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第四節 2人旅ってのもちょっと寂しい

「目的地はホーオという事でしたが、イーストイナッカノ農村には寄らないので?」


 4日かかる馬車の旅。その時間を消費するべく、パースが俺本来の故郷について言及した。


「はい、そちらに行く予定はありません。あまり、行きたくもないので」


 確かに、帰郷と言うならイーストイナッカノ農村に向かうのが正しい。

 しかし、父親がホーオに居を移し、同時に母の墓もホーオに建てているのだ。俺が生まれ育った家はもうない。

 それに、あの農村に帰る気は今更ないのだ。

 農地しかないし、良い記憶もない。


 時の領主が悪辣な者であったため、イーストイナッカノ農村の統治は酷い有様だったのだ。

 労働環境を整えもしなければ、ろくな娯楽も与えない。

 金払いが悪い癖に、税だけはきっちり納めさせる。

 農民は馬車馬のように働けと、時の領主は鞭打ってきた。


 だが、それも昔の話。

 その時の領主は俺が勇者となった後に亡くなり、新しい領主となってからは統治が真面になったと聞いている。


 と言っても、やはりあの農村に帰る意味は見いだせない。


「まぁ、今回の目的は父君との再会、それと母君への墓参りですもんね」

「すみません、気を遣わせてしまって」

「いえいえ、気を遣ってるなんて滅相もない。後世に名を残す偉人たちは皆、波乱の人生を生きてるものですのでね。下手に過去を詮索するのも、失礼でしょう」


 パースは俺を偉人たちと同列に置いているようで、そんな敬うべき人物の古傷を開くような詮索は控えたようだ。

 俺の古傷なんて、偉人たちに比べれば大層なモノではないが。

 イーストイナッカノ農村での生活が苦しかったとはいえ、ありふれた悲劇なのだ。

 それを触れざるべき事柄のようにされると、多少むず痒くなってしまう。

 しかし、あまり触れられたくない話題であるのは変わりないので、認識を改めさせないでおこう。


「さて、昼食にしますか。だいぶ眠くなってきましたし、私は昼食を食べたら仮眠を取らせてもらいますよ」


 パースは街道脇の林に馬車を停め、すぐに野営の準備を始める。

 どうやら、パースはさっさと寝たいくらい眠いらしい。


 昼食と言った通り、当然今は昼だ。

 それにも拘わらずパースが眠気に襲われているのは、彼が昨夜の見張り役だったからである。

 俺とパースは片方が昼に寝て、片方が夜に寝るという、見張りの態勢を取っているのだ。


 昼は安全と思うべからず。

 魔物の接敵は確かに少ないが、見張りを立てなければ盗賊が昼夜問わず襲い掛かってくる。

 頭の回る人間を相手にする都合上、昼の方が危険と言えるかもしれない。

 という事で、わずかな差で強いと判断されている俺が昼の見張りである。


「はい、テノールさんの乾パン」

「どうも」


 パースが積み荷から1食分の保存食を取り出し、俺へと手渡した。

 ダンジョン攻略の道中とは違って、わざわざカレーなどの料理は作らない。

 2人だと手間取るし、睡眠時間を少しでも確保するためだ。


「では、私は馬車の中で寝てますね」

「ええ、おやすみなさい」


 乾パンを乱雑に口へ放り込んだ上、咀嚼もそこそこに胃へと流したパースは、そそくさと馬車の中に引っ込む。

 食事が雑な事以外、普段と変わらない。

 なので、俺は特に不思議がる事もなく、1人で乾パンに噛り付いていた。

 人の数的にも食べ物の量的にも寂しい食事だが、もう慣れた事だ。伊達に方々へ駆けずり回っていない。

 でも、ダンジョン攻略の道中という、複数人の馬車旅を直近で経験したせいか、いつもより人肌が恋しい。


(なんだ?オレと話でもするか?)


 お前は肌って言うか体ごとないだろ。


(熱い魂ならあるぜ?)


 何処に?


(ここにだ、ここに。このオレの熱い魂だよ)


 冗談としてはかなり面白い。


(はっ!そんな態度なら良いよ、もう構ってやんねぇかんな)


 エクスカリバーはその思念体を己で消し去る。

 やったぜ。煩いのが消えた。


 そうして完全に話し相手も居なくなった俺はこの時間を読書に費やそうと考え、馬車の積み荷から本を漁るために立ち上がった。

 その時だ。

 林から、草を揺らす音が響いた。

 その音は、徐々にこちらへ近付いている。


(盗賊、それとも魔物か?)

(音からして、おそらく人間だ)


 何をどう聞き取ったのか、エクスカリバーは音の主を人間と判別した。

 相変わらずどんな感覚してるんだ、こいつは。


(数は、少ねぇな。盗賊団とかではなさそうだ)


 しかも数まで把握した。化け物かよ。


(構えとけよ、テノール。少ねぇとはいえ、盗賊の可能性は消えてないんだぜ?)


 至極もっともな事をエクスカリバーから言われ、多少不服ではあるがその言葉に従う。

 聖剣の鞘に手を置き、いつでも剣を抜けるように構える。


(接触まで、あとちょいだ)


 敵との距離が縮まっている事を、エクスカリバーは警告してくれた。

 俺は接触の瞬間をじっと待ち、息を潜める。


 気構えも完了させたところで、近くの茂みも揺れた。

 そして、音の主が姿を現す。


「道!整備された道がありますよ、サーヴァン!街道に辿り着きました!」

「ええ。それは大変喜ばしゅうございますな、お嬢様」


 音の主は鎧を着込んだ少女と老人男性であり――


「貴方たちは、確か冒険者組合で会った……」

「え……?え!?なんでこんな場所に勇者様が!?」


――見覚えのある者たちであった。

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