第二十四節 犯人の足取り
「いやぁすみませんね、お楽しみの時間を邪魔しちゃって」
「誤解を招く言い方は止めてくださいよ」
パースの運転する馬車の中、俺はパースの揶揄いに口を尖らせた。
わざと酷い言い方をするのだから、さすがに俺も不快になる。
「一緒にお食事までして、ムラマサさんの方も大分ご機嫌でしたしね?そりゃそう思っちゃいますって」
どうにも捕まった瞬間が悪かった。
パースにはムラマサとの食事を終えたところで出くわしたのだ。
しかも、その時にあの鍛冶神信仰過激派が気持ち頬を緩めていた。
それで、楽しい歓談が行われたものと、パースは解釈したようだ。
と言っても、ただ揶揄う材料にしているだけだろう。
「ムラマサさんも暇を持て余しているようでしたから、せめて慰めになればと、誘ったんですよ。ただの食事でしたが、彼女も気がまぎれたようで何よりです」
「本当にそうですかぁ?何やら首飾りまで貰ったようですしねぇ」
何故だかムラマサから貰った首飾り。虎を模した小さな彫像をぶら下げるそれ。
手作りと称されたその首飾りも、パースの追及をしつこくさせている要因か。
確かに、あの変わり者から贈り物が寄越されるなんて、深い意味を疑ってしまう。
『肌身離さず持っていてください』なんてパースが居る前で宣ってくれやがったのも、意味深長である事を匂わせている。
「はぁ……、まぁ情報交換もしましたからね。ムラマサさんは欲しい情報が手に入ったから、気分を良くしたのでしょう。この首飾りはその報酬、という事なのでは?」
「へぇ、あの方が報酬をくれる程欲しがっていた情報ですか」
「聖剣エクスカリバーについてです。申し訳ありませんが、これ以上は口を割れません」
一気に視線が鋭くなったパース。
邪推をされるのは嫌なので、俺は一応の捕捉をしておいた。
その場しのぎではあるが、しないよりは良い。
「それより、奴隷商の足取りを掴めたというのは本当ですか」
ついでに、これ以上詮索されないよう、話を逸らした。
逸らしたと言うか、俺が急にパースの馬車に乗せられた原因なので、こっちの話の方が本命だろう。
「しっかり掴めましたとも。そうじゃなきゃ勇者様のお楽しみを邪魔したりしませんって」
「……」
まだ俺とムラマサの食事を言及するか、この人は。
「はいはい、冗談はこの辺にしまして。リチョーシの外れにある丘、そこに不審な馬車が入っていったのを見たと、冒険者の方から目撃情報が上がりまして。調べに行ったら正解でした。かなり人工的な洞窟の中、なんと広々とした空間の内装はまるまる牢屋だったんです」
真面目な調子に戻ったパースは、いきなり核心をぶん投げてきた。
とにかく、仕事する態度になってくれたので、俺も頭を切り替える。
人目に付かない場所で作られた牢屋となれば、思い付く事はそう多くない。
「奴隷商の倉庫だったと」
「そうでしょうね」
誘拐した人間を一時的に保管しておく場所。
それが俺とパースの推測だった。
しかし、外れとはいえ都の近くに倉庫を設置するとは、奴隷商は随分と豪胆な奴らしい。
いや、人という商品を扱うのだから、買い手は隠すだけの知恵と金がある富裕層。
そうなると、富裕層の多い都に客が集中しているか。
客の多い場所に倉庫を作るのは、商売として合理的だ。
「何か、足取りを掴める遺留品でもありましたか?」
馬車が向かっている先はサースイナッカノ農村。
倉庫で何かしら見つけたとするのが自然である。
「残念、空っぽです。商品の1つも残されていませんでした。ですが、随分と目新しい轍があったので、行き先の特定は楽でしたよ」
物はなかったが、跡はあったという訳だ。
轍、馬車の通った跡だけで、行き先の特定ができるのは驚愕である。
王立近衛兵4番隊隊長は伊達ではないという事か。
「目新しい轍、ですか……。相手は逃走中ですかね」
「勇者様が追いかけてきたかもしれないんです。当然、慌てて逃げますよね?そのおかげで、こっちは楽に追跡できるんですけどねぇ」
パースは実にいやらしい笑みを浮かべた。
獲物が罠にかかった喜びを噛みしめているのだろうが、傍に居る俺としてはちょっと怖い。
「一応確認ですが、目的地はサースイナッカノ農村なので?」
「はい。正確には、その周辺でしょうが。それがどうかしましたか?」
「いえ、ブレンダたちの目的地もサースイナッカノ農村だったなぁ、と」
奇妙にもブレンダたちの行き先と合致してしまっている。
偶然なのだろうが、なんだか嫌な予感もするのだ。
「マリーさんたちは護衛を雇ってますから、有事の際も大丈夫でしょう」
「マリーさんが雇ったんですか?」
「部下に彼女らの安全を重視するよう、指示しておきました」
マリーに護衛を雇うなんて思考があるとは考えられなかったが、ニオなら納得である。
そして、先だってそういう指示を出しておけるパースもなかなか優秀だ。
本当にこの男、仕事はしっかりできるのだな。
「護衛の詳細は?」
「さぁ、そこまでは。マリーさんに急かされたのか、報告する時間はなかったようなので」
よりによって、護衛の強さについては不明だった。
3級冒険者でも混じっていてくれれば安心なのだが、詳細を知れなかった俺は、嫌な予感を拭う事ができなかったのだった。




