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第三十節 首飾り

「ん?なんだ?」


 パースの運転する馬車に乗る俺は、妙な感覚を肌で感じた。

 その感覚は、何かが震えている感触だ。

 でも、馬車の揺れではない。もっと小さな物の微振動である。


(魔道具が何か誤作動を起こしてるのか?)


 旅のお供として、魔道具はいくつも鞄に入れている。

 そのどれかが故障したのかと、俺は鞄を探った。

 しかし、どの魔道具も微振動などしていない。


「……首飾り?」


 魔道具を取り出している際、丁度ムラマサから貰った虎の彫像をぶら下げた首飾りに触れた。

 触れた時に、確かな微振動を感じたのだ。


「首飾りがなんだって微振動を?」


 微振動の発生源は見つかったが、発生原因は依然として不明である。

 というかちょっと怖いんだが。なんで首飾りが微振動するんだよ。


(何かしらの魔道具って事じゃねぇか?)


 そうとしか考えられないのだが、いったい何の魔道具だと言うのか。

 振動したり音を鳴らしたりする物は、大概探知魔道具なのだが。

 この首飾りはいったいなんなのか、ムラマサにしっかり聞いておくべきだったな。


(あん?ちょっと待て。こいつぁ……)


 エクスカリバーが首飾りに手を伸ばした。

 思念体である現状、エクスカリバーはどんな物質も擦り抜けてしまう。

 そのはずなのに、エクスカリバーの手が首飾りを掴んだのだ。


(お、おま、何を!?)

(そのまま放すな、テノール!今引っ張り出してやる!)


 何故か首飾りの引っ張り合いになった。

 訳が分からないが、何かをしようとしているのは分かる。


(おいこら!引きこもってねぇで出てこい!)

(え!?なんで!?や、止めてください!!)


 そのままエクスカリバーと引っ張り合いをしていれば、少女の声が聞こえてきた。

 その声に俺は聞き覚えがない。


(無駄な足掻きをするんじゃねぇ!死に晒せやぁぁ!!)

(きゃあああああああああああ!!)


 エクスカリバーの物騒な発言はさておいて。

 首飾りから引っ張り出されるように、少女が湧いて出てきた。

 勢い余って、少女は馬車の壁を突き抜けた。

 いや、擦り抜けたのだ、思念体であるエクスカリバーと同じように。


(な、何するんですかぁ!)


 そして、少女はまた壁を擦り抜け、馬車の中へと戻ってきた。

 その目には涙が浮いている。

 急な恐怖体験で怖かったのだろう。

 普段の俺なら優しく接するところだが、今の俺は状況に付いて行けていないので呆然としている。

 それに、首飾りから湧き出た時は一瞬すぎて見えなかったが、その少女は人間らしからぬ特徴を持っていた。

 猫の耳と尾を備えているのだ。

 しかも、その部分が生物的に動いている。


(引きこもってるからよぉ。無理にでも引っ張り出したんだよ)

(『引きこもってる』ってなんですか!こっちは魔道具に宿る魂としてお役目を果たしていたというのに、それを引っ張り出すなんて!呼び掛けたりなんだり、もうちょっと穏便にできないんですかぁ!)


 常識外れなエクスカリバーに、涙目で猛抗議する猫耳少女。

 どっちも見た目は少女なので微笑ましい。


(おい、お好みの少女をそんなに見つめるんじゃねぇよ。気持ちわりぃぞ、テノール)

(誰でも見つめるだろうが、こんなの。なんだこの少女は?キメラか?)


 ワーウルフやワーキャットなど人間の特徴も持つ魔物だって、もっと動物に寄った見た目になる。

 耳と尾だけ動物の物である種族は聞いた覚えがない。

 だとすれば、他の生物と組み合わせて生まれた魔物の総称、キメラではないのか。

 そうなると、少女は人間と猫系の魔物を組み合わせたとかいう、倫理観の欠片もない代物になるが。


(あ、あれ?なんで私、テノール様の心が読めて……。キメラ?)


 この少女はどうにも、見えていない及び思念による会話ができない前提で喋っていたようだ。

 少女の前提は、残念ながら覆っている。

 それに、一応俺は思念で会話できる前提で思念を出している。

 エクスカリバー程俺の心が読めているかは未知数だが。


(初めまして、で良いのかな?)

(あ、はい。初めまし、て?)


 少女もその挨拶が相応しいのか分からず、首を傾げていた。

 とりあえず、冷静に話し合いへ応じてくれる辺り、エクスカリバーより真面そうだ。


(誰が真面じゃねぇって?)


 お前だ、お前。

 いや、エクスカリバーを構っている場合ではない。

 少女に色々と訊ねなければ。


(俺はテノール。勇者の称号を得ている、見た通りのヒューマンだ。生者でもある)

(あ、私はヌエトラと言います。テノール様が持つ魔道具に宿った魂であり、生前はキメラでした。もちろん、亡者です)


 うん、そりゃ亡者だろうな。

 生霊を魔道具に宿させる程、ムラマサが異常であるとは思いたくない。

 というか、もしかしてこのキメラはムラマサに生み出されたのだろうか。


(ヌエトラさんよぉ。テノールがムラマサにキメラにされたのか、だって)

(え?テノール様は何も言ってないようですけど……)


 ここでどの程度俺の心が読めているか判明した。

 少女ヌエトラは、俺が伝えようと強く念じた思念でないと読めないらしい。

 ちなみに明言しておくと、エクスカリバーには俺の心が深層心理以外読まれている。


(改めて訊くが。首飾りに魂を宿らせたのはムラマサだろうが、生前の君をキメラにしたのもムラマサなのか?)

(あ、ええと、違います。キメラとして私を生み出したのは、『邪神フィーネ』様です)


 まさかの『始まりの六柱』が1柱、『邪神フィーネ』。

 伝説でも魔物の実験をしている事が語られているが、その証人を目の当たりにしてしまった。

 俺は驚きを禁じ得ない。


(それで、魂も12個分くらい混ぜっていたので、『鍛冶神アチューゾ』様……の弟子であらせられるっ、ムラマサ様が魂を12個に別けてくれました。名残としてこのように、魔物の因子が残っていますが)


 12個の魂。それは、最低12人を犠牲にしたという事ではないだろうか。

 (おぞ)ましいキメラ生成に、俺は寒気がする。


(適切な処置をしてくれたムラマサ様への恩返しに、私含む12人は魔道具に宿る魂として協力したのです。……あれ?ここまで明かして良かったんでしょうか……?)


 1つ訊いただけで随分と明かしてくれたヌエトラ。

 でも、多分そこまで明かさなくて良かっただろう。


(ま、まぁ、大丈夫……ですよね?)


 俺にそんな質問されても困る。

 苦笑いしか返せない。


(ああ、えーと。この、君が宿っている首飾りって、どういう効果があるんだ?)


 ヌエトラの青ざめていく顔に耐えかね、俺は話題を逸らした。

 こちらがある意味本題ではあるのだが。


(は、はい!私たちは所有者が危機に瀕している時、親機であるヌエズミと近くにある子機にそれを伝える効果があります!12個に別けたとはいえ、1度混ざってしまった魂たち。それらが未だに保持する微弱な繋がりを利用しているとか)


 ヌエトラは切り替えが早く、俺の質問に素直に答えた。

 態度からも嘘を吐いている様子はない。

 しかし、そういう効果を持つという事は、嫌な未来を推測させる。


(危機に瀕していない俺の首飾りが微振動していたのはつまり……)

(他の近くの所有者が危機に瀕している、という事になりますね。今回危機に瀕している方は……。ヌエジャが発信しているようなので、『魔神ダ・カーポ』様……を信奉しておられるっ、レオナルド様が危機に瀕しているようですね)


 俺の推測は、最悪の形で現実となっていたのだった。

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