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第二十八節 禁忌の魔道具

「さぁ、調査再開するわよ!」


 サースイナッカノ農村付近の森、その入り口。

 マリーはそこに至るまでの疲労を解消し、生気を取り戻していた。

 そんな元気な姿で調査機材を探して木箱を漁っている。


「まるで子供だな……」


 マリーが小柄なのも相まって、レオナルドはその光景を呆れ交じりでそう称した。

 確かに、まるで玩具箱を漁っているが如く、マリーの表情は明るい。

 先程まで疲れていたのから打って変わって元気なのも、少しの休憩から次の遊びに繰り出す子供と似ている。


「ま、マリー隊長!申し付けてくれれば私が必要機材を探しますので!」


 一応整っていた木箱の中が乱雑になっていくのを見かね、ブレンダが慌てて制しようとした。

 だが、すでに悲しい惨状となっており、マリーも乱雑な漁りを止める気配がない。


「あったわ!」


 せめてもの救いは、その行動がそうそうに終わった事だろう。

 マリーは目的の調査機材を引っ張り出し、嬉しそうに掲げていた。

 ブレンダはその嬉しさを共感できないまま、木箱を整理し始める。

 もはや当然の事だが、マリーは整理を手伝わない。


「……それは?」


 レオナルドはマリーが掲げた機材の詳細を求めた。

 予想はできているから聞くまでもないが、ブレンダの整理する時間を少しでも稼ごうとしているのだ。


「魔道具探知魔道具よ。ま、罠探知魔道具をちょっと改造しただけの代物だけど」

「ふむ。おおよそ、罠として探知する物を魔道具だけに限定し、かつ罠である魔道具以外も探知するように定義を広げたのだろう」


 もう()めたとはいえ、元魔術研究者であるレオナルド。

 そもそも、レオナルドの正体とは魔術を理論として体系化した『魔神ダ・カーポ』だ。

 初見の魔術や魔道具であろうと、精度の高い分析ができて当たり前である。


「貴方、結構魔道具への造詣も深いのね」


 造詣が深いどころか、相手は魔道具技術の創始者だ。

 しかし、マリーにそんな事を知る由はない。


「……元魔術研究者だったと、お前には伝えていなかったな」


 ある意味で不敬な態度だが、それで眉間に(しわ)を寄せれば正体を明かすようなもの。

 レオナルドはもちろんそんな事をしなかった。

 魔道具に深い理解を示した事についても、元魔術研究者であるのが理由であるように取り繕ったのだ。


「機材も見つけたし、さっさと探すわよー!」


 マリーはそんな取り繕いなど全く耳に入れていないが。


「……。ブレンダ、お前は台車に乗ったまま木箱の整理を続けてくれて構わない。……くれぐれも、勝手な行動をしないでくれ」


 虚無感やら疲労感やらに襲われたレオナルドは、ブレンダという存在も疲れの元にならない事を願った。

 数多の依頼を(こな)してきたレオナルドでも、そろそろ疲労感が我慢の限界に近い。

 その限界を超えてしまえば、依頼を放棄しかねないだろう。


「は、はい……」


 ブレンダはレオナルドが瀬戸際にある事を読み、レオナルドの指示に二つ返事で従った。

 そんな素直なブレンダに癒しを感じつつ、レオナルドは森の中を1人で突き進むマリーを追う。

 そうすると同時に、レオナルドは魔術で木々を切ったり燃やしたりしていった。

 台車を通す空間を作るための行為であり、決して八つ当たりではない。


 そうして森を1時間程歩きまわった時だ。


「反応あり!数日は費やす構えだったけど、幸先が良いわ!」


 魔道具探知魔道具、方位磁針のようなそれが、ある方向を指し示した。

 調査機材の中にある魔道具探知用の物は用済みとなってしまったが、早く探知できるに越した事はない。

 マリーは喜びを露にし、魔道具が指し示す方へ進んでいく。


「……これ?」


 進んだ先にあったのは、土を盛って木の棒を突き立てただけの、粗末な墓。

 全く魔道具らしくないその墓に、マリーは首を傾げた。

 しかし、墓の周りをうろつくと、魔道具探知魔道具は確かに墓を指している。


「『ステラグマイト』」


 マリーを追って同じ場所に辿り着いたレオナルドは、急に魔術を行使した。

 地面から隆起した岩は、四角柱の天辺に棺桶を置いている。

 レオナルドは、魔術で埋められている物を掘り起こしたのだ。


「棺桶、なんだけど……。反応してるわね」


 魔道具探知魔道具が指し示す先は、棺桶に(さら)われている。

 この棺桶、もしくは中身が魔道具という事である。


「開ければ分かる話だ」

「ちょ、ちょっと!もっと慎重に扱いなさい!」


 躊躇なく蓋に手をかけるレオナルド。

 マリーはその無警戒を諫めたが、レオナルドの手は止まらない。

 決して今までの報復ではない。

 レオナルドは、直感していたのだ。


「……誰だ。誰がこの技術に手を染めたっ!」

「れ、レオナルドさん?どうしました?棺桶らしく死体が入ってるだけですよ……?」


 棺桶の中に寝かされているのは、白骨化も欠損もしていない少女の体。

 ブレンダがレオナルドの態度を怪しむ通り、死体が綺麗すぎる事以外に不自然さはない。


「違う、ホムンクルスだ。それも人の模倣体、クローンホムンクルスなんだよっ、これは!」


 しかし、その少女が死体でない事を、レオナルドは見抜いていた。

 それがレオナルドの忌み嫌う技術だったから、棺桶を開ける前から見抜けていたのだ。


「く、クローンホムンクルス?」

「人の身体情報を模倣して作るホムンクルスね。自我がない事は通常のホムンクルスと同じだけど、模倣した相手の体質なんかは再現されるわ。再現具合は質次第だけど」

「クローンホムンクルスは魔術の才能も再現される。……この技術が流行った時代、才能ある魔術師のクローンホムンクルスを作る奴が大量に出た」


 マリーがブレンダへする説明に、レオナルドは補足していく。


「そのホムンクルスに自我を与えて兵士にしようなんて、馬鹿をやらかした奴も居た。その計画は失敗したが、そいつはさらなる馬鹿をやらかしたんだ。魔道具にクローンホムンクルスを組み込むという馬鹿をな」


 ホムンクルスを作る時点でレオナルドは嫌悪感を覚える。

 ホムンクルスを魔道具の一部とする事なんてなおさらだ。

 生命に対する冒涜(ぼうとく)に、レオナルドは怒りを禁じえない。


「つまりは、このクローンホムンクルスもそうって事ね」


 マリーはレオナルドの捕捉を聞き逃さず、その補足からそういう最悪の事実を導き出した。

 レオナルドは、険しい形相で頷く。

 魔道具探知魔道具がこの棺桶に反応している故に、この棺桶は魔道具。

 であるならば、その中にあったクローンホムンクルスが魔道具の一部であると、ほぼ確定である。


「クソが……っ!誰がこの禁忌を犯した!」


 答えが返ってくるはずのない問いを、レオナルドは叫んだ。

 だが意外にも――


「私ですよ」


――答える者が、レオナルドたちの前に現れるのだった。

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