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100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者  作者: 霖霧 露
第一章~勇者(?)の受難、それと女難~
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第二十五節 中身はともかく、態度はかっこいいんだから仕方ない

「ハァ!!セイ!!」


 近衛兵1番隊隊舎。その訓練場で、剣を振るっている者が居た。

 他には誰も居ない。ただ1人で剣を振っている。

 それもそのはず。もう深夜と言って差し支えない時間帯であり、1番隊だってこんな遅くまで訓練はしない。


 それでも、少女と間違わる外見をした少年は、自主訓練に励んでいた。


「こんな夜中に訓練場から音がすると思えば。ベアウ、しっかり休まないと身が持ちませんよ」

「兄さん!」


 ウィンに声をかけられ、剣を振るっていた少年であるベアウは一旦剣を収める。


「すみません、どうにも眠れなくて。興奮冷めやらぬと言うか……」

「大方、勇者様の雄姿を思い出してしまったのでしょう?」

「あう……。はい……」


 ウィンに心中を見事当てられ、ベアウは俯いた。

 雄姿に興奮する幼さを見抜かれてしまったという羞恥心が、彼をそう落ち込ませている。


「ははは、実は私もです」

「え?兄さんも?」

「ええ。勇者様の雄姿が脳裏に浮かんで、どうにも眠れそうにない。あんなに強い人がこんな近くに居るのだと。私も立ち止まっては居られないと、ね。こうして他の隊員が寝ている時間を狙い、訓練場に来たのですよ」


 ウィンの中にも、実はベアウのモノと似たような羞恥心があった。

 弟と同じような、勇者の雄姿に興奮する幼さが自身に残っていた事を、ウィンは羞恥していたのだ。


「なんだ、兄さんもだったんですね」

「似た者兄弟ですね」

「それはそうですよ。何年同じ場所で同じ教育を受けてきたと思ってるんですか。家でも一緒だったんですから、1番隊に入る以前からですよ?」

「それもそうでしたね。あははは」

「ふふふふ」


 ベアウとウィンは互いの羞恥心を笑い合い、しかしお互いの幼さを肯定していた。

 そうして、2人の羞恥心は融解し、綺麗さっぱりなくなってしまう。

 純粋で単純な兄弟だ。


「それにしても、勇者様の腕前は見事でした」

「はい!僕を助けてくれた時も、それはそれは凄い反応速度でした!」


 そして、互いの羞恥心がなくなり、互いに同じ雄姿に興奮していたとなれば、それについての語り合いが自然と始まる。

 月の光が眩い夜というのも、彼らを語り合いに誘った要因だろうか。

 夜というのは人の寂しさを煽るモノであり、月明かりというのは人の心を照らし出すモノであろう。


「確かに反応速度も凄かったですが、自らあの罠に飛び込む精神力も凄い。死ぬかもしれない場所に飛び込めるなど、常人ができる事ではありません」

「きっと、人命を(たっと)ぶ精神によるモノなのでしょう!」

「ええ、そういう事なのでしょうね」


 この純粋な兄弟は、素晴らしき勇者故の行動であると信じて止まず、まさしく勇者であると絶賛していた。

 だが、悲しきかな、そんな素晴らしい精神ではないというのが真実。

 ただただテノールを困らせるために、エクスカリバーが勇者らしい行動をしているだけ。人命なんぞ全く貴んでない。


「しかし、やはりと言うべきでしょうか。我々との訓練には全力を出していなかったようで……」

「そう言えば、そうですね。兄さんとの試合ではもちろん、セイザー隊長とのそれにも本気ではなかった、という事になります」


 セイザーとの試合で見せた踏み込みは、最初の罠およびレヴィの攻撃からベアウを助ける時に跳んだ速度よりも遅かったと、ウィンとベアウはしっかり計れていた。

 彼らが持つ戦士としての観察眼は決して悪くなく、そして差を計れる程には技量がある証だ。


「勇者様は私やセイザー隊長を怪我させまいと、本気を出さなかったのか」

「『悪と相対した時しか本気になれない』というあの噂は、勇者様が心優しい性格だからだったんですね!」

「あの勇者様の事です、そうに間違いありません」


 そんな戦士としての観察眼と技量があっても、テノールとエクスカリバーの本性は看破できていなかった。

 残念ながら、彼らの結論は間違いでしかないのだ。

 勇者とその聖剣の演技力、恐るべし。


「本当に、勇者様は勇者に相応しい方です!隣に立っていただけだったのに、なんと心強かった事か!」

「同感です。あの魔王軍幹部との戦闘時も、勇者様が居たから私たちは心折れる事なく、こうして生還できた。全ては勇者様のおかげでしょう」


 色々騙されているとは露知らず、2人は勇者信奉者のようにテノールを褒め称えた。

 無知とは幸福なのかもしれない。


「あの強さ、あの優しさ。どうしても憧れてしまいます!」

「無理もない。私も憧れていますし、カウなんかは恋焦がれているようでしたからね」

「そういえば。カウは元気にやっているでしょうか。ダンジョンの未帰還者にはなっていないようでしたが」

「サーヴァンが付いています。腕に見合わない依頼は受けさせていないでしょう」


 勇者テノールの熱い支持者であった妹を思い出した2人。

 ベアウは妹の身を心配していたが、ウィンはお付きに実力者が居るからと、不安に思う事はなかった。

 ただ、どちらも妹を想う気持ちは本物である。

 ウィンは暇を見つけて剣術の手解きをその妹にしていたくらいだ、ベアウも訓練に付き合ったりしていたが。


「サーヴァンが付いているなら大丈夫ですね。むしろ、サーヴァンがずっと傍に居て訓練していたら、僕たちが追い抜かれてしまいます」

「そうなると、私たちが怠けている暇はありませんね。カウに抜かされないためにも、勇者様に追いつくためにも、訓練を怠っている訳にはいかない」


 自身らより前を行く目標と自身らより後ろから来る指標。

 その2つを意識した時、ベアウとウィンの心に火が付いたのだ。


「ベアウ、1試合しましょう」

「はい!全力で行きます!」

「その意気です」


 その後、純粋な兄弟は疲れ果てて眠くなるまで、夜空に剣の激しい打ち合いを響かせるのだった。

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