第二十七節 巨大スライム対策会議
「では、対策会議だ」
親父の発言から、凶兆への対策会議が始まる。
「敵勢力はスライム1体ですか?」
「スライム1体だけです。しかし、その大きさは通常の個体と比較になりません」
パースが敵の数を正しく把握しようとし、俺が答えつつ、それがただのスライム1体と認識して良いものではないと、改めさせようとした。
パースはその認識が正しいのかを確認するため、他の意見、ケイヴェの意見を求めて視線をそちらへ投げる。
「勇者テノールの認識に誤りはありません。拙が目視した触手1本の時点で、通常の個体と比較して2から3倍の体積がありました」
「氷魔術や炎魔術での打倒は無理そうですかね……」
「魔術で打倒する場合、近衛兵2番隊副隊長を含む数名が最低でも必要になると思われます」
「そうですか……」
ケイヴェは自身の持つ情報で精度の高い計測をすれば、パースは彼女の計測を信じた上で項垂れた。
予想以上に大きいスライム。今居る魔術師で打倒不可能であり、2番隊の救援は間に合わないと判断したのだろう。
ケイヴェに運ばせるにしたって、複数人を乗せれば積載過多。『アフターバーナー』は使用不可となる。
そもそも、あの殺人的な加速に2番隊員の何名が耐えられる事だろうか。
以上の事から、スライムへの有効打である魔術、それでの打倒は叶わない。
「か、核はどうですか?スライムには核があって、それを破壊すれば倒せるでしょう?」
「残念だがテナー。今回において、核は弱点と言い難い。スライムは大きければ大きい程、核を守る粘体の壁が厚くなる。核に攻撃を届かせる前に阻まれ、スライムに飲まれるだろう」
「そう、ですよね……」
スライムが絶対に持っている弱点、核の破壊に希望を見出そうとしたテナーだが、親父に虚しくも論破されてしまった。
俯くテナーがとてもかわいそうである。
「さらに、成長したスライムは核を硬く成長されると言う。粘体を突破しても、硬い核を破壊するのは難しいだろう。粘体で威力を殺されるのだからな」
親父は厳しくも論じ続け、テナーを執務机に突っ伏させた。
とてもかわいそうである。
というか、あのスライムは核なんてあっただろうか。
(あっただろうが、泉の中で浮いてた黒い球体。あれがあのスライムの核だよ)
そういえば、冒険者の1人が球体を見つけ、エクスカリバーがそれに唸っていたか。
(スライムが居ねぇ泉の中に核があったからな。ま、結果は泉自体がスライムで、あそこに核があっておかしくねぇっつうこった)
泉がスライムというのは、エクスカリバーでも予想外だったらしい。
(核がどんなに硬かろうが、オレに切れない物はねぇ。だが、剣が届かねぇんじゃどうしようもねぇ。斬撃飛ばしたところでなぁ)
斬撃飛ばせるなんて初耳なんだが。
(飛ばせるぜ?こう、魔力を刃にして飛ばすんだ。そうすると、その魔力の刃に当たったもんは切れる。名付けて『魔力斬撃』っつってな。魔力結構使うから、生前はあんま使わなかったが)
説明されても全く分からないが。俺の魔力を全部使ってなら、いけないのだろうか。
(いけねぇな。そもそも『魔力斬撃』じゃ核が切れねぇ。『魔力流浸食』と『魔力斬撃』は併用できねぇんだ)
……ちっ、使えん。
(なんか言ったか)
いいえ何も。
とりあえず、エクスカリバーでも駄目なようだ。
魔術での攻撃も、レオナルドと言う実力ある魔術師でも駄目そうだった。
……本当にそうか?
レオナルドの仲間、ユウダチが実力を隠していた。
ユウダチはレオナルドの『あまり箍を外すなよ』という許可で、それでも1段階魔力が増していた。
なら、レオナルドも実力を隠し、本気を出せばあのスライムを倒せるのではないか。
(お前が死にそうって時にその箍を外してくれなかった奴に、どうやって本気を出させるんだ?)
言われてみれば、俺の体がスライムの上に放り投げられ、もう飲まれるしかない状態になっても、レオナルドは本気を出さなかった。
ユウダチみたいにほんの少しだけ実力を引き出せないだろうか。
(仮によ、1段階引き出させたとしてもだ。レオナルドだけじゃあ、あのスライムは倒せねぇぜ?)
それもそうだ。
魔術戦闘の専門家である2番隊員が複数名必要だと、ケイヴェは計測していた。
たかだか1人の魔術師を頼ったところで意味がない。
いや、待てよ?
レオナルドは『スコーチ』でスライムの触手を焼却していた。
つまり、多少なりともスライムを削れていたのだ。
(削って、それで?再生力はなかなかあるぞ、スライム。削った瞬間に跳び込むか?そのまま飲み込まれるぜ?だいたい、スライムの大きさからすると、核も高い位置にある。削らせた瞬間に跳び込んで、核まで泳いでいくか?)
高い位置まで跳ばなければならない。
早く核まで行かなければならない。
では無理か?
いいや、無理ではない。
(エクスカリバー。駒は全部揃ってる、都合が良すぎるくらいにな)
(ほう……?じゃあ、やってみるか?)
(やるさ、俺の名声のために)
(いつも通りで安心したぜ)
俺は不敵な笑みを浮かべれば、エクスカリバーは鏡のように同調した。
まだ概要も話していないが、こいつは乗り気なのである。
死線を潜る。そんな事を己の体でやってきた戦闘狂だ。
巨大スライムとの死闘など、戦闘狂のこいつにとっては楽しい遊びでしかないのだろう。
「どうした、テノール。何かあったか」
黙っていた俺が急に笑みを浮かべたものだから、親父が怪しんできた。
ちょっと恥ずかしいが、切り出すには丁度良いだろう。
「皆さん、聞いてください。策が思い付きました」
俺は、俺の策を皆に伝えるのだった。




