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第二十七節 役割分担

 サースイナッカノ農村にて、情報収集を担当するニオ組。

 組と言っても、ユウダチは情報収集を得意としておらず、結果としてニオが情報収集を一手に引き受けている。


「急な来訪、申し訳ありませんでした」


 そんなニオは忙しく働いており、今は村長と話を付け終え、その村長に頭を下げていたところだ。

 話とは毎度の事、近衛兵が急に町へ来た理由の開示である。

 ニオたちの理由は奴隷商の追跡ではなく、森の再調査だが。

 理由はなんにしろ、開示は半ば義務なのだ。


「次は郵便局です。件の森に関する不審な情報が上がっていないか、聴取しましょう」


 ニオは護衛をしてくれているユウダチへ、行動の意図を丁寧に説明してからその行動に移る。

 ユウダチの役割は護衛だけなのだから、本来ならわざわざ意図を説明する必要はない。

 それでもそうするのは、ある意味で癖だろう。


「情報共有を欠かさないなんて、忠実(まめ)だなぁ」

「我々4番隊は輸送と医療を担っています。私は輸送員に区分されますが、どちらの人員であっても、情報共有の滞りが任務の滞りとなります」


 ユウダチが感心していれば、そんな独り言みたいな呟きにもニオはしっかり対応した。

 ニオが述べる通り、4番隊は情報共有が重要だ。故に、そうするのが隊員の癖と言える。

 輸送に関しては、どこにどれだけの物資を運ぶのか、どれだけ運び終わっているのか。

 その他諸々の情報を隊の中でしっかり共有せねば、任務重複や任務遅滞などを起こす。

 例えば戦争中にそんな遅滞を起こせば、物資が届かなかった前線部隊は敗北するだろう。

 損耗した武器では相手の鎧を抜けず、破損した鎧では相手の攻撃を通してしまう。

 装備が万全でも食料がなければ飢えに苦しみ、回復薬がなければ傷に苦しむのだ。


「あ、輸送員と医療員って別けられてるんだ」

「1つの部隊にまとめられていますが、本来それらは全く別の分野です。ですので、部隊内で別けられています」


 元々輸送も医療も兼任させて下手を打ったから設立した部隊、王立近衛兵4番隊。

 その隊で同じ失敗を繰り返すのでは、設立された意味がない。

 だからこそ、初代4番隊隊長はどちらかの分野を専門とさせるよう、人員を別けたのだ。


「パース隊長は両分野に属していますが、ケイヴェ副隊長は輸送に専従しています。それにより、医療分野に専従する長、医療班長という特別な役職が設けられました。その役職は、隊長及び副隊長とは別の方が務めています」

「それぞれの分野に取りまとめ役が居るって事だよな?」

「はい。権限につきましても、医療班長は副隊長と同等です」

「はーん、なるほどなー」


 4番隊における組織編成の事を聞き、ユウダチは浅くではあるが理解を示した。

 冒険者として長く生きてきたから、ユウダチも頭は悪くない。

 しかし、知識労働は自身の専門外であると認識し、別の者に任せてきたのだ。

 特に、組織編成なんて部分は『リーダー』に丸投げしていた。

 ユウダチは専ら戦闘人員。レオナルドも『リーダー』もその他全員も、戦闘以外はあまり期待していなかったのである。

 荒事や力仕事には、全幅の信頼を置かれていたのだが。


「すみませんが、郵便局に着きましたので一旦失礼します」


 会話中も歩みを止めなかったニオは、一休みもせずに村の郵便局へと消えていった。

 ユウダチはその背中を見送り、草の(しげ)道端(みちばた)で立ち尽くす。


「集団をまとめるのって、大変なんだなー」


 ニオが帰ってくるまでの時間を潰すため、ユウダチは思索にふける。


「そうすると、な。やっぱり凄ぇよ、リーダーは。脳みそが最後まで知識タップリだもん」


 思索のお題は組織編成を任せていた『リーダー』について。

 その膨大な知識量を改めて思い知り、尊敬の念を抱いていた。

 『リーダー』の知識で何度も窮地を救われている身のユウダチは、いくら尊敬してもし足りないと、『リーダー』を評価している。


「ま、伊達に奇人変人を取りまとめ、大偉業を成した奴じゃないわな」


 自身と『リーダー』も含めた6人、『始まりの六柱』。

 超越した才能を持つが故に我が強く、人格に大小難があった者たち。

 そんな者たちを『リーダー』はまとめ上げ、人類史を拓いてみせたのだ。

 同じ才能、同じ環境を与えられたとして、おそらく同じ偉業は成せない。

 『邪神フィーネ』を離反させてはいるが、それを差し引いたって大偉業だ。

 少なくとも、ユウダチは、『武神エフエフ』はそう解釈している。


「あーーーなんだかむず(がゆ)くなってきた。あーーー、またみんなと旅がしてぇーーー。またみんなで集まれねぇかなーーー」


 大偉業を成す過程の記憶まで思索が繋がってしまい、ユウダチは当時の楽しい日々に郷愁のような感情を抱いた。

 ユウダチにとって、あの日々は大切な思い出であり、願わくば取り戻したい心の故郷でもある。


「フィーネとか、うん、帰ってこないな。あいつもあいつで、好き勝手やってるみたいだし」


 追いかけて殺すべき相手、『邪神フィーネ』。

 そんな相手に対してだが、ユウダチはその男と集まれる事も望んでいた。

 ユウダチはフィーネを敵視していないのだ。

 追いかけて殺し合うのも、正直遊び感覚でやっている。

 ユウダチの中で、フィーネの人物評はちょっとやんちゃな変わり者、なのである。

 だから、レオナルドと違って是が非でも殺そうとはしていない。


「帰ってきたとしても、レオナルドが許さないだろうなーーー。フィーネがリーダーに面と向かって謝って、リーダーがレオナルドを説得すれば可能性が……。ないか」


 『始まりの六柱』全員が再び仲良く旅できる未来。

 そんなモノを思い浮かべてみても、儚い夢である。


「あああーーー、みんなどこで何してんのかなーーー。みんな元気かなーーー。元気ではあるだろうなーーー」


 儚い夢も掴めなかったユウダチは、せめて皆の元気にやっている姿を想像すると共に、その想像が当たっていると予感した。

 容易く死ぬ奴らではない。とある事情と皆の実力が、ユウダチにそう確信させる。


「お前さんがみんなの居場所を教えてくれれば良いんだけど……」


 ユウダチは懐から首飾りを取り出した。

 その首飾りは、(いのしし)を模した小さな彫像をぶら下げている。


「この子機じゃ駄目なんだよなーーー……」


 その首飾りへの高望みを止め、ユウダチはその猪の首飾りを大事にしまうのだった。

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