連なり、現れ、百貌と化す
いつもお付き合い頂きありがとうございます!
書籍作業とは関係なく普通に忙しくて遅くなりました…!
これからもちょっと遅くなりそうですが、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
昔、幼い頃の私は自分が持つ“精神干渉”の異能がどこまで出来るのかを知る為に、本当に色んなことをやって来た。
今でいうマキナ、インターネットの意識を固め自己判断を行えるよう処置し、情報遮断や情報誘導を自動で行える体制を作った。
対象となる知性体を介した異能の探知範囲を広げ、実際にその場に行かずとも、伸ばした異能の感覚という第六感で状況把握と意思疎通が出来るよう技術的向上を図った。
“精神干渉”なんていう物理的には影響が及ぼし難い力でどこまでのことが出来るのかを調べるために、他人の異能の強制開花や一切の自由意志を許さない洗脳術なんかも試したりした。
自分の異能を理解して、出来る範囲を広げて、応用を利かせて、体制を作って、結果的に私は自身の異能使用の技術を磨き続けたのだ。
訓練や特訓という意味合いはあまりなかった。
私としては、自分の持つ優位性がどの程度のものなのかを確かめているだけのつもりだったし、母親の不幸で不安定になっていた自分の身の回りの安全性を確保しようとしていただけだった。
どうすればもっと安全性を確保できるのか、どうすればもっと確実な平和を実現できるのか、どうすればもっとこの平和が大きく————なんて、そんな風に色々考えて、実行していたに過ぎなかったのだ。
……ともかくだ。
異能への理解、技術の向上、安全体制の構築。
この辺りは自身が目指すべき課題として昔の私が掲げていたものだし、進めた試行錯誤で目に見えて形になっていった成果は全てが私を助けるものだった。
知識と技術が磨かれると同時に、私の異能の出力も同様に異常な成長を遂げていた。
異能の届く範囲が増える。
他の異能持ちと直接出会い、争う必要も無い私だけの異能。
積み上げられ磨かれていく自分の異能という名の才能が、鋭く、鋭利で、巨大なものへと変わっていく事に、当時の私は喜びしか感じていなかったのだ。
昔私にもあった子供特有の気軽さで自分が持つ巨大な異能を振るってしまうこと、今感じる異能の出力はまさにそのようだと私は感じていた。
かなり離れている筈のこの場所まで届く莫大な異能の出力。
起動した宙にある無数の出力機同士が、貯蔵されていた異能の出力をそれぞれに繋ぎ合わせ、天を覆う巨大な網目を作り出している。
それはまるで、天から人類を監視するために作られたような無数の眼。
それはまるで、天を塞ぎ常に地上を監視し攻撃の照準を定め続けるような無数の銃口。
視える範囲全てを覆い尽くすこれが本当に地球全てを覆っているのなら、きっと世界中の何処にいてもこの異能を使用している相手から逃げる術は存在しないだろう。
天網恢恢疎にして漏らさず。
まるでその言葉をそのまま現実にしたかのような世界の構築。
世界に異能の出力を届かせる案の一つとして過去の私が発想には至ったこの手段を、実際に今、目の当たりにさせられている異様な状況。
そんな中で私は神楽坂さんの車の中、外の状況に目をやらず掌の上にあるコンパスのようなものの様子を確認していた。
「わぁー、色が変わってる! 透明だったのが赤色に近付いていくんだね。なるほどなるほど、お兄ちゃん本当に凄いや!」
「異能を感知する装置……? それは、かなり画期的な技術なんじゃ……さ、佐取、それは……」
「えへ、お兄ちゃんから貰ったお守りみたいなものなんです。何の役にも立てないかもしれないけど、持っていて欲しいって渡されたんですよ」
「あー、お守り……そ、そうか……お守り……」
持っていたお兄ちゃんの発明品を掌の上に乗せて私が一人そうやってはしゃぐのを、なんだか神楽坂さんは微妙そうな顔で眺めている。
お兄ちゃんが試行錯誤の結果作り上げ、「使い道は無いかもしれないが……」と言いながらも私に渡していたこのコンパスみたいなやつ。
異能感知……あ、違う、【異能出力感知計】というお兄ちゃんの試作品の改良型。
波紋を起こすという分かり辛い反応だった試作品を色へと変換させることに成功したこの改良型は、お兄ちゃんの想定通り、今起きている世界を覆う異能出力に対しても正しく機能している事が確認できた。
普段は陰険眼鏡だなんだと言っているが、やっぱりお兄ちゃんが正しく優秀だと私は信じていたし、それがちゃんと形になっている事が凄く嬉しかったりする。
「今夜はお祝いだ」、なんて、現実をほっぽりだした考えを私が巡らせていれば、それを遮るような声が頭に響いてきた。
『人神計画、間違いなく奴はそう言っタ』
「…………」
家族の活躍に対する私の喜びを掻き消すような、マキナからの空気の読めない報告に私は思わず口を噤んでしまう。
むっつりと黙り込んでしまった私を心配した神楽坂さんが隣で私の様子を窺ってくれているのは分かっているが、それに応える余裕が今の私には無い。
冷酷無慈悲なマキナの指摘で、およそ視認など出来ない距離にいる者が発している肌を刺すような、身に覚えのありすぎる強い力がより感じられてしまい、心が悲鳴を上げるのだ。
それでも、さらに重ねて現実逃避をしようと私は必死に声を出す。
「……お、お兄ちゃんの好きな食べ物多分変わってないよね。昔からお浸しとか漬物とかが好きな所があったからなぁ。桐佳とか私とは好みが全然違って用意するのが大変なんだから、もう————」
『あり得ない話ダ。その計画は御母様がずっと秘していた御母様だけの計画ダ。別の誰かが知っている筈もなく、情報が漏れる可能性すら本来は存在しなイ。つまり、この情報を知り得る異能を奴が持っている事に他ならなイ。脅威だゾ、御母様。間違いなくとんでもない事が起きていル』
「————…………」
危機的な状況だと理解しているのだろう。
マキナが私の言葉を遮りいつになく真剣な声色で報告を続けて来る。
分かっている。
私だってあり得ないと思っていたことだ。
私の暗黒時代、その時の最終地点として定めたソレは私一人で計画し、実行に至った、誰も知る筈の無い計画である。
それが私の過去の姿を模しているだけで、直接やり取りもしたことの無いような相手に知られていて、案の一つとして思い描いていた方法を実際に実行されている状況。
偶然という言葉では片付けられない、何かしらの理由が存在する筈の出来事だ。
それでも私はその理由を考えようとすることもせず、体を震わせたまま両手で顔を覆い軽く俯いた。
もうなにも見たくないし、考えたくない。
そんな気持ちだった。
『……御母様? 奴、国会議事堂の大勢の前でよりにもよって極秘中の極秘である人神計画の宣言をしたんだゾ? 何か対策をした方が良いんじゃ無いカ? こんなところにいる場合じゃないだロ? 今すぐ奴の下に向かわないと手遅れになるゾ?』
「————ぁぁあああああ! わああああああっあああああ!!?? あああああああ!! もう色々手遅れだよぉっマキナの馬鹿ぁああ!! せっかく現実逃避してたのにぃ!!」
「うおっ!? さ、佐取!? いきなりどうしたんだっ!? さっきから挙動不審が過ぎないか!? さ、さっきの暴徒による国会議事堂占拠の報道があってからだが、あの件が気になるのか? いやだが、今のところ異能が関わるような事件ではないようだし、飛禅の奴が駆け付けるという話だし、そこまで慌てる必要は……」
「そうじゃないんですぅ! 神楽坂さんの馬鹿ぁ!」
「そ、そうか……」
『……マキナ、馬鹿じゃないもん』
マキナの報告についに耐え切れなくなった私は頭を抱えて絶叫した。
異能の出力を感知出来ない神楽坂さんには分からないかもしれないが、話は既に国会議事堂の占拠程度では収まらないレベルにまで達してしまっているのだ。
車の助手席でバタバタと手足を振り回し、現実に打ちのめされそうになる気持ちを何とか誤魔化そうとする。
心配してくれた神楽坂さんに何か酷いことを言ってしまった気もするが、今の私にはそんな事気にしている余裕がない。
それくらい、今の状況は私にとって衝撃だった。
遠い昔に封印した筈の思い上がった私の計画が、全部勝手に持ち出されて公開されている。
ワードを聞くだけでも動揺を隠せなかった例のあの計画が、大勢の人の前に晒された。
どの角度から見ても私の暗黒時代。
どう考えても中二病初期の時代をそのまま体現したようなものがこの世に具現化している事実。
私にとって歩く羞恥心の塊そのものであるような奴が、スピーカーを持って私の黒歴史を広めながら走り回っているような事実に私は心底戦慄するしかない。
私にとって、現在進行形で行われている公開処刑。
現実逃避するのくらい当然だと思うのだ。
【————速報です! 先程の現在国会議事堂が何者かに占拠されているという情報の続報が入ってきました! 現在は警察による突入が行われ、拘束されていた議員の方々が無事助け出されたと言うことです!】
「お、っと。ほら佐取落ち着け。見て見ろ、人質になってた議員の人達が無事救出されている。飛禅の奴らが上手いことやったみたいだな。もうすぐこの件も解決する。佐取が無理に解決する必要もなかっただろう? だからその、あんまり車の中で暴れないでもらえると……」
「あががががが! 百貌が、私の黒歴史をぉ! あの迷惑ボケナス害悪ぅぅ!!」
「……さ、佐取、暴れるのはもう良いが、車の物は壊さないでくれよ? 頼むぞ?」
「うがぁあ!!」
「佐取っ!? そんな声を出すんじゃない!」
以前の爆発事件とは異なり、神楽坂さんは今回の国会議事堂占拠事件に対して、近くまで行ってみようという行動を一切見せない。
それは先ほど神楽坂さん自身が言っていたように、国会を占拠した暴徒達が異能を使用しているとの報道が無い事や、異能を持つ飛鳥さんや紫龍なんかを擁する警察の部隊が現場に駆け付けた事から来るものでもある。
だが何よりも、私を探すICPOという組織が東京に滞在しており、これだけ大きな事件を前にして一切手を出さないという事が考えにくいからこそ、神楽坂さんは現場に駆け付けようという姿勢を見せていないのだ。
私の為を思っての、神楽坂さんらしからぬ消極的な事件解決姿勢。
しかし一方で、気を使われている側の私は百貌とかいう歩く羞恥心に対して怒りが噴き出すと同時に、これ以上の暴挙をなんとか阻止しなくてはという考えがあった。
(ぐううぅっ……と、とはいえ、どこまで私に近い力を持っているかは分からないけど、今のこの状況を作れる力を持った同種の異能を相手にして、今の私が勝てるかというと……)
確実ではない。
いいや、それどころか、ほぼ確実に負ける自信がある。
勿論、後先を考えず、マキナと空のアレを使って全戦力を持って戦えると言うなら、どんな相手に対しても確実に負けるということは無いだろう。
だが今回の、私によく似た相手に対しては、マキナは『私に対して敵対行動出来ない』という縛りによって一切攻撃できない可能性があった。
マキナの機械的、異能的判別能力をもってしても、私との同一性が九割を超えるような相手が存在する可能性を、私は考慮していなかったのだ。
だから、もしかすると私が命令すれば攻撃は出来るのかもしれないが、最悪の場合、マキナは一切使えないどころか、敵になることも考える必要が出てくる。
そんなことを考えなければならない相手となんて、どう考えたって戦闘を避ける選択をするが吉だろう。
(対百貌の手段を確保する必要があったのにサボっていたツケ……いや、結果だけを見て後悔しても意味なんて無い。だいたい今の私に何が出来たっていうのさ)
『マキナ馬鹿じゃないもンっ……!』
「あー……馬鹿じゃないよね。ごめんごめん、ちょっと私も焦ってたんだよ。いつも頼りにしてるよ」
『!!』
「……これは俺に言ったのか? いや、さっき言っていたマキナという名は……」
引き籠りたい、逃げ出したい、お家に帰りたい。
確かにそれらの感情は私を強く支配している。
私を探すICPOが近くをうろつき、私の黒歴史を広報する存在が現れた状況なんて、絶対に直視したくない状況である。
だが、それらを前提とした上で、私の中に残っていた冷静な部分が私に対して告げるのだ。
もし本当に私が思い描いていた『人神計画』を“百貌”が少しでも実行するとしたら、今されている私の黒歴史の公開などほんの前座に過ぎないのだと、警鐘をけたたましく鳴らしている。
「……神楽坂さん。もし私が、以前言っていた“百貌”という奴が国会議事堂でとんでもない事をやりだしていると言ったら、どうしますか? 凄く、大きなことで……放っておいたら本当に世界規模で影響を及ぼすような事をです」
「なんだって……? それは……」
それでもやっぱり、危ない所になんて行きたくない私は、神楽坂さんにそんな情けない問い掛けをしてしまった。
一瞬驚いたように目を丸くした神楽坂さんだったが、私の様子に合点がいったのか、少し考えるように顎に手を添えて考える。
「佐取が言っている事は、その、あまりに規模が大きい事で具体的な対処方法が全く思いつかないが……そうだな。俺は、せめて事の推移が確認出来て、必要な時に手出しできる場所までは行くべきなんじゃないかと思う」
「……そうですよね……」
「佐取も迷っているんだろう? 佐取としては行かない理由付けがいくらでもできる状況だが、本当に行きたくなければ俺に言う必要なんてなかった。だったら、何も出来ない場所にいるよりも、何かあれば干渉できる場所にいるのが正しいんじゃないかと俺は思う。その方が気持ち的にも、後悔しないようにするためにもな」
神楽坂さんの、私の立ち位置を配慮した上でのそんな提案にしばし逡巡する。
心のどこかで背中を押してくれるのを期待していた私の心情を汲み取った神楽坂さんの回答に、私は少しだけ安心してしまった。
神楽坂さんは私が嫌がらない事を確認し、車を国会議事堂へと向かわせ始める。
窓の風景が動き出したのを眺めながら、私はヘタレていた気持ちを切り替えて、これから自分がどう動くべきか、この事態がどこまで大きくなるのかを考えていく。
(……どこまで私の考えていた『人神計画』を知っているのかは分からないけど、私が既にある程度着手している以上、正しく再現なんて不可能な筈……でも、現に今、あり得ないと思っていた状況に陥っている事を考えると楽観視は出来ない……)
そう自分に言い聞かせ、私は宙に漂っている筈のアレを探すように空を見上げた。
既に停止状態にあるアレがこの世界に存在する以上、私のあの計画を完全に再現されることはない。
それでも、過去の私を模した存在が『人神計画』という名を宣言した事実に、強い焦燥感が私には芽生えてしまっていた。
(……もしも、過去の私を模したと思っていた“百貌”が本当に過去の私そのものだったら)
そんなふとした思い付きのような不安が湧き出した。
‐1‐
「何よ、それ……!」
「離れるんだ! そいつは危険だ!」
目の前で起こる膨大な異能の出力が空に広がるのを目の当たりにして、飛鳥が呆然と言葉を漏らし、この場に飛び込んで来たロランが両手に拳銃を作り上げて発砲する。
なんの迷いも無く幼い少女目掛けて放たれた銃弾。
だが、その銃弾が少女に届くことは無く、少女の懐から飛び出した銀色の何かに、飛来していた銃弾はぺろりと呑み込まれた。
ぐちゃぐちゃと銃弾を咀嚼する銀色の不定形を前にしながら、狙撃された少女、“百貌”は気だるそうにロランを見遣る。
「……こんな子供に向けて迷いも無く発砲するなんて怖いわ。私が一体何をしたと言うのかしらね」
「その出力を撒き散らしながら何を言うんだろうねっ……! その銀色の怪物を飼っているような自分が無害だとでも言うのかなっ?」
「飼っているなんて面白い物言いね。でもまあ、そういう風に見えるかもしれないわね」
「御託は良い。今すぐ異能の使用を止めて投降するんだ。応じなければ、攻撃を続行する」
「攻撃を続けようとするのは止めないけど、それ相応の反撃は覚悟しなさいね」
全く応じる素振りも見せず、“百貌”は空で網目が作り終えられたのを確認し笑みを溢した。
計画の第一段階が無事に終了し、空に浮かぶ一万以上の【人工衛星】の掌握で、世界全てに自身の異能を届かせる出力機を手に入れた事に満足する。
「人を介する方法だと時間が掛かり過ぎて御母様に気付かれちゃうし、あっちの切り札は御母様に掌握されちゃってるし、手っ取り早くて確実なのがこの方法だったのよね」
「……何を言っているんだ?」
「私が世界を平和にしてあげるって言ったのよ。私は【UNN】を封殺して、奴らが世界にばら撒いていた薬品を止めている。ちょっと強引だけど世界に異能を届かせる為の手段をこうして確保した。私は無能な貴方達が成し得ない世界平和を実現しつつあるんだから、曲がりなりにも世界を平和にしようとしている貴方達が私を攻撃するのは間違っていると思わない?」
「【UNN】を……? それが本当だとして、自分が悪側の人間ではないと本気で言えるのかな? 君のその傲慢な考えが世界中の人にとって正しいと本気で言えるのか?」
「真の意味で正しい行いなんてものこの世には無いわ。けどね、争いや欲望ばかりが渦巻いている今の世界より私が作り出す世界の方が幾分か正しい部分が多いのよ。貴方もそれは分かっているでしょう? ロラン・アドラーさん」
「……」
ロランが無表情のまま銃口を少女に向けた。
敢えて攻撃性を見せつけるようなロランの動作に表情を消し、少し呆れたように肩を竦めた少女は唐突に誰もいない空間を指差した。
「バレバレよ、それ」
「っ!?」
直後、少女が指差した先にベルガルドと楼杏が現れた。
完全に見抜かれ、予知された行動。
自分達の情報を持たない筈の相手に一瞬で看破された事への驚愕で、ロランは慌てて引き金を引くものの、鉛玉の対処を任されている銀色の液体に再び捕食され防がれる。
音を立てて貪られる弾丸が、まるで未来のお前達の姿だというように、銀色の液体はこれ見よがしに巨大な口のようなものを形作り笑みを浮かべた。
銀色の怪物のその姿にロラン達が表情を引き攣らせると同様に、少女もうんざりしたような顔で小言を呟く。
「品が無いからその笑顔は止めなさい。分身体とはいってもそれくらいの見栄は必要よ」
「ガ? オォ、ギギィア゛、ア゛ァ————オマエ、本体ジャナイガ今ハ本体ダ。ソノオマエガ言ウナラ従オウ」
「怖……ええ、それで良いわ。私が貴女達の本体をやっている時だけ従えばいい」
『ふっ、ふざけんなっ! なんでバレてるんだ!? こいつ、俺が転移する前からどこに移動するのか分かっているように……!』
『ベルガルド、楼杏! 不味いっ、コイツは報告にあった“百貌”だ! 一旦っ……』
『いいや、ごり押すぞ』
巨大な異能の出力を持つだけではなく搦め手すら容易く見抜く技量。
想像もしていなかった転移先の予知技術に驚愕するベルガルドや相手の異常なまでの厄介さを認め体勢を立て直そうとしたロランとは逆に、楼杏は“百貌”と銀色の怪物を見据えた。
あらゆる立ち回りを行えるロランの陽動行為で出来た相手の隙を突いて致命的な一撃を与える目論見。
確立されたその連携は彼らが持つ異能の性質を最大限に活用できるよう考案・訓練された必殺の戦術である。
凶悪な犯罪を行う相手に対してのみ許可されているその戦術を使用したことはこれまで何度かあったが、初見で戦術が完全に見破られたのは初めてであった。
けれど、行動が読まれた程度は楼杏にとって些事だ。
『ゼロにする』
「————」
楼杏から放たれた一言。
咄嗟に、何かしらの危険を察知した銀色の怪物が全身を巨大な幕のような形に変えて少女と楼杏の間に割り込んだが、盾になるようなその行動も関係なく“百貌”の身体がピタリと停止した。
まるで一瞬の内に全ての細胞が凍結したかのように、少女の呼吸や瞬きは一切無くなり、全身が固まって微塵も動かなくなる。
生物だったものが無機物に変質させられたような目の前の現象に、楼杏の異能を知らない飛鳥達は事態を理解できない。
「なぁっ……!? か、かんざ……!」
「燐香っ…………違う、アレは“百貌”で間違いないんだから……」
「は? な、何が起きた? あの女の言葉で動きが止まった……いやそれよりも、奴が発していた異能の出力すら止まりやがったぞっ!? し、死んじまったのか……?」
「これで終わるなら俺らとしても、奴らとしても楽な仕事だろうがなァ……!」
次の瞬間。
固まっていた“百貌”の姿が溶けるように消えて無くなった。
代わりに少し離れた場所に現れたのは、先ほどまで自分自身が彫像になっていた場所をポカンとした顔で眺める“百貌”の姿だ。
パチパチと瞬きを繰り返し、それを為したであろう楼杏へと視線をやって、顔を引き攣らせるその様子は、ほんの数秒前の超越者然としていたものではなく、見た目相応の小学生染みた姿に見える。
「……や、やるじゃない。そ、そりゃあそうよね。一撃必殺の異能だって世界的に考えればあっておかしくないもんね。保険を掛けておいて良かったわ。私としても調子に乗ってた部分はあると思うけど、初めて正面からやり合う異能持ちがここまで一撃必殺性能に特化してるなんてちょっと————」
『ゼロに』
「————酷いと思うわ」
問答も無い。
決着とならなかったのを認識した楼杏が即座に次の異能を発動しようとしたのを、姿を現していた“百貌”は自身の異能で対応する。
莫大な出力を持って強制的に楼杏の認識能力に干渉した事で、【剥奪】の対象先を自分でない別のものへと切り替えさせ咄嗟に回避したのだ。
自身の無事と楼杏の異能の対象とした長机に少しも変化がない様子を確認した少女は小さな溜息を吐く。
「無機物にはそもそも効果が無いのか、それとも傍からだと分かりにくいだけなのか。どちらにせよ、貴女のその【運動能力の剥奪】は生物に向ける様なものじゃないわ。普通に即死する代物じゃない。しかも対象が視界に入っている必要も無くて、貴女が何らかの形で認識さえしてればいいのね。本当に厄介で」
『ゼロにする』
「……ふっ、本当に凄い異能ね。それ」
三度目となる楼杏の言葉で、パキリと、何かの音がした。
物理的には何一つとして変化していない状況だが、楼杏が何の【剥奪】をしたのか唯一気が付いた少女が心底感心したようにそう呟いた。
それもそのはずだ。
今、楼杏が【剥奪】したのは少女による【認識能力への干渉】の運動能力そのものだ。
物理現象ですらない、自身に行われていた精神干渉を楼杏は無効化してみせた。
外部からの異能の干渉を防ぐ外皮ですら無効化できない、知性体の内部から変質させてしまう精神干渉への対処など、普通であれば不可能。
それを可能としているのが楼杏の持つ異能。
運動能力、つまり【動く力そのものを完全に消失させる】異能を持った楼杏だからこそ可能な、精神干渉という理不尽への対処だった。
本当の意味で、異能さえ使用できれば世界最悪の異能持ち“顔の無い巨人”にすら対抗できる人材。
それが彼女、楼杏だった。
「ああ、分かったわ。この国でウロチョロと出来もしない事をしていると思っていたけど、貴女がいるからだったのね。確かに貴女の異能であればどんな理不尽な異能にも対処できるし、どんな防御能力を持つ相手だって貫通して叩き潰せる。文字通り、必殺必中の異能を持つ人材。切り札としては申し分ないと思うわ」
だから、自分以外の全てに対し何処か見下すような態度をしていた少女ですらその異能は認めるしかない。
だが。
『…………』
「それで、次は? さっきまでの勢いはどうしたのかしら?」
ぽたりと楼杏の頬から汗が落ちた。
揺れる瞳で少女の姿をしっかりと捉え続けているものの、小さく息は乱れ、汗は滲み、少なくない疲労があることが隠し切れていない。
常識外れの異能の連続使用は、どうしたって少なくない疲労があるのは当然だ。
対して、“百貌”を名乗る少女はちょっとだけ挙動不審になってこそいるが、息も乱していないし汗も掻いていない。
目に見えて分かる疲労の差だが、楼杏が続けて異能の行使をしないのは疲労が原因などではなかった。
“百貌”の、楼杏が持つ理不尽極まりない異能への動揺は消えつつあった。
一度目は脅威に思い、二度目に何とか対処して、三度目にはその性能を理解し驚きを見せた。
自身が持つ抵抗困難な異能に対して有効な回答を出して来たことに、百貌は一種の尊敬と警戒を抱いていたが、その回答に精神への干渉を消失するという一手順が必要であれば、対処は単純。
異能を攻撃に使うのであれば精神干渉による攻撃対象の強制切り替えを、精神干渉への無効化に異能を使うのであれば必要以上に異能を使用しないで傍観すればいい。
常識外れの異能の使用はどうしたって燃費が良いものでは無いし、現に楼杏の様子は疲労を隠し切れていないのだから、焦らずそれぞれに対応すれば良いだけなのだ、と。
そう思わされているからこそ、楼杏は異能の連続使用を止めざるを得なかったのだ。
(……己の、異能が間に合わない。二発目の異能使用で分かった……奴は、己が異能を使用するのを見てから異能を起動させて、先に己の攻撃対象を切り替える。コンマ数秒の差じゃない。回数を重ねれば偶然勝てる差じゃない。異能の出力、異能の性能、異能の相性。異能持ち同士の勝敗を分ける重要なそれらの要素の他に、発動速度なんてものがここまで関わってくるなんて……これまでそんなこと、味わったこと無かった)
『楼杏っ!』
『楼杏のあんな顔は初めて見たぞ……! ロラン、これは……!』
『分かっている! 一度態勢を立て直しに……!』
そして同様に、楼杏の追い詰められたような様子に必要以上の焦りを抱かされたロランとベルガルドが慌てて楼杏を連れてこの場を離脱しようと飛び出してきたのを、百貌は嗤う。
それらも、“百貌”が意図した行為だからだ。
ベルガルドが楼杏を回収し即座に転移しようとするが、一瞬体がブレるだけで終わる。
ほんのわずかな、ミリ単位の距離しか動けていない。
移動しようとしている場所への認識が捻じ曲げられているだなんていう、想像を超えた事態を理解できずにベルガルドの顔が引き攣った。
逃げ出そうとしても変わらない光景。
同時に、何処からともなくロラン達を囲うように三つの銀色の液体がドロリと床から這いあがり、歪な人型を作り出した。
まるで初めからその場所で仕留めるつもりだったように完全に包囲する形に配置された液体人間達が、自身の身体を酸性の液体に変貌させている。
『ば、馬鹿な!? 異能が、転移が出来ないっ……!!』
「残念。精神干渉を無効化出来る術を持っていたとしても、精神干渉されている事に気が付けなければ意味が無いのよ? 異能の使用そのものを停止なんていう馬鹿げたことは難しいけど、その矛先を変えたり、方向性を変えたりなんかは簡単なの」
『っ……ゼロにっ』
「ゼロにする、ね。その言葉のとおり、貴女の異能はあらゆる動きをゼロにするのね? 理不尽で馬鹿みたいに凶悪な異能だけど、まあ、小回りは利き辛そうね。消耗も激しそうだけど……その異能にまともに抵抗できる相手となんて遭遇した事なかったわよね? 初見で対応されるとは思わなかったんでしょう? 焦りが隠せてないわよ、楼杏さん。獣のような警戒心を持っていた貴女の背後をこんなに簡単に取れるなんてね」
楼杏の言葉が終わる前。
突如として背中を襲った激痛に彼女が息を呑み、近くにいたロランとベルガルドが異常に気が付き表情を驚愕へと変える。
囲うように出した三体も、長々とした話し掛ける行為も、全てがソレから意識を逸らす為のブラフだったのだとロラン達は今頃気が付いた。
「最初に私が出していた銀色の人型、何処に行ったと思う?」
『あぐぅっ……!!』
鮮血が床を濡らす。
音も無く、気配も無く、異能の出力も無く、ロラン達の背後に立っていた銀色の怪物。
楼杏の背中を貫く銀色の怪物の腕は鋭さを増すように細いものへと変化しているが、それでも致命傷には違いない。
ロランとベルガルドがすぐさま楼杏の身体を貫く銀色の怪物を引きはがそうと動くが、それよりも先に銀色の怪物の腕が巨大な刃物へと変貌する方がずっと早いだろう。
だが、楼杏を引き裂き始末しようとした銀色の怪物を“百貌”が睨んで止めた。
「止めなさい。殺すのは許さないわ」
「ア? 一人一人確実ニ始末スルベキダロウ?」
「それだけの怪我を負わせたらまともに異能を使えないわよ。あの異能ならなおさらね。それに、本当に命を奪ったら静観している人達が完全に敵対しちゃうじゃない」
「アー……了解」
チラリと動けないでいる飛鳥達に視線をやった“百貌”に、仕方なさそうに首を振った銀色の怪物は動きを止めた。
ボン、と。
それ以上の攻撃を止めた銀色の怪物の頭部をロランが銃弾で弾き飛ばし、背中を貫かれていた楼杏を抱き留めた。
頭を失った筈のソレが、グニャグニャと銀色の身体を蠢かせて一切影響が無さそうに体勢を立て直す光景にベルガルドが驚愕する。
『ば、化け物……! 何だコイツはっ……!? 頭を失った筈なのに、まったく影響がないのかっ!? 他の三体も別々に動いてやがるっ……! こいつら、一つの意志で動いている訳じゃ無いのか……!?』
『異能の出力を弾く外皮を持った存在っ……話だけは聞いていたがこれは……!! ベルガルドッ、まだ転移は出来ないのか!?』
『クソクソクソッ、無理だっ! 転移が出来てる筈なのにっ、確かに出力を消費してるのにっ、まったくこれっぽっちも場所が変わらねぇんだよ!』
数々の異能を持った犯罪者達を制圧している筈のICPOが見せる焦りの姿に、加勢するタイミングを逃していた飛鳥達は言葉を失ってしまった。
異能に関わる事件の数々を解決している筈の彼らがこれだけ一方的に押されている。
異能犯罪のプロフェッショナルである筈の彼らがあらゆる面で上を行かれている状況。
それほどまでに、“百貌”を自称するこの存在が、これまで対面してきた何よりも厄介な存在なのだと思い知らされる。
劣勢に立たされているICPOを手助けする。
それは、飛鳥達の一国の警察という立場を考えれば当然なのかもしれない。
だが、国会議事堂を占拠した者達を無力化し、人質になっていた議員達を怪我無く逃がし、巨大な異能行使をした以外では襲い掛かって来たICPOへの反撃を行っただけの“百貌”への攻撃は躊躇させられる。
“百貌”と呼ばれる存在が何か明確な犯罪行為をしているのなら良かった。
もしも“百貌”が国会議事堂の占拠の主犯であり、もしも異能の使用により被害者が明確であり、もしも先程の銀色の怪物の攻撃を制止しなければ。
何か一つでも“百貌”がラインを踏み越えていれば、飛鳥達は危険人物だと断じて“百貌”を攻撃できたかもしれない。
だが、絶妙なラインぎりぎりを歩く“百貌”の立ち回りが、飛鳥達に判断を迷わせる。
「ど、どうするんだよ飛禅さん!? やるのか!? ICPOの奴らに加勢するのか!?」
「っ……!」
「このままだとやられちまうぞ!? やるならあいつ等がいる内に、やらないなら今すぐ逃げ出そうぜ! 俺的には最初の目的が達成できたんだから逃げるのが良いと思うぞ!」
「……そうだな。業腹だが俺も灰涅の意見に賛成だ。議員連中の救出はほとんど終わっていて、後はそこにいる阿井田議員だけだろ。最低限の義理を果たすつもりならともかく、俺らの任務的にはここで撤退も悪くねェ選択の筈だ」
「分かってるわよっ……!」
“紫龍”と柿崎の言葉に飛鳥は表情を歪ませる。
どこか見知った少女に似た幼い“百貌”の姿。
別人だと思っていても、その姿をする彼女に対して敵対行動を取ることは心のどこかで抵抗感を覚えて仕方なかった。
けれど、以前共闘したこともあるICPOが追い詰められているこの状況を前にして、ただただ手出ししないのは立場を考えると悪手過ぎる。
数秒逡巡して、それでも覚悟を決めた飛鳥が強く歯を噛み締めて歩みを進めた。
「“百貌”っ!」
「遅かったわね、覚悟は決まったの?」
「アンタを捕まえるわ! ICPOだろうが何だろうが関与させない! 私達、警視庁異能対策部署としてアンタの身柄を拘束する! これ以上その姿で勝手な真似はさせないわ!」
「その威勢の良さ嫌いじゃないわ。やれるものならやってみなさい」
「マジかよ……やるのかよ……」
「諦めろ灰涅、これが終わればテメェのボーナスが出るよう嘆願してやるよ」
「…………くそぉ、やるかぁ……!」
周囲を囲んでいた銀色の怪物達が攻撃の姿勢を示した飛鳥達に気を取られた一瞬を利用し、ロランが自分達の足元に鋼鉄の踏み台を作り出して怪物達の頭上を飛び越えた。
怪我でまともに動けない楼杏を抱き寄せ、混乱するベルガルドの襟首を片手で掴み、攻撃の姿勢を示している飛鳥達の真横に着地して、即座に飛鳥に声を掛ける。
「協力してくれると受け取って良いかっ!? アレの鎮圧を一緒にやれるという話で良いんだよな……!?」
「アイツをどうにかするまではそれで良いわ! 取り敢えず、調子に乗りまくってるアイツの行動はどうせ碌でもないものだろうから、それをどうにかしちゃわないと……!」
「助かるっ! 俺らの増援ももう直ぐに来る! 当初の目的とは違うが、これは絶対に野放しにしていい相手じゃないっ……! こちらとしても全戦力を持ってコイツの対処に当たるつもりだ!」
「……それは本当に正しい判断だと思うわよ」
駆け付けて来るだろうICPOの戦力を考えつつ、飛鳥は自身が良く知る少女の異能の詳細と銀色の怪物を作り出す和泉の異能の詳細を脳裏に浮かべる。
持てる戦力を使ってどう対応するべきか。
事前準備として飛鳥はしっかりと情報収集を行っていて、それぞれの異能を持つ者達に話を聞いていた。
目の前にいる存在は確かに驚異的な強さを持った相手だが、分けて考えれば二つの異能を使い分けている個人でしかない。
豊富に異能持ちや情報を揃えられている自分達であれば、対応は難しくとも不可能ではないと結論付けたのだ。
だが一方で、チラリと怪我した楼杏の意識がほとんど無い事を確認した“百貌”は小さく「……私じゃ駄目ね」と呟いた。
「貴女の言ったように一人一人始末する方が確実だったわね。私のミスね、ごめんなさい」
「……別ニ気ニシテナイガ?」
「相手が一人二人だったらいくらでも覆せるけど、初めて異能持ちと戦闘するような私がここまで複数人のプロフェッショナルとやり合うとなるとちょっと荷が重いわ。私の未熟な部分が足を引っ張りそうに思えるのよ」
「ジャアドウスル? 変ワルノカ?」
「この状況ならもっと良い人がいるでしょう? もっと異能との戦闘に慣れていて、もっと非情になれる人がいる。私よりもずっと適任がね」
「……アンタ、何を言ってるの?」
銀色の怪物とのやり取りに嫌な予感を覚えた飛鳥がそう問い掛けると、“百貌”はクスリと笑みを浮かべた。
次の瞬間、“百貌”と会話をしていた銀色の怪物が形を変え、渦を巻くように少女の周囲を取り巻く。
先程の、飛鳥の姿から“百貌”の姿に変化した時と同じような状況に飛鳥は息を呑むが、一方で何が起きているか分かっていないロランとベルガルドは“百貌”の異常な行動に警戒の目を向ける。
そして、ほんの一瞬だけ、完全の“百貌”の姿が隠れた瞬間。
周囲に放たれていた深海の底のような重圧を感じさせる異能の出力が霧散した。
その代わりに現れた異能の出力は、枯山水を思わせるような静寂と刀のような鋭さを併せ持ったものだった。
そして、渦巻いていた銀色の怪物が姿を現した老人に甘えるように体を摺り寄せる。
「————確かに私であれば、必要があれば非情にもなれる上、異能持ちとの戦闘には多少心得もある。判断としては間違っていないんだろうが……私は戦闘をする側ではなく、治療する側なんだがね……」
「アハハッ、先生! ヤロウ! 一緒ニヤロウ!」
「……神薙隆一郎……! ソイツの模倣もできる訳ねっ……!!」
それも考えておくべきだったという後悔が飛鳥の頭に過る。
姿を現した“医神”神薙隆一郎の姿に、飛鳥の脳内で立てていた計画が崩れていく。
“精神干渉”に“液状変性”。
事前に遭遇した際に“百貌”が使用しているのを見たからこそ、どちらの異能も情報を集め対策を進めていたにも関わらず、神薙隆一郎への変化というもう一つのカードを切られてしまった。
飛鳥はまだ軽い話だけしか聞けていない、かなりの危険性を誇る異能。
“製肉造骨”と燐香が呼称した、神域の異能が目の前に現れたことの脅威を飛鳥は正しく認識し、冷や汗を滲ませた。




