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第二十二節 もう1つばかり別視点

 未だ危機を知らずに平穏を謳歌する都・ホーオ。

 そこではマニたちと別にもう1つ、平穏とは言い難い場所があった。

 その場所は、テナーもパースも揃った、バリトンの執務室である。


「それは本当なのか、テナー」

「僕も目と耳を疑ったのですが、このように依頼受注した冒険者の名簿には勇者様の名前が」


 バリトンの執務机にテナーが1枚の紙を差し出す。

 その紙は冒険者組合に保存される依頼受注者名簿、その依頼者の控えである。

 そして、その名簿はテナーが出した水位減少調査員の護衛依頼に、本業が冒険者ではないはずのテノールが参加した事を示していた。

 テナーはこのテノールの行動について、バリトンに相談しに来たのだ。


「勇者様の受付をした組合員から、何故か彼が正体を隠して依頼受注していたという話を聞き出せました。その件について、何かご存知ですか?」

「侍女からの伝言を受け取ったが、『冒険者組合に行って、適当な依頼があれば受けてくる』とだけだ。何の依頼を受けるか、何を目的として依頼を受けたかったのか、私は与り知らん」


 バリトンでもテノールが冒険者組合に行った事しか知らなかった。

 と言っても、暇ついでに小遣い稼ぎに行ったのではないか、テナーの好感度稼ぎに丁度良いと受けたのではないか、などの推測はできている。


「……あくまで私見だが、お前の事を思ったのでないだろうか」


 テナーの純粋さも考慮して、バリトンは推測をそのまま伝えず、言葉を選んだ。

 そのまま伝えた場合にテナーが傷付く事を、バリトンには容易に想像できる。

 同時に、この真実はテナーの教育に悪いと、バリトンの父性が嘘を吐かせたのだ。


「ぼ、僕のために、ですか?」

「弟のために、何かしたかったのかもしれん」


 感激するテナーに、バリトンは嘘を重ねた。

 罪悪感を覚えていなくもないバリトンだが、一時の感情で本性を晒す程度の男ではない。


「そう、ですか……。お義兄(にい)様が、僕のために……」


 嘘を信じきったテナーは嬉しさを抑えられず、笑みを零した。

 そんな少年を、バリトンは暖かく見守る。息子と違って善良に育てようと。


「水を差すようで悪いのですが、他の要因もあるのではないでしょうか?身内のためとはいえ、休暇を潰して動きますかね。テノールさんならそれだけでも動きそうですが」


 無粋とは察しながらも、パースは他の要因を言及した。

 仮にも勇者だ。一個人のために動くと、不当な優遇として吊られかねない。

 不当な優遇と思わせない大義名分くらい、テノールなら用意しているとパースは信頼している。


「依頼は水位減少の調査に関わるモノだ。この問題を解決できなければ干ばつ、そして飢饉(ききん)にも繋がる。それを未然に防ぐための助力となれば、ホーオの平和を案じた行動とも言えよう」

「なるほど、確かに」


 そもそも依頼の時点でホーオ全体の平和に関与する事だったと、パースはバリトンの解釈で思い至った。

 やはりあの勇者は民のために行動しているのだと、パースは納得したのだ。

 そんな事実は微塵もないのだが。


「でもちょっと引っかかってるんですよねぇ。テノールさん、急に『故郷へ帰る(いとま)をいただきたい』って直接バーニン王へ休暇申請しに来ましたので。まぁ、勇者に休暇を与えられるのは国王くらいなんですけどね。それにしても急だったなぁ、と」


 パースもテノールが疲れていた事は見て取れた。親に会えぬ悲しみも同様。

 だが、何故この時期だったのか。

 母の墓参りに行けていない悲しみだったなら、母の命日に進言するものではないか。

 自身より他人を優先し、その悲しみを溜めた結果、あの瞬間に耐えられなくなった。そう考えられなくもない。

 でも、この時期である事にもっと深い意味があるのではないかと、テノールを信頼し、彼を高く評価するあまりにパースは勘繰ってしまうのだ。


「息子が急に帰りたくなる理由、か……」


 テノールの人格を熟知しているバリトンとしては、本当に疲れただけ程度の事と読み取っていた。

 しかし、ここで帰りを知らせるテノールの手紙が想起される。

 手紙には近々帰るとのみ書かれていた。

 その理由は一切書かれていなかったのだ。

 以前の息子なら、書き忘れたか、書くのも恥ずかしい理由だったか。その2通りであると断定できた。

 しかし、約1年に及ぶ息子らしからぬ功績、勇者としての名誉がある。

 人格的にも能力的にも、息子にそんな功績は打ち立てられるはずがないと、バリトンは訝しんでいた。

 ならば、1日接して把握できなかったが故に、人格の変容とまではいかないが、心境の変化くらいはあったのだろう。

 そして、ほぼ確実に聖剣エクスカリバーから何らかの力を得ている。


 バリトンはとある学術書のような物から多大なる知識を与えられた。

 そういう前例を自身で体験しているのだ。

 聖剣エクスカリバーが所有者に加護を与えるという伝説は、バリトンにとって御伽噺ではない。

 だから、突飛もない考えが彼の頭を過り、口を突いてしまう。


「もしや、聖剣に導かれた……?」


 普通だったら一笑に付されそうなその考えを、テノールの活躍をその目にしてきたパースと、勇者の支持者であるテナーは笑えなかった。

 むしろ、2人は真実味すら感じ、息を呑んだのだった。

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