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第十九節 眠れる聖剣

 唐突だが、俺は奴隷商の調査に向いていない。

 何故ならば、俺が勇者だからだ。

 その名声のおかげで、人への聞き込みは楽に行えるだろう。

 しかし、1度話しかけてしまえば聞き込みだけでは終わらない。

 高確率で俺に関する質問がされる。

 そのせいで話が長引き、結果として効率が悪くなる。

 では聞き込み以外の調査方法を取れば良いのだが、聞き込み以外に俺が取れる調査方法がない。

 以上の事から、俺は奴隷商の調査に向いていないのだ。


(まぁ、俺に下った王命はあくまでパースに同行する事だしな。王も俺が調査に不向きと察して、調査の協力という王命にはしなかったのだろう)


 実は調査を命令されていない俺。

 下手に手伝っても邪魔にしかならないだろうと、パースとローラに調査を任せた。

 しかしそうなると、俺の仕事がない。

 でも奴隷商の足取りが掴めたらすぐに移動できるように、俺は待機していなければならない。

 だからと言って惰眠を(むさぼ)るのも風体が悪いし気分が悪い。


(相変わらず仕事中毒だなぁ、お前)


 誰が王に飼いならされた犬だ。


(誰も言ってねぇよ。ついに被害妄想まで発症しちまったか?)


 精神は患ってない……はずだ。


(そこはしっかり言い切れよ。ちょっと哀れに思っちまったじゃねぇか)


 エクスカリバーに哀れまれるなんて、全く哀れだ。


(地味にオレを小馬鹿にしてねぇか?)


 なんの事やら。


 とにかく。暇を持て余すのは嫌なので、1つ仕事を作った。

 聖剣デュランダルの真贋調査だ。

 と言っても、ナンタン家にある聖剣デュランダル関連の記録書を読むだけだが。

 ちなみに、ナンタン家の方に書物を用意させたので、情報の真偽は非常に怪しい。

 ただの暇潰しであるため、実際真贋を見極める気はないからそれで良いのだ。


(しかし、なんともなぁ……)


 俺の手元に開かれている書物は、どうやって『武神エフエフ』から聖剣を譲り受けたのか書かれた記録書である。

 記録書であるのだが、その内容には頭を抱えたくなっていた。


(随分と面白い窮地に陥ってたみてぇだなぁ、『武神エフエフ』はよぉ。食中毒で下痢と嘔吐とか。冒険者なら分かんなくもねぇが、神様がよくそんな面白い窮地に陥れるな!)


 エクスカリバーが笑い飛ばしているが、本当に要約するとそういう内容になるのだ。

 どういう事なんだよ。


(当時のナンタン国王、ヘクト・ナンタンが『武神エフエフ』の窮地を救ったなんて、どんだけ脚色してんだよ。いや、この内容ならそういう脚色をしたくなるだろうけどさぁ!)

(こんなのそのまま広めたら、武神信仰が黙ってねぇだろうな!)


 エクスカリバーは嬉々としているが、この事実は冗談にならない危機だ。

 『武神エフエフ』は武闘を司る神だ。

 語り継がれている伝説から厳格、俗っぽく言えばかっこいい印象を与える。

 まぁ、時折お茶目な伝説もあるが。

 そんなかっこいいはずの神が食中毒に当たったなんてかっこわるい事実、武神信仰過激派はまず黙っていない。

 揉み消しにかかるか、神を貶めたとして聖戦を仕掛けてくる。


(そういうめんどくせぇ事にならんように隠した上で、漏れたとしてもかっこよく伝わるようにしたんだろうな)


 この脚色はつまりそういう事。

 なんだか、一周回ってこの記録書に真実味を感じてしまう。


(とにかく。それで治療してもらった『武神エフエフ』は、看病や食事、宿泊の恩をまとめて返すため、聖剣デュランダルを譲り渡したと)

(おい、大事な所読み忘れてるぞ?『この剣、飽きたからやるよ』って神様の有り難い言葉をよ)

(そこは必死に読まないようにしてたんだよ!)


 俺は『武神エフエフ』の名誉を守るために読み飛ばそうとしたが、エクスカリバーは逃さなかった。

 そうして読み上げられてしまった俺は、それに突っ込まずには居られない。


(なんなんだよ、『飽きたから』って!『鍛冶神アチューゾ』と知り合いだと、聖剣なんて飽きる程貰えるのか!?この記録書の筆者も筆者だ。『私たちが受け取りやすいよう、あえて手放す理由を作ってくれたのだろう』って!どんだけ都合の良い解釈だよ!)


 記録書のはずなのだが、大衆小説を読んでいる気にさせられる。

 いや、大衆小説でもこんな酷い展開にはしないか。


(ええい、こんな記録の真贋調査なんてやってられるか!次だ、次)


 真面な記録書がないものか。

 俺は提供された記録書を手探りする。


(これは、担い手を決める辺りの話か)


 剣自体が業物であれ、振るう人間が素人なら宝の持ち腐れだ。

 だからこそ、賢王ヘクトは担い手を選定しようとしたらしい。

 だが、聖剣であるが故か、剣自体が担い手を選ぼうとしていた。


(王の人選が、軒並み聖剣に拒否されたのか……)

(はっ、随分と我がまま奴だな。そんなに使う奴が気に入らねぇんだったら、乗っ取っちまえば良いのによ)


 魔剣まがいの聖剣が何やら文句を付けていたが、聖剣とはこういう物だろう。

 架空の物語に登場する聖剣だって、抜こうとした100万人目なんて雑な選び方はしない。


(お?じゃあ今からでもしっかり選んでやろうか?なぁおい、100万人目ってだけで勇者になれた農民君よぉ)

(……今後も末永くご助力いただければと、伏してお願い申し上げます)


 俺は脅迫に屈した。

 こいつを失えば、俺は富も名声も失うのだ。


(誠意ってのはよぉ、言葉じゃなくて物で示すもんだよなぁ)

(……王命が済んだら、帰りにジラフで高級葡萄酒を買ってやる。それでどうだ?)

(話が分かる担い手でオレも嬉しいぜ?)


 金はかかってしまうが、その程度の出費で抑えられたと喜ぼう。


(まぁ、とりあえず。結局、聖剣には賢王ヘクト自体が選ばれてしまったと)


 俺はエクスカリバーへの対応を頭の片隅に追いやり、記録書を読み進めた。

 賢王ヘクトは聖剣の選択を尊重したようだ。

 王自身が前線に出張らなければいけなくなった訳だが、賢王ヘクトはちょっと乗り気だったらしい。


(こんな正統派な聖剣に選ばれて、喜ばない奴はいないわな)

(さりげなくオレを区別しなかったか?)


 そんな事はないので、俺はただ微笑み返した。

 エクスカリバーは釈然としない様子だが、構っている時間が惜しい。


(それで王が聖剣に選ばれたが、王であるから最後の手段として聖剣を隠してたみたいだな)


 如何に強大な力を得たとしても王様は王様だ。

 前線に送り出す臣下は居ないし、前線に進んで出ていく王も居ない。

 建国王アルトは建国王である前に勇者だったので例外である。


(ん?これは……)

(どうした?なんかあったか?)

(いや、変な記述が……)


 王が聖剣の担い手となる事を受け入れた理由についての一文。

 俺はそこに引っかかりを感じた。


(『もう捨てられたくない。だから、裏切らない人を選びたかった』?)


 賢王ヘクトはそのような嘆きを聖剣から受け取ったと、その一文には記されている。


(それって、聖剣デュランダルにも誰かの魂が宿ってる事にならないか……?)


 そんな推測をした俺は、聖剣エクスカリバーを見つめるのだった。

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