第十七節 報告・連絡・相談を怠ってはならない
「遅ればせながら、そして僭越ながら、かの英雄に敬意を表させていただきます」
「いえ。近衛兵の隊長に表されるなら、ヘクト・ナンタンも浮かばれるでしょう」
悲嘆に暮れ終えたパースはいつになく真面目に、胸に手を当てる礼儀まで備えてお辞儀をした。
ナンタン姓という事はローラの親戚。
遠い血縁とはいえ、ここまで真面目に表されればローラも嬉しかったのだろう。
彼女は彼の敬意を快く受け入れた。
しかし、話はかなり本題から逸れている。
ここは、俺が修正せねばならないか。
「失礼。口を挿んでも構いませんか?」
「もちろんです、勇者様。ご意見ありましたら、どうぞ遠慮なく」
俺が話を修正する意思を見せれば、ローラは不機嫌になる事もなく、言葉を制す事もなかった。
ローラにとっても思わぬ脱線だったのかもしれない。
「この剣が本物の聖剣デュランダルである事は認めましょう。それを修理しようとする動機も、領主として正当なモノです。ただ、王国にとって、その独断行動は看過できるものでしょうか」
本物の聖剣を直して防備を整える。
伝説に縋っている点はともかく、領主として正しい判断だ。
だが、捉え方を変えれば一領主が保有戦力を増やそうとする動きだ。
秘密裏に行っていた、というのも印象が悪い。
如何に正当性を論じても、謀反の準備と判断されかねない。
「それに関しては、まぁローラさんからバーニン王へ直接話を付けてもらうしかないですかねぇ。私個人としては、かの英雄が携えた剣の復活なんて大賛成なんですが。近衛兵の隊長とはいえ、一個人ですので」
パースは苦笑しながら、ローラへ力になれない事を伝えていた。
そう。これは近衛兵の隊長が庇える事ではない。
結構重要な事態なのである。
「承知しております。不必要な混乱を招かぬよう伏せていましたが、現状に至っては伏せる事こそ混乱を招きましょう。ならば、国王陛下へと詳細に報告し、謀反が疑われる独断行動を陳謝した後、聖剣の修理が認可いただけますよう、誠意を尽くさせていただきます」
ローラは非を認め、真っ当な方法で許しを請うと、真っすぐ宣誓した。
そういう事ができる時点で、彼女の誠意は真である。
「国王に許しがいただけるよう、祈っていますよ?」
「許しがいただけたとしても、道のりは長いでしょうけどね。聖剣の修理ができる鍛冶師なんて、そうそう居ないでしょうから」
パースから好意的な態度を示されるが、ローラは溜息を吐いた。
認可が得られても、修理できるまでまだ遠いと考えているようだ。少なくとも、彼女の中では。
「あれぇ?リカルドさんから聞いておりませんか?」
「え、俺が何―――ぐへっ」
「……何を、でしょうか。パースさん」
リカルドの頭を叩いて黙らせながら、ローラはパースへと耳を傾ける。
「その剣が聖剣デュランダルと察した上で、修理させてほしいと申し出た鍛冶師が彼に付いてきたはずですが」
「……」
「あ、姉貴……?」
パースがムラマサの事を言及した途端、ローラが固まった。
リカルドは嫌な予感を覚えつつ、ローラの様子を窺う。
「……エイプリル」
「お呼びでしょうか、お嬢様」
「リカルドに石を抱かせておいて」
「え!?いやっ俺悪くな―――むーーーーー!!!?」
「承りました」
リカルドはローラに呼び出された侍女に口も余さず縛り上げられ、引きずられていった。
『石を抱かせて』、か。
『コジ記』にも記されている拷問、石抱きの事を差しているのかもしれない。
何にせよ、リカルドの行き先に幸あれ。
「その鍛冶師は、パースさんから見て信用に足る方でしたか?」
何事もなかったかのように、ローラは鍛冶師について訊ねた。
リカルドが不憫で仕方ない。
「ムラマサと名乗る少女ですが、その腕は信頼に足るかと」
「ムラマサ?あの伝説の鍛冶師の?」
「本人はその名を継いでいると。ちょっと信じられませんよね。でも、剣から漏れ出る魔力とわずかな金属音で、聖剣デュランダルだと察していました。間違いなく一流の鍛冶師でしょう」
意外にも、パースはムラマサを高く評価していたらしい。
思えば、聖剣エクスカリバーも一目で見抜かれていたしな。
鍛冶師としての腕は確かか。
「その方はどこに?」
「近くに宿を取っているはずですよ。デュランダルの修理にご執心でしたが、さすがに領主と近衛の話し合いを邪魔しない良識はあったようですねぇ。まるで鍛冶神信仰過激派のような方でしたが」
『ような方』ではなく、鍛冶神信仰過激派そのものである。
パースは無駄にムラマサの名誉を守ったようだ。ほんのわずかにだが。
「そうでしたか。情報、ありがとうございます。この恩は、いずれ何かの形でお返しします」
「一応、連れてきたのはリカルドさんですし、私から聞かなくてもリカルドさんの口から聞けたと思うんですけどねぇ……」
「愚弟の事はお気になさらず。連絡も報告も怠ったリカルドが悪いのです」
ローラは満面の笑みだった。
これではリカルドがあんなに恐れていても当然だ。
「では、ムラマサと言う方をお迎え次第、奴隷商の調査に協力させていただきますね」
「はい。それで問題なく」
ローラとパースはそれで話し合いを締め、互いに一礼してから席を立つのだった。




