第十二節 無駄な抵抗
リカルドから失言を引き出してしまった後、彼はずっと無言を貫いていた。
しかし、逃走はしなかったのだ。
逃走して後ろめたい事があると、そう確定させたくはなかったらしい。
そういう判断でその場に留まったのだが、その判断が彼の首を絞める結果となる。
「へーへーへー、なるほどなるほどぉ?折れた剣を直せる鍛冶師の捜索ですかぁ。そんな話、私は聞いてないんですけどねぇ?」
チューオ領主に話を付け終えたパースが帰ってきてしまったのだ。
帰ってきたパースに、俺はあらかた顛末を語り、現在に至る。
そう。沈黙しながらも汗を流すリカルドへ、パースがあくどく微笑みかける現在に。
「デュランダルの捜索依頼と、聞き及んでいたんですけどねぇ。折れた剣について、どうして隠してたんですかねぇ?」
レヴィのダンジョン攻略時に使用した最高位回復薬。
パースはそれの対価として、リカルドに情報を要求したとの事。
それで洗いざらい情報を吐かせたのだが、折れた剣については巧妙に隠されたようだ。
だが、それも白日の下に曝され、リカルドは窮地に陥っている。
「ねぇ、リカルドさぁん。デュランダルの捜索は明かせて、折れた剣は明かせなかったんですかぁ?それってぇ、その剣がデュランダルより大事だったって事ですよねぇ」
パースは悪人面でリカルドに詰め寄っていた。
近衛兵として大丈夫なんだろうか。
……近衛兵だから大丈夫なのか。
貴重な情報ならば、拷問してでも手に入れるのが国王直属部隊である。
拷問してないだけ良心的かもしれない。
「無駄な抵抗は止めたらどうです?リカルなんたらさん」
「リカルドだ、カジキチ!無駄な抵抗とはなんだ!俺は必死なんだぞ!?」
「そこでその名前を出さないでくださいよ、この馬鹿!」
突然に鍛冶師ちゃんが口を挿み、リカルドと罵倒し合った。
まぁ、ある意味でリカルドの口を開かせたのだ。
「だいたいそんだけ知られてれば、もうその折れた剣がデュランダルだって馬鹿でも分かるでしょうが!」
「なっ、おまっ!?」
鍛冶師ちゃんは罵倒だけに飽き足らず、追撃までかました。
リカルドが必死に隠そうとしていた事を、見事的中させたのだ。
(まぁ、俺もそうなんじゃないかとは思ってたが……)
得られている情報からは確かに、折れた剣がデュランダルであると推測できる。
できるが、それは伝説上の聖剣だ。実在は疑わしいのである。
でも、リカルドが取り乱している辺り、その推測は正解なのだろう。
だからとりあえず、デュランダルという触れ込みで預けられた剣だと、俺は解釈している。
「えーっと。ムラマサさん、でしたっけ?」
「はい。ボクがムラマサですが、何か?」
「いえね?かの鍛冶師の名を、若い女性が継いでいるのは意外でして」
「老けてなくて残念でしたか?男でなくて残念でしたか?」
「滅相もない」
パースが鍛冶師ちゃんの名前を確認し、感じている意外感を素直に表した。
その表現は称賛の意の方が強く込められていたのだ。
しかし、散々貶されてきた鍛冶師ちゃんは皮肉に感じてしまったらしい。
彼女は反感を示し、パースは身振りも加えて否定した。
それで一旦、彼女は不機嫌を堪える。
「お聞きしたいのですが、貴女は初めからデュランダルであると認識して、リカルドさんに付きまとっていたのですか?」
「そうですよ、当たり前じゃないですか。漏れ出るわずかな魔力、微かな金属の擦れる音。通常の剣とは全く違いました」
剣自体から魔力が漏れているという事は、その剣自体が魔術的な加工をされているという事。
魔術的な加工をされている剣なんて、間違いなく特別性だ。
聖剣エクスカリバーがその例となる。
金属の擦れる音というのも、加工の仕方によって変わってくるという話。
かなり腕の立つ鍛冶師しか聞き分けられないだろうが。
でも、それでデュランダルと断定するのは早計ではないだろうか。
「……もしかして、デュランダルについて以前の代から教えられているんですか?」
「当然でしょう。ムラマサは先代を越えないと襲名できません。だから、先代たちが作った武器の仕様はもちろん、その製造法も身に着けた上で、先代たちを上回ってきたのです」
デュランダルについて詳細に把握しているから断定できたと、一応の筋は通るか。
と言っても、鍛冶師ちゃんの弁は信憑性が薄い。
「……では、ラビリンシア王国内にある歴代ムラマサの作品、答えられますか?」
なのに、パースは深刻な顔つきで、鍛冶師ちゃんへの質問を投げた。
彼は彼女の弁を信じたと言うのか。
「宝石板エメラルド・タブレット、聖剣デュランダル、聖剣カリバーン、聖剣エクスカリバー。後は、十束剣でしょうか。最後のは持ち主が国内のどこほっつき歩いているか不明ですけど」
鍛冶師ちゃんは物凄い情報を開示しやがった。
「エクスカリバーはともかく。父上のエメラルド・タブレット、鍛冶師が作ったのか……」
「当時のムラマサは新しい試みで宝石を扱っていたのです。宝石で剣が作りたかった、とかで」
普通に金属で作れ。宝石じゃ脆いだろうが。後、勿体ない。
「聖剣カリバーン……。その所在はご存知ですか?」
「そこまでは。作って誰かに渡した、らしいですが。渡した人がちゃんと相続してるなら、ラビリンシアにあるかと」
「そうですか……」
パースはその答えに深く考え込み始めた。
聖剣カリバーン。俺は耳にした覚えがないが、パースは案外それの情報も得ているのか。
「うん、まぁ、ここでどうこう悩んでも仕方ないですね。とりあえず、貴方の剣がデュランダルである可能性は高まりました」
パースは逸れまくっていた話題を、視線も一緒に戻した。
視線はもちろん、リカルドの方へである。
「いや?俺の剣は全然デュランダルじゃないぜ?」
残念ながら、リカルドの声は上ずっていた。
「じゃあ、詳しい話はナンタン領主の前で訊ねましょうか。ご同行、願いますよ?」
とても爽やかな様子で、パースはリカルドの方に手を置く。
その手はしっかりとリカルドを掴み、放さない。
「嫌だああああああああああああああああ!!!!」
逃げられないと悟った上で、リカルドは渾身の拒絶を叫ぶのだった。
「姉貴に殺されるううううううううううう!!!!」
「……『姉貴』?」




