第十四節 絶望は歩いてやってくる
ナンタンを目指す旅、8日目。
「さぁて皆さん。ナンタンの都、リチョーシに着きましたよ」
パースが客車へと報告した通り、窓越しからリチョーシを囲う壁が覗けた。
付いてきている鍛冶師ちゃんの馬車も横目に見えてしまったが、とりあえず彼女については保留だ。
ここで俺の長旅は一旦終わりである。
奴隷商の調査をこの都から始め、足取りが掴め次第その奴隷商を追いかける。
そういう計画だ。
「私たちはパース隊長たちと別れ、サースイナッカノ農村に向かう。で良かったですよね?マリー隊長」
「ええ、そうよ。サースイナッカノ農村のあの森で、憎きロスの仕掛けを調べ尽くしてやるわ」
ブレンダとマリーは目的が違うため、別行動となる。
彼女らは彼女らで、予定を確認していた。
マリーの方はなんか執念に燃えているが。
「パース、ニオは足として使わせてもらうわね」
「どうぞご自由に」
「了解しました。4番隊隊員ニオ、3番隊隊長マリーの指揮下に入ります」
「あまり無茶は聞かないようにしてくださいね」
「はっ!」
マリーたちの荷物を運んでいたニオはマリーの方へ。
さりげなくマリーの無茶ぶりに注意するよう言い含めておきつつ、パースはニオの指揮権をマリーへと一時譲渡する。
そんなこんなで、皆がそれぞれ前を向いていたのだ。とある1人を除いて。
「着いちまった……。ろくな言い訳も思い付かずに着いちまったよぉ……」
そのとある1人とは、同行を願われたリカルドである。
彼だけがリチョーシの到着に絶望し、項垂れていた。
彼はデュランダルに関する依頼で色々しくじったため、その依頼主であるナンタン領主には会いたくないそうだ。
「どうして、よりによって姉貴に用事がある人に捕まって、よりによってその人が王立近衛兵なんだよ……。俺って呪われてるのか……?」
言葉の節々から伝わってくるだろうが、なんと彼はナンタン領主の弟だったのだ。
本名、リカルド・ナンタン。
領主という地位を姉に持っていかれたため、冒険者となって見識を広めていたとか。
そして、冒険者として旅をしているというところに、彼の姉でありナンタン現領主であるローラ・ナンタンは目を付けた。
旅をしているなら、ついでにデュランダルを修理できる鍛冶師くらい探せるだろうと。
割と横暴な依頼ではあるが、姉であり領主であるローラに、リカルドは逆らえなかったと言う。
「殺される……。絶対俺の存在が闇に葬られる……、姉貴ならそれくらいやりかねない」
「ローラさんはそんな女性ではないと思うのですが……」
姉に殺される未来を恐怖するリカルド。
しかし、ローラはそんな事をする性格だっただろうか。
俺はローラと面識がある。
と言っても、ナンタンの凶兆解決に面と向かって感謝されたくらいだが。
しかし、その極短時間で彼女の人格は窺えた。
若く、女性でありながら領主を務めているだけあって、とても気丈だった。
そうでありながら、女性としてのお淑やかさを残している。
端的に表すと、強かな女性なのだ。
「アンタは姉貴に騙されてる。姉貴は昔から俺を虐めてきた、そういう悪い女なんだ!」
「……まぁ、家族となると、そういう一面も見てしまうのでしょうね」
「一面じゃない、あれは根幹だ!」
どうにもリカルドは過去に囚われているらしい。
ローラの悪い面を前面に押し出し、恐怖に震えている。
とにかく、彼がローラに虐められてきたというのは事実だろう。
大変な人生を歩んできたのだな。
「頼む、頼むよ!今からでも構わないから逃げさせてくれよぉ!」
「ナンタン領主の秘密を漏らした上で逃亡ですかぁ?あまりお勧めしませんよぉ?場合によっては貴方の首に賞金をかけられますからねぇ」
「おいおいおい、死ぬわ俺……」
パースにもう手詰まりである事を諭されれば、リカルドは静かに腰を落ち着けた。
まるで処刑台の上へと送られる死刑囚のようだ。
さながらこの馬車は死刑囚を運ぶそれ。
鉄格子などないが、4番隊隊長と勇者が居るのだから、逃げられない事に変わりはない。
リカルドはただ、執行猶予を懺悔の時間として存分に使う。
そんな執行猶予も刻一刻となくなり、馬車はリチョーシの入り口で行われる検問に差し掛かった。
「はい、こちらは王立近衛兵4番隊隊長パースです。王命を受け、とある人物の追跡でリチョーシまで来ました」
検問する衛兵にパースが応対している。
「ああ、そっちは王命とは別件の調査に使う道具です。以前のナンタンの凶兆、あれの調査漏れがあるかもと、3番隊隊長に進言されましてね。ああ、調査員には直々に3番隊隊長が来ていますよ?」
衛兵の質問に答える中、マリーについて指摘されたので、マリーが一応顔を出した。
これでパースの答えが嘘でないと証明される。
「はい、はい。しっかり領主には説明させていただきます。宿を取り次第、すぐに領主邸へ……。え?」
パースが変わらず答えているのだが、何か唐突に雲行きが怪しくなった。
いったい何があったと言うのか。
「パースさん、こちらの方からお迎えに上がりました。宿の準備も結構です。こちらでもてなす準備はできておりますので」
パースと衛兵の間に女性が割って入った。
その女性に、俺は見覚えがある。
「あ、姉貴……」
その見覚えを、リカルドが代わりに代弁してくれた。
そう。わざわざ門まで、ナンタン領主であるローラ・ナンタンが出迎えに来たのだ。
そうして、執行猶予が一気になくなったリカルドは絶望に耐えられず、気を失うのだった。




