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第二十六節 タイトル回収

 ケイヴェと共にタラと言うドラゴンの背で空の旅を過ごした訳だが、およそ3時間でホーオに辿り着いた。

 馬の体力を鑑みて休憩を挿むとしても約1日かかる距離を、たったの3時間だ。

 恐ろしく早いし、恐ろしい移動である。

 突風に常時襲われながらしっかり捕まっていなければならないのである。

 それができなければ、空中に放り出される。

 全く恐ろしい移動方法だ。


「ホーオ上空を旋回しながら速度を落とし、その後にトータン領主邸の前に着陸します。よろしいですか?」

「ああ、それで良い」


 同乗する俺の同意を受け、ケイヴェは着陸の手順を踏んでいく。

 速度を緩めず着陸しようものなら、着陸の衝撃で地面も搭乗者も大変な事になる。

 以前どうなるのか尋ねたら、『最低でも内臓の破裂は覚悟していただきますが、構いませんか?』とケイヴェが答えてくれた。

 構うに決まってるだろ。変な質問してすみませんでした。

 以後、安全着陸をお願いしている。


 そんな馬鹿な思考していたら、手順はもう着陸の段になっていた。

 タラは滞空し、徐々に高度を落としている。


「……。着陸成功です」


 タラが羽ばたきを止め、地に足が付いているのを確認してから、ケイヴェは無事に着地した事を言葉にした。

 タラの背より、彼女は疲れも感じさせずに軽やかな動作で降り、エクスカリバーは少し緩慢な動作で降りる。

 さすがのエクスカリバーも消耗したようだ。


(じゃ、任せた)

(おいこらふざけんな!)


 よりにもよってこの瞬間にエクスカリバーは体の主導権を返した。

 そうすれば、エクスカリバーは疲労感から解放され、代わりに俺がそれを背負う。

 いきなり重くなった体を明け渡されたため、俺は転びそうになった。

 だが、聖剣を杖にしてなんとか耐える。

 疲労感を押し付けられた恨みだ。せめて道具としてエクスカリバーを使う事で晴らさせてもらう。


(しょうもねぇ復讐だな)


 煩い。


「お疲れのところ申し訳ありませんが、領主テナーへ一刻も早く報告すべきだと提案します」

「もちろん、承知してるさ」


 女性の目の前で弱った姿を晒すなど、勇者としても男としても情けないので、俺は必死に背筋を伸ばした。

 杖にするのはこれくらいで許してやる、エクスカリバー。


「タラ、(せつ)の懐へ」


 タラはその指示に従い、まずはその身を蜥蜴(とかげ)くらいまで小さくする。

 このドラゴン、かなり特殊な個体のようで、種族由来だけではなく、固有の魔術も持っているのだ。

 それが、あの凄まじい加速『アフターバーナー』とこの小さくなる『ミニチュアゼーション』。

 その魔術名はケイヴェがタラから教えてもらったそうだが、タラが人語を話すとは思えないのだが。


 とにかく、小さくなったタラはケイヴェの懐、衣服の中へ襟の所から入っていく。

 羨ましいな。


(何が?)


 何でもない。


 ケイヴェは俺の雑念を他所に、トータン領主邸の門を叩いた。

 そうすれば、ドラゴンの着陸から様子を窺っていた侍従が門まで寄ってくる。


「こちら、王立近衛兵4番隊副隊長のケイヴェと勇者テノールです。領主への面会を希望します」

「ケイヴェ様ですね?テナー様、それとバリトン様がお待ちです。勇者様も、どうぞこちらへ」


 侍従は疑いもせずに門を開け、俺たちの案内を始めた。

 面倒がなくて助かる。

 親父が居るのは少し不思議だが、ケイヴェが来た時点でおおよそ察する。

 彼女が持ってきたテナーへの王命に協力しているのだろう。

 そして、その王命が下った経緯ももう予想できた。

 どうせ、『トータンに凶兆あり』と予言が出たのだ。

 それで、テナーはその凶兆を調査と対策に取り掛かっているのだろう。


 ここで面白い、いや、面白くないのが、その凶兆まで俺は推測できてしまう事だ。

 だって、絶対今回の凶兆である危険なスライムに会って、今しがた逃げてきたのだから。

 なんだって休暇中にこんな不運が襲い掛かってくるのだ。


(『勇者に安息はなく』ってな。多くある英雄譚とかと一緒だ。良かったな、お前も英雄の仲間入りだぜ?)


 最悪な気分だ。

 ただ楽に生きようと勇者になったのに、あんまりだ。


 そんな内心悲嘆に暮れていようと、時間は止まらない。

 止まらぬ時間は、侍従に案内された俺を目的地へと辿り着かせる。

 その目的地とは当然、トータン領主邸の執務室。

 テナーとバリトン、パースも待機していた場所である。


「テナー様、バリトン様、パース隊長。勇者テノールと合流し、帰還しました」

「ご苦労様です。テノールさんだけを、連れてきたようですが……」

「まさか、調査の一団は護衛含めて全滅を!?」


 ケイヴェの帰還報告を受け、同行が俺だけというのにパースが目を付ければ、テナーは最悪の事態と勘違いしてしまった。

 早とちりであるが、凶兆という事前情報があるのだから、その勘違いは仕方がない。


「大丈夫です。水位減少の調査団は、今のところ護衛も誰1人欠けていません。殿(しんがり)も3級冒険者の3人が務めていますし、敵は足が遅かったので逃げきれているでしょう」

「よ、良かったぁ……」


 俺が勘違いを訂正すれば、テナーは乗り出していた体を落とすように席に戻った。

 依頼主として、領主として、彼が一番気を揉んでいたのだろう。


「『逃げきれている』という事は、倒せてはいないんだな」

「すみません、父上。敵は、あまりにも巨大な、山の泉を埋め尽くしていたスライムでした。あの場で討伐するのは不可能だったかと」

「想定内だ。勇者が居るからと言って、凶兆がすでに解決されているなどと、私は楽観していない」


 親父は勇者である俺を責める事なく、ただ冷静に現状を引き出していた。

 これが無能だと責め立て、問題解決すると手の平を返したように褒め称えてくるのだが、やはり親父は無能ではない。


「では、対策会議だ」


 親父が場を取り仕切る。

 ここから、俺たちは反撃の手を整えるのだった。

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