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第三節 休暇が明けたら

 パースが仕事の良い切りどころを得るまで、結局3日かかった。

 それでようやくホーオを発ってドラクルを目指し、4日間。

 道中、襲ってきた魔物を撃退はしたが、それ以外これと言って特筆すべき事はない。

 なんとも平和の帰路を辿り、無事にドラクルへと着いた。

 王都入り口で受けるお決まりの拍手喝采は、いつも通りの対応である。


「勇者テノールよ、よくぞ帰った」


 そしてこっちもいつも通り。

 恒例である王への報告だ。


「トータンの凶兆については、すでにケイヴェより詳細な報告を得た。しかし、それとは関わりない一騒動があったようだな」


 パースがあの親父の騒動も事前に報告していたようだ。

 人々の小さな諍いなら王も大して興味を抱かないが、今回はそうもいかないらしい。

 この国の重罪たる奴隷売買が騒動の一因だからな。


「はっ。我が父と取引をしていたマニという男、彼はどうやら奴隷を労働力として貸し出す商売をしていたようです」


 自身らの侍従だけでなく、貸し出す労働力も奴隷。

 貸し出して得た利益はほとんどマニの懐に入る。

 奴隷たちの身なりを整えるために費用をかけていたようだが、それも最低限。

 犯罪であるという事以外、なんとも美味しい商売だ。


「奴隷についてはこちらから報告を」


 パースが前に歩み出て、報告を引き継ぐ。

 普段からこうして引き継いでくれると有り難いのだが。


「奴隷を購入していたマニには逃げられてしまいましたが、賞金首とする手はずは整えております。彼の資産はトータン領主が差し押さえましたので、大した逃走力もないかと」

「ふむ。ならば、マニの首に賞金を懸ける事を許そう」


 王の許しを得て、晴れてマニは賞金首。

 近衛兵、衛兵、冒険者からマニは追われ続ける事になる。

 しばらくすれば、彼の生死が聞ける事だろう。


「しかし、奴隷商の足取りは掴めたか?」


 買った方の問題が解決すれば、次に問題となるのは売った方。

 王として、売った方こそ野放しにできない。

 奴隷商の存在は治安の悪さを表す。

 扱っている奴隷が他国の人間だったら、即時に対応しなければならない。

 王にとって気が気でない問題だろう。


「それらしい馬車がナンタンへ向かったと、目撃情報を得られました。なので、次はナンタンですかね」

「相分かった。パースに奴隷商追跡の命を下す。ひいては、勇者テノールも奴隷商追跡に同行せよ」


 唐突に俺にまで王命が下ったのだが、もう俺とパースは組んでいると認識でもしているのか。

 まぁ、勇者を送る事で、奴隷商の動きを誘発させるという考えがあるのだろう。

 音に聞こえた勇者が送られるなど、そこに居る悪への宣戦布告、もしくは死刑宣告だ。

 その悪が罪を隠そうとするか、追跡から逃げようとするか。とにかく何らかの動きは見せる。

 それで、目立った悪を捕らえていけば良い。

 俺をナンタンに送るのは充分に合理的だ。


「奴隷商追跡の任、拝命いたします」

「同じく、パースさんとの同行を謹んでお受けします」


 なんにせよ、王命となれば逆らえない。

 パースも俺も、素直に任務を請け負った。

 王都に帰ってきて早々に次の仕事が振られた事になる。

 正直、もう慣れたものだ。


「うむ、頼んだ。では、下がれ」


 王との謁見を終え、パースと俺は玉座の間から退出する。


「じゃあ、私は奴隷商追跡の準備を。ナンタンですから、また長旅になりますねぇ」


 パースが言う通り、北のホッタン領から南のナンタン領への旅だ。

 東のトータン領より遠く、帰郷の旅より長くなる。

 食料だけでも前回以上に量が必要だ。


「俺も、王宮の自室で荷物の整理を。その後はパースさんの準備が済むまで、適当な宿に待機してます」

「そのまま自室では待機しないんですか?」

「ええ、まぁ。誰かに探られているような視線が怖くてですね……」

「あ、あー……」


 帰郷の旅で視線を感じる旨を伝えてあったからか、パースは理解を示してくれた。

 あの時は視線を感じると言い換えたが、実際に感じていたのは盗聴の気配である。

 まだルーフェ様以外の盗聴犯は不明のままだ。

 だから、王宮の自室は荷物整理に立ち寄るだけ。

 その内、あそこにある私物はどこかに全部移したい。

 それこそ、家を買っても良い。

 侍女を雇えば、家事は任せられるだろう。


(そこは『侍女』なんだな、侍従じゃなくて)


 雇うなら女の子に決まっているだろう。何を言ってるんだ。


(ある意味で腑に落ちちまったよ。そうだな、お前は女を雇うよな)


 腑に落ちさせる事は成功したのに、なんだか俺が腑に落ちない。


「えーっとですねぇ、テノールさん?」

「はい、なんですか?」


 くだらないエクスカリバーとのやり取りから、パースに呼びかけられてそっちに引き戻される。


「その『誰かに探られているような視線』とやら、こっちで解決しましょうか?」


 パースが何故だかちょっと落ち着かない様子で、都合の良い申し出をしてくれた。

 しかし、任せて良いかは少し不安だ。


「できるんですか?4番隊に」


 情報収集も打ってつけの部隊とはいえ、あくまで専門は輸送と医療だ。

 どうにかできるとは思えない。


「いやぁ、4番隊じゃなくて私個人の伝手で。当てはありますから、ね?」


 パースが詰め寄ってきて、凄く善意を押し付けてきた。

 怪しさはあるが、悪いようにはしてこないだろう。

 そんな予感はある。


「そういう事なら、よろしくお願いします」


 なので、パースの善意に俺は甘えた。

 彼が対価を求めていないところが決め手だ。


「お願いされました。片手間にかつ早急に対処しますので、ご安心を」


 そうして、俺は安心したようなパースの笑みを拝むのだった。

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