕掛けていた“百貌”が不審そうに目を細めた。
何かを覚悟した燐香が自分の躊躇を噛み殺して、異能の刃を纏わした手を開く。
(…………自分自身の過去にケリをつける。私の過ちで神楽坂さんの命が掛かっているなら、手段は選べない。やるしかないなら、やってみせる。私はもう自分を————)
「……佐取」
けれど、苦渋の選択をしようとした燐香の行動を神楽坂の言葉が中断させた。
自分と敵しか見えなくなっていた燐香が、その言葉で驚いたように顔を向ける。
「俺は、過去に何も出来なかった、逃げ回る事しか出来なかった相手に対してここまでやれるようになった。あのマンションで追って来る奴を佐取に任せることしか出来なかった俺が、ここまでやれるようになったんだ」
神楽坂は燐香の不審な動きに気が付いた訳でもないし、何か大きな目論見があった訳でもない。
本当に偶然、燐香の行動を中断させることとなった神楽坂は自分を仕留めきれなかった事に悔しさを滲ませている分身体を見遣り、血まみれの姿で「ざまあみろ」と口角を上げて笑ってゆっくりと立ち上がった。
立ち上がった神楽坂の分身体を殴打した手が、強酸によってボロボロに傷付き出血しているのを見て、燐香はそれまでの思考を中断する。
「神楽坂さん、何でこんな無理を……怪我が……」
「ああ、分かってる。あれだけこっちが一方的に攻撃していた筈なのに、飛び散った飛沫や液体の性質だけでここまで被害を受けているんだから、異能の有無っていうのはやっぱりどうしようもないくらい厚い壁だと改めて思い知らされる。その上で、佐取の助けが無ければ“百貌”には何も為す術が無かった……そう考えると、今のこの状況は少しも誇れるような結果じゃないな。ははっ、笑えて来た」
神楽坂らしくない様子に燐香は何が言いたいのだろうと困惑する。
そして困惑する燐香の表情を見た神楽坂は、安心したように少しだけ顔を綻ばせた。
「相手はただの分身体で、それを三体倒すだけでもこれだけボロボロになっているから、勝ち切ったなんて到底言えないような俺の状態だが、それでも俺はここまで出来るようになった。少なくとも俺は、以前出来なかった事に手が届いている」
「……そうですね」
「だからな佐取。歩いていれば、意識していなくとも結構先に進めているものなんだ。進んでいると自覚出来ていなくても、気が付いたらいつの間にか結構先に進めているものなんだよ」
自分が無駄だと思った行動が、実のところ踏み出した一歩になっているなんてこと良くある話で。
誰かに無意味と言われた行動が、結局のところ大きな結果を作る為の土台になっているなんてことも一杯あって。
自分ですら気が付かない内に過去の自分より先に進めていたなんてことは、いくらでもある。
そんな前置きをしてから、神楽坂は優しく口火を切った。
「佐取、君は“百貌”が絶対に勝てない自分自身の姿に見えているのか?」
「……」
心を読んだような問い掛けに何も返せない燐香に対して、神楽坂は続けて話す。
「俺は佐取の過去に何があったのかは知らないし、どんなことをやってしまって後悔しているのかも分からない。今“百貌”がやっている事が佐取の過去のやらかしなのかもしれないし、以前話していた異能の弱体というのが佐取の後悔している過去に深く関わっているのかもしれないが、それらだって推測の域を出ていない。俺はそれでも、佐取が話したくなければ無理に聞き出そうという気も無ければ、知ったからどうしようとも思わない」
「ただ、あの“百貌”を前にしてから、佐取がずっと諦めたような顔をしているのがどうしても気になって仕方なかった」
ずっとしていた、諦めたような顔。
無意識だったにしても、これまで対峙してきた常軌を逸した異能持ち達には決して向けなかったその表情のことが、神楽坂はずっと気になっていた。
傷だらけな上に皮膚が軽く焼けた顔で笑みを作り、ゆっくりと口を開く。
「以前言っていたように、佐取の今の異能は弱っているんだろう。出力と呼ばれるものも、異能が及ぼす効力も、佐取の過去の姿を模倣している“百貌”の方が上なのかもしれない。異能が同種で、あらゆる部分で完全に上回られている相手と戦うのは本当に大変だろう」
情況の悪さも、自分ではそれをひっくり返す力が無いのも理解していて、それでいて神楽坂が口に出したのは怒りでも悲嘆でも無い言葉だ。
神楽坂は、話を始めた自分の隙を突こうとしている分身体を見遣り、その後ろの強大な存在を見遣った。
「俺は、ここまで大きなことを実行できる異能を前にして、必ず解決して見せると断言できるほど自信家でも無いしその実力も無い。そんな大それた人間じゃなくて、自分や直ぐ近くの周りの人にしか目は届かないような小さな人間だ。だからこの場に世界の命運が賭かっていると言われても、意志の力だけで不可能を可能にするような事はできやしないんだよ……情けない話だが、ここで奴らに負けてしまうのも、俺は仕方ないと思ってしまっているんだ」
だってそうだろう。
神楽坂は異能も持たない只の警察官。
人一人を狙う盗みや傷害、車両運転の違反や規律違反を正すのが仕事だ。
国家転覆を企むテロ組織の襲撃や裏社会を牛耳る世界的に高名な医者の暗躍なんかは手に余るし、世界をひっくり返すような馬鹿げた計画を相手取るのはお門違いも甚だしい。
だから、何の権限も抵抗するだけの力も無い、神楽坂にとっては目の前の出来事は自分の領域を完全に超えた事にしか見えなくても仕方ない。
神楽坂上矢は本当に、人間の範疇を超えない只の警察官。
「……だがな、佐取。そう思ってしまっていても、例え世界の命運を賭けるような戦いに負けるのは仕方なかったとしても、俺は今この場で一つだけ断言しないといけない事があると思った」
完全に手に余る事象。
解決を半ば諦めざるを得ないようなそんな中でも、神楽坂がここまで来たのは単なる自己満足の為だけではなかった。
「佐取は、佐取燐香という人間は、異能だけが取り柄で、それが上回られたら何年も過去の自分自身が相手でも絶対に勝てないと思うような人間なのか? ……それは、違う。俺はこれまで見て来た佐取燐香は、異能だけが取り柄の人間なんかじゃなかったのだと断言できる」
佐取燐香という少女に出会ってから半年と少し。
近くで見ていた神楽坂だからこそ言える、そんなこと。
自分自身の葛藤に揺れる少女が後悔だけはしないように。
それだけを理由に、クシャクシャな燐香の瞳を真っ直ぐに見詰めて神楽坂は言葉を紡ぐ。
「俺は全てを知っている訳じゃ無い。佐取の過去も、佐取が後悔している事も、隠し事も何もかも知らない事ばかりだ。そして同時に、色んな事件に巻き込まれて、様々な人達を救って、これまで経験して成長してきた佐取の全ても俺は知っている訳でも無い」
「だが少なくとも、俺が出会ってからこれまで見て来た佐取は、一度だって足を止めていたことは無かった。歩んできた道は途方もなく険しく長いものだったように思えた。順調では無かったかもしれないが、苦しい顔をして進み続けて来たように思えた」
「……これまでの道のりは君にとっては一体どんなものだった? 無駄で、無意味で、無価値で、本当に何も生み出さないようなものだったのか?」
それだけ言って、神楽坂は動きを止めていた燐香を思い切り突き飛ばす。
完全に無警戒になっていた燐香の体が床に転がり、仰向けの状態で呆然と目の前を通り過ぎたものを見詰めた。
「俺は世界を救うような人間にはなれない。だが、佐取よりも長生きしてきた人間としてどうしても、これだけは言わなくちゃいけないと思った……君は後悔なんて残すな、佐取」
鞭のようにしなる銀色の腕が横薙ぎで神楽坂を打ち抜いた。
ずっと隙を窺っていた分身体の攻撃が、正確に燐香の思考の隙間を縫って行われた。
そして燐香と神楽坂が居た場所を薙ぎ払うようにして行われたその攻撃は、神楽坂の体を簡単に浮かばせ高層ビルの屋上から放り出す。
落下していく神楽坂の姿を見遣り、呼吸を忘れ、届く筈も無い手を伸ばした。
けれどその手が伸びきる前に、神楽坂の姿は屋上の下へと落下していく。
神楽坂の姿が消えていくその光景は、命が無くなる光景そのものに思えた。
「っ……エクス・デウスっ!!」
咄嗟に、出来るか出来ないかを考えないまま、燐香は空の球体に向けて残る全ての力を振り絞って異能を行使し、落下する神楽坂を助けるよう行動強制を行った。
巨大な異能の出力が錯綜し、落下していった神楽坂がどうなったのか分からないほどに視界がグラつき、燐香は意識を失い掛けたままその場に蹲った。
強烈な吐き気と眩暈、異能の使い過ぎによる後遺症がこれまでにないほど燐香の体に襲い掛かる。
「う、ぐぅっ……」
「……もう戦えるような状態じゃないわね。少し後味が悪い結末だけど、私の勝ちよ」
ドロリと口から血を流し、地面を赤く濡らす燐香を見て“百貌”がそう呟く。
勝利に哄笑する分身体を無視し、体を震わし、痙攣染みた手の震えを抑え込もうとしている燐香の見るに堪えない姿に、いっそ同情するような表情をした“百貌”が溜息を吐いた。
「そもそも不思議だったのよ。どうして私の未来である貴女の異能がこれほどまでに弱り切っているのか。一方的に圧倒される可能性を考慮して、手札を増やすために色んな模倣先のストックを用意したのにそれもほとんど使わなかった。それくらい、未来である筈の貴女よりも私の異能の方が上……そんな事ってある?」
「……」
「せめてその弱体理由だけ知りたいのだけど……それを答える余裕も無さそうね」
蹲って顔も上げない姿に少しだけ肩を落とし、“百貌”はエクス・デウスにもう抵抗できないだろう燐香への支配を行わせようとして。
それを遮るように燐香が蹲ったまま声だけを出す。
「……異能で、出来ないこと、なんだと思う? ……異能持ちには種類を問わず、共通して出来ない事が一つだけ、存在する。それが、答え」
「あら、そんなに必死に返答しなくても良いわよ。あんまりにも痛々しくてちょっと見てられないし……」
途切れ途切れに言葉を紡ぐ今の燐香には、“百貌”の嘲笑混じりの気遣いなど届かない。
何かを思い出すように顔を歪めながら、燐香は独白する。
「……私は後悔した。私は間違えた。私は、取り戻したかったの。たとえ異能を失う覚悟をしても、私は過去に戻りたかった。だから私は心のどこかで、過去を高尚なものだったのだと勘違いして、過去の自分には絶対に勝てないと思っていたのね」
自分の血が付いた小さな手。
異能が無ければ何の脅威も無いだろう、白く柔く、神楽坂とは違い傷付くことの無かった綺麗な手だ。
懺悔するように言いながらその綺麗な手を眺め、燐香は先程の神楽坂の言葉を思い返す。
『……佐取、これまでの道のりは君にとっては一体どんなものだった? 無駄で、無意味で、無価値で、本当に何も生み出さないようなものだったのか?』
言われるまでも無い筈のそんな質問。
そんな事、ちゃんと分かっていたつもりだった。
「……神楽坂さんの言う通り、今の私が積み上げたものは沢山ある。過去の私が持たないものは、沢山ある」
蹲ったまま、懐から取り出したコンパスのような何かとプレゼントとして貰った髪飾りを抱きしめるように握り込み、燐香はそう言った。
無駄ではない。
無意味などではない。
無価値なんかではなかった筈だ。
これまで自分が歩んできた道のりはなに一つとして唾棄されるようなものでは無いし、選択してきた一歩は全てが今の自分へと積み重なっている。
これまでの努力も、選択も、そして築いてきたものもある。
自信を持てと言われた気がした。
踏みしめた地面の感触を今もしっかり覚えているなら。
「————下らない思い込みだった。全部全部、私の勝手な思い込みだった」
立ち上がり、吐き捨てる。
勝てないという考えも、どうしようもないという考えも、言葉と共に吐き捨てた。
そして、燐香が纏う空気が明らかに変わった。
「……それ、なんのつもり?」
これまで教わって練習してきた通り、腰を落として構えを取った。
左拳を前に、右手を軽く開いた状態で脇に沿える。
口から血を流しながら拳を構え、前方に備え、異能の出力を全身に纏わせるだけに集中する。
燐香には到底似つかわしくない、肉弾戦の構え。
それは当然、神楽坂がしていた構えと全く同じものだ。
困惑した表情を浮かべた“百貌”へ、燐香は瞬き一つせずに告げた。
「……異能が無くても、異能持ちを倒す事は出来るらしいわよ」
「……まさか私が、そんな妄言を口にするようになるなんてね」
“百貌”が浮かべた侮蔑の表情。
もはや精神干渉も読心も使えない佐取燐香という少女が取った、正気の沙汰とは思えない選択。
自分の未来がこんな事をするなんて、今の“百貌”の価値観からは到底理解できないものでしかなかった。
直後、それが分かっている分身体が構えを取る燐香に向けて攻撃を仕掛ける。
「神楽坂ノヨウナソノ構エッ、見テルダケデ腹立ダシイッ!! 異能ガ無ケレバオ前ハ只ノ雑魚ダッ! アノ狂人ノヨウニナンテヤレル訳ガナイ!!」
異能の有無により生まれる大きな格差。
それはそう簡単に覆るようなものでは無いし、神楽坂のような特異例だったとしても何の理由も無しに覆せるような差ではない。
その差を埋められる何かが無ければ到底成し得ないもの……だが。
「貴女とは、何度対峙したと思ってるの?」
分身体が飛び出したのと全く同じタイミングで、燐香も大きく一歩を踏み込んだ。
人外染みた速度で肉薄した分身体の速度と燐香の大きな踏み込みが合わさって、次の瞬間にはお互いが目前にいる。
それを読んでいた者と予想もしていなかった者。
その反応速度の差は歴然だ。
だが、それでもなお即座に反応し軌道を修正した分身体の攻撃を、燐香は最初から分かっていたように首を軽く傾けるだけで躱し、勢いをつけた右の掌底を叩き込む。
「もう、読心なんて無くても貴女の挙動は手に取るように分かる」
「————……ハ?」
一閃。
それはまるで、先ほどの神楽坂そのもの。
燐香の未熟な体躯による一撃で、核が存在していた頭部が大きく弾き飛ばされ他の分身体と同様に屋上から放り出された。
積み重ねてきたもの。
神楽坂の下で、それまでは考えた事も無かった体力トレーニングを積み重ね、もしもの為にと体捌きや打撃練習を本当に少しずつこなしてきた成果。
それが今こうして花開いた。
再現性なんて無いかもしれない。
一つ間違えれば、核があるだろう場所の予想を間違えていれば不利になったのは燐香の方だったかもしれない。
だが今残っている結果は一つだけだ。
これで、飛鳥やICPO、神楽坂との戦闘を経て、減っていた分身体という“百貌”の凶悪な戦力は全て無くなった。
残るは“百貌”自身とその身を守る外皮のみという状況。
信じられないというような言葉だけを残して落下していく頭部と、残った体が液体に変わっていくのを軽く見届けている燐香へ、“百貌”は感嘆の声を漏らす。
「私が……そんな事が出来るようになるなんてね」
「……」
「とはいえ、そんな曲芸染みた事が出来たのは何度も対峙した和泉雅の分身体が相手だったからに他ならない。そして、それは貴女も分かっていたのでしょう? この場に限定すれば“読心”がされないよう異能を防御だけに回せば、私に対しては筋力が勝っているだろう自分に優位性があると考えた。異能の使用を最小限度に抑えた良い手ね」
「でも」と“百貌”は続けた。
「そんなあってないような異能の防御じゃ、私の“精神干渉”は防げない。そんなの貴女が一番分かっているでしょう?」
「っ……」
圧倒的な出力による圧壊。
全身へと回していた異能の力を突き破り、“精神干渉”により視界情報や認識能力への介入を果たされ、燐香はまともに“百貌”を認識できなくなる。
だが、そのままグラリとその場に正面から倒れそうになったのを、辛うじて踏みとどまった。
それだけではなく、ふらつき、踏みとどまる為に前へと出していた足をそのまま一歩として、燐香が“百貌”に向けて走り出す。
平衡感覚を奪われた、普通であれば立つこともままならない筈の“精神干渉”を受け、それでも真っ直ぐ走り抜けてくる燐香の姿に“百貌”が息を呑む。
それもその筈だ。
“百貌”の視線の先には、燐香の異能の刃を纏った手が自分自身の頭に押し当てられている。
走りながら、“百貌”の姿を目で捉えながら、自分自身に異能の刃を向けて一つも間違えられない精密作業を行っている。
「その状態で精神を裁断する異能を自分に向けて解除したってことっ!?」
“精神破砕”は触れれば相手の精神を裁断し半端な異能であれば触れるだけで消し飛ばす。
精神干渉の異能を攻撃方面特化させ、高速で循環させる事で疑似的な刃を作り出す技術だ。
単純に放出する技術とは違い、遠距離に飛ばすような事をしなければ出力の消費量はごく少量。
掬いあげる程の源泉が無くとも、ほんの少しでも出力があれば行使が可能なよう燐香によって超省エネを目的として改良された技術。
そしてその効果は消費する出力量とは逆に、異能を受けているものに対して使えば異能による影響を排除できるという優れもの。
一歩間違えれば自分の精神すら破壊してしまう凶悪な危険性を無視すれば、確かに対異能としてはこれ以上ないほどに有用な技術だ。
「正気の沙汰じゃないっ……! そもそもそんな人の精神を触れるだけで壊してしまうような技を開発して多用しているだなんてっ……!」
あり得ないものを見るように表情を引き攣らせた“百貌”が悲鳴に近い声を出す。
けれど、動揺はさせられても“百貌”が不利になった訳ではない。
燐香が異能をほとんど使えない状況なのは変わらないし、接近しようとする燐香を防ぐための手段はいくらでも存在する。
(ならっ、搦め手として異能を探知する感覚に干渉して、自分が精神干渉を受けていると気が付けないようにすれば……!!)
そして“百貌”の取った手段は、異能を探知する感覚への干渉。
位置情報を誤認させ、見当違いの場所を攻撃させてしまおうと“百貌”は考えた。
今の燐香も度々使用する、身を守る為の常套手段。
それは間違いなく正しくて、効果的な手段の一つだ。
だが燐香が一瞬自身の握る道具へと視線を向けた。
手に握られた、誰かが作った異能を検知するための装置を確認した。
瞬間、彼女は何の迷いも無く自分の頭に異能の刃を押し当てる。
「解除っ……!」
「なっ————」
確実に異能を探知する感覚を狂わせていた。
間違いなく燐香は異能の出力を何も探知できないようになっていた。
気が付かないように思考にも干渉して、感覚全てを麻痺させて、もう少しで全ての感覚を気が付かぬ間に喪失させるまで至っていた。
それなのに今、自分に向けられた精神干渉に気が付き対処した。
確信が無ければ絶対にやらない筈の、異能の刃を自分に向けるという危険行為を犯してまで対処した事に“百貌”は絶句する。
(意味が分からないっ! どうして全部不発に終わるの!? こんな何もかも諦めた情けない未来の私に、何で私の行動すべてが上回られるのかが————)
もうほとんど異能を使う余裕が無いだろう燐香ならば、精神干渉の異能で時間を稼ぎ、佐取燐香以外に切り替わればもっと有利に事を運べると思ったのに、そんな暇は無かった。
神薙隆一郎か、和泉雅か、それとも宍戸四郎にでも変われれば、異能を使えない燐香に対して絶対的な優位性を持てるはずだった。
けれどもう、そんな余裕はない。
燐香との距離はもうほんの少し。
燐香は自分しか見えていない。
だが故に、“百貌”は先程と同じ失敗を繰り返させることが出来ると思った。
空に浮かぶエクス・デウスに先ほどと同様、自分の身を守らせればいいと思った。
「エクス・デウス! 私を守りなさい!」
「マキナっ!!」
叫んだのは同時。
空に浮かぶ球体に対して顔を向けて叫んだ“百貌”とは違い、燐香は最初からそうする事を決めていたように一瞥もしないまま姿の無いソレに全てを預ける。
その瞬間、地を揺らすような出力が二つ噴き出す。
人神と機神。
無数の翼が折り重なって出来た巨大な球体と電子上の知性体が膨大な電力を収束させて作り上げた雷の巨人。
同じ人物に作り上げられた全く異なるその二つの意志が、燐香と“百貌”の頭上で衝突した。
到底人の身では作り出す事は出来ない天災のような異能の現象同士がぶつかり合い、巻き起こった余波が暴風のようになって吹き荒れる。
「————何で、届くのよ」
暴風の中。
その下で、燐香の手が目前に迫るのを目の当たりにした“百貌”が呟いた。
届かない筈だった。
異能の有無により生まれる大きな格差。
それはそう簡単に覆るようなものでは無いし、神楽坂のような特異例だったとしても何の理由も無しに覆せるような差ではなかった。
その差を埋められる何かが無ければ、到底成し得るようなものではない。
それは“百貌”が……佐取燐香がずっと前から信じていた事だった。
異能という差を埋めるもの。
例えばそれは、自身の運動音痴を克服しようと訓練し続けて来た日々の努力。
例えばそれは、強靭な不屈の精神を持つ人を傍で見ていたが故の諦めの悪さ。
例えばそれは、妹の為にと作り上げられた異能を感知する道具の存在。
例えばそれは、自分が作り出した生命と向き合って信頼を築き合った事。
未来が歩んできたそんな一つひとつが、過去の自分との差を埋めた。
過去の佐取燐香では理解できないそれらの要素。
仮面を引き裂く刃が、自身の纏う仮面に届いたのを目の当たりにした“百貌”は憧憬を帯びた瞳で、目の前の未来に焦がれるようにクシャリと表情を歪めた。
「……ああ、なんだ。私、そんな風になれる未来もあるのね」
そんな言葉と共に、“百貌”が纏っていた異能の仮面が引き裂かれた。




