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第二十節 犠牲者になる流れですが主人公が混ざっておりますのでご安心ください。

「そうか!この泉はスライムだ!」


 レオナルドの言葉に呼応して(うごめ)き出す泉。

 正体を突き止められたが故か、その泉は沈黙を破り、雄弁にもその触手を振るって自らがスライムであると主張する。


「え?」


 そんな突然の主張に反応できず、最初の犠牲者となったのは、丁度泉に触れていたカウだった。

 訳も分からぬうちにカウの体へ触手が絡まり、空中へと吊り上げる。


(テノール!)


 俺がエクスカリバーに触れたのは、エクスカリバーが声を上げたのと、そしてカウが吊り上げられるのとほぼ同時だった。

 エクスカリバーは瞬時に体の主導権を奪い、肉体を強化し、矢の如くカウ目掛けて跳ぶ。

 カウの手を掴み、勢いそのまま触手を彼女から剥がした。

 しかし、跳び出したのは空中。着地点はスライム。

 落ちればカウの救出も意味なくスライムに飲まれる。


 いや、その猶予すらない。

 いくつもの触手が伸び、空中に居る俺たちを再度捕まえようと襲い掛かった。


「『フローズン』」


 瞬間、触手が全て凍り付く。

 魔術を行使したのは、レオナルドだった。

 対象を冷凍する中級氷魔術。詠唱破棄で発動させるとは、並外れた魔術の技量である。

 エクスカリバーは凍った触手を蹴り飛ばし、反動で岸へと着地した。

 蹴って崩された触手は本体が吸収し、また他の凍った触手も本体が飲み込んで失った分の体積を取り戻す。

 凍結は有効打になっていない。


「ありがとう、助かった」

「ふん。勇者と言うのは、どいつもこいつも無茶をする」


 エクスカリバーは窮地を救ってくれたレオナルドに感謝するが、彼は受け取らずに鼻を鳴らした。

 向こう見ずな行動はお好みでないのだろう。俺も同感だ。

 あそこでレオナルドが咄嗟に触手を凍らせてくれなかったら、俺の体が飲まれていた。


(レオナルドとか言う奴ならどうにかしてくれると踏んだんだよ。読み通りだろ?)


 そういうのを結果論と言うのだ。


「え?勇者様?」


 今更だが、勢い良く跳んだせいで頭巾は(めく)れ、俺の顔が晒されている。

 そうして俺の顔を見たカウは、外套と頭巾の怪しい男が勇者テノールであると気付いたのだ。

 必要経費である。ここで犠牲を見過ごすのは勇者として駄目だし、個人的に可愛い女の子は死なせたくない。

 まぁ、最終的に動いているのは俺の体を乗っ取っているエクスカリバーだが。


「みんな落ち着いて。オレが何故ここに居るかは後回しだ。全員撤退を!このスライムは、準備不足のまま挑む相手じゃない!」


 泉のスライムは、今まさにその巨体を泉から持ち上げようとしている。

 そのわずかに持ち上がった分だけでも分かる。

 このスライムは、異常だ。


「こんな馬鹿デカいのは見た事ねぇな!撤退は大賛成だ!」

「ああ、自然発生のスライムとは思えん。この面子とこの避けづらい森で戦うのは自殺行為に等しい」


 『デカい』という言葉の意味は分からんが、おそらく『大きい』の方言か何かだろう。

 ユウダチとレオナルドはその巨大なスライムの危険度を評価し、撤退に賛同した。


殿(しんがり)はオレが務めます!皆さんは逃げてください!」


 エクスカリバーの指示に従って即座に逃げ出す調査員と冒険者たち。

 だが、ユウダチとレオナルド、サーヴァンとカウはこの場に残った。

 カウは怯えていてどうして良いか判断できない様子だが、その他3人は毅然とスライムを見据えている。


「おいおい、美味しいとこ取りはいただけねぇな。俺も混ぜろよ」

「お前らだけでは不安だ。万全を期すため、私も力を貸してやる」

「お嬢様がこのように逃げ遅れてしまいましたので、私めもお供させていただきます」


 奇しくも残り、意欲を高まらせる3級冒険者たち。

 戦力が多いのは有り難いし、雑兵でないのも有り難い。

 弱い冒険者では足手まといだ。


「すみませんが、よろしくお願いします!」


 さすがのエクスカリバーも手が足りないのだろう。彼らの助力を受け入れた。

 ここから防戦が始まる。

 触手が俺たちに迫った。


「なめんなよぉ、スライム!ぷちぷち潰して経験値にしてやるぜぇ!」

「まだまだ、若い者には負けられません」

「フッ!」


 ユウダチは斧で、サーヴァンはクレイモアに分類される大剣で、エクスカリバーは聖剣で、各々触手と本体を切断する。

 切断した部位が死滅したりはしないが、その部位の動きはかなり(にぶ)り、人を包むような器用な事はできないのだ。


「『スコーチ』」


 レオナルドは対象を直接燃やす中級炎魔術で触手を蒸発させる。

 こちらは確実に部位を死滅させている。

 やはり、スライムには炎魔術が有効か。


「ちっ。『スコーチ』!……逃げた奴らを追おうとしてるな」


 俺たちを避けて伸ばされた触手を蒸発させながら、レオナルドはその行動を分析した。

 泉のスライムは、俺たちが強いと理解し、先に弱い方を叩きに行ったのか。

 通常のスライムと比較して知能が高いかもしれない。


「じゃあ俺たちがお前も守っから、追おうとしたやつは頼むわ」

「面倒だが、それしかないか」


 有効な遠距離攻撃手段が1人しか居ないため、レオナルドはユウダチの案に渋々承諾した。

 エクスカリバーもサーヴァンも暗に承諾し、ユウダチを含めた3人でレオナルドとカウを守る陣形を取る。


「触手の数が、多くなってきた……かっ」

「お?噂の勇者様が降参か?」

「負けられはしない!背中に守るべき命があるんだ!」

「マジかっこいいなその意気込み!俺も燃えてくるぜ!」


 スライムの攻勢が徐々に激しくなる中でも、エクスカリバーとユウダチは話せるくらいの余裕を窺わせていた。

 俺もエクスカリバーの言葉はかっこいいと思う。演技でなければの話だが。


 そうして対処していれば、泉のスライムもこの攻撃が通じないと察し、攻撃方法を変えてくる。

 その触手は、木を引き抜いた。


「おっちょっ!?木ぃ丸ごとぉ!?」


 引き抜かれた木がそのままにこちらへ投げつけられる。

 ユウダチは目を見開きながら木の直撃を予見するも、触手の猛攻でその未来を変える余力はない。

 エクスカリバーもサーヴァンもレオナルドも、触手への対処に追われ、木へ対処できない。

 だからこそ、最後の1人が前に出る。


「ハァァァァァ!!!」


 カウの剛腕によって振るわれた斧が、木を叩き割った。

 未来は少女の手で変えられたのだ。


「ハァ……ハァ……」

「やるなぁ、カウ嬢ちゃん!」

「はい!私だって、みんなの役に立てるんです!」


 まだ震えていたカウだったが、ユウダチの称賛もあって、怯えから完全に脱した。

 彼女も戦線に復帰する。


「カウ、木にだけ集中してくれ!他はオレたちがやる!」

「はい!」


 ここに完璧な戦線ができあがった。

 俺たちはその戦線を少しずつ下げ、生存を目指して後退するのだった。

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