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第二節 出鼻は挫かれる

「ああもうっ、こんなの分かる訳ないじゃない!」


 魔術の研究を専門とする王立近衛兵3番隊。その隊舎にて、隊長であるマリーの怒声が響き渡っていた。

 同室していない隊員たちはその日常的な騒音になんら感想を抱かず、自身らの研究に戻っていく。


「た、隊長、落ち着いてください……」


 対し、同室であり同じ仕事をしている隊員は慌てていた。

 彼らは隊長が暴れぬよう、必死に宥めなければいけないのだ。


「じゃあアンタはこれ分かったの!?」

「い、いえ……」


 マリーは魔道具の部品を指差し、隊員に問った。

 しかし、隊の中で最も優れている隊長に分からない物が、一般隊員に分かるはずがない。

 隊員は首を横に振る事しかできない。

 マリーは元より隊員に良い答えを期待しておらず、特に叱責はしなかった。

 もしくは叱責する時間も惜しかったのだろう。すぐに部品へと向き直る。


「本当、性格が悪いのよ!あのロスって奴は!」


 マリーは頭を抱え、魔道具の制作者に八つ当たり的な暴言を吐いた。

 そう。この部品は魔王軍幹部であるロスが作った魔道具の物。

 予言されたナンタンの凶兆、その原因として破壊された魔道具である。


「テノールくんも、なんでこう無駄に綺麗に壊しちゃったの……!」

「魔物の増殖を促進する性質上、仕方なかったのでは……」

「そんな事は承知してるわよ!」

「は、はい……」


 マリーの怒りを収める事ができず、隊員は縮こまった。

 隊員は嵐が過ぎるのをじっと待つ。


「魔物の増殖を促進するなんて、どう足掻いても辺りの魔力濃度を上げるしかない」


 魔物が(つが)いとなって子を成すなんて増殖法もあるが、この方法は恐ろしく時間がかかる。

 魔道具は劣化具合からして新しい。子を成させる方法を取ったなら、もっと劣化していないとおかしいのだ。

 それがないので、消去法として自然発生による増殖法になる。

 ならば、魔力濃度を上げなくてはいけない。

 いけないのだが――


「その魔力濃度を上げる魔術式はどこ!?」


――解析した限り、この魔道具にそんな魔術は刻まれていないのだ。


「地脈から魔力を汲み上げる魔術式もどこよ!」


 おまけに、魔力濃度を上げるために必要な魔力を賄う魔術も、見つかっていない。

 この魔道具は魔力石だけが多数装填されている。

 と言っても、自然発生の促進にたる魔力量ではない。


「部品にエイゴが刻まれてるから、これがその魔術式を形成してるのかと思ったけど……」


 マリーは部品に刻まれていたエイゴ、その単語の数々を睨んだ。

 マリーはもはやその単語に憎しみすら覚えている。

 何故なら、全く意味のない物だったからだ。

 勘違いさせるために刻まれた、偽装だったのである。


「マぁジぃで、偽装って気づいた時は腹が立ったわよ。いっそ見事だと腹の底から笑っちゃったわよぉ!」


 偽装であると結論を得るまで、結構な時間を費やした。

 その結論が出た瞬間の虚無感たるや、憎しみが一周回って感動してしまった程である。


「本当に性格が悪いわ。何回か死なないかしら、こいつ」


 憎しみをありったけ込め、マリーはロスへ呪詛を吐いた。

 残念ながら、彼女にとって呪い系の魔術は専門外。ただの比喩表現だ。


「いけないいけない。探求を止めては駄目。解析を止めては駄目よ、あたし。こんなくだらない事に使われた技術を学んで、私が有益な使い方をしてあげるの。じゃないとこの魔術がかわいそうだわ」


 雑念を振り払い、マリーは解析に戻った。

 彼女の信念が突き動かす。

 全ての知識はあらゆる生命のためにあると、彼女は信じて突き進むのだ。


 そんなところで、部屋の扉が叩かれる。


「鍵は開いてるわよぉ」

「し、失礼します。た、隊員のブレンダです。マリー隊長宛ての小包が届いていたので、受け渡しに」


 誰かも訊かずに入室を許せば、ブレンダが小包を持ってきた。

 3番隊への郵便は、隊員皆が研究に集中しているため、すぐに受け取られる事が滅多にない。

 そのため、3番隊隊舎の資材置き場に郵便を積み上げる空間が設けられ、郵便局員たちがそこに置いて行く形式が取られている。

 だが、今回はブレンダがわざわざ持ってきたのだ。


「小包?」

「送り主はパース隊長で、内容は符魔術の残骸となってますが」


 ブレンダが読み上げた通り、送り主が4番隊隊長。

 そして宛て先が3番隊隊長となれば、重要な荷物である事は容易に察せられる。

 察せられた故のブレンダの行動だ。


「符魔術……」


 ところが、そんな重要な荷物をそっちのけで、マリーはその言葉に思考の引っかかりを覚えた。


「符魔術なら、魔力石に貼り付けて疑似的に魔術石にできる……?自動消滅を符魔術に組み込んでおけば、魔術式は消せる……!いえ、でも魔術式がなくなるから魔術の維持はできないか……」


 1つの引っかかりで、マリーの思考は可能性を導き出す。


「符魔術じゃなく、別の魔術式媒体……?複数の魔道具を一式と設定すれば、魔術式は分離できる……!」


 謎を解き明かす糸口を掴んで離さず――


「この魔道具はあくまで初動の魔力容器なんだわ!なら、魔術式を刻まれた対の魔道具がある……。離して設置は一式の設定が難しくなるでしょうから、この魔道具があった付近。あの森にあるはず!」


――ついに答えを目の前まで引き寄せた。


「こうしてはいられないわ。すぐに実地調査に行かなくちゃ!誰かパースを呼んできて!」

「え、いや、あの。パース隊長なら、今はドラクルに居ないんじゃないかと」


 サースイナッカノ農村への送迎を頼もうとした相手が不在であると、ブレンダによって教えられた。

 答えを得た事の喜びから出鼻を挫かれた悲しみへの急転直下。

 己の感情だと言うのに、マリーはその落差で思わず固まってしまう。

 そうして、数秒間微動だにしない隊長の姿を、ブレンダは困惑しながら拝むのだった。

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