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第一節 王の耳に届いた真実

「『レヴィ・ガーン』……。まさか、我らが建国王の伝説にも名を記す英雄が、魔王の手先になっていようとは……」


 国王の執務室にて、バーニン王はダンジョン攻略の詳しい顛末をパースから聞き、思わぬ英雄の登場に頭を痛めていた。

 ちなみに、頭を痛めた原因はレヴィの裏切りに関する真実が主である。


「心中お察しします、バーニン王。そして申し訳ありません。あの面汚しを私どもがしっかり仕留めていれば……」


 パースはレヴィを殺しきれなかった複数人の責任を背負うように悔いていた。

 それも、テノールたちの分ではなく、裏切りに対処できなかった当時の人たちの分を背負っているかのようである。


「良い、パース。先達が残した問題に取り組むのが、後続の使命である。そも、問題の発端は勇者アルトにあるならば、余の祖先により起こった問題であろう」

「いやいや、裏切りは全部あの女のせいですよ」


 自身の祖先の責任であると、バーニン王は責任を自らに移そうとするが、しかしその責任の(なす)り付けだけはパースにとって受け入れられないモノだった。

 勇者アルトの責任には、絶対したくないのである。


「いっつも素直じゃなくて、何人か背中を押してやってたのに踏み出せなかったんですよ?あいつ。それで、いざアルト王がラビツ姫と結婚するってなった時に怒り荒ぶって」


 そこから始まるのは愚痴零し。

 その愚痴はまるで見てきたかのようで、パースはレヴィの尊厳を具体的に汚していく。


「お前しっかり告白ないし気持ちを伝えてたのかよって。『儂はこんなに尽くしてきて、愛してきたというのに!』って言葉に、『え……?普通に嫌われてるのかと思った……』って返されて『クソがあああああああ!』って。こっちのセリフですよ、クソが。恋愛下手すぎでしょ」

「もう良い、パース。もう充分だ」


 白日の下に(さら)された勇者アルトの仲間にして英雄であるレヴィ・ガーンの真実に、バーニン王は耳を塞ぎたくなった。

 おかげで、レヴィ・ガーンの裏切りについて詳しく残されなかった理由を知れたが、どちらかと言えば知りたくなかったのだ。

 そうして知りたくない事を知ってしまったバーニン王は、勇者アルトの伝説を書き残した者と同じく、この真実を墓まで持っていく決心をしたのである。

 レヴィの名誉を慮ったのもそうだが、祖先であり勇者であるかの建国王が痴情の(もつ)れで死んだなどと、後世に残したくはない。


「世に名を残す者とは、やはり常人から外れているのだな……」

「それはまぁ。でないと大衆に埋もれてしまいますし?」

「……勇者テノールが、健常な方向に外れている事を願おう」


 世に名を残す事がほぼ確定なテノールが、ただ誰よりも強い正義感を持つ者である事を、バーニン王は祈った。

 真に残念ながら、その切なる祈りは根本から破綻しているのだが、それについても知らない方が良い真実なのかもしれない。


 そんな悲しい祈りをせめて無駄に続けさせまいとするように、執務室の扉が叩かれる。


「失礼、バーニン国王陛下。少しお時間いただけませんか」


 扉を叩いたのはテノールだった。

 バーニン王の祈りが彼を引き寄せたのか、バーニン王は奇妙な運命を感じる。


「入りたまえ」

「失礼します」


 バーニン王の許しを得て、テノールは扉を潜る。

 パースの存在には一瞥くれるだけで、特に言及はしなかった。

 瞳が多少揺れはしたが、邪念を払うように首を横に振る。


「して、勇者テノールよ。如何なる用だ」

「実は、故郷に帰る(いとま)をいただきたいのです」

「……なんのために」


 テノールは俯きながら呟き、バーニン王は言葉の真意を慎重に詮索した。

 テノールの様子が明らかにおかしいのだ。


「この約1年間、俺は民のため、人のために奔走してきました。休む時間も惜しみ、多くを救ってきました。勇者の責務を放棄するつもりはありません。しかし、俺はこの1年、ろくに父と顔を合わせていない。母の墓へも、去年の命日に参る事ができませんでした」


 確かに『勇者を止めたい』などとは言わなかったが、テノールの顔には疲れと悲しみが滲んでいた。

 そう、彼は勇者であるが、同時に17歳の少年でもある。

 母を亡くし、父の手1つで育てられた、ただの少年だったのである。

 それがどうだ。聖剣を抜いたというだけで国中を駆けずり回り、救いを求める者に区別なく手を差し伸べてきた。

 強い正義感があるとしても、限界だ。むしろ、救いきれなかった者たちが居た事に、この勇者は心痛めていたかもしれない。


 国中に逸早く勇者テノールの勇名を広めようと、彼を方々に遣わしてきた。

 しかし、それはあまりにも性急な事であったと、バーニン王は気付いたのだ。


「……貴公の正義感に、余は頼りすぎていたようだな」

「バーニン国王陛下、俺は勇者としての行いに疲れた訳では!」

「分かっている」


 テノールは相変わらず疲れた顔のままだ。

 それでも勇者の責務を果たそうとするこの少年に、バーニン王は感服する事はあれ、失望する事はない。


「だからこそ、貴公の働きに褒賞を賜そう。勇者テノールよ、貴公に(いとま)を与えよう。故郷への帰路には、そこのパースを使うと良い」

「王命、承りましてございます」


 バーニン王からまた勇者の足になる命を下されたパースだが、2つ返事で請け負い、丁寧に礼をした。


「ありがとうございます、国王陛下、パースさん。休暇中も俺の手が必要でしたら、いつでもお呼びください。それでは、帰りの支度を整えますので」

「うむ。退出を許す」

「失礼しました」


 テノールも礼をしてから、執務室を後にする。

 退出するテノールの背中に、わずかながら少年らしい喜びをバーニン王もパースも感じ取っていた。


「働かせすぎましたね」

「ああ、今になってようやく気付いた。彼も、我らが庇護すべき民であったな」


 パースは肩を(すく)め、バーニン王は肩を落とす。

 それぞれ、自身の鈍さを反省していた。

 もっと大事な部分に気付けていない鈍さは、どちらも反省できていないが。


「いやぁ、テノールさんも人だったんですねぇ。正義の執行者と勘違いしてましたよ」

「余もだ」


 お互いの不甲斐なさを冗談交じりで笑い合う。

 テノールとエクスカリバーに騙されたまま。

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