第二十五節 最速である竜騎士
「王立近衛兵4番隊副隊長・ケイヴェ。ただいま勇者テノールと合流しました」
近衛兵で長距離間移動最速を誇り、ラビリンシア王国でも数少ない竜騎士たるケイヴェが、俺たちの窮地に駆け付けた。
遠方に急ぎの王命を受けた時もこの人の世話になったが、さすがの速さだ。
どこから駆け付けたかは知らないが、とにかく助かった。
彼女の助けがなければ、まず間違いなくオレは死んでいただろう。
(ケイヴェが来なくてもどうにかしたって)
その『どうにか』を先に計画してから動け。
(無理だな)
今すぐこの聖剣を手放したい。
体の主導権はエクスカリバーにあるので無理だが。
「テノール様。状況の報告を願います」
「はい。現在、山で超巨大なスライムと出くわし、討伐は一旦諦めて撤退中です」
「……スライムを目視しました。撤退の妥当性を認めます」
エクスカリバーをドラゴンの背に引き上げながら空中で旋回する最中、ケイヴェはまだ一部しか森より晒していないスライムを視認し、その巨大さを確認した。
その上で、彼女も撤退すべきと判断する。
「麓より出発した馬車は友軍の物ですか?」
「そうです。川の水位減少を調査する一団の護衛を、俺と共に請け負った人たちです」
「了解しました。友軍とも合流いたします」
実に事務的なやり取りであるが、しかし確認作業を徹底し、次にすべき事を判断できている。
伊達に1つの隊で副隊長をやっていない。
ケイヴェは乗っているドラゴンを操り、カウたちの乗る馬車と並走させる。
「すっげぇ!竜騎士だよ、竜騎士!マジでかっけぇな!」
並走するドラゴンにユウダチは暢気にも感激していた。
お前はまだまだ余裕がありそうだな。
「勇者テノールの友軍で間違いありませんか?」
「そうだ。私は3級冒険者のレオナルド」
「同じくユウダチだ!」
「同じくサーヴァンでございます」
「は、8級冒険者のカウです!」
ケイヴェの問いに、皆は簡潔に答えた。
事態が事態なので悠長に自己紹介はしていられない。
「冒険者のレオナルド、ユウダチ。マインズ家の元侍従であるサーヴァン、マインズ家の次女であるカウ・マインズ。確認しました」
ケイヴェは地味にサーヴァンやカウの素性を一目で見抜いていた。
マインズ家は王都ドラクルでも有数の貴族であるから、全員の顔を頭に入れているのか。
侍従まで頭に入れているのはちょっと恐ろしい。
「撤退、という事でよろしいですか?」
「ああ。あのスライムを相手にするとなると、森で戦うのは論外だ。少なくとも視界が通る場所で挑みたい。策も必要になるだろうから、落ち着いて話し合える場所と時間が欲しい」
「落ち着いて話し合える場所と時間として、ホーオまでの撤退を進言します。トータン領主であるテナー・トータン、及び領主相談役であるバリトンには凶兆を調査するよう、王命が下されています」
「そうか。では、ホーオまで撤退する」
「了解しました。ホーオまで撤退します」
レオナルドとケイヴェは円滑に話を進め、ホーオまで撤退する事を決めた。
否はないが話が早すぎる。いや、時間を浪費するよりは遥かに良いが。
「私たちは馬だ。どう足掻いても1日かかる。あのスライムに追い付かれる事はないだろうが、『兵は神速を貴ぶ』と言う。そちらが先行し、領主と相談役に報告しておいてくれ」
話は早く付けておくに越した事はない。
そして、レオナルドたちは馬。こちらはドラゴン。
どちらが早いかは、乗馬や御者に秀でたパースを抜いて、ドラゴンを駆るケイヴェが最速とされている事が示している。
「正当性を認めます。では、先行します」
ケイヴェはドラゴンを一旦上昇させ、馬車から離れた。
彼女のドラゴンが加速する時、余波と言うべきか、周りに突風を吹かせるのである。
その余波で馬車が横転するのを避けたのだろう。
元より、高速に移動中は障害物の回避が難しいため、障害物のほぼない空中が望ましいのだが。
「テノール様、固定具を装着してください。口を閉じてください。予備の保護眼鏡がありますので、そちらの装備を推奨します」
「分かってる」
経験があるケイヴェの注意をエクスカリバーは素直に聞き入れた。
これで1度酷い目に遭ったからな。
鞍から伸びる固定具のベルトを腰に回し、彼女の背負う鞄から保護眼鏡を取り出してかける。
聖剣は一応鞘に収めたが、柄は握ったままだ。
エクスカリバーじゃないと固定具が切れた場合、ドラゴンから振り落とされる。
(オレももうあの落馬ならぬ落竜は勘弁なんでな。主導権は貰っておくぞ)
俺だって勘弁なので、甘んじて主導権を譲っておく。
「それでは、タラ。加速開始は5秒後です」
タラとは、ケイヴェが従えているドラゴンの名前だ。
本名はもっと長いそうだが、彼女のドラゴンはその略称で問題なく応対してくれる。
「5、4、3――」
ケイヴェが秒読みすれば、ドラゴン改めタラの翼に魔力が集まる。
「――2、1、0!」
秒読みが終わった瞬間、タラの羽根先が炎を噴き出す。
その炎を噴き出した反動が、タラを加速させた。
それが最速を誇るケイヴェ、彼女の従えるドラゴンであるタラの移動法だ。
世界は縮んだかのように過ぎ去っていく。
エクスカリバーは殴りつけるような風を必死に耐えるのだった。




