第二十三節 勘違いを誘う密談
「お昼、一緒に食べませんか?テノール。できれば2人だけで」
ムラマサを問い詰めたその日の昼。
その問い詰めた人物からお昼を誘われた。
地味に、俺の名前が記憶されている。
「……何故?」
「そんな緊張しないでください。取って食ったりはしません。ただ、聖剣エクスカリバーについて、お話がしたいだけです」
ムラマサの神妙な態度に警戒すれば、見事に見抜かれてしまった。
だが、ムラマサは機嫌を損ねる事なく、興味を誘う文句も付加して誘ってきたのだ。
ちょっと怖いが、乗ってみるか。
「聖剣エクスカリバーについて、か。分かった、お誘いを受けよう。昼食の場所は決まっているかな?」
「え?この屋敷で良くありませんか?」
「……」
聖剣エクスカリバーについての話。それは機密事項だ。他人の屋敷なんかで話して良い事では断じてない。
そういう考えと言うか常識と言うか、ムラマサはやはりそこら辺が欠如しているようだ。
「すまないが、場所は俺に決めさせてくれ」
「ん?まぁ、別に構いませんが……」
機密事項を話す密談の場所はムラマサに任せられないと、俺が決定権を貰った。
また出費が増えるが、必要経費と割り切ろう。
そうして、俺はムラマサから決定権を貰った後すぐに、個室のある、できれば壁の厚い飲食店を探すのだった。
そんな急遽のお店探しで時間を過ごし、時はお昼頃。
探し回る途中いろんな店で店主に擦り寄られたが、どうにか希望に近い飲食店を見つけ出したのだ。
「随分と豪華な店ですね」
個室まで辿り着いたムラマサの感想がそれ。
実際、装飾に金がかかっている高級店だ。
壁の厚い個室のある店を選ぼうとすれば、自然こういう店になる。
「こういう店は初めてかい?」
「食べ物なんて、力が付く物であれば何でも良いですからね」
鍛冶師だけあって、力が付く物にはこだわるのか。
普段の食事事情が透けてくるな。
「慣れない店に連れてきたお詫びだ。支払いは俺が持つよ」
「良いんですか?ボクは遠慮しませんよ?」
「良いとも」
「では、お言葉に甘えます。なかなかに紳士ですね、貴方」
ムラマサからの実直な誉め言葉。
俺はそれを笑顔で受け取る。
関わり方さえ見極めれば、悪い奴ではないのかもしれない。
そんな彼女を扱う技量が上がったところで、ムラマサと俺が囲む卓に料理が並べられていく。
「これ、もしかしてコース料理?でも料理が全部置かれたから違うか……」
「いや、コース料理で合ってるよ。俺が全部一気に運んでもらえるよう、頼んだんだ」
『主神スタッカート』が書き残した料理形態、『コース料理』。
前菜、汁物、魚料理、肉料理、冷菓、肉料理、生野菜、甘味、果物、珈琲と、順々に提供するという一風変わった料理形態だ。
しかし、この情緒的でゆったりと時間を使う食事が、金と時間を持て余している連中に絶賛された。
それからというもの、コース料理は貴族や金持ちの食事として世の中に定着している。
「君はこういうのに疎いと思っていたが」
「否定はしません。ですが、友人に博識な奴が居たので、そいつに披露された知識がいくつか頭に残っていたりするのです」
世間に疎い事を認めたムラマサ。
それでもコース料理だけ頭に残っているという事は、おそらく何度もその知識を披露されたのだろう。
もしかしたら、その友人とやらは鍛冶一筋の彼女を哀れみ、必死に教育を施そうと試みたのかもしれない。
「まぁ、そんな事はどうでも良いですね。さっさと、食事をしながら話を済ませてしまいましょう。そのために、料理を全て運ばせたのでしょう?」
耳目を避けたい故の、店員の入室すら拒んだこの現状。
ムラマサは俺のそういう思惑を察したようだ。
「そうだな。じゃあ、ゆっくり話そうか。まず、こちらから良いかな」
ムラマサが作ってくれた会話の始まりで、俺は先手を取らせてもらう。
「まだ訊きたい事があったんですか?」
「新しく湧いた疑問だ。どうして今さら、聖剣エクスカリバーについて話そうと思ったんだ?」
鍛冶以外興味がなさそうな彼女の、気が向いた訳。
俺はその訳に見当も付いていないのだ。
「理由は、主に3つです。1つ目は、暇だったから。2つ目は、聖剣エクスカリバーに宿した魂の経過が気になったから。3つ目は、貴方に興味を抱いたから」
「……1つ目と2つ目は納得できる。しかし、3つ目は?」
彼女の興味を引くような事、俺はした覚えがない。
魂を扱う武器の製造を控えるように願ったくらいだが、何かやってしまっただろうか。
「そっちの理由は2つです。ボクは聖剣エクスカリバーに宿した魂の人格を把握しています。しかし、あれはただの戦闘狂でした。誰かを救うために動くような方では、全くありません」
この鍛冶神信仰過激派からの評価も『戦闘狂』であった。
こんな評価をされて、エクスカリバーはどんな気持ちだろうか。
(いやぁ、照れるぜ)
こいつ、完全に開き直っている。もう手の施しようがない。
「……えーと、2つ目は?」
「貴方の人格が気になりました。そんな戦闘狂を傍に置きながら、どうして人助けができているのか。それと、どうして貴方が魂の宿された武器に良い感情がないのか。そういうところが、ボクの興味を引きました」
前半部分はともかく、後半部分がどうして興味を引いたのかは謎だ。
しかし、そこを追求するのは彼女の思考を解き明かさねばならない。
さすがに、そこまでして謎を解く気にはなれない。
「そうだな……。とりあえず1つ目の方の答えだが。なんと言えば良いか……。エクスカリバー、聖剣に宿っている魂とある取引をしたんだ。そのおかげで、人助けができている」
体の主導権奪取を受け入れた事。奪われた事で色々やられるのを諦めている事。
ある意味で、それが契約と言える。
そのおかげで、と言うより、そのせいで勇者らしく人助けしなくてはならなくなったのだ。
だが、富と名声は得られている事に変わりはない。
どうしようもない事だし、利益はしっかりあるから我慢している。
以上の事を所々言い換え、言葉を選んだのが俺の発言である。
(お前は1流の詐欺師だよ)
誰が詐欺師だ。俺は勇者だ。
(はいはい)
なんか雑にあしらわれた。
「ああ、なるほど。貴方も酔狂者ですね」
なんかムラマサに不服な分類をされた。
何がどうしてそうなったのだ。
「2つ目は答えなくて良いです。どんな答えか読めましたから。魂の経過も結構です。変わりないようなのが窺えました」
「そ、そうか……」
ムラマサの自信に満ち溢れた様子に、俺は多少怯んでしまった。
悪い読みをされていないように、俺は祈るのだった。




