第二十二節 無事を祝うカレー
「間に合った!」
誰が言ったか。もしかしたら全員が言っていたかもしれない。
出入り口も崩れ去ったダンジョンからの脱出は、きっと皆同じく歓喜していただろう。
この短時間でいくつ死線を潜ったか。
潜り抜けた皆は疲れ果て、落馬するように地面へ座り込んだ。
本当に、本当に疲れた。俺は体乗っ取られてるだけだったけど。
(良いご身分だなぁ、おい)
(良くない。体動かされてるんだから、疲労感は俺も味わうんだよ)
エクスカリバーが動かしていたとはいえ、俺の体が動いていた事実は変わらない。
主導権を返されれば、体に溜まった疲労感が俺に襲い掛かる。
むしろ、良いご身分なのはエクスカリバーの方ではないだろうか。
主導権を返せば、エクスカリバーは疲労感から解放されるのだ。
かなり卑怯な気がする。
(お?じゃあオレがやらなくても、お前は生き残れたのか?)
死んでたと思うので、これ以上の悪態は止めた。
(よしよし、分かってんじゃねぇか。つぅ事で、存分に疲労感を味わってくれ?)
こいつ、マジで趣味が悪い。
エクスカリバーは聖剣を鞘に納めて手を放し、体の主導権が俺に帰ってくる。
この、急に疲労感がどっと来る感覚。当然と言えば当然だが、奇妙なモノであり、心地良いモノではない。
「おぉ。アンタら、生き延びたんだな。ダンジョンが崩れ始めた時は、もう皆死ぬもんと予感してたが。さすがは近衛兵と勇者様ってところか」
4番隊隊員に代わってか、馬車の見張りをしていたリカルド。彼は俺たちの生還を驚き、素直に称賛を送った。
しかし、縁起でもない予感をしていた事にだけは物申したい。
「ええ、全く死ぬかと思いましたよ。どうにか生き延びましたがかなり疲れました。今から帰路に就くのは、さすがに無理ですね」
「1日ここで野営ですね!またみんなでカレーが食べられます!」
パースは野営の準備も億劫なようだが、ベアウは真逆で楽しみらしい。率先して野営の準備に取り掛かった。
でも、夕飯はまたカレーなのか……。俺はそろそろ飽きてきたのだが……。
「じゃあ、見張り番の代わりもお役御免って事で。俺は行くぜ」
「おやおや、そんな付き合いの悪い事を言わずに。貴方のおかげでダンジョンの主が居ると、テノールさんも気付けたのです。王都までお送りさせていただきますよ?」
「え?いや、それはちょっと……」
「いやいやいやいや。我らの恩人も同然なのです。褒賞を賜していただけるよう、バーニン王にも申し上げますので。どうかご同行を」
さっさと別れようとするリカルドを、パースは変に引き留めていた。
怪しいのだが、はて、何を企んでいるのやら。
「お、おい!何だってんだ!?俺に何か用事があるってのかよ!?」
リカルドも怪しさを嗅ぎ付けて指摘すれば、パースがリカルドと肩を組んで耳打ちする。
「最上位回復薬の対価、ちょぉっとダンジョンの情報だけでは釣り合わないんですよねぇ」
「なっ、テメェ!」
「金銭でお払いいただいても、私は一向に構わないのですがぁ。どうしますかぁ?」
非常に非合法じみた取り立てが行われ始めた。
近衛兵がそれをやって良いものだろうか。
(お前だったら普通にやりそうだよな)
勇者の称号を失いそうだから、非合法な事はやらないです。
(合法だったら?)
やるに決まってんだろ。
(下衆だこいつ)
何故なのか。
「……いくらだ」
「アルト金貨5枚くらいですかね」
「お前ふざけんなよ!3級冒険者に払える訳ないだろ、そんな金ぇ!」
「本当にぃ?本当にお払いいただけませんかぁ?貴方だったら払えるんじゃないですかぁ?」
念のため額を訊いたリカルドだったが、3級冒険者の収入をはるかに越える要求をされ、パースの首を今にも絞めそうなくらいに引き寄せた。
対してパースは、払えるだろうという勘定で要求しているようである。
「……お前、何を知ってやがる」
「私の部隊って仕事柄、国中あちこちを走り回るんですよね。それで、国中の噂話を耳にするんですよ。例えば、貴族の子供が冒険者やってるとか、ね。何なら噂話、いくつか無料でお教えいたしましょうか?」
パースのその言葉に、リカルドは固まった。
自身の秘密を握られていると、リカルドは恐怖してしまったのだろう。
「……大人しく付いてくよ、付いてけば良いんだろう!?」
「話は王都で聞きますよぉ」
「クソッタレ!!」
パースの取り立てに抗いきれず、リカルドは自棄になって叫んだ。
ベアウとウィンは野営の準備にかかりきりなので、その叫びを聞いていなかったから何もしない。
だが、4番隊隊員やトリスは多分聞いていた上で、何もしなかった。
俺だけはせめて祈ってやろう、リカルドのご冥福を。
「みなさーん、野営に1名様追加でーす」
「はい喜んでー!」
パースがリカルドを巻き込んだ事に、ベアウは無駄に笑顔だった。
どこに喜ぶ要素があるのか。
「作る人数が多い程、カレーは美味しくなりますからね」
ウィンが頷いているし、ベアウも頷いている。
君らは色々楽しそうだな。
「というか、俺も料理手伝うのか……?」
「手伝って、くれますよね……?」
「う……。分かったよ、手伝いますよ!」
ウィンに上目遣いで見られ、リカルドはその純粋な目に屈した。
ちょっとその上目遣いは羨ましい。可愛いんだよな、ベアウの上目遣い。
これで女の子だったらなぁ。
(その話、まだするか?)
ベアウが女の子になるまでする。
「勇者様もお手伝い、よろしくお願いします!」
「ああ、頼まれた」
ウィンからのお呼びがかかったので、俺はとても純粋な気持ちで手伝いを行うのだった。




