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第二十二節 職人と詐欺師

 暇潰しに聖剣デュランダルの真贋調査を行い、一日を費やした俺。

 記録書を読む限り、聖剣デュランダルが本物である可能性は高い、という結論に至った。

 ナンタン家から提供してきた記録書であるから、真実が記された物かは考慮せねばならないが。


 とにかく、調査の結論は出したのだ。

 これ以上記録書を読んでいても、本当にただの暇潰しにしかならない。


(暇潰しなんて、している場合じゃないんだ。重要な用事がある)


 記録書の所々で、聖剣デュランダルに魂が宿っている事が示唆されていた。

 ヘクト・ナンタンが聖剣の声を聞き届けたとする記述が、いくつもあったのである。

 その聖剣の声が魂の宿っている故であると、記録書の筆者は気付けていないようだった。

 しかし、俺は気付けた。

 何故なら、俺の手元には魂が宿っている剣、聖剣エクスカリバーがあるからだ。

 そして、その事は重要な用事に繋がってくる。


(ムラマサが、エクスカリバーの事を知っているかもしれない……!)


 あの鍛冶師の少女ムラマサが、歴代ムラマサの作品として聖剣エクスカリバーの名を上げていた。

 同時に、歴代ムラマサの作品、その仕様を教えられ、製造法を身に着けた事も語っていたのだ。

 それはつまり、聖剣エクスカリバーの真実を知っている事になる。


(問い質さねば……!不都合な真実を知っているようだったら口封じを……)


 聖剣エクスカリバーが所有者を乗っ取る仕様である事を知っていれば、俺がただエクスカリバーに操られるだけの男である事が露呈するのだ。

 だから、口封じをしなければならない。


(……勇者がどうやって口封じするんだ!?おまけに相手は鍛冶神信仰過激派、真っ当な手段じゃ口封じなんてできなくないか!?)


 どうやって口封じするか考えるだけでも、実に頭が痛くなる難題だった。

 本当に、どうすれば良いか全く考え付かない。


(クソ……。問い質すだけ問い質して、そこからは臨機応変に!)


 俺は後の俺に全てを投げた。

 迷いを断ち切り、というか放り投げ、足を進める。

 向かう先は、ナンタン領主邸のとある一室。ムラマサが宿泊している来賓用の部屋だ。

 ムラマサはバーニン王からの許可が下りるまで修理をお預け。ナンタン領主邸に留まる事になっているのだ。


 俺はムラマサの泊まる一室まで辿り着き、部屋の扉を叩く。


「……誰ですか」

「俺です、テノールです」

「……誰でしたっけ」


 あの鍛冶神信仰過激派、人の名前を覚えていない。


「聖剣エクスカリバーの所有者です」

「ああ、聖剣エクスカリバーの」


 だからそうだって言ってるだろ。

 無駄に俺の精神を荒立ててくる奴だ。


「なんの用ですか」

「……少し訊きたい事があるんだが。良いかな?」

「まぁ、良いですよ。やる事がなくて退屈でしたから」


 反応が素っ気ないが、退屈な時間を過ごしていたためか。

 『そんな事より武器作りだ!!!』とするムラマサにとって、鍛冶ができない時間は耐え難いだろう。

 俺としては、大分落ち着いた彼女と話ができそうで有り難い。


「それでは、失礼するよ」


 室内に入れば、ムラマサは何か書き物をしていた。

 マリーと言いムラマサと言い、その他にやる事はないのか。

 ……ないのだろうなぁ。


「それで、訊きたい事ってなんですか」


 ムラマサは書き物に目をやったまま、こちらに一瞥もくれない。

 いや、もう何も言うまい。


「ナンタン家にある聖剣デュランダル関連の記録書を読んでいてね。気になった事があったんだ」

「聖剣エクスカリバーの担い手が気になった事、ですか。聖剣デュランダルにも魂が宿っているか。そんな辺りですかね」


 俺が質問をする前に、ムラマサは見事に質問を当てた。

 それについて、俺は驚かない。

 むしろ、最終的に問い質したかった事が混じっていて喜んでいる。


(『デュランダルにも』、か。やはり、聖剣エクスカリバーに魂が宿っている事を知っているな)


 今すぐその部分を問い詰めたいが、順序というものがあるのだ。

 俺は冷静に、話を組み立てる。


「……、その答えは如何に」

「宿ってますよ?あの聖剣は『武神エフエフ』を飽きさせないために、炎魔術を疑似的に使わせよう、という設計思想で製造されました。なら、魔術を代行させるための機関として、魂を宿すのが最適です」


 ……そんな設計思想だったのか。そんな頑張って工夫したのに、『飽きたから』と他人に渡されているのだが。


(なんだか、同じ聖剣に宿った魂として不憫に思えてきたぜ……。そりゃ捨てない人を選ぶようにするわな……)


 聖剣デュランダルの選定条件までその意図が読めてしまった。

 デュランダルの不憫さが積み重なっていく。


「……君は、作品に宿らされた魂を把握しているか?」

「もちろん。というか、ちゃんと魂本人に話を持ち掛けてはいます。武器に宿すけど構わないかって。歴代も全員そうしているはずです」


 ……エクスカリバー。


(すまん、忘れた)


 忘れるんじゃない、かなり大事だろその記憶。


(だって1000年以上前の事だぜ?覚えてる訳ねぇよ)


 了解だ。この件について、2度とお前を頼らない。


「じゃあ、エクスカリバーの事も把握してるんだな」

「その聖剣に宿した魂の事ですよね。性格までしっかり把握してます。『戦い続けられるなら構わない』と、許諾も取りましたし」


 ……エクスカリバー。


(我ながら変わんねぇな)


 お前がずっと戦闘狂だったのは俺も把握した。


(戦闘狂で悪ぃか?)


 悪いんだけど、お前が良いならもう良いや。


「何を気にしているのかさっぱりですが。一応、その聖剣の仕様については黙っておきます。魂を扱っている時点で、あまり外聞が良くないですからね」


 魂を扱う事があまり良くない事であると、そういう常識をムラマサも意外に持ち合わせていたようだ。

 外聞なんて捨ておく人種ではなかったのか。


「それに、下手に真似されると厄介です。魂はとても繊細なので、素人には絶対に扱わせたくありません」


 前言とは違って熱を込めるムラマサ。

 こっちの方が本題だろ。


 とりあえず、俺が訊きたい事はあっさり聞けたし、俺が口封じをする必要もなかった。

 案外簡単に用事が済んでしまったのだ。

 しかし、念のため勇者として取り繕わねばならない。


「今後、魂を扱う予定は……」

「……ないですが、扱うでしょうね。だから、誓っておきましょう。決して、魂を無理に宿させはしません。魂を無理に宿させた物では、傑作にはなりませんから」


 倫理観が欠如している理由だが、かえって本気さが伝わってくる。

 これが鍛冶神信仰過激派か。


「……終わった者は眠りに就かせるべき存在。できるなら、控えてくれ」

「……そんなお願いをしてきたのは、貴方で2人目です」


 俺はムラマサの鍛冶に対する熱意を抑えさせるような、それこそ彼女から反感を買いそうなお願いをしたはずだった。

 なのに、ムラマサはどこか嬉しそうに微笑んでいる。


「えっと、つまりは控えてくれるのか?」

「ええ、無闇に作らない事は約束します」


 それでも『無闇に作らない』だけなのか……。

 しかし、快諾してはくれているのだから、さらに望むのは悪手だろう。

 俺はムラマサのその約束で満足するのだった。

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