第二十五節 喧嘩する程仲が良い
「ようやくサースイナッカノ農村に着いたわよ!」
マリーは清々しい気持ちで声を上げた。
最初からこの村を目的地として出発したのだから、その喜びも一層大きいだろう。
ドラクルからリチョーシまで8日かけ、そのリチョーシから出発して3日目でサースイナッカノ農村に着いたのだ。
北の都から南の端へとは言え、今日も入れて約11日を費やしている。
これがこの世界の交通事情である。
「さぁさぁさぁ、森に行くわよ!森!」
そんな待ちに待ったマリーは、少年のように目を輝かせていた。
農村付近の森にあるだろうロスの魔道具を探す事。それはマリーにとって宝探しも同然であるからそうもなる。
「お待ちください、マリー隊長。安全を重視し、念のため件の森について聞き込みすべきでしょう」
「ニオ、あたしはもう充分すぎる程待ったわ。論文が書けてしまう程に待ったわ、実証実験してないから発表はできないけど。これ以上待つのは、あたしには無理よ!!」
慎重で落ち着きのある姿勢を示すニオ。
対し、マリーは大人げなく、己の忍耐力のなさを誇示した。
その発言には無駄に迫力がある。
「あの、マリー隊長……。さすがにニオさんに従うべきでは……。私たちだけでは安全の確保なんてできませんし」
「安全なんてぬるま湯に浸かって、魔術という未知が探求できるか!」
ブレンダの意見にも、マリーは全く耳を貸さない。
これではどちらが隊長なのか分からない。
ある意味で、マリーは研究者集団の長らしくあるのだが。
とにかく、手に負えない状態となりつつある。
「なら、手分けしよう。私がブレンダたちの護衛、ユウダチがニオの護衛をすれば良い」
その状態で一筋の光となったのはレオナルド。
安全の確保が必要なら、護衛がしっかり付けば良いという、単純な結論である。
そして、より危険な方に、レオナルドは立候補した。
提案した責任として、負担の大きい方を背負おうとしているのだ。
「ふーん、そうかそうか。つまりそういう事なんだな、レオナル―――冷たい!?」
気味の悪い笑みを浮かべていたユウダチに、氷塊が襲い掛かった。
本来は氷柱を相手へと飛ばす『アイシクル』という魔術による物だが、今回は小さくて脆い氷塊。
威力はあまりないが、邪推を防ぐには適当である。
「いきなり何すんだ!?」
「お前がくだらん事を抜かしかけていたのでな、親切にも止めてやっただけだ」
そんな魔術を急に撃ってきたレオナルドへ、ユウダチはもちろん抗議した。
しかし、レオナルドは当然の行いをしたまでと、平静に返したのだ。
「ご機嫌な雰囲気まとっておいて、なぁにが『くだらん事』だ。ブレンダ嬢ちゃんとの距離が近くなってるの、俺分かってんだからな!」
「護衛対象と良好な関係は望ましい事だろう」
「今までそんな気遣いした事ないじゃん。あれだろ、昨夜はお楽しみ―――冷たいって!2度も氷ぶつけたな!カジキチにもぶつけられた事ないのに!」
「ぶつけて何故悪い!一言余計なお前の悪癖を矯正してやろうとしているんだ!それと、あいつからは金槌をよくぶつけられてるだろ!」
ユウダチの抗議とレオナルドの反論は勢いを増し、いつの間にか喧嘩へと発展していた。
と言っても、レオナルドは魔術を加減しているし、ユウダチは胸倉を掴む程度に抑えている。
「じゃあ良いよ、お前となんか絶交だ!好きに嬢ちゃんの尻でも追っかけ―――冷たいから止めろって!」
「しばらくお別れだ。その内に、お前は頭を冷やしてこい」
「お前こそその偏屈を直し―――氷は卑怯!」
「ふん」
ユウダチが4度目の『アイシクル』を馬鹿正直に頭で受けた。
そうして氷塗れになったユウダチへと鼻を鳴らし、レオナルドはブレンダの傍に寄る。
「……そうですね。では、二手に別れましょう」
勝手に作戦を決定されたが、もはや口出しできそうにない。
仕方なく、ニオはレオナルドの提案を採用した。
ここからはマリー、ブレンダ、レオナルドの組と、ニオ、ユウダチの組で別行動となる。
「行くわよ、ブレンダ!森があたしを待ちわびているわ!」
「え、あ、はい」
マリーはレオナルドとユウダチの喧嘩など全く気にせず、己の目的に邁進する。
勢いに逆らえず、ブレンダは勇み足のマリーに付いていった。
レオナルドはその後ろに続く。
そこで、ブレンダはあえてレオナルドに歩調を合わせ、横に並んだのだ。
「あ、あの……。ごめんなさい……」
「……何がだ?」
「わ、私が仲良くなったから、喧嘩させちゃったみたいで……」
「卑屈か、貴様」
どう解釈すればあの喧嘩の原因がブレンダになるのか。
そんな意味不明な解釈をしているブレンダに、レオナルドはつい眉間に皴を寄せた。
ブレンダの精神が、レオナルドは割と心配になってきている。
「喧嘩はいつもの事だ。あいつの頭がお花畑だから、私とよく意見が擦れ違う」
「『頭がお花畑』……」
珍妙な例えであるが、かえってしっくり来ていた。
あの底抜けの明るさは、確かに『お花畑』という例えが正しいかもしれない。
「多少すればすぐに戻る。それに……」
「『それに』?」
「……この程度で喧嘩別れするなら、あいつとの旅は今日まで続いていない」
ユウダチを信頼しているレオナルド。
しかし、そう明かすレオナルドの頬に赤みが差しており、ブレンダはその頬を見逃さないのだった。




