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第七節 予言者の昔話

「本当に、何から何まで偶然とは。面白い人だね、テノール君は」


 王が住まう宮にして城、ラビリンシア王宮。

 その城の地下へと向かいながら、独り言を呟く者が居た。


「『魔神ダ・カーポ』と『武神エフエフ』とは会ってたみたいだし、『邪神フィーネ』とは入れ違いと言うか擦れ違いと言うか。そんな3柱が揃ってる所に立ち会えるなんて、ちょっと羨ましいね」


 その者は予言者。知らない事を知る力を持つ者、アロンズ・エームリッス。

 彼はトータンの状況を覗き見していた。

 どう転んでも面白くなりそうな配役に、アロンズは覗き見せず得なかったのだ。


「誰かの干渉で導かれたかとも思ってたけど……」


 どうしてそんな面白い所に意図せず行けるのか、アロンズは不思議で仕方がなかった。

 だから、誰かの手引きを疑い、テノールに探りを入れたのだ。

 世間話と銘打った会話の最中、アロンズはテノールに探りを入れていたのである。


「動機は、少し含みがあったけど真実なんだろうね。単に危険から離れたくて、ドラクルから離れた。丁度良い口実が、墓参り。何の変哲もないね」


 テノールの動機に何者かの手引きはなかった。

 アロンズは盗聴犯であるルーフェももう1人も把握しており、その者たちがテノールをホーオに送る意味がないのも分かっている。


「3柱はテノール君に何もしてないし、他3柱も、少なくともトータンには居なかった。『鍛冶神アチューゾ』はちょっと前にナンタンで歩いてたけど、今はどこだろうね?」


 さりげなくこの男、『始まりの六柱』のその内4柱を補足していたのである。

 『邪神フィーネ』本体の所在は特定できず、『鍛冶神アチューゾ』は見失ったが、『魔神ダ・カーポ』と『武神エフエフ』の足取りは掴んでいるのだ。


「創造神の手引きは……。ま、あったとして僕程度に検知できるモノではないね。実在してるかも怪しいし」


 あらゆる神の干渉をできる範囲でアロンズは検知していた。

 その上で、勇者テノールの行動が誰の手引きでもないと、アロンズは結論を出す。


「やっぱり全部が偶然か。それとも、運命ってやつなのかな?なんとも面白い話だね。これだから、勇者や英雄って奴は飽きないよ」


 運命に導かれるが如く、波乱に満ちた人生を約束された者たち。

 そんな存在を覗き見する事が、アロンズにとって何よりの娯楽なのである。


「『世界は生きる物語である』、か。仰る通りですね、スタッカート先生」


 アロンズは『主神スタッカート』を、己の師のように称した。

 そう。アロンズ・エームリッスは『主神スタッカート』を師事した事があるのだ。


「ふふ。あの出会いも、運命だったのかな?」


 『主神スタッカート』とアロンズの出会いは偶然だった。

 アロンズが建国王アルトに仕える前の事だ。

 アロンズは世界を巡って旅をしていた、生きる意味を求めて。


「今振り返っても馬鹿な奴だったなぁ、僕は。根暗だったし、陰気だったし。何が楽しくて生きてたんだろうね」


 アロンズが自虐するくらい、当時は性格が違ったのだ。

 当時のアロンズは世を憂いるような人間だった。

 世を憂い、生に苦痛を感じ、その苦痛から逃げ出すために生きる意味を探していたのである。


「でも、そんな馬鹿だったから先生に会えたのか」


 意味を探す旅の途中、アロンズは嵐に襲われた。

 しかし、気候が変わりやすい地域であったためか、雨宿りするための小屋があったのだ。

 アロンズはもちろん、その小屋に逃げ込んだ。


「嵐に襲われたくらいで不幸だなんだって、喚いてたなぁ。それが幸運の先触れだとも知らずにさ」


 そう。アロンズはその小屋で幸運を享受したのだ。

 だって、そこには『主神スタッカート』が居たのだから。

 と言っても、かの神は最初に偽名を名乗った。

 ただの旅人に出会った程度の感覚で、神と遭遇しているとは微塵も自覚していなかったのである。


「ま、神だと明かされても、信じられなかっただろうね」


 初見で神を名乗られたら、むしろ相手の頭を疑っていただろう。

 そういう意味では、かの神の行動は正しかった。


「それで、ただの旅人と騙されたまま、嵐が過ぎるまで会話したんだったなぁ。いやぁ、最初の質問は不敬にも程があるよなぁ。人類史を拓いた神に、世界を守った人に、『この世界の何が楽しくて旅をしているのか』、なぁんて」


 嵐の中であると言うのに楽しそうな顔だった神。

 アロンズはその顔が気に食わなくて、そんな言葉を投げかけたのだ。

 仮にも、魔物蔓延る世界から人類の生きられる世界に変えたかの神にである。

 この世界を作ったと言っても過言ではない神に、この世界はつまらないと、直訴するようなものだ。

 しかし、かの神は笑いかけた。


「『一緒に旅をしないか?俺がこの世界の楽しさを解説してやろう』って。いやぁ、懐が深いよなぁ『主神スタッカート』はなぁ」


 世を憂う男に、かの神は手を差し伸べたのだ。

 そしてその手を、アロンズは反抗心で握った。


「『できるならやってみてくれ』なんて返したんだよなぁ、僕。あーあーあー!今思い出しても恥ずかしい!」


 世を憂う男の世界を楽しむ神に対する挑戦状。

 そんな挑戦状を送った者は、あまりにも愚かで、未熟で、羞恥に満ちた身の程知らずの男だった。

 当然、アロンズは神へ挑戦して負けたのだ。

 世を憂うアロンズは世界の楽しさを教え込まれた。


「オーロラ輝く極南の地。世界を一望するような世界最高峰の頂上。水溢れる町で営まれる人々の生活。渇水の極限を耐え忍ぶ人々の工夫。戦火の中で培われた美談。栄光の後に訪れる破滅の理由。どれもこれも素晴らしかった」


 かの神が教えたのは、綺麗なモノだけではない。

 汚いモノも、アロンズに教えたのだ。

 綺麗なモノも汚いモノも、かの神は教えた。

 その中にある美しさを説いていた。

 犯罪者の心理やその心理に至る過程。そこにかの神は美しさを見出していた。

 かの神は、何よりも、誰よりも、この世界を愛していたのである。


「『この世界は美しい。人々の織りなす物語は楽しい。だから俺は、この世界の全てを知りたいと思ったのさ』。ええ、同感です。僕もそう思ったからこそ、こうして生きております」


 生きる意味を手に入れたアロンズは、この世界の全てを知りたいからこそ、予言者になった。

 全てを見届ける予言者に。


「道半ばだけど。まだまだ僕の目はラビリンシアを越えられない。同時に見られる数もそんなに多くないし」


 遠くの場所を複数視界に収める術は開発した。

 しかし、アロンズが求める領域には届いていない。


「まぁ良いさ。焦らずじっくり、この勇者の国を楽しみながら改良していこう」


 独り言もそこそこに、アロンズは王宮の地下、その最奥に着いた。

 そこには1つの部屋がある。

 真ん中に棺桶のような箱が置かれ、壁・床・天井が魔術式で埋め尽くされた部屋だ。


「さてさて。テノール君の活躍を見逃さないようにしなくちゃ。ナンタンに行くんだったかな?そうすると、僕の弟弟子とぶつかるかもしれないね。それはとても楽しみだ」


 自身と同じく『主神スタッカート』を師事した者。

 同じ神を崇拝しながら道を(たが)えてしまった彼と、正義を執行せねばならない勇者。

 遭遇すればまず間違いなく衝突し、面白い事になる。そんな場面を見逃す手はない。

 アロンズは魂の入れ物であるホムンクルスの体を箱に横たえ、本体である杖、アロンズ・ロッドを抱きながら、眠りに就くのだった。

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