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第二十節 とある過ち

 リチョーシを出発したマリーたち。

 順調に旅を進めた彼女らは、サースイナッカノ農村の1つ手前である町で休憩していた。

 夕暮れが近いため、日没までに到着は間に合わないと判断されたのだ。


 そうして休憩している町でマリーたちは宿を取り、各々行動していた。

 その町の町長に、中継地として立ち寄っただけだと伝えに行っているニオ。

 宿の部屋に閉じこもり、何やら書き留めているマリー。

 宿の近くにあった酒場で飲み食いしているユウダチ。

 ユウダチに付き合い、酒の摘まみだけ軽く摘まんでいるレオナルド。

 そんな彼ら、というかユウダチに連れ出されたブレンダ。


 さすがのユウダチもブレンダに酒は強要していないが、談笑は強要されている。

 と言っても、ブレンダも悪い気はしていないが。


「ユウダチさんとレオナルドさんは長く一緒に旅をされる程、仲が良いんですね」

「そうだぜ?」

「……こいつが勝手にそう思ってるだけだ」

「おいおい、釣れない事言うなよぉレオナルドぉ」


 ブレンダの質問に対する回答がユウダチと違ったレオナルド。

 ユウダチは笑顔でレオナルドの肩を何度も叩いた。

 レオナルドは心底鬱陶しそうだ。

 だが、拒絶する事はない。

 それは諦念によるモノか、心を許した事によるモノか。

 ブレンダには読み取れない。


「でも、長く一緒に居るんですよね?それって仲が良くないとできないのでは……」

「……」

「ほれほれ、核心を突かれてるぞぉ?」

「お前はとにかく黙れ」


 ブレンダの言葉にレオナルドが黙ったところを、ユウダチが面倒臭く絡んだ。

 それには平手打ちで制裁を加えるレオナルドだが、威力がないようで、ユウダチは痛がっていない。


「こいつは私の腐れ縁であり、監視役だ」


 レオナルドはユウダチとの関係を語り出す。

 その顔は帽子の大きな(つば)で隠され、表情を窺う事はできない。

 だが、真剣な話である事はブレンダも察する事ができた。

 何故なら、ユウダチがレオナルドへの揶揄(からか)いを止めたからだ。

 ユウダチはただ、椀に残る酒の水面に、己の顔を映している。


「……腐れ縁、と言うのは?」

「……私とユウダチ、それと他4人を加え、世界を長く巡っていたんだ。そうすべきであると、皆が使命感でそうしていた」


 レオナルドの傍に、ユウダチ以外の姿はない。

 いつ別れたのか、どうして別れたのか。それらは不明である。

 1つだけ、それが昔の事であるのは明快だ。


「世界を巡る中、私たちはそれぞれの目的を得た。使命感での旅は、それで終わった。目的を得た私たちは途中まで手を取り、同じ道を辿った。途中で1人離反したが、まぁそれは後にしよう」


 使命感から解放された各々は、それぞれの目的で動き出す。


「皆と1度別れた私は、魔術の研究に勤しんだ。いずれ、この研究が世のためになると」

「魔術研究家だったんですね」


 同業者だった事を知り、ブレンダは親近感を覚えた。

 しかし、そのブレンダの純粋な眼差しに、レオナルドは目を合わさない。


「もう、止めた事だ……」

「どうして止めちゃったんですか?とても熱意を持っていたようでしたけど……」


 レオナルドは『世のためになる』という思いで研究をやっていた。

 それは他人の幸福を望む、非常に熱意ある動機だとブレンダは捉えている。

 なら、その熱意を冷ます程の何が、レオナルドにあったのだろうか。


「……『魔神と過ちの国』という、御伽噺を知っているか?」

「はい。魔術を侵略に用いた国は『魔神ダ・カーポ』様の裁きを受けるという内容、よく覚えています。魔術の誤った使い方は身を滅ぼすと、非常に教訓になる御伽噺でした」


 魔術師ならほとんどの者が読んだだろう御伽噺、『魔神と過ちの国』。

 ブレンダももちろん読み、内容に含まれた教訓を読み解いていた。

 その教訓が筆者の意図したモノかは不明だが。


「……その国が『魔神ダ・カーポ』の協力を得た故の発展である内容は?」

「覚えています。『魔神ダ・カーポ』様が人類繁栄のために才ある魔術師を集め、その者たちと研究されたとか」


 レオナルドに御伽噺の細部を記憶しているかどうか訊ねられたが、ブレンダはしっかり記憶していた。

 『魔神と過ちの国』を読む事は、ブレンダが農民だった頃の数少ない娯楽だったのだ。


「……そもそも、『魔神ダ・カーポ』が関わらなければ、その才ある魔術師たちは、彼らが建てた国は、亡ぶ事はなかった。そうは思わないか?」

「え?……いえ、あんまり。むしろ、かの神と一緒に研究できたのに、なんで道を誤ってしまったのかと」

「……そうか」


 ブレンダの意見は大衆の意見とあまり変わらない。

 『邪神フィーネ』ならともかく、『始まりの六柱』が傍に居ながら過ちを犯す。

 この世界の人間にとって、それは神への冒涜に等しい。

 『始まりの六柱』は絶対。その認識が、人々の共通認識である。


「レオナルドさんは、そう思っているんですか?」

「……私の話はここまでだ。悪いが、席を外させてもらう」

「あ……」


 ブレンダが伸ばした手も振り切り、レオナルドは自身の食事代だけ置いて、さっさと酒場から出て行ってしまった。

 ブレンダは失言したかと、居たたまれなくなる。


「いやぁ悪いね。俺の相方は気難しくてさ」


 ユウダチは、そんなブレンダへ気さくに声をかけた。

 暗くなった雰囲気を明るくさせようとしたのだ。


「……私、怒らせてしまったでしょうか」


 だが、ユウダチの気遣いが、かえってブレンダに失言を自覚させた。

 この状態ではぐらかすのは悪手であると、ユウダチはあえてその自覚を改めさせない。


「明日謝りに行こう。俺も付いてってあげるからさ」


 気分が晴れないのなら、その原因を取り除く。

 それがユウダチの心構えだ。

 そのために、ユウダチはブレンダにその心構えを勧めたのである。


「……はい」


 ブレンダはお勧めに従い、ユウダチへと頭を下げたのだった。

〈用語解説〉

『魔神と過ちの国』

…世界中に広まっており、非常に知名度の高い御伽噺。絵本や小説などにもなっている程の有名な御伽噺だが、その原作者は未だ不明である。

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