第二十一節 窮地からの脱出
「……はえ?」
「知らなかったのか?聖剣エクスカリバーに、切れぬ物はないんだ」
二重の壁で守りを固めていたレヴィの首が、エクスカリバーによって刎ねられた。
1枚目の岩壁さえやっとの思いで壊したエクスカリバーたちに、まさか2枚目まで即座に突破されると、レヴィは思っていなかったのだろう。
だが、そもそもの話。エクスカリバーが本気でやっていたら、1枚目も苦労しなかったのだ。
聖剣エクスカリバー、その伝説には『万物を切り裂く』とされている。
まぁこの伝説は嘘だ。聖剣自体には、そんな特殊な力などない。
玻璃の壁を切り裂いてみせたのは、エクスカリバーの技量だ。
エクスカリバーは聖剣の刃に高速で魔力を流動させていた。
その高速流動していた魔力は、激流が岩を削って浸食するように、玻璃の壁を高速で削り取ったのである。
名付けるとしたら、『魔力流浸食』。
魔力操作に長けた、エクスカリバーならではの技術だ。
この『魔力流浸食』で岩壁を切らなかったのは、その奥の壁に気付いていたからだそうだ。
確実に仕留め、なおかつ相手の勝ち誇った顔を嘲笑うため、1枚目を必死に壊すような演出にしたのである。
こいつ、相手に負けず劣らず趣味が悪い。
「や、やりました!さすが勇者様!」
「迫っていた天井も止まっています!我々の勝利です!」
ベアウとウィンが勝利を確信し、大げさに大声を上げて喜んだ。
反して、パースやトリス、そしてエクスカリバーは緊張を解かず、転がっているレヴィの頭を見つめている。
「寝た振りは通用しないぞ、レヴィ」
「なっ、そんなまさか!?いかにデビルと言えど、頭を切り落とされて生きているはずが……」
エクスカリバーがレヴィの頭をさらにきつく見つめるが、この状態で生きているはずがないと、ウィンはその判断を疑った。
だが、エクスカリバーの判断は正しい。
「くく……。かーっかっかっかっかっ!それでこそ、あの憎き勇者の剣を継いだ者よ。忌々しくも優れていたあの勇者、あやつに比肩する実力を持っておるようじゃな」
頭だけで笑うレヴィ。これが今しがたやられ、死に瀕している者とは考えられない。
というか、勇者アルトを憎みながらもその実力を認めていたような発言は、かつての失恋に対する多大な未練を感じさせる。
何と言うか、うん。こんなだから失恋したんだろうな。
「しかしのぉ、この人形も脆いものじゃ。ロスの奴め、手を抜きおったか?」
「やはり、本体ではなかったようですね」
「そうとも。儂自ら出向く訳がなかろう?この体は人形。同じ魔王軍幹部であるロスに作らせた、遠隔操作の端末に過ぎぬ」
己の体を脆いと称するレヴィからパースが察せられた通り、その体はよくできた人形だった。
だから、こうしてレヴィは喋れているし、余裕そうに笑っていられるのだ。
「壊れてしもうたし、此度はここまでじゃな。また会おうぞ、貴様らが生きていればの話じゃが」
レヴィのその言葉を合図にするように、ダンジョンが音を立てて揺れ始める。
「な!?いったい何を!」
「このダンジョンを作ったのは儂と言うたであろう。このダンジョンを生成していた地脈穴もまた、儂が作ったモノ。維持する者と維持する魔力がなくなれば、崩れるのは当たり前の事じゃ」
「なんだって!?」
ダンジョンを維持する魔術を行使していたレヴィ、その端末がこうして壊れた。また、ダンジョン維持の魔力源である地脈穴も、人工的に作っていたレヴィが居なくなる事で霧散。
通常のダンジョンならば地脈穴を失っても1ヵ月は持つが、このダンジョンは地脈穴からレヴィによる人工物にして急造品。レヴィが居なくなった時点で持たない。
よって、このダンジョンは崩れかかっており、俺たちは生き埋めになりかかっている。
「全員、即時撤退!ダンジョンから脱出します!」
パースは号令を出し、同時に帰り道を閉ざしていた岩壁を矢に仕込んだ魔術で爆破し、こじ開ける。
そうして、皆が出口へ向かって走り出した。
そこら中罅だらけの通路は、もしかしたら間に合わないのではないかと不安にさせ、足を鈍らせる。
だが、諦めなければ、救いの手は案外伸びてくるものだ。
「パース隊長、皆様!お乗りください!」
リカルドが居たあの空間で、4番隊隊員のニオたちが馬4頭を待機させて待っていた。
「命令違反ですが、助かりました!」
「待機場所は明記されていなかったので、命令違反にはなりません!」
パースから言及された違反について強かな反論をニオが返しつつ、それぞれ1頭の馬に2人ずつ乗っていく。
俺はパースが操る馬に相乗りした。
本当は女性と相乗りしたかったが、そんな我がままを言っている場合ではない。そも、体の主導権はまだエクスカリバーにあるため、俺にはどうもこうもできない。
パースの馬を先頭に、崩れゆくダンジョンを駆ける。
後方から崩れていく様は実に緊張感を煽っていた。
ここまでレヴィが仕組んでいるのではないかと、そう疑ってしまう。だが、もしかしたら、この疑いは正しかったかもしれない。
出口が、岩で塞がれていたのだ。
仕組んでいると疑わない方が無理である。
「ど、どうするんですか!退かす余裕はないですよ!?」
「そう焦ってはいけませんよ、ベアウ君。そのまま全力で駆りなさい。私が砕きます」
ベアウを諭しながら、パースは弓を構えた。
馬を停めない不安定な足場にもかかわらず、パースの姿勢は安定している。
「The flame,detonate.『エクスプロージョン』」
赤い軌跡を描いた矢が岩に命中し、爆炎が舞い上がった。
岩が砕けた事を信じ、爆ぜた拍子に立った煙へと馬を突っ込む。
煙を抜けると、太陽の光が俺たちを出迎えた。
俺たちはダンジョンからの脱出に成功したのだった。




